大学で現代史を専攻したせいか、日本の戦後史に興味があって、まだ私が若い頃には
『東京タワーはオレが作った』
『営団丸の内線の建設に参加した』
ってオッサンやジジイがゴロゴロ居て、行きつけの居酒屋で昔話を聞かせてくれて、場所柄『艶話』もあったりして、『赤線と青線』みたいな話もあった。
そんな中、あるオジサンから
「この話、誰にもしたことないんだけど、俺が23の頃かなぁ、長嶋が入団した年に『奇妙な体験』したんだよ」
「昭和33年ですね」
「若いくせによく知ってんな(笑)現場でケガして左足の脛にヒビ入って入院してたんだよ。そこで・・・」
~以下、オジサンの告白を再構成~
昭和33年秋、東京タワーの建設がいよいよ佳境に迫った頃、北陸の中学を卒業して上京8年目の俺はあるビルの建設現場で働いていた。
しかし、運悪くウインチで巻き上げ始めた直後の鉄骨が揺れて左足脛に当たり骨折してしまった。
元請会社の現場監督の厚意で大学病院に労災で入院させてもらえた。
骨折は一ヶ月でほぼ治り、ギプスを外され、明後日に退院出来ると医師から伝えられた。
ウキウキして病室に戻ろうとしたら廊下である中年の身なりのいい夫婦に呼び止められた。
「○○さんですよね」
「ええ。何のご用で?」
「ここではなんですから」
と病院の最上階にある喫茶室に連れていかれた。ここは病院関係者と限られた人しか入れない。
中年の男は名刺を差し出した
『○○貿易・ 社長○○○ ○○』
名乗った直後に信じられない話をされる
『余命2週間の娘を抱いて欲しい』
正直、何を言ってるのかわからなかった。
『18歳の娘の『麗華』は3歳で重度の脊椎カリエスに罹り寝たきりになっている。長患いで心臓が衰弱して余命2週間と宣告された。週に10分だけ車椅子で散歩を許可されていたが、その際に見かけた貴方に恋をしてしまった。失礼ながら貴方の身上調査をしてどんな人物かも知っている。父親としては綺麗な体のまま旅立たせたいが、娘の願いを叶える事にした。協力して欲しい。すでに病院関係者を説得し協力を取り付けた』
との事だった。と同時に分厚い茶封筒も差し出してきた。封筒の裏には『金拾万円』と。
当時朝から日没まで働いて日当800円の俺としては結構な金額だったが同時に怖くもなった。
「もし、『最中』に『何か』あったとしても?」
「・・・娘が望んだ事ですから」
「わかりました」
父親の隣でおそらく母親であろう女の人はハンカチで涙を拭っていた。
それからが大変だった。
6人部屋から『特賓室』に移され、夕食には見たこともないぶ厚いビフテキやら食後酒に『養命酒』まで出される。
翌日の不安とか、飯場や病院の硬いベッドや寝床に慣れすぎたのか、ここのベッドは柔らかすぎてなかなか寝付けなかった。
翌朝は豪勢な朝食をとった後に医者から黄色いビタミン剤の注射を尻に受ける。
徹底的な歯磨きをさせられ歯科医からチェックされる。風呂に入れられ、看護婦二人がかりで体を擦られた挙げ句に『こっちの浴槽にも入って』と消毒薬の槽にも入った。俺はバイ菌じゃねぇや!!と少しムッとした。
裸に長い白衣を着せられマスクをしてやっと『麗華嬢との御目通り』を許可される。
病室のドアを開けると看護婦三人と医者が二人待機していた。衝立一枚で見ず知らずの女を抱けと言うのかと頭が痛くなった。
「『面会時間』は45分です。それ以上は『許可しません』異常があった場合は『退場していただきます』」
(馬鹿野郎、こっちが頼んだんじゃねぇよ)
と喉まで出かかったが堪えた。
「では、ご案内します」
と看護婦に案内されて衝立の奥に行く。
「は、はじめまして。麗華です。お会いできまして光栄です」
比較的ハッキリした口調で言った。
18歳とは聞いていたがどうみても小学生のような体つきだった。ずっと寝たきりだったせいもあるのだろう。
「時間は45分以内ですから」
と看護婦は衝立の向こうに消えた。
「私はこんな体で申し訳ないですけど」と羽毛布団をめくった。すでに全裸だった。しかし、脊椎カリエス患者特有の極端に曲がった背中をしていた」
「この病気は大変痛いと聞かされました。さぞかし辛かったでしょう」
「お優しいんですね。こんな私ですけどキスしていただけますか?」
軽く唇を合わせたが
「ファーストでラストにしては物足りませんわ」
とニッコリ笑うとディープキスをせがんできた。
それから白衣を脱ぎ捨て勃起させた男根を見せつける。
「ああ、逞しい…これで」
「本当にいいんですか?」
「後悔なんてありません」
衝立の向こうで誰かが立ち上がった気配を感じたが、俺はベッドに乗り、麗華さんの乳房を愛撫する。微かに感じてる声がする。商売女のそれとは全く違う『ホンモノの声』だとわかった。
下腹部に手をのばすと陰毛が無い。衛生上の理由だと後から看護婦から聞かされた。
軽く指を入れると
「いっ!!」
「痛かったですか?」
「ごめんなさい、続けて・・・」
オサネを指でさすると体を震わせて感じ、濡れてくる。これなら前夜に看護婦から
『もし濡れ方が足りない時は麗華さんにわからないように使って』
と潤滑ゼリーを渡されたが必要なさそうだった。
そろそろいいかと
「麗華さん、いいですか?」
「ええ、いつでも私の中に」
意を決して男根を麗華さんにあてがいゆっくり沈める。
「あっ!!」
麗華さんが声をあげると衝立の向こうから何人か立ち上がる音がする。
「大丈夫ですか?」
「少し痛いですけど、嬉しい気持ちでいっぱいです」
ゆっくり動くと呼応するように小さく声を上げる。
一ヶ月の入院生活でもう出そうになってる。麗華さんの体の為にも、切り上げた方が良さそうだ。
「麗華さん、いいですか?」
「はい。どうぞ私の中に」
ブビュッ!!ビュッ!!ビュッ!!
「ああ、あったかい・・・本当の『ぬくもり』なんですね。ありがとうございます」
「そんな大袈裟な」
看護婦に止められるまで麗華さんとは色々話をした。外の世界のとか。
「『お別れ』にもう一度だけキスしていただけます?」
「もちろん」
これが本当のお別れだった。
翌日退院して一週間後に経過観察の為に外来に行った。あの茶封筒も持って。
診察室には入院中も担当だった医者がいた
「色々と大変だったね(笑)」
「○○さんはまだ居ます?お金返そうかと」
「ああ、麗華さんなら死んだよ」
「え!!アレが寿命を縮めたとか」
「いやいや。自殺。病院で自殺されるのが一番困るんだよね。自殺と言うより『自決』だな。遺書には『やっと大人の女になれた私は自分で決めました』って書いてたそうだから。首に裂いたシーツを掛けて腕の力でベッドから降りて。オヤジさんって元陸軍少将で戦時中、勝ち目がないと思ったとたんに現地民に自決を迫ったそうだけどさ、まさか自分の娘まで『自決』するとはね。因果なモノだな。その金は黙って言わずにもらっちゃえよ」
多分軍医殿だった事もあるだろう中年の医者がカラカラ笑った。
~ここまで回想~
「んで、その金はどうしたんですか?」
「生活費やら洲崎やら玉ノ井で消えたんじゃないかな(笑)」
「そんなぁ(笑)」
「麗華さんは『いいおんな』だったぜ!!
アンちゃん、オッサンの昔話に付き合ってくれてありがとな。お礼にここまでの分のノミシロはもたせてくれよ。ここの代金は『あのカネ』かもな(笑)」
オジサンは会計をして、粋に縄のれんをくぐって夜の街に消えた。