06月3

縁×薫 【罪と罰】

―諦めろ…お前は決して逃げられナイ―

冷たく言い放った男の声が耳から離れなかった。

「っ!!」

その言葉が脳内に甦り、閉じていた瞳を見開いた。
いつの間にか眠ってしまっていた身体を西洋寝台ベッドから起こす。
すると節々は痛み、声のない悲鳴をあげていた。そして下腹部に走るヒリッとした痛みが己の受けた行為を鮮明に物語っていた。

※※※

剣心から巴の事、身の回りに起こっている一連の事件がその巴の死が要因で弟の雪代縁という上海マフィアが剣心を恨み復習しようとしているのだという。
話を聞いた誰もが言葉を失い、静まり返っていた。

「…ごめん。少し頭の中を整理したいから散歩してくる」

口を開いたのは薫だった。

「散歩ってこんな夜更けにかよ!」

止めようと声をあげた弥彦だったが、いつも明るく気丈で凛とした薫からは想像できないくらい酷く憔悴した様な表情にそれ以上言葉をかけられなかった。
勿論他に聞いていた面々もそうだ。

「解ったから近くにしなさいね」
「うん。ありがと恵さん」

恵が掛けた言葉に力なく笑い、何か言いたげな剣心には目も合わせず道場の敷地を出て行く。

「おい、よかったのかよ剣心」
「ちょっと止しなさいよ!あの子の気持ち考えて…少し1人にさせてあげましょうよ」
「でもよ」
「仕方ないでござるよ左之。恵殿の言う通り。こんな話し聞かされたら誰だって混乱するさ…」

それが好きな相手なら尚更…。

正直、剣心に奥さんがいたのはショックだった。
出逢った頃過去なんて関係ないなどと言いながら笑ってしまう。
しかし好きな人の異性関係の話は別だ。
好きになれば過去の女ひとに嫉妬してしまう。
それが遊女でも一夜限りの知らない相手でも。
ましてや妻なんて。
そんな奥さんを自ら殺めてしまった彼の苦しみの計りしれなさに掛ける言葉が見つからなかった。
優しい瞳の奥のあの深い悲しみの色はそれだったのだ。

「はぁ」

夜の暗い町を歩きながら何度となくため息をついてしまう。
剣心にとって自分は何なんだろう。
彼が愛した女性。10年経っても彼の心の中にいる過去の妻ひとに勝てる筈がない。
話を聞いただけで自分とは正反対なおしとやかで大人な女性。
自分にはないものを持った彼女。
到底追いつけない。
折角剣心と想いが通いあったのに。
でも剣心を好きな気持ちは消せない。
どうすればいいの?
自分の気持ちもだが、剣心や自分達に迫る雪代縁一味の復讐‥。
雪代縁は剣心の命を狙っている。
罪の意識に苛まれた剣心は雪代縁に勝てる?そちらを解決しない事には自分達の関係など進まないのだ。

ぐるぐると考えながら歩いていたら随分と遠くまで来てしまった。
そうじゃなくても心配をかけているのだ。早く道場に帰らないと。
そう思った時―――

「こんな夜更けに女の1人歩きは物騒だヨ」
「!!」

気配もなく背後からした男の声に心臓が大きく脈打つ。
振り向く間もなく差し込まれた薬を湿らせた布を持った大きな手のひらに口元を覆われる。

「神谷‥薫サン」
「ぅ…んっ」

剣‥心‥‥‥。

遠退く意識の中、月明かりに照らされ光る銀の髪がぼんやりと視界に入り、薫は闇に落ちた。

***

薬の効果が薄れ、重たい瞼をゆっくり開く。ボヤけた視界に映るのは知らない部屋。
まだはっきりと覚醒しきっていない頭で置かれている状況を推測した。
意識を失う前に呼ばれた自分の名前とそれを知る男。
状況的に雪代縁としか考えられなかった。
迂闊だった。
剣心の周辺を調べているなら一番の弱点になりうるのは自分なのに。
1人で出歩くなんて…。
混乱しすぎてそんな事にも気がつかないなんて剣士失格だ。
剣術小町と呼ばれ、師範代をつとめ肉体、精神共に鍛練していたつもりなのに。
好きな人の過去むかしに動揺して。
所詮は普通の町娘と変わらなかった。

嘆いた所でどうにもならない。
とりあえず辺りを見渡してみた。
部屋には自分が乗る寝台ベッド以外、テーブルとイスがあるだけの簡素なものだ。
自分が連れてこられてまだそう時間が経過していないのか薄暗い部屋を窓から入る月明かりが照らす。
窓に目を向けると初めてザザァという音がしている事に気がついて覚束無い足取りで窓まで歩き外を見て驚いた。

「ぇっ…」

視界に広がるのは広大な夜の海だった。
浜に往き来する海の水がザザァと音をたてる。
一体ここは…。
声を失い心の中で呟くと、背後で扉の開く音がした。

「気がついたカ」

感情を全く感じさせない口調と無表情な顔をした銀髪の男――雪代縁が入室してきた。

「あ、あたなは…」

近づいてくる縁に視線を向けながらも、武器になるものはないか部屋中を確認するがイスくらいしかない。
背後を窓と壁に塞がれ縁はあっという間に間合いをなくし、薫のすぐ前に立った。
月明かりだけの薄暗い室内でも解る見下ろす冷たい瞳。

「その顔からして俺がダレか察しはついているナ」
「‥‥‥雪代…縁」

張り付きそうな程乾いた喉で彼の名を呼んだ。
彼は表情を変えぬまま、そうだ…と答えた。私をどうするつもり!?
と、聞いたらこの人は何て言うのか。
ただ目の前に立ち見下ろす縁に薫も動けない。
押し潰されそうな強い殺気が薫の足を縫いつけていた。
動けば殺されてしまいそうな程強い殺気。
彼の名を呼んでから表情は変わらないが明らかに感情を感じさせたのだ。

無言のまま薫を見下ろす縁。
たかだか数秒間しか経っていないが1秒がこんなにも長く感じた事はない。

どうするのか、どうすればいいのか。
その時、腕を掴まれ身体が投げ飛ばされた。視界が一気に回り、背中に硬い床の衝撃を予想し、目を瞑ったが当たった背中が軽く戻される。
室内にある柔らかい物はベッドしかない。
運良くベッドに着地したのか。
そう思ったがそれは違った。

「騒いでもいいガ、ここには俺達以外誰もいないからナ」

薫の身体をベッドと挟む様に縁の身体が被さっていた。
何が起こったのか思考が追い付かない。
縁の手が胸元へ行き、襦袢ごと着物の合わせを力一杯に開いた。

「‥‥きゃあ!!」

てっきり殺されるのかと思ったが、そうではないと勘づき、手足をバタつかせ暴れ始めた。
この人が考えている事が私が思っている事なら今すぐに離れないと。

「いやっ!離して!やめて!」

暴れる薫を気にも止めず開いた胸元へ顔を寄せると頬に衝撃が走った。
薫の手が頬を思い切り叩いたのだ。

「‥‥‥‥」

動きを止め、顔をあげる。
叩かれた時に歯で口の中を切ったのか、口の端に血が滲む。
滴る血を拳で拭い、冷たい視線が再び薫を見つめ‥そして初めて表情が崩れた。

「さすがは評判の剣術小町サンダ…いい一打ダ」

口をニィィっと笑わせ称賛するが瞳だけは暗いままだった。

「ナニをされるか‥解っているダロゥ…」

凍りついた肌を大きな手が撫でる。
剣心と同じ手の平にできたタコが肌に当たる。でもこの手は彼じゃない。
知らない男に肌を触られ一気に鳥肌がたつ。

そしてベッドに強く身体を押し付けられ、両手首を捕まれ頭の上で拘束され、頭を掴まれ強引に唇が重ねられた。 

「んっ…!んぅっ」

何度も薫の舌を吸って感触を楽しむ。
抵抗の意志を示して顔を背けようとしたが、繰り返し角度を変え、より深く唇を重ねられる。

「んんっ…んっんーッ!──ガリッ!」
「──ッ…何をすル」 
「はぁっ… はぁっ…次は、舌を噛むわよ…」

下唇から血を流しながら縁が薫を睨みつける。
何度か唇を吸った時、突然薫が縁の下唇に噛み付いたのだ。

「何もかも…あなたの思い通りになんか、ならないんだからっ…!」

「…いいゾ」
「!?」
「できるものならナ」

片手で薫の顎をぐいと上へ向かせ、縁は再び口づけを落とす。
舌で口を大きくこじ開け、舌裏まで潜り、口内を貪欲に味わい尽くそうとするかのように、薫の舌と絡ませる。
唾液が混ざりながら口内で響く粘着質な水音が骨を伝って脳まで震わせるようだ。

「ん‥ンン」

執拗な程の熱い口付け。
舌で歯列をなぞられ舌を絡められる。
くちゃ‥ねちゃ…と卑猥な音が鼓膜を辱しめる。
長い口付けの後ようやく唇は解放されたが、今度は抵抗する力を抑えつけられたまま、薫の脚の間に縁の片脚を割りいれられる。

「さ、触らないで!!」

下半身を嬲る止まらない手に薫の声が悲鳴に変わる。

「やめて!やめてぇ!!離して!やだっ!」

身体に力を入れ暴れようともがくが全く歯が立たない。
それが恐怖を増幅させ悲鳴が大きくなる。

「もっと叫び声をあげロ‥そうじゃなければ復讐にならないカラなァ…」

暴れようともがいた事でより開いてしまった胸元の合わせに顔を埋め膨らみに唇を押し付けた。膨らみを辿り、鮮やかな頂きの蕾を吸い上げると悲鳴は泣き声へと変わる。

「お願いやめてよっ!いやっ、やだよぉ助けて剣心っっ!」
「そうダ。抜刀斎以外の男に身体を弄ばれるんダ…もっと抵抗しろ!もっと哭ケ」

着物の裾が捲りあげられる。
太い異物が身体の中に入ろうと入り口を押す。
腰だけでもと逃がそうとするが、太い腕がそれを阻止し、押し広げながら体内に侵入してきた。

「そしテ、あいつの女になった事ヲ嘆ケ!」

そう言うや縁は一気に薫を突きあげた。

「ああぁっ…!」

陰茎の先端から全身に押しよせる快感を縁は噛み締める。
抵抗していた割に中は溶け切っていて、きゅうきゅうと柔肉が絡みついて離さない。
薫は目を見開き、身動きができないようだ。

「あ…あ…」

強姦の衝撃にガクガクと身体がふるえた。
縁が入り口まで腰を引く。
次の瞬間、また思い切りズンっと深く穿たれる。

「かっ、はっ…!」

あまりの衝撃に、内臓がずれるような感覚に陥り、声にならない悲鳴を上げた。
パクパクと口を動かし瞳から涙があふれた。 

「うっ…い‥‥やぁ…ぁっあ」
「薫サンのナカは温かいナァ…それに締め付けが心地イイ…」

思い知らせる様、今度はゆっくりゆっくり腰を奥に押し付けていく。
下腹部の感覚が嫌でも伝わる。
薫を満たす熱、重なる肌、見下ろす視線…。それらは愛しい人を憎む男の物だ。
違う男なのに突き上げるのは彼と同じ甘い痺れ。

「や…ぁあっ‥‥ぁぁ」
「随分大人しくなったナ。気に入ったのカ?だが抵抗されないのハつまらないナァ」

男根が執拗にナカを掻き回し、深く深くその存在を刻んでいく。
身体を支配する快楽に唇を噛み耐える。

「我慢するナ。気持ちイイだろ?助けは来ナイんだ。いっそ楽しんだらどうダ?」
「ぅぅ…ふぅ…ぁん…んん」
「最初よりも声が証明してルゾ?感じているトナ…」

硬く閉じた瞳から涙が零れ落ちる。

「恨むんなら奴を恨むんだナ」
「っ…ん…ど…して…こんな…」
「どうしテ?」

怒りをぶつける様に腰が薫の肌を叩きつける。
パンパンパンパン!!
肉同士がぶつかる音が響き渡る。

「大切な物を汚される事がどれ程辛いか、苦しいのか。奴に絶望を味あわせるには他にどんな方法がアルッ!」

腕を掴んでいた手に力がこもり、薫の肉に爪が食い込む。

「あいつは姉さんから全てを奪った!許嫁も未来も…俺からも…姉さんを奪った…ダカラ俺も同じ事をしてやるんダ!」

胸を鷲掴みにされて、グチュグチュという音を立てながら犯される。
体格差がある分、勝手に体が浮いて上へ逃げてしまうがそれを許さないと押さえ込まれさらに奥まで犯される。

「出すゾ」

縁の耳元で放たれた冷酷な声に、我に帰り必死に制する。

「や…外に……っなか、だめぇ…!」

薫の必死に搾り上げた声に縁は嬉しそうに笑うと、懇願するような薫の瞳を見つめながらが一層深く打ち付ける。 

「クっ…」 
「──ッ!!」

薫の体を逃さないよう押さえつけ、そのまま強く抱きしめながら、二度、三度と腰を打ちつけ、最後の一滴に至るまで中に注ぐよう、グッと奥に捻じ込み動きを止めた。

「いや…ぁ‥出‥てっああぁ」

薫の身体をきつく抱き締め、腰をビクッビクッと振るわせ膣の最奥に大量の精を放つ。
薫も身体を痙攣させ、膣内に射精された絶望を味わう。
蜜壷から雄が抜かれると、太ももを伝い白濁色の精液が滴り落ちてくる。

そして漆黒の瞳で薫を見つめ言った。

「これは奴の犯した罪と、奴を愛したお前への罰だ」

※※※

自分は雪代縁に抱かれてしまったのだ。
剣心以外の男性に汚されてしまった。

「よく眠っていたナ」

施錠されていた部屋の扉を開け縁が入ってくる。

「不‥‥ぐっすり眠っていたのに随分と酷い顔だ。昨夜はあんなに俺に乱されてイイ顔をしてたノニ」

せせら笑う縁をキッと睨み付ける。

「‥‥‥目的は達成できたんでしょ?。殺すなら殺しなさいよ!」
「殺す?俺は奴とは違う…。そんな簡単に復讐は終わらないサ」

縁は不気味な笑みを浮かべゆっくりと近づいてくる。

「殺すなんて生温イ。壊れるまでお前を犯して犯し犯しまくってヤル…例え奴がここを見つけたとしても、お前を守れなかった己の無力さに嘆き絶望スル」

薫は恐怖した。自分を拉致し、汚して尚、満たされない復讐心に。衰えない憎悪に。
無意識に震え出す身体。

「安心しろ。薫サンをいたぶるつもりはない。それよりも…たっぷり可愛がって俺なしじゃ生きれない身体にしてヤル」

膝を震わせながらこの場から逃れようと部屋の出入口へ走った―――つもりだった。
だから力の入らない脚では地を蹴れず、転んでしまった。
床に座る薫を縁の影が覆う。

「諦めろ…お前は決して逃げられナイ」

【END】

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