俺、中井 拓、25歳、大学4年生の時の話です。
俺の家は県営の団地と言うタイプで、1棟に階段が3つ真ん中と左右にあり、5階建てエレベーターなし、階段を1階上がるごとに玄関が向かい合っている昔ながらの、ザ・団地。
そんな建物が10数棟ある中の3階に住んでいた。
当時俺は一人暮らしで、その2年前は両親と俺と3人で住んでいたが父親の親父(祖父)が体を壊し、家業を継がなくてはいけなくなった父が母と共に田舎に帰ってしまった。
俺は大学2年生で学校に通うため一人で住んでいた。
そんな家のお向かいに若い夫婦が引っ越してきた。
若いと言っても当時旦那は30歳、奥さんの里香さんは27歳、俺より年上で結婚2年で子供はいなかった。
仲のいい夫婦で毎朝奥さんの里香さんが階段の途中の踊り場から顔を出し、仕事に行く旦那さんを見送って手を振っていました。
俺とは挨拶をしたり、「これから学校?」という短い会話をする程度でいつも笑顔が可愛い人妻でした。
そんな里香さん、胸元のネックレスに俺は引かれた。
それはたぶんある銀山で土産として作られているハート形の物。
でもそのハート形のネックレスは右半分で、もう半分の左半分は旦那さんが持っていると思われ、左右合わせたら一つのハートになるものだった。
でも、その左半分を俺も持っていたんです。
昔、俺の彼女にも買ってあげたことがあって、でもその彼女とは別れてしまったのですが、、
俺はその左半分のネックレスを探し出しある日から付け始めたんです。
最初は全く気づかなかった里香さん。
でも俺が首にかけているのを見たとたん固まってしまったように急に体が動かなくなってしまい、目は俺の胸元で止まってしまったんです。
「奥さん、奥さん、、里香さん、、」
いくら声をかけても瞬き一つしなかったんです。
でも数分後にはやっと正常に戻り、「じゃあ、学校へ行ってきます。」と言って別れたのですが、、
それからはずっと俺はそのネックレスを着けていました。
そんなある夜、バイトが終わり俺が家の中に入ると俺のベッドの中で誰かが寝ているんです。
俺の悪い癖で玄関の鍵は掛けないで出かけていることがあって、、
泥棒にあっても取られるものはないし、家を出るときはラジオをつけて誰から家の中にいるような雰囲気を作り出していたんです。
最初は男か女とか分からず、頭元の電器だけは点いていて隣にあるテーブルにはビールの空き缶が3つごろごろしていて、どうもそれを飲んで酔って寝ているようなんです。
誰、、?と思って掛布団を少しだけ捲ると隣の奥さん、里香さんだったのです。
怖いお兄さんじゃなかったのでほっとしたんですが、どうしてという疑問が出てきて、、
でも酔って寝ているし、その時は旦那さんは?ということは頭に入って来なくて、俺もバイトで疲れていたのでそのまま寝てしまったんです。
しかし、夜中体の重みで目を覚ますと里香さんが俺の体の上に跨っていてびっくりしました。
「えっ、どうして、、ていうかここ俺の家ですよ。」
里香さんは俺の上から目をじっと見て「ねえねえ、このネックレス、どうして持っているの。」と聞いてくるのです。
里香さんから話を聞くと、ハート形のネックレスは旦那さんから結婚前にプレゼントされたらしく、旦那さんは見栄を張ってオリジナルのネックレスと言ったらしくそれを里香さんも真に受けていたんです。
しかし、旦那さんの左半分のネックレスは失くしてしまったらしく、里香さんは怒ってしまったようなんです。
でも旦那さんは、「もし左半分を持っている人がいたら里香にとってその人は運命の人だから、、」なんて誤魔化したようです。
そもそもこの手のネックレスは同じ型に銀を溶かして作っているためゴロゴロあるわけで、オリジナルなんてもうひと手間かけないといけないんです。
ただ奇跡だったには里香さんが右側を、俺が左側を持っていただけ。
でも里香さんは俺のネックレスと自分が着けているネックレスと会わせてぴったりの一つのハートになったことを運命と思い込んでいたのです。
「ねえねえ、、それにしても旦那さんは、、」
「旦那は1週間出張でいないの。」
そう言うと俺の上にある里香さんの顔がニッコリと、俺も下からにっこりと笑うと俺と里香さんはベッドに移り抱き合ってキスをしていたんです。