03月9

泊めてくれと姉ちゃんが

最初は、二年前のことになる。もうみんなだいぶコロナにも慣れてきたころ。
おれは東京の大学に進学したばかりで、まだ童貞だった。
明日は休みという日の夕方5時くらいに、姉ちゃんから電話かかかってきた。
「いまどこ?」
姉ちゃんは大学三年で、地元の大学に通ってた。
「アパートだけど」
「きょう姉ちゃん泊まっていい?」
突然なんで驚いたけど、声の調子は切羽詰まっている感じで、何か困ったことが起きているんだろうとは思った。
「いいけど、どうしたの?」
「リコとマウスランドに来てるの」
リコっていうのは、姉ちゃんの中学時代からの親友だ。リコさんも地元にいる。
「リコと一緒に、ここのホテルに泊まることになってた。リコの親は、わたしと行くんならいいって許してくれた。だけど、リコの彼氏が急に来られることになって、三人で遊んでたの。そしたらリコは、ごめん、今晩なんとかしてって。ふたりにさせてって」
「それって、最初から計画的なんじゃないの?」
「そうとも思えないところもあって、邪魔したくないし、なんとなくそういうことになったの。泊まるとこないの」
「ふたりでチェックインはしたの?」
「したけど。彼氏を追い返せないじゃない」
「ふたりがもうひと部屋取ればいい」
「それ、姉ちゃん言えない。もうあっちはべたべたふたりの世界に入ってるし」
「姉ちゃん、甘いよ」
「うん、自分でも思う。あたしも、ちょっとかっこつけたの。いいよ、あたしなら行くとこもあるしって」
「おれのとこだって言ったの?」
「泊めてくれるひとならいるんだ、って顔したんだ」
「いないの?」
「いたら、リコと来ることもなかったでしょ」
もうリコさんたちはふたりきりになるつもりでいるから、マウスランド遊びは早めに終了ってことになるらしい。
「ひとりでネットカフェに行ったら。泊まれるよ」
「怖いし、いやだよ。だめ?」
「しょうないな。汚いよ。床で寝てよ」
「いいよ。どうやって行くのかわかんないけど、どうしたらいいの?」
おれの住んでるとこは、新宿から私鉄で三十分。マウスランドから見れば、東京都心を通りすぎた先だ。けっこう遠い。新宿まで迎えに行くことにした。
新宿駅の西口で約束したんだけど、姉ちゃんは迷っていて、着いたって電話もらってから会うまで、十五分もかかった。
やっと会えた姉ちゃんは、姉ちゃんは抱きつくんじゃないかという勢いで駆け寄ってきた。
「ありがと。ありがと」
姉ちゃんは、最初はやっぱり心細そうで、ショックも受けたせいか暗くて、なんか姉ちゃんのことがものすごくいとしく見えた。
私鉄駅のほうに歩こうとしたら、姉ちゃんは、おなかが空いてるっていう。
「ごちそうするから、おいしいとこ連れてって」
「よく知らないよ」
「お酒、飲めるようになった?」
「少しね」
「あたしも、きょうはホテルでワイン飲んでみるつもりだったんだ。ワイン飲めるとこって、知ってる?」
おれは学校の友達ともワインなんか飲まない。だけど、飲めるファミレスは知ってる。安いけどおいしい全国チェーン。
そこなら知ってると言うと、姉ちゃんは喜んだ。その店、地元にはないんだ。
おれたちは西口のデッキの上を歩いて、その店に行った。途中、リコさんとその彼氏についての愚痴ばかり行ってた。店に着いたのはもう七時半過ぎだった。入り口前でカップルがふた組待ってる。
「カップルが多いの?」と姉ちゃんが聞いた。
「いや、同僚同士とかも多いんじゃないか」
「あたしたち、どう見えるかな?」
「やっぱり、姉弟なんじゃない?」
「ちょっとお芝居しようか」
「どんな?」
「彼氏と彼女」
「見つめ合ったりするのかい。やだな」
「楽しく話してくれたらいいよ。ぶっきらぼうなのはやめて。姉さんのこと、□□ちゃんって言える?」
うんと子供のころ、姉ちゃんと呼ばないで、□□ちゃんって呼んだこともあった。
「いいよ」
「〇〇のことは、呼び捨てにするね」
「わかった」
中に案内されたら、まわりはカップルばっかりだった。姉ちゃんは、まわりを意識してか、お互いの頭がくっつくようにしてメニューを見て、おれを呼び捨てにした。
「赤ワイン飲みたいな。いい?」
おれの手の上に自分の手を重ねてくる。
注文すると、店員はおれの年齢確認なんかしないで、ワインを持ってきてくれた。
姉ちゃんはもうリコたちの愚痴は言わず、自分たちのことをしゃべっているあいだも、微妙にカップルみたいなお芝居を続けていた。
「ほら、一緒にどこそこまで行ったことあるでしょ」とか「なんとかって、おいしかったよね。また食べたいな」とか。
だけど、姉ちゃんが赤ワインを飲むペースは少し心配になった。
姉ちゃんにおごってもらって店を出るとき、姉ちゃんは少しよろめいた。
おれは思わず腕を支えた。
「大丈夫かい」
「まずいかも」
「飲みすぎたかな」
「あんたのところ、遠いよね」
「三十分かかる。それから十分歩き」
「チクショー、リコときたら。絶交だよ」
地上に出たら、またら姉ちゃんはよろめいた。おれが支えようとすると、姉ちゃんはおれにしなだれかかってきた。おれが抱き寄せる格好になった。
姉ちゃんは、ちょっとためらった様子を見せてから、おれに向かい合って、ハグしてきた。これはカップルにしか見えないっていうハグだ。
姉ちゃんは、なんか涙目でおれを見上げて言った。
「歩けない。どこかに泊まろう。姉ちゃん、おカネだす」
「ホテルなんて、飛び込みで行って泊まれるのかな」
休み前だし、いくつも断られるところを想像して、乗り気にはなれなかった。
かといって、アパートまでタクシーを使うと、たぶん安いホテル代くらいかかる。
姉ちゃんはおれにハグしたまま言った。
「眠るだけだから、ラブホテルでもいいよ。離れて眠ってくれるんなら」
「よく知らないよ」姉ちゃんは知ってるんだなって、そのときわかった。
「男同士で、話題にしないの?」
新宿のラブホテル街のことは知ってる。だけどそこまでは、姉ちゃんは歩けないだろう。むしろ少し遠いくらいのところがいいのか。
通学のときに電車から見る看板を思い出した。電車ひと駅くらいの距離。
そこにタクシーで行くのはどうだろう。そこまでのタクシー代なら、おれにも出せる。こぎれいそうな建物だったし。
「タクシーつかまえる」
「頼もしいよ」
思いついて、コンビニで胃腸薬のドリンクを二本買って、姉ちゃんに飲ませてから、タクシーをつかまえた。
ラブホテルに入るのは初めてだった。おれと姉ちゃんはからみあうみたいにして、ラブホテルの玄関口に入った。
適当に決めた部屋は清潔で、あんまりエロっぽくなかった。
姉ちゃんは荷物を放り投げると、服は着たまま、ベッドに横になって、あっと言う間に眠ってしまった。
おれはソファのほうで横になった。
ふと気がつくと、姉ちゃんが呼んでいる。
「起きたら。きちんとベッドで眠ったら?」
目を開けると、姉ちゃんがソファの脇にいた。もう酔った目じゃなかった。酔いもさめたのか。もしかして、ほんとはそんなに酔っていなかったのかなとも思った。つまり酔ったふりをしていたとか。
「具合は?」
「もういいよ。ちょっと飲んだね」
「姉ちゃん、眠ってれば。おれはここでいいよ」
「せっかくなんだから、お風呂入りな。汗流して眠りなよ」
時計を見ると、まだ零時前だった。おれはシャワーだけ浴びることにした。でも浴室に入ってみると、浴槽にお湯が張ってあった。おれが眠っているあいだに、姉ちゃんがやってくれていたのか。おれは浴槽に入った。
すぐに姉ちゃんが裸でやってきた。髪は後ろでまとめて、小さいタオルで下だけ隠して。おれは驚かなかった。なんとなくこういうなりゆきを想像していた。
「入っていい?」
「うん」
姉ちゃんは、すっと風呂の縁をまたいでおれの向かいに身体を入れた。白くて細い、きれいな身体だった。胸は小さい。
姉ちゃんはおれをじっと見つめてから、近づいてきた。
「キスしていい?」
おれは照れて言った。
「お芝居の続き?」
「もうお芝居じゃないかも」
最初は軽いキス。姉ちゃんの唇はやわらかだった。
姉ちゃんは顔を離すと、もう一回おれの目を見つめてきた。おれがいやがっていないかどうか、確かめているような目だった。
次のキスでは、姉ちゃんはちょっと舌を入れてきた。おれは舌を吸って、少しずつ大胆にからめていった。
姉ちゃんはまた顔を離してから聞いた。
「お酒臭くない?」
「いや。いい匂いだよ。おれは?」
「匂ってないよ」
「もっとくっついていい?」
「いいよ」
姉ちゃんはおれの足のあいだに尻を入れて、身体を倒すように近づけてきた。おれのペニスは姉ちゃんの下腹のあたりに当たった。姉ちゃんはおれの首のうしろに手をまわしてきた。姉ちゃんの乳がぴったりのおれの胸にくっついた。
姉ちゃんはもっと激しいキスをしてきた。けっこう長い時間、おれは姉ちゃんとキスを続けた。勃起してきた。
姉ちゃんはおれから身体を離して、右手でおれのペニスにさわってきた。おれはびくりとした。
「いや?」
「ううん。驚いただけだよ」
姉ちゃんは少しおれのペニスを軽くもてあそんでから言った。
「あたしたち、いま、何?」
何を聞かれたのか、意味がわかった。
「カップル」
「だったら、いいよね?」
「なにが?」
「カップルがすること、していい?」
つまり、エッチするってことだろう。そのとき、いやだと言うのもおかしかった。
いやがったら、姉ちゃんはバツが悪くなるかなとも思った。
だけども、してしまったら、それってやばい一線を越えたことにならないか。姉弟じゃなくなってしまうんじゃないのか?
姉ちゃんの指が、亀頭を刺激した。
「うん」とおれは言ってしまった。どうなっても、全部姉ちゃんのせいにしていい。
「さわって」
姉ちゃんの左手がおれの右手をとって、姉ちゃんのそこに引っ張っていった。おれは姉ちゃんの陰毛の上に手を当てた。陰毛は割れ目の上に細長く生えていた。
姉ちゃんは、おれの指がそこに入るようにおれの右手を動かした。中指がするりと姉ちゃんの割れ目の中に入った。濡れていた。
おれは乱暴にならないように、割れ目の中で指を動かした。姉ちゃんの目がとろりとしてきた。
姉ちゃんはまたおれにキスをしてから、対面座位のかっこうになって、おれの上に乗ってきた。あっと言うまに、おれのペニスは姉ちゃんのそこに入ってしまった。おれのほうが声を出した。
「ああ」
やっぱり思った。こんなに簡単に、一線を越えてしまっていいのか?
「痛い?」
「いや、いいの、これ?」
「いいよ」
姉ちゃんはおれを見つめたまま、ごくりと唾を飲み込んだ。両手はおれの肩にかかっている。おれは両手で姉ちゃんの胸をさわった。小さな乳首が、さっきよりとがってみえた。
おれは親指でその乳首をツンツンいじった。姉ちゃんの吐息がちょっと荒くなった。
おれは姉ちゃんを突き上げるようにして腰を動かした。姉ちゃんはおれを見つめたままだ。感じているのがわかった。
おれは限界だった。
「まずいよ、姉ちゃん」
姉ちゃんは聞こえなかったようだ。とろりとした目のままだ。おれは思い切って抜いて立ち上がった。
「あ」と、姉ちゃんが困ったような声を出した。
出そうだったので、おれはペニスを洗い場のほうに向けた。精液がヒュっと飛んだ。
おれはペニスをお湯でさっと洗ってから、もう一度風呂の中に身体を沈めた。
「ごめん」と謝ると、「いいよ」と姉ちゃんは言ってまたキスをしてきた。
おれは何がなんだかよくわからない気分だった。おれって、いま何をしたんだ? 
やっぱりまずいことやっちまったと後悔し始めた。
姉ちゃんは言った。
「いやだった?」
「そんなことない。だけど展開についていけない」
「勢いで行かない? もうここまで来てしまったんだし」
そう言われれば、そうかもしれない。おれもワインを飲んでいるから、酒の勢いで、ってことなら、できる。
「あっちに行こう」と姉ちゃん。
おれたちは風呂を出て、姉ちゃんはバスタオルを身体に巻き、おれは腰に巻いて、ベッドに行った。姉ちゃんはすぐにタオルをはずして、すっぽんぽんでベッドの上に横になった。
おれもタオルをはずして、姉ちゃんの横に寝た。
姉ちゃんがまたキスをしてきて、おれはすぐにまた勃起した。あとはあんまり会話もしないまんま裸になって、部屋のコンドームをつけて正常位になってした。
射精したあと、姉ちゃんはおれの横で身体をぴったりとつけてくる。すごく親密になった感じがあった。
姉ちゃんが聞いた。
「初めてだった?」
「うん」
「ごめんね。ほんとは彼女としたほうがよかったよね」
「姉ちゃんでよかったよ」
「もうこんなことしないから」
「しないの?」
「だって、姉弟だよ」
「もうしちゃったよ」
「これだけにしたほうがよくない?」
「そんなのいやだよ。姉ちゃんはいやなの?」
「ううん。いやじゃなかった。悪いことだってわかってるのに、よかったよ」
「だったら、しようよ」
「だけど、彼女作りなよ」
「うん。姉ちゃんも」
「そのときまでする?」
「うん」
その晩はもう一回した。
翌朝はむちゃくちゃ気まずかったけど、姉ちゃんはひと月後にまたやってくると約束して実家に帰っていった。この次はおれのところに泊まるってことで。
次のときは、親に疑われないように、姉ちゃんがまず「ひとりで東京に泊まりがけで遊びに行きたい」と母さんに言うことにした。
母さんは当然許さない。話の流れでは、母さんはおれのところに泊まるなら許すというかもしれない。そのときは姉ちゃんがいやがってみせる。母さんには、おれに電話させる。
作戦成功だった。
母さんから電話があった。
「姉ちゃんが東京に行くんだけど、泊めてやって。いいでしょう」
「え、なんだよそれ。いやだよ」
「姉さんなんだから、ひと晩くらい、我慢しなさい」
姉ちゃんが後ろで言っているのが聞こえる。
「いやだ。ホテル取るほうがいい」
母さんは無視した。
「姉ちゃんに、お土産持たせるから」
「ひと晩だけだね?」
「そう。掃除しときなさいよ」
「姉ちゃんがしてくれたらいい」
「じゃあ、そうさせるから」
その日やってきた姉ちゃんをまた新宿まで迎えにいって、それからおれのアパートに。
部屋に入ってドアを閉じるなりキスして、シャワーも浴びないで裸になって、シングルの狭いベッドでした。
姉ちゃんは言った。
「何か上手になってない?」
「童貞卒業もののAVを真剣に見た」
姉ちゃんはゲラゲラって笑った。
「そういう勉強のしかたがあるのか」
「ソフトなとこを覚えた」
「充分だよ。あたしたちって、べつに変なテクニックなんて必要ないし」
「上手なほうがいいんじゃないの?」
「優しければいいんだよ」
その次はもう夏休みで、おれは一週間だけ実家に帰って、姉ちゃんとは絶対にいちゃいちゃしないように気をつけながら、両親のいない隙にエッチした。
それから二年近く、姉ちゃんとはそういう姉弟だった。三カ月か四カ月に一回ぐらい、姉ちゃんが東京にやってきて、おれの部屋に泊まってゆく。二年間で姉ちゃんがおれの部屋に泊まっていったのは、六回か七回か。両親にばれたくないから、それ以上の回数、姉ちゃんが来るのは難しかった。
それでも母さんはこのあいだ、姉ちゃんがどうしてそんなに東京に行くようになったのって、不思議がっていたそうだ。しかも、あんまり仲がいいわけでもない弟の部屋に泊まるのに。
もしかしたら薄々勘づいているのかもしれない。
だけどじつは、おれたちはいまだに、あんまり過激なエッチはしない。姉ちゃんに言わせれば、姉と弟なんだから、きょうで最後みたいなエッチしなくたっていいでしょ、ってことだ。姉ちゃんが上になる69ナインも、まだしたことがない。
姉ちゃんは去年地元で就職、おれも今年東京で就職なんだけど、姉ちゃんとはここで区切りをつけようかと思って、このあいだ姉ちゃんに言った。
「就職したら、彼女ができるかもしれない。いや、作るよ、おれ」
「いいよ。姉ちゃんのことは秘密にするよね」
「当たり前だよ。姉ちゃんとしてたなんて、言えるわけない」
「してた、って、過去のことにしてしまうの?」
「続けるの?」
「やめられる?」
「わかんないけど、お互いに彼氏彼女作るまでって約束しただろ」
「姉ちゃんは彼氏作ったよ」
「あれって、セフレじゃないの?」
「いちおうまじめなつきあいだよ。どっちにしても、いやじゃなかったでしょ」
「まあね」
「この二年のあいだに、姉ちゃん以外の女の子ともしたでしょ」
ばれていたんだ。何回かある。
「知ってた?」
「わかるよ」
「行きがかりで、そういうことになっただけなんだ」
「だけど姉ちゃんと続けてたんだし、姉ちゃんも続けられるよ」
「おれが同棲したらどうする?」
「外で会って、ラブホ行こう」
「カネがかかりそう」
「会う回数は少なくなってもいいよ。だけど、いきなり終わりにしないで」
「姉ちゃん欲張りだな」
「いま無理に決めないで。なりゆきでいいよ。ふたりとも結婚したら、そのときはフェイドアウトでいいし」
そのときは、一回終わって、姉ちゃんがおれの胸に顔をひっつけていたときだった。姉ちゃんの右手がおれのペニスをいじってきた。
「どうする?」
「それでいいよ」
その後は、それまでになく過激なエッチになった。離れにくくなったなと思った。
姉と弟でエッチをしているひとたちって、そういう仲を終わらせるときって、どうしてるんだろう。
おれは姉ちゃんと結婚するとか、家庭を持つとか、全然考えられない。
姉ちゃんに好きだと言ったこともない。
姉ちゃんも言わない。弟だからかわいいとは言う。
いつか、姉ちゃんが言うように自然にフェイドアウトするんだろうか。それともなんとなくひきずってしまうのかな。

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