団地の広場の片隅で、柵に腰かけてぼんやりスマホの黒い画面を見ていた私の後ろから、
「じぃちゃん!」と声をかける女がいた。
「ルリ子か…… 爺ちゃんなんて呼ぶな。まだ70過ぎたばかりだぞ。」
「はーい、ごめんなさーい。」
彼女は、団地の同じ棟に住むルリ子。
19歳だが、学生ではなく職にもついていない。
いわゆる親のスネかじりだが、親に代わって自治会の会合に加わったり、団地の清掃行事に嬉々として参加したりしてるので、周囲の評判は悪くない。
だが、私のように実直一筋に生きて来た男には、こんな遊び半分でノンキに生きる女はガマンならない。
「あ、じぃちゃんもスマホにしたんだね。」
……じぃちゃんと呼ぶなと言った先からこれだ。だが、この女にいちいちつっかかってはいられない。
「ああ、……ひとり暮らしだから、息子たちに言われてな。」
「ねぇ、じぃちゃん。」ルリ子がスマホをつついて言った。
「これで、エッチの無修正なんか 見たことある?」
……この女は、こんな事しか考えてないのか。
「まあ…… 見たいとは思ってるんだが、画像を見ようとして画面を押さえたら、別の広告ばかり出て来たり、」
「あ、それあるよね。」
「何か、『ウイルスを検知したから、ここをクリックしてください』とか声が出て来たりしてな…… 面倒だから、切ってしまうが。」
「あ、それがいいよね…… ねぇ、じぃちゃん。」
ルリ子はスマホを手にした。
「これに、エッチなヤツの動画 ダウンロードしてみない?」
そう言うが早いか、ルリ子は私を近くの棟に連れていった。
「あんな所じゃ、誰か見てたら大変だもんね。」
そう言うとルリ子は、階段の踊場に座りこんで、小さな箱を取り出した。
「これ、ポケットWi-Fiって言うの。これ使うと、じぃちゃんのスマホに料金かかんないからね。」
ルリ子は人のスマホを勝手に操作して、何か始めた。
私はそばにいて落ちつかなかった。
(こんな所を誰かに見られたら、よけいに変に思われるじゃないか……)
しばらくしてルリ子は私にスマホの画面を見せた。
「ねぇ、セキュリティのソフトのちゃんとしたヤツ入れたからね。それはともかく……
ほら、この『動画』のところに入れたからね。ここを押さえると、何か色々出てくるでしょ。
英語だからよくわかんないけど、みんなエッチなヤツだから。まあタダで見られるヤツだから、たいした事ないと思うけどね。」
そう言うとルリ子は去っていった。
━━~━━
その日、私は初めてスマホの画面を見つめて 眠れない一夜を過ごした。
ルリ子は「たいした事ない」と言っていたが、それぞれ3分ほどの動画には「淫らな場面」しかなかった。
無毛の女陰に、容赦なく出入りする巨大な男根。
豊かな乳房に挟まれた男根が、美しい女性の顔に白い液を吹きつける。
金髪を三つ編みにした、あどけない面立ちの女性の眼前に、毛むくじゃらの男根が突きつけられ、女性はそれを笑顔で舐め 根元まで咥え、口元から白い液があふれ落ちる……
芸術などにかこつけない、淫らを楽しんで撮影した動画が次々と現れた。
私は そんな動画があるとは知っていた。ずっと前から知っていた。
ただ、その「本物」を手に入れる術を知らなかったのだ。
私の男根はその動画を見て、はち切れんばかりに硬直化した。
握りしめた男根からは、懐かしい快感が伝わってきた。
それは私が中学生時代に、初めて男根を直接我が手で握りしめた快感だった。
性的な快感に溺れることは罪だと教えこまれてきた私が、初めて性を解放された一夜だった。
──▽──
十数日後、私はスーパーの中庭でルリ子に出くわした。
「じぃちゃん、スマホのヤツ どうだった?」
「すごいモノだなぁ。あんなモノだとは知らなかった……」
「今、時間あるんだったら、また別のヤツ入れておくよ。」
「…… 頼む。」
ルリ子は私のスマホを手にとると あの箱を持ち出して傍らに置き、また手際よく動画を集めはじめた。
ルリ子は動画を集めながら言った。
「じぃちゃん…… じぃちゃん自身でこのスマホにエッチな動画撮ってみない?」
「どういう事だ?」
「じぃちゃんがさ、女とエッチなことしてるのを このスマホで撮るのよ。」
「……、ルリ子が相手なのか?」
「違うわよ。アタシのツレん中に、チンポ慣れしたいってコがいたりするから、そのコと じぃちゃんがエッチなことしてるのを撮りたいのよ。」
私は、ルリ子がスマホの中に入れた動画の一つを思い出していた。
それは、私と同じくらいの男性が まだ年端もいかない娘と全裸で戯れる動画だった。
萎びた男根を いとおしそうに口に含み、勃起させる娘。
男性はぶよぶよに贅肉のついた身体で、まるで赤ちゃんのオシメを替えるかのように、娘の股間に男根を挿入していく。
……私はその動画を見ながら、激しく男根をしごいた。
私にも まだ若い娘の性器を犯せる能力があるに違いないと思いながら、我が男根から流れ出る白い液を見ていた。
……あの動画と同じことが、私にも出来るんだろうか などと妄想していると ルリ子が言った。
「今、動画入れるついでにツレに連絡とったら、じぃちゃんに会ってみたいって言うの。
じぃちゃん、ちょっと会ってみてくれる?」
──)(──
ルリ子と私は、別々の道を歩いて団地に帰って来た。
ルリ子と私は、団地の別の棟の非常階段をのぼっていった。
途中の踊場で、ルリ子は
「ハーイ!」と声をかけると、
「ハーイ!」と返事をして、ルリ子とハイタッチをした女がいた。
女……と言うか、待っていたのは赤いランドセルを背負った女の子だった。
この女の子が「チンポ慣れ」したいルリ子のツレなのだろうか?
この女の子と、エッチなことをしているのを、ルリ子が撮影するのだろうか?