10月6

バレンタイン・デー

マサオくん、いつもありがと。はい、これ登喜子から。バレンタイン・デーのプレゼントよ!」

寒空の中、いつものスポーツ・ウェアに身を包んだ快活な少女が、
赤いリボンをつけた大きめの箱をスポーツバッグから取り出し、
上着の上からでもわかるような猫背の小男に向かいにこやかに差し出す。
爬虫類のような表情のない男の眼差しにも、動揺した様子がうかがえる。

「あなたは私に気づかないようにしてるつもりだろうけど、全部知ってるよ私。」

男の表情が凍りつく。

「扉の影から私のこといつも見てるでしょ? こっそり写真を撮ったり、買い物のときも、私の後に同じものを買ったり、それに……」

登喜子は彼のしてきたことをひとつひとつ思い出そうと、首をかしげながら
言葉を続ける。マサオは受け取ってしまった箱をかかえながら、青い顔で膝をガクガク震わせる。

「あなたのホームページも見つけたんだよ。小説に出てくるT子って私のことでしょ?」

男は登喜子からのプレゼントを落とすまいとしっかりつかみながらも、
動揺のあまりその場でへたり込み、尻餅をついてしまった。

「あれ?、どうしたのマサオくん? 顔色が悪いよ? あ、ひょっとして私が怒ってると思った?
……ううん、確かに小説の中で、私が男の人のオモチャにされているのをみて驚いたけど、
私わかってるよ。いつもあとをつけてくるのも、私と同じ下着を買うのも、飲み終わったペットボトルを拾っていくのも、
全部私のこと好きだからだって。愛されてるんだよね、私……だから、今日はそれに答えてあげなきゃ、って思ったんだよ。」

登喜子はちょっとツリ目だが、人懐っこい笑顔をマサオに向けた。
離れた場所から、ただひたすら想いを寄せていた彼女が、自分のために微笑んでくれている――
マサオはそれだけで何がなんだかわからなほどの幸せを感じていた。

「ね、開けてみて?」

本当はこのままの状態で保存したいと思っていた。写真すらまだ撮ってない……しかし、それが彼女の望みなら、
マサオがそれを断ることなどひとつもなかった。マサオはうなずくと急いでリボンをほどき、包装紙を破り捨てて中身を見た。
箱の中には、大きな茶色い立方体が入っていた。

「ちょ……チョコ……?」

「そりゃそうだよ?! バレンタインだもん。でも、それはただのチョコレートの塊。
これから私の真心を込めたチョコレートを作る材料だよ。」

「これから……?」

彼女の言葉の意味はわからないが、マサオは登喜子が自分のために、チョコレートを作っている姿を想像して胸が高鳴った。

「そう! これから作るの。マサオくんの家でね。」

「ぼっ、ぼっ、僕の……!?」

それはまずい。マサオは再び顔を青くした。自分の部屋が、登喜子にとって嫌悪すべきものであることが容易に想像がつく。
彼女に気づかれない存在ならいい。しかし、彼女に嫌われる存在になってしまっては生きてはいけない。
マサオはそれだけは断りたかった。

「嫌? 私の心のこもったチョコ、欲しくないの?」

「いっ、いや、いやいや……欲しい……。」

「それじゃ決まりね。さっ、すぐ行きましょう。」

マサオは仕方なく、しかし、こんな自分を気に入ってくれた登喜子だ。ひょっとしたら喜んでくれるかもしれない。
そんな期待を持って彼女を自分の部屋に案内した。

「うわあ……すごい。」

登喜子の反応は、ごく当たり前のものだった。20畳ほどの大き目のワンルームだが、部屋の中にはいろいろなものが散乱している。
そのほとんどが、登喜子の持っているものとまったく同じものなのだ。壁には自分の写真が大型パネルにされてあり、
本棚には呼んだことのある本が並び、さらに上の列には「真鍋登喜子 2003/4/10?2003/5/3」と書かれた
分厚い背表紙を最初に、日付だけの違う同じ本が十数冊並んでいた。
マサオは彼女の顔が紅潮し、わなわなと引きつるのを見て失敗した、と後悔した。しかし登喜子はそれに気づくと

「あっ……ごめんね。想像以上にすごかったからびっくりしちゃって。……それじゃ、手作りチョコでも作っちゃおうかなっと!」

と、マサオに笑いかけ、スポーツバッグから道具を取り出した。小さな鍋の中にチョコレートのブロックを砕き、少しずつ溶かしていく。
部屋の中に、甘く香ばしい香りが充満する。

「……さてと。ねえマサオくん、ここからは少し手伝ってもらいたいんだけど。
でもその前に、ちょっとスゴいサービスしてあげるから、少しの間アッチを向いてて。」

エプロン姿の登喜子は、スポーツバッグの中をゴソゴソとまさぐりながらマサオに言った。
マサオは直立で窓の方を向くと、登喜子が背後に近づいてきた。胸を高鳴らせて、
次に起こることを期待して待っていると、次の瞬間、「バチッ!」という音がして、体中に激痛が走って倒れてしまう。
あまりの衝撃に体に力が入らない。

「フフッ、これが恋の電撃ってやつゥ? ごめんね、ちょっと動かないで欲しいからスタンガン使っちゃった。」

マサオが体を起こそうとすると、再び登喜子の手が近づき、30万ボルトの電撃を浴びせる。

「まだ動けるみたいね。もう少しやっておこうか?」

「バチバチバチ……バチバチバチ……バチバチバチ……」

体中のあちこちに、何度も何度もスタンガンを押し付けられる。マサオが指一本すら満足に動けなくなったことを確認すると、
ぐったりしたマサオをかかえて椅子の上に腹ばいに乗せ、持ってきたロープで椅子をかかえるような姿でしっかり縛り付けた。
そのまま彼女はバッグのあるところに戻る。マサオにはそれを見ることはできないが、バサバサと衣服を脱ぎ捨てる音がする。
しばらくして、登喜子は彼の頭のある場所に回りこんできた。

「さて……どお? かなーり恥ずかしいんだけど……今日は大サービスだからね。」

顔を赤くして精一杯テレている登喜子は、一糸まとわぬ裸体にエプロン姿で彼の前に立つ。
マサオは自分の状況すら忘れて、お尻を隠しながら一回転する登喜子に見とれた。
テニス部でしなやかに鍛えられた肢体が、彼の前で踊って、そして視界から消えた。

「さあ、今度はあなたの番よ。」

マサオの背後に回った登喜子がそう言うと、鋏で彼のズボンを破き始めた。
パンツも破り捨てられ、マサオは下半身素っ裸となる。鋏の先でチョン、チョンと、マサオのペニスがつつかれる。

「私もマサオくんも裸。これでおあいこだねっ!……それじゃ、手伝ってもらう前に、準備しないとね。」

登喜子は部屋の引き出しを探り、色とりどりの小さな布を取り出した。

「はい、口あけて。チョコの前に、まずはこれをくわえててね。」

引き出しから取り出した、登喜子の持っているのと同じパンツを、マサオの口に押し込んだ。

「まだ入りそうね……どう? これもサービスしてあげようか?」

登喜子は先程服を脱いだところに戻り、今まではいていたパンツを回して見せた。
マサオはそれを口に入れてもらうため、さらに大きく口を開ける。
登喜子の指が、その布切れを口から出すことも出来ないほどギュウギュウと押し込む。
「いきなり裸にしちゃったから、少し寒いんじゃない? おしっこしちゃいなよ。」

そう言って登喜子は椅子の下にボウルを置く。しかし、さすがのマサオもうなり声を上げてそれを拒否する。

「してくれないと次に進めないんだけど……あんなことしたから、私のこと嫌いになっちゃった?
じゃあチョコもいらないってことなのね? 帰っちゃおうかなぁ……。」

登喜子がそう言うと、マサオが再びうなり声を上げる。

「違うの? 私のこと、好き? それならおしっこ全部出して……。」

マサオはいまだまともに動かない首をわずかに揺らし、勢いよく小便を始めた。
ステンレスのボウルに尿が当たり、ジャーッと音がする。やがて小便が終わるが、登喜子は納得しない。

「本当に全部出した? まだ残ってるんじゃない? それじゃ私がテストしちゃうよ?」

登喜子はそう言うと、マサオの背後に回り、大きく振り上げた足を彼の股間に叩きつけた。

ビチッ!

登喜子のつま先が、マサオの陰嚢を打ち据える音がした。
激痛で緊張した体が弛緩するわずかな瞬間、マサオのペニスの先から黄色い液体が飛び出す。

「やっぱり残ってたじゃない。全部出すまで続けるからね」

ビチッ! グギュ! ベシイッ!

登喜子の力強い蹴りの連打が、マサオの股間を襲う。そのたびにうめき声が聞こえるが、尿は少しずつ量を減らしていく。
2、30発の金蹴り地獄が続き、尿がほとんど出なくなり、ようやく登喜子の蹴りが止んだ。

「……ふう、これくらいでいいかな? なんか牛の乳搾りみたいでおもしろかったあ!」

登喜子は屈託ない笑顔をマサオに見せると、さらに次の段階に入る。椅子の間から、ペニスをつまむ。

「タマタマは大きくなったみたいだけど……おちんちんは小さいね。皮かぶったままだし。さっきのでちぢこまっちゃった?
でも、次はこれ、大きくしてもらうよ。」

登喜子はマサオのペニスを優しく握り、やさしく擦り始めた。まともな女性経験などないマサオは、たちどころに勃起してしまう。

「……硬くなった。まあ、こんなもんでいいかな?」

登喜子はそう言うと、ペニスの根元にタコ糸を回し、力いっぱい締め付けた。
結び目に皮がはさまって、鋭い痛みが走ってマサオが悲鳴を上げる。
しかし登喜子はおかまいなしに、ペニスの直径の半分くらいになるほど締め付けて縛った。

「さて。これでおちんちんはオーケー。あとは……」

彼女は再び、マサオの背後に回る。わずかに体が動くようになったマサオは、首を下げて自分の足の間から、
登喜子の姿を見てみる。彼女は、さきほどの鋏を持って彼の股間の間に座っていた。

そして、彼の陰嚢をつまむと、鋏を近付ける。

ジョキ

何が起こったのか。マサオが判断するより早く鋏が閉じられ、陰嚢が切り開かれた。
マサオはくぐもった悲鳴を上げるが、登喜子はそれを気にも留めずに、切り口に指を入れて、彼の睾丸をほじくり出した。
輸精管にぶらさがり、ウズラの卵ほどの白っぽい球体がぶら下がる。

「はい、これで準備完了っと! さっき蹴ったから、タマタマは少し大きくなってるね。
内出血してるみたいだけど……もしかして潰れてるかな?」

登喜子の指が、睾丸のひとつをギュッとつまむ。腫れた睾丸に指がめり込み、そら豆のように変形する。
神経の塊を押し潰され、マサオがひときわ大きなうめき声を上げる。

「ん?、よくわからないや。まあいいや、このままイッちゃおう!」

登喜子は立ち上がり、溶けたチョコレートの入った鍋と、バッグから取り出したカセットコンロを持って戻ってくる。

「さ、そろそろ仕上げよ。今日のメニューは、チョコバナナ1本とチョコボール2コよ。」

限界の痛みに耐えるマサオに、その言葉の意味はよくわからなかった。

「でも、私が持ってきたのはチョコだけ。バナナとボールは、マサオくんのを使わせてもらうから……。」

マサオの股間から垂れ下がるペニスと睾丸を触りながら、低いトーンでそう言うと、さすがのマサオも察してきた。
口いっぱいの下着の向こうから、再び拒絶のうなり声を上げる。

「ンフッ、ようやくわかった? 私の手作りチョコレートがどんなものか。マサオくんなら手伝ってくれるよね? そのナ・カ・ミ!」

泣きながら哀願するマサオの顔を覗き込みながら、登喜子はいたずらが成功した子供のような、天真爛漫な笑顔を浮かべる。
「私があんたのこと好きなんて、ウソに決まってるでしょ。」

彼女は楽しそうにマサオの股の下に本を積み上げ、そこにカセットコンロを置く。

「あんた、私が先輩と付き合ったとき、先輩に嫌がらせしたでしょ?それが原因ですぐに別れたんだから。絶対許さない!
ただでさえストーカーなんてキモチ悪いのに……でも、警察でも取り合ってくれなかったんだ。
それで私考えたの。それなら私が懲らしめてやろうって。
でも、ちょっと痛い目にあわせたくらいじゃ、かえって逆効果だろうし……」

登喜子はドロドロに溶けたチョコレートで満たされた鍋を手に取り、話を続ける。

「それで、アソコを取ってやればいいんじゃないかって考えたの。男って、おちんちん大事なんでしょ?
シンボルなんて言うわけだし。それがなくなっちゃえば、もうストーカーとかしなくなるんじゃないかな? って。
うちの猫だって去勢したらおとなしくなったし、アソコがなければ強姦とかもできないし、
そんな遺伝子、人類に残したくないし。犯罪者の罰にはいいことだらけじゃん!
それに……あんたストーカーだから、警察にも言えないでしょ?
だから、私が捕まることもないってわけ。どう? カンペキでしょ!」

ぶら下がっている睾丸を指でピン! と弾いて、登喜子が自信たっぷりに話す。

「それじゃ……やるわよ。自分の罪を悔いなさい!」

茶色い液体に、男性のもっとも大事な器官が沈んでいく。
まず2つの白い球体が見えなくなった。マサオがひときわ大きなうめき声を上げ、

ペニスの先から白濁した液が勢いよく飛び出した。

「あらあら……ホワイトチョコの方がよかった?ストーカーでも遺伝子を残そうとして必死なのかな?」

さらに登喜子が鍋を持ち上げると、ペニスもすっかり鍋の中に入った。

「本当のチョコバナナはチョコをつけたら冷まして完成だけど、このバナナは腐ってるから煮込まないとね。」

登喜子は鍋の中に材料がすべて入るように、本を積み上げてカセットコンロの位置を調節すると、点火スイッチを回した。
しばらくして、鍋の中のチョコレートは、再びグツグツと煮立ち始める。
登喜子はマサオが暴れるたびにスタンガンを押し付けながら、彼の苦悶の表情を楽しげにながめていた。

「アハハ……熱さが染みてきてる? 痛い? 本当にいい気味。あなたの顔を見てると久しぶりに胸がスッとしちゃう。」

十数分間が過ぎ、登喜子は火を止めて、コンロをずらして鍋を下ろす。
トロリとした褐色の液体をしたたらせ、中まですっかり火の通ったマサオの男性器が出てきた。

「どう? 起てられるなら起たせてみてよ。もう何も感じないと思うけど。」

登喜子は裸エプロンをヒラヒラさせて、マサオを挑発する。マサオは朦朧としつつも、
眼前の彼女の裸体を焼き付けようと目の輝きを取り戻すが、チョコに包まれて湯気の立つペニスはぴクリとも反応しない。

「……よしっ! 出来上がりっ!」

登喜子は両手で可愛げに、小さくガッツポーズをした。

「やったあ! あなたのおちんちんもタマタマも、もうおしまいよ。それじゃ、冷めるまで待って取りましょうね。」

チョコレートが固まるまで待つと、登喜子は茹で上がったペニスの先端に遠慮なく割り箸を突き立てる。
尿道をえぐりながら、割り箸がズブズブと突き刺さっていく。

「どう? チョコバナナといえば割り箸だから刺してみたけど、何も感じないでしょ?」

登喜子は鋏で輸精管を切り離して睾丸を取ると、続いてペニスの根元に鋏を当てて力を込める。
火が通ったペニスは柔らかくなっているのか、「プリュッ」という独特な音を立てて切り落とされた。
登喜子はそれを皿に盛る。

元々の配列どおり、チョコバナナの割り箸の刺さっていない側にチョコボールが並べて置かれる。

「はい、登喜子風バレンタイン・チョコレート、おちんちんチョコバナナとタマタマチョコボールの完成よ! さあ召し上がれ!」

目の前に差し出されたモノを見て、マサオはうめき声を上げながらポロポロと涙をこぼす。

「……うふふ。後悔した? それとも私のチョコに感動した?でも、それじゃ食べられないね。」

さすがのマサオももちろん、自分の生殖器を料理されて食べられるわけがない。
それ以前に、下着のさるぐつわをされたマサオには不可能だ。

「じゃあ……私が代わりに食べてあげるね。」

そう言うと登喜子は、割り箸をつかんでチョコバナナを丸かじりした。
ペニスを根元から噛み千切り、モグモグと口の中でゆっくり咀嚼する。

「うん……マズイ! ストーカーのおちんちん、臭い! チョコと合わない!
でも、これが勝利の味ってやつだと思うと我慢できるかな?」

続いて2口目を食べると、しばらく噛んでから口を開いて、噛み砕いた肉をマサオに見せ付ける。
そしてワナワナと震えて涙するマサオの顔に、そのまま肉片を噴き出した。

「やっぱ臭い! あんたにあげる! これも返す!」

登喜子は亀頭の部分と思われる部分のついた割り箸を、マサオのペニスの切り口についた尿道に突き刺した。

「ふう、マズかった……それじゃ次はタマタマよ。うう……なんかヤだなぁ。」

ゴルフボール大のチョコボールを爪楊枝で突き刺し、口に運ぶ。
かなり固いのか、しばらくモギュモギュと口を動かすと、皿の上にペッ、と吐き出した。

「皮みたいなのが固?い。でも、こっちはけっこうおいしいね。」

2個目も同様に、皮だけ吐き捨てたが、味わったようだ。

「ふう……ごちそうさま。それじゃ私、先輩に本命チョコ持って行くからバイバイ。
もう私のこと付きまとわないでね。タ・マ・ナ・シマサオくん!」

登喜子はエプロンをはずし、裸のままスポーツウェアの上下をつけて足早に部屋から出て行ってしまった。
マサオはしばらくして体が動くようになると、なんとか椅子から脱出した。
股間に刺されたままのチョコバナナの残りを抜き取り、それをほおばると、部屋の中に残った彼女の遺留品をかき集めた。
そして、パソコンの上にある最新のファイルを開き、日記を書き始めた。

「2月14日、登喜子からバレンタイン・チョコレートをもらう……」

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