11月13

明日を見つめて 9.かけがえのないもの

まだ、高校を卒業したばかりの若い二人。
普通のカップルなら、少なくとも半年なり数年なりをかけて踏んでいく
のであろう交際のプロセスを、たった4日間で経験してしまった。

麻雀が終了して、北島家の三人と浩平たち来客三人は、浩平と彩を肴に
して暫く雑談していたが、9時半には内村と磯村の二人をタクシーで
送り出した後、妙子は浩平の家に電話を入れた。
「遅くまで浩平さんをお引き留めして、申し訳ありません。
 これから主人に送らせます。
 主人は玄関先で失礼させて頂きますので、お気遣いなく」

寿治も酒を飲んでいたため、自分の車で送ることをせず、浩平と一緒に
タクシーの後部座席に乗り込んだ。

「浩平君は、経済学部に進むんだったね」

「はい。そうです」

「『経済』の語源は知ってるかな?」

「『経世済民(けいせいざいみん)』ですか」

「そう。良く知ってるね。意味は理解してるかい?」

「『世(よ)』の中を『経(つむい)』で、
 『民(たみ)』を『済(すく)』う。
 だったでしょうか。・・・読み下しただけですけれど」

「そうだ。まあ、『つむぐ』は、結果として『治める』という意味だね。
 世の中の様々な現象を的確に把握して国を治め、民衆の苦をどう除く
 かに心を砕き、手を施し、救っていく。
 それが本来の経済だというこだね」

「はあ・・・」

「経済活動とは、事業や労働や市場への投資活動に限定されるものでは
 ないし、物理的な富の蓄積や、その分配効率のメカニズムのみを指す
 わけでもないということでね。
 民衆ひとりひとりの日常的な生活と、それが織り成す社会現象その
 ものということなんだろうな」

「何か、政治的な意味、哲学的な解釈に近いように思えますね」

「うん。もともと、政経不可分だからね。
 政治と経済は、密接な関係にある。
 そして『政治』は、読み下せば『政(まつりごと)』を『治(おさ)』 める
 になるだろ?」

「そうですね」

「そうすると、政治は祭事だから、宗教的なものがベースになっている。
 人類の生活様式が狩猟中心から農耕に移り、放浪から定住へと変化
 していくと、親族から部族単位へと生活共同体が広がり、邑(むら)
 ができ、村落が形成されていく。
 部族は、村民が協力して自然に立ち向かい、より多くの収穫を求めて
 知恵を絞り、衣食住を得るための効率的な道具や技術が生み出される」

「はい」

「今でも第一次産業は自然に左右される要素が大きい。
 古代や原始社会なら、なおさらそうだ。
 とても人知の及ばない自然現象の脅威に対しては、畏敬の念を払い、
 人間に害をなす自然現象を鎮め、利益をもたらす自然現象を渇仰する。
 これは、衣食住の豊かさを指向するものだから、経済そのものだね」

「そう・・・ですね」

「そういった、生きることそのものへの部族内での切迫した願望は、
 何とか自然をコントロールできないものかという思考に向かう。
 そこから、様々な現象に自然の発する声を聞き求め、吉凶を占い、
 それへの対処法を試みるようになる。
 そして、それらの声を感じ、豊作か凶作か。自然が何を求めている
 のかを聞き分ける特殊能力を持った者が現れる。
 シャーマンと、原始宗教の出現だよ」

「なるほど。そういうことになりますか」

「占いと予言。それらを利益をもたらす方向へと向かわせるための儀式。
 まさにそれが『祭り』であり、『政(まつりごと)』になっていく。
 『政(まつりごと)』を『治(おさ)』め、それを司る政治の原型だ。
 政治は、部族内の『生き抜くため』の要請から派生したものだと言って
 もいい。『生き抜くため』の生産活動全てが経済。
 よって経済は、宗教的・哲学的側面を帯びてくる。
 そこに科学的な技術革新の要素や芸術の要素が加われば、文化・文明
 の創出だ」

「はい」

「やがて、シャーマンの地位を得たものは、部族内の抗争をも裁定し、
 秩序を保つために影響力を発揮する。それは、明確な権力の掌握。
 更に、より安定した衣食住の確保のため、部族は生活域を拡大して
 いく。
 すると、異なる部族間のテリトリーが重なり、抗争が起こる。
 仲裁か融和か戦争か。外交的政治の発生だね」

「・・・」

「部族間でのぶつかり合い。文化と文化、文明と文明の衝突。
 占領と隷属という異文化・異民族間の力関係を背景にした階級社会が
 誕生することもあれば、異文化・異民族間の対等な交流に発展する
 こともあるだろう。交流が始まれば、交易や物流が生まれる。
 それを効率的に行なうために、物々交換から貨幣経済へと移行する。
 経済から政治、政治から経済へと輪のように発展していく。
 それが人類の歴史だと、私は考えている。
 何が言いたいか分かるかい?」
 
「・・・なんでしょう?」

「大学で学ぶ経済理論や経済現象の計数的な測定、統計分析手法など、
 もちろん、それも大事だけれど、与えられた4年間という時間の中で、
 君にはもっと別の次元で、経済の原点に立ち戻った『民衆のため』、
 『市民の生活向上のため』に、何が大事なのか。どういう手法がある
 のかということを、広くグローバルな視点で考えて欲しいんだな」

「僕の手には負えそうもない、壮大で難しい命題ですね」

「そうだね。私にもまだ、答えは見つかっていない。
 残念ながら、現在の各国の政治経済体制の中にも正解はない。
 たぶん、永遠に思考錯誤は続くのだろう。
 どれだけ立派な理念としての、社会的な相互扶助と継続的な発展の
 必要性を提唱しても、人間ひとりひとりのエゴを封殺するわけには
 いかないから。
 だけど、それを考え続ける人間がいることが大事なんだ。
 そして、君はそれが出来る人物だと、私は思う」

「買い被り過ぎですよ」

「知識や能力も大事だけど、いきつくところは人間性なんだよ。
 君のご両親のように、真面目で良心的な一庶民が苦しまずに済む
 社会に。頑張っている人が報われる社会にしたいとは思わないか?
 それが経済の本質だと思うんだが・・・。
 別に、彩と付き合うための宿題とは言わない。
 ふと、ひとりの時間が出来た時には、思いだして考えてみて欲しい」

「わかりました。心しておきます」

二人がそういう会話をしている間に、浩平の家に到着した。
玄関では、美代子が出迎え、是非、家の中に上がって下さいと勧めた
が、寿治は「夜も遅いですから」と遠慮した。
浩一も足を引きずりながら玄関まで出てきて、中に入って下さいと
願い出た。

「これは、お父さん、態々恐縮です。
 こうしてお二人にお会いし、ご挨拶が出来ただけで充分です。
 浩平君のお相手には不足な娘ですが、どうか彩のことを宜しく
 見守ってあげてください。
 今日は玄関先で失礼します。また、ゆっくりとお邪魔いたします。
 その時は、いろいろとお話しをお聞かせ下さい」
と、その場を辞して、帰りのタクシーに乗り込んだ。

浩平が旅立つまで残り十日余り。
浩平の自動車免許証取得のための筆記試験の会場に彩が送り迎えをした
り、ときには県外までドライブに出かけたりと、できるだけ二人で一緒の
時間を過ごしていた。
晴香とも会い、大いにひやかされたり、三人で真知子先生宅を訪ねて
報告をし、驚かれ、祝福されたりということもあった。
そのような中、浩平は、寿治に語っていた「世間的には落ちこぼれと
言われている連中が出入りしている独り暮らしのおじいさんの棲家」
に、彩を連れて行った。

彩との初デートで行った映画館からほど近い裏路地を通って、商業ビル
の狭間に建てられた、コンクリート造りのアパートの階段を2階に上る。
一番奥の部屋のドアの前に立ち、軽くノックした後、返事を待たずに
浩平はドアを開き、声をかけた。
「おじいさん。こんにちわ」
奥から初老の白髪の老人が顔を出した。
「おや、浩平君かい。久しぶりだったね。入って、入って」
浩平が中に入ろうとすると、後ろにいた彩が浩平の上着の裾を掴んで
動かない。

「大丈夫だよ。入ろう」

「でも・・・」

「大丈夫だって。いい人だから。
 おじいさん、今日は紹介したい子がいて」

と言って、彩の背に手を添えて、前に進みながら玄関に上がり、ドア
を締めた。

「この子、北島彩って言います。付き合い始めたばかりです」

「おお、そうかそうか。べっぴんさんだね。
 いやあ、態々彼女さんを紹介しに来てくれたんだ。
 ありがとね。さあ、お嬢さんも遠慮せずにお入んなさい」

彩は、一礼すると、中に入ろうとする浩平の左手を固く握って、おそる
おそるついてくる。かなり警戒しているようだ。
彩が靴を脱いで中に上がろうとしたとき、キッチンの方から大きな雑種
犬が、浩平の方に走り寄ってきた。
彩は、驚いて浩平の後ろに後ずさる。
「よーしよし、ポン、忘れなかったか!?」
浩平は、盛んに尻尾を振る犬の首や頭を撫でまわした。
「ポン」は、犬の名前である。
「よしよし、いい子だ。おじいさんとこに行きな」

8帖の和室に入っていくと、雀卓にも使っている炬燵の囲りに、浩平と
同年代の少年が二人立って、出迎えた。

「浩平さん、お久しぶりです」
「元気でしたか!?」

「よう。雄二、修。久しぶり。元気そうだな」

「今日は、珍しいというか・・・。
 初めてですね。女の人を連れて来るって」

「ああ、紹介するよ。まあ、なんだ・・・俺の彼女だな。
 北島彩。宜しくな」

「き、北島です。初めまして・・・」
少しどころか、かなり緊張している。
当たり前と言えば当たり前か。紹介された二人とも眉毛はないは、
ズボンはボンタンに半ケツだは。
これまで、彩の身近にはけしていなかった存在である。
「雄二」と呼ばれた方は、背が高く、黒髪のリーゼント。
「修」と呼ばれた方は、背が低く、茶髪のソフトモヒカンだが、よく
見れば、整ったかわいい顔立ちをしている。
二人とも興味津々と行った様子で、彩と浩平を見比べている。
学年は、どちらも浩平より一つ下だった。

「修。バイトは今日は休みか?」

「はい、休みです。サボったわけじゃないっすよ」
修は、駅前アーケード内の酒屋でバイトをしていた。彼は、さほど喧嘩
が強いわけではないが、根性は座っている。そして、2歳上の姉が、
相当なワルでもビビルほどの市内では有名な女番長(スケバン)だった。
ただし、浩平は、姉の方には面識がない。

「雄二は・・・サボリだわな?」

「その通り!・・・って、何いってるんすか。春休みですよ」
雄二は、私立高校の二年生。三年生に上がる筈ではあるが・・・。

「おっと、そうだったか。悪かった。
 お前、ちゃんと進級はできるんだろうな」

「ま、大丈夫っすよ。ちゃんと考えてサボってますって」

「そんなことで威張ってどうする!
 もうちょっと、別のところに頭を使えよなあ・・・。
 ところで、庄司は・・・今日はいない・・・か」

「近くのパチンコ屋ですよ。呼んで来ましょうか?」

「悪い。ちょっと呼んで来てくれるか」
修が走って行った。
庄司は、中学校では浩平と同級生だったこともある幼馴染の従兄弟で、
半年前、浩平が受験のためにグループを抜けてから仲間を纏めていた。
頭は良くないが、ガッチリとした体躯と面倒見の良さで、仲間からは
頼りにされていた。
4月からは、木工家具類の塗装工場で働くことになっている。

おじいさんが台所から、モツの煮込みを持って部屋に入ってきた。
愛犬「ポン」が後ろをのそのそとついてくる。

「みんな、立っていないで炬燵に座んなさいな。
 浩平君、久しぶりに食ってくれるか」

「ありがとうございます。いやあ、懐かしい。
 彩、おじいさんのつくったこのモツ煮込みと、あとはカレーライス。
 これが絶品なんだよ。せっかくだから、御馳走になろう」

「そう言ってもらうと嬉しいね。カレーも出そうか?」

「いやいや、余り腹は減ってないんで、これでじゅうぶんです」

うまそうに浩平が食しているのを見て、彩もおそるおそる箸をつける。
「あっ、おいしい! おしいさん、本当においしいです」
おじいいさんは、ニコニコと笑みを浮かべ、頷きながら二人を見ている。

「だろ? じゅうぶん煮込んであるから柔らかいし」

庄司が入って来た。
「よう、浩平。久し振り。元気だったか!?
 おっ、この人が浩平の彼女か。いやまた、こりゃ綺麗な人だな」

「よ!久し振り。元気そうだな」
彩が立ち上がって挨拶する。
「北島彩です。宜しくお願いします」

「こちらこそ宜しく。
 この野郎、いつの間に。勉強しかしてねえもんだと思ってたのによ」

「ハハ。付き合い始めたばかりだよ」

「でも、お前、もうすぐ東京に行っちまうんだろ?
 彼女も東京の大学に進学か?」

「いや。そこで相談があって来たんだよ」

「相談って・・・俺たちに出来る事があるとは思えねえが?」

「彩は、こっちの、ほら○○女子大に進学するんだけど、
 彼女に何かがあっても、俺はいなくなっちまうから守ってもやれない。
 で、いざという時は、お前たちに力を借りたいと思ってな」

浩平たちが生まれ育ったこの街は、結構物騒な事件が多かった。
なかなか表には出ないが、女子中学生や女子高生の輪姦事件なども
頻繁に起きているのである。
被害者やその家族が、事件が広まることを嫌って警察に被害届を出さない
ケースが圧倒的に多いため、そのほとんどは闇に葬られるが、浩平は、
ここにいる仲間を通して、そういう話を何度も聞いている。
勿論、浩平の仲間内では、そういう自ら進んでの暴力や恐喝、かつあげ
の類は厳禁にしていたが、一度、女子中学生の輪姦未遂現場を目撃した
仲間二人が止めに入って、一人がボコボコにされるという事件があった。
その中の一人が、仲間に知らせに、このおじいさんの家に飛び込んで
きた。
丁度、浩平と後輩一人がその場にいて、それを聞いた浩平は、怒りで
顔を真っ赤にし、護身用に部屋においてあった金属バットを持ち、助け
に行こうと飛び出した。
浩平と後輩二人が外に飛び出たところに、庄司ともう一人が戻ってきて、
慌てて止めた。「放せ!ぶっ殺してやる」と、普段は穏やかで冷静な浩平
が、もの凄い形相で、後ろからはがいじめにした後輩を振りほどこうと
している。
庄司は、「俺たちが行くから、お前は連絡用に待っていてくれ」と言い
残し、浩平と浩平を捕まえている一人を残して現場に向かった。
何か揉め事や事件に浩平のグループが巻き込まれた時、仲間は、真っ先
に浩平を現場から逃がしたり、遠ざけたりした。
警察沙汰になるようなことがあっても、けして浩平の名前が出ないよう
に、浩平以外の仲間内では、暗黙の了解が出来上がっていた。
彼らが事件がもとで、停学になろうが退学になろうが、警察に引っ張ら
れようが、意に介することはないが、浩平だけは、そうなってもらって
は困る。
普通の同世代の少年たちからはじき出され、劣等感を持つ者同士が
集まって傷をなめ合うように出来た集団である。浩平がいなければ、
他のそういう類の連中と同じように、単車を乗り回したり、喧嘩や強姦
に明け暮れていても不思議ではなかった。
そこに、庄司と麻雀の縁で浩平が入ってきた。
彼らには、普通の高校生であり、誰からも認められている優秀な少年で
ある浩平が、彼らのような者を分け隔てなく、普通に接し、街で遊び、
酒を呑み、時にはキャンプやハイキングを楽しめるように先導してくれる
ことが、それだけで嬉しかった。
かけがえのない存在が、自分たちのせいで世間的な悪評を被ることを、
何よりも怖れた。
彼らにとっては、自分たちの仲間内から大学に行く者が出る事もまた、
誇りなのである。
そういう浩平の一面を、彩は知らない。

「彩も、こいつらを怖がる必要は全くないぞ。
 喧嘩っ早いところが欠点だけど、それだけに喧嘩は強い。
 いざというときは頼りになる、本当に気のいい奴らだから。
 何かあったら、ここのおじいさんのところに駆け込むか、
 電話をすればいい」
彩は、黙って頷いた。

「彩の写真を1枚渡しておくから、他の連中にも宜しく言っておいて
くれ」と言って、浩平と彩のツーショットの写真を庄司に渡した。

「わかった。そういうことなら、任せておけ」と言って、庄司はその
写真を受け取り、彩に向かって言った。
「何かが起きてからでは遅いから、危ない気配を感じたらいつでも
 言って来て。
 浩平の彼女のピンチだって聞けば、みんな体を張って守るから」

「はい。ありがとうございます・・・」

「庄司はね、顔が広いし、人脈があるから何かと頼りになる。
 顔の面積が広いだけという噂もあるけどな」

「やかまし。余計なことは言わんでいい」

その後、暫く思い出話や雑談をし、この家の主である「おじいさん」に、
芋羊羹の手土産を渡して別れた。
彩の車に戻る。
「運転を忘れないうちに慣れておきたいから」と、浩平がめでたく免許
証を受け取ってからは、なるべく浩平が運転をしていた。
助手席に乗り込むなり、彩が訊いてきた。

「怖かったあ・・・。ねえ、あの『おじいさん』はどういう人なの?」

「ああ・・・俺も素性はよく分からない。
 ああやって、若い連中が年中入り浸っているんだから、近くに身内が
 いるとも思えないし。
 どこかから、事情があって流れて来た人なのかな。
 今更だけど、名前も知らないんだ。何だか聞いちゃいけない雰囲気が
 あってね」

「ふうん・・・。浩ちゃんには、私の知らないことが
 いっぱいあるね・・・」

「だから、こうやって連れて来てるんじゃないか。
 みんな、俺にとってはかけがえのない連中だよ。
 それは、同級生たちも、家族も、そして彩。君もだ。
 今では、北島のおじさん、おばさんもだな」

「そっか。・・・そうだよね。
 そういう人達がいて、今の浩ちゃんがあるんだもの。
 あのね・・・。私、昨日で生理、終わったよ・・・」

「そりゃ、良かった」

「だから、『良かった』じゃなくて・・・」

「なあ、前に通り過ぎた『モーテル』に入ってみようか?」

「・・・うん。いいけど・・・。あそこは場所が目立ちすぎない?
 もっと目立たないところはないの?」

「結構、ありそうだよな。街外れを探してみるか・・・」

30分ほど走った市の郊外、小高い山裾に入ったところに、モーテル
空室有の案内板を見つけた。細い側道に入って行く。

そこは、ひとつひとつが別棟になっており、ひとつの棟脇の車庫に車を
入れると、降りてすぐにインターホンがあり、そこで管理室に連絡を
して施錠を外してもらった。
中に入るなり、彩は興味深そうにあちらこちらを見て回っている。
勿論、浩平も初めてである。彩と一緒に探索した。
浴室に入るとやけに広く、電気を付けると色とりどりの電飾が光った。

「うわ、部屋は暗いのに、お風呂場明るすぎ。浩ちゃん、入る?」

「後で入ろうか。一応浴槽にお湯を張っておく?」

湯を張って、ベッドの脇の小物入れを開けると、コンドームが2つ
入っていた。
「おっ、コンドーム用意してあるじゃん。使っても大丈夫なのかな?」

「あの・・・さ。それ、使わなくても平気だよ。
 お母さんに言われて、ピルを飲んでるから」

「へっ・・・。そ、そうなの? ピルって、体に影響はないの?」

「うん。結構大丈夫みたいよ。水泳とか体操とかやっている女の子も
 使っている子が多いんだって」

「へえ・・・、それなら大丈夫か・・・。
 さてと、じゃ・・・する?」

「いちいち、訊かなくていいから。しに来たんだし」

「いきなりだと、彩、おこるからさ」

「だから、こういうところならいいの。もう・・・
 ねえ、キス」

ベッドに寝転がりながら、激しく口を貪り合った。
彩は、「服がしわになるから」と、自分の着衣を脱ぎ出した。
浩平も急いで服を脱ぐ。
下着姿の彩が、ベッドを離れ、二人分をまとめてハンガーに掛けた。
ベッドに戻らないうちに、浩平が襲う。
彩が生理中、ほぼ毎日口では抜いてもらっていたが、やはり体を合せて
抱き合いたい。彩の中に放出したい。
彩の下着を剥ぎ取って、床に押し倒した。
キスをしながら、胸を揉み、陰裂を手で掻き回す。
すぐに、愛液でビショビショになった。

「アッ・いい・・・ウンッ・ア・ア・・・ア、そこ、そこが・イイ」

浩平は、膣に中指を挿しこんでみた。
指を膣の中に入れるのは、初めてである。
激しく出し入れしていると、どんどん中から蜜が溢れ出てくる。
膣の入り口から中ほどまで、ヒダヒダが続き、指に纏わりついて来る。
奥の方は、空洞になっているのが感じられた。
入口の締め付けがきつい。
出し入れする指を二本にしてみた。
空いている左手は、親指でクリトリスを捏ねた。

「アンッ・・・アッ・・なに?ンッ、な・何本入れて・ウゥン・る・の?
 そ・・・ア・ア・そんなに・・入れちゃ・ダメ・・アッ・・だって・・・
 ハゥアン・・・そんな・・ン・ンッ・掻き回さ・・ないで・・・
 ン・ン・ウン・・・だめ・・イキそ・・・ウン・ウッ・・
 ゆ・指じゃなくて・・ア・アン・・浩ちゃんの・・ンアッ・・
 浩ちゃんので・・アン・ダメ・・イキたい」

「だから、俺の『指』でイケば?」

「ちがう・・・ウゥン・ン」

彩は急にガバっと上半身を起こし、浩平のいきり勃ったモノを掴んだ。

「ね、これ・・・ハア・ハア・・・コレ挿れて!ベッドに行こ」

彩は、ふらふらしながら、半腰でベッドに上がり、寝転んだ。

「ねぇ、早く、来てぇ」。仰向けで浩平に顔を向け、足を開き、手を
上げて開いている。

浩平は、覆い被さってキスをすると、彩はきつく抱きついてきた。
浩平は、その体制のまま、右手で自分のモノを握り、彩の陰裂を上下に
擦り、窪みにあてがって腰を押しつけた。ヌルヌルヌッと簡単に入って
いく。

「ン・フウンッ・・ああ・・やっぱり・これ・・ン・・いい」

生挿入は、初体験時の挿入直後だけ。そのまま続けるのは初めてである。
あまりの気持ちよさに、浩平はすぐに射精感が込み上げて来たが、彩も
また達するのが速かった。

「ア・ア・ア・ア・・・イク・イク・イク・・ウン・・イっちゃう・・
 アッ・アーッ」
これまでになく大きな絶叫を残し、彩は逝った。
浩平もすぐに、激しく腰を打ち付け、最後はゆっくりと奥に押しつけ
ながら、絞り出すように大量に放出した。
が、浩平のモノは一向に収まる気配がない。
彩の呼吸が整うのを待って、浩平は繋がったまま彩の背に腕をまわし、
上半身を起こした。そのまま対面座位に移して、壁に寄り掛かる。
彩は、浩平に肩をもたれていたが、驚いたように口を開いた。

「えっ、このまま続けるの?」

「うん。小さくならないや。彩、腰、振れる?」

彩は浩平の肩を掴み、腰を振り始めた。
ブジュブジュという音とともに、つい先ほど放出した精液が彩の中から
溢れ、浩平の玉袋まで垂れて来ている。
ブジュブジュ・グチュグチュという音に、彩が恥ずかしがる。
「やん・・・やだ。ヤらしい音。浩ちゃんのが出てる」

「彩のエッチなおツユも随分混じってると思うけど?」

「やぁだ・・アン・アッ・・そんなこと・・ン・ン・・言わないの」

さすがに、抜かずの2発目はなかなか出そうにない。
彩の動きがぎこちなくなってきた。彩の方はまた絶頂に近付いてきて
いるらしい。
「ハア・・・アッ・浩ちゃ・ん・・動・・ン・ン・けない・・・ア・ア・ン・ン」
顔が仰け反ってきた。手指だけはしっかりと、浩平の肩に食い込むほど
握っているが、腕の力も抜け始めている。
浩平は、右手を彩の左わきから腰に回し、左手をベッドついて支え、
そのままゆっくりと正上位に戻して、ひざ裏を抱え、大きく膝を抱える
ように広げた姿勢にした。腰を最初はゆっくりと奥まで挿し入れ、徐々に
激しく突きだす。
もう彩の陰部と周辺、陰毛まで。浩平の密着部分もまた、ベトベトに
汚れ、泡立っていた。
彩も、浩平の動きに合わせて夢中で腰を振り始めた。喘ぎも大きく、
息遣いが荒い。
あまりの粘液の多さで、緩く感じていた彩の中が、急にギュッと締め
付けてきた。浩平も再び射精感に襲われる。より激しく腰を振り一気に
放出した。
彩の中は、その間もうごめき続け、低い呻き声と、激しい息遣いが
続いたが、放出の途中からは、息すらしていないように静かになり、
口を半開きにして、小刻みに痙攣していた。

浩平が、ティッシュの束を彩と浩平の接合部に当て、縮まったペニス
を抜いた瞬間、彩は「フゥーーン」と大きく息を吐いたところで、
全ての筋肉が弛緩したようにグッタリとなり、ティッシュで抑えた陰部
から、愛液とは違う液体がチョロチョロと噴出した。
どうやら、失禁したらしい。
幸い、たいした量ではないので、抑えたティッシュとそれを持つ浩平の
手を濡らす程度で、シーツには少しだけ飛沫がかかっただけだった。
急いで濡れたティッシュをゴミ箱に捨て、また何枚かのティッシュを
抜いて、彩の陰部や陰毛を拭ってやった。
彩は、満足したように、静かな息をしていた。

「彩? だいじょうぶか?」
耳元で小さく声を掛けると、静かに眼をあけ、浩平を見つめた。

「なんか、凄かったね・・・完全に意識が飛んじゃった。
 疲れた・・・。浩ちゃんも良かった?」

「ああ、すごく気持良かった。 セックスって、すごいな。
 彩、おしっこしたかったのか? 少しお漏らししてたぞ」

「えっ、うそ!? 知らない。 出ちゃってたの」
と言って、自分の陰部に手を触れ、その下のシーツをさすった。
「そんなに、濡れてないよ・・・」

「ちょっとだけだから。
 彩のそこ、拭いてやろうとティッシュを当てたら出てきたんで、
 シーツには垂れてないよ」

「そうなんだ。ありがと」

「お風呂に入ってくる」

「あ、私も行く。・・・はん、力が入らない。
 浩ちゃん、おんぶ」

「しょうがねえな・・・ほれ」

浩平は、ベッドに背中を向けて中腰になった。
彩が、よろよろと、何とか背中に乗ってきた。
「あっ、出て来た!」
彩の中に残っていた浩平の精液が垂れ出てきて、彩の陰部が密着して
いる浩平の背中の下部から腰まで流れている。
「うわ。ごめん。まだ出てる」

「いいよ、どうせ、シャワーを浴びるんだし」

バスルームで洗いっこをしている内にまた欲情して、後背位で
繋がった。終わったあと、彩が顔をしかめながら、
「また、洗わなきゃ。ちゃんと出るかな?」

和式便所にまたがるような姿勢で、左手で陰裂をかきわけ、シャワーを
当てながら流し出そうとしていた。
浩平が正面から覗き見て、笑いながら言った。

「彩。・・・すごい格好だな・・・。
 恥じらいも何もあったもんじゃないな」

「だって、ちゃんと出さなきゃ、下着に垂れてきそうだもん。
 別に、浩ちゃんに見られても構わないし。
 おしっこまで見られちゃったんだから・・・。
 でも、せっかく出した浩ちゃんのを、何だか無駄にしちゃってる
 感じだよね」

「それは、別にそう思うこともないだろ」

その後は、ゆっくりと浴槽で温まり、身支度をし、精算をして家路に
ついた。
浩平の家への途中で夕食の買い物をし、彩の両親が帰宅する前に、
夕餉の準備をした。
その夜は、初めて浩平の部屋に泊てもらった彩だった。
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