12月29

ある特殊部隊の訓練風景

光ひとつ入らない真っ暗な部屋。
その中に、獲物を狙う黒い双眸が妖しく光る。

「ミッションスタート」

黒い瞳の持ち主の少女のイヤホンから指令開始の通信が流れると、
少女はネコのような柔軟な身のこなしで、音もなく暗闇に消えていく。

それから20秒もしないうちに、
ガサガサッ、と衣擦れ音がしたかと思うと、クチュッ、という湿った固体が崩れる小さな音がして、
その直後に「むぐぅぅぅ……」というくぐもった男の悲鳴が聞こえた。

まず1人。

黒い少女は、機関銃を持ったままの男の背後にぴったりとくっつき、
左手でその口を、右手で男の股間を握り締めていた。
その右手には、万力のような握力で2つとも握り潰された男の睾丸がおさまっていた。

すぐ近くで乾いた破裂音が連続で鳴り響く。別の男が音のした方角に発砲したのだ。
やみくもに斉射したマシンガンの弾は壁を削っただけだったが、
銃口から発した光は、一瞬だけタイトなつなぎを身に纏った黒髪の少女を映し出した。

再び静寂が訪れるかと思った刹那、鋭い打撃音とグシャッ! という破壊音が空を切り裂く。
さきほど発砲した男の股間に、少女の小さな靴の先端がめりこんでいた。
崩れ落ちようとした男の肩に小さな手がかけられ、
無理矢理引き起こされたかと思うと、
バスッ、バスッと2度、小さな音があたりに響く。もっと近くでその音を聞いていれば、
グチュッ、グチュッ、という男のシンボルが少女の膝で蹴り潰された音が聞こえただろう。

睾丸を蹴り潰された男は、その直前に去勢された男の上に
覆いかぶさるようにして気を失った。

これで2人。

それからしばらく、周囲に静寂が訪れる。
敵も自分の位置を知られないように息を潜めているのだろう。

その沈黙を破ったのは、男の怒声だった。

「おおおおおっ!」

パン! パン! パン! パン!

自らを鼓舞するようなその声とともに、銃声が室内にこだまする。
その音がしたところに、少女と男がもつれ合うような格好でいた。
男の右手は少女によりひねりあげられ、銃口は自らの股間を向いたまま、硝煙を立ち昇らせている。
ぐったりと倒れた男の股間に、少女の手があてられる。
穴の開いたズボンは血の感触でぬるりとしていた。
ギュッと手を押し付けてみるが、そこには何もなく、砕けた恥骨のガリッとした感触があっただけだ。
自らの銃弾により、男ならそこに必ずあるべき器官は跡形もなく吹き飛ばされていた。

3人目。

身をかがめてその状況を確かめていた少女の背後から、突如男が覆いかぶさり、ひとかたまりに絡み合う。
ゴロゴロと地面を何度か転がったかと思うと、シャッ、シャッ、シャッ! と無機質な音がする。
それに合わせて、悲痛な低い悲鳴が室内にこだまする。
やがてくみついたかたまりは離れ、黒い影がひとつだけ立ち上がる。
小柄な人影のその手には、血で濡れた黒塗りの軍用ナイフが握られていた。

足元に転がる気絶した男の足の付け根のあたりに血だまりができる。
闇の中で後ろから捕まれた少女は、太股に忍ばせておいたナイフを抜いて、
男のもっとも繊細な箇所を何度も切り刻んだのだ。
冷たく鋭いダマスカス鋼の塊が、幾度となく男の柔らかい部分を往復し、
その結果ペニスも睾丸も身体についたまま千切りにされてしまった。

4人目……ちょっと手間取った。

少女は血塗られたナイフの先端をペロリと舐めて、こびりついていた男の睾丸の切れ端を口にする。
不意に、少女の顔が厳しい戦士の顔から、年齢どおりの少女の顔に戻る。

あ……これおいしい。

サバイバル適性を高めるため、虫や泥ばかりを食している少女にとって、
動物の生肉はたまらないごちそうだった。
コリコリとした白膜の食感とレバーのような精巣の味をもっと味わうため、
少女はしばし、その場を離れることを忘れて男の股間に手を伸ばしては、
辛うじて肉体から離れていなかった睾丸の小片をむしり取り、口に運んでいた。
3つ目の小片に手をかけたとき、不意に少し離れたところから男のかすれた声が聞こえた。

「や……やったのか?」

少女は指をかけていた睾丸を力任せに引き千切り、
声のした方へと投げつける。睾丸の残骸が壁に叩きつけられ、ベチャッと音を立てて潰れる。

「ひっ……!」

近くでした奇妙な音に、男がひるんだ一瞬、少女の影は男だったものの側から消えていた。
間近で敵を見失ってしまった男は、次は自分が殺られると悟りパニックになった。

「ひいぃっ……! も、もういい! 投降する! 俺は投降する!
だから……もうやめてくれ……っっ!?」

マシンガンを捨て、暗闇にしりもちをついて命乞いする男の声が急に止まる。
男は何者かに髪をガシッとつかまれて息を呑んだのだ。

「た、たのむっ! 自由なんかいらない!
組織のこともなんでも話す! だから……だからやめて……」

泣きながら命乞いをする男は、そこではじめて目の前にいる自分たちの敵を見て目を見張った。
黒いボディスーツに身を包み、長めの黒髪の間から
白い肌と肉食動物のように光る黒い目だけを覗かせた化け物。
……いや、それはあどけなさの残る十代の少女だった。

「へ……へへ……なんだ、女じゃねえか。しかもガキの……」

それが、この男が男として最後に放った言葉だった。
少女の瞳が微笑むように少し細められたかと思うと、軍用ブーツの堅いソールが何かを探すように男の股間をまさぐる。

……あった。これで終わり。

少女の体が揺れ、男の2つの玉の上に全体重がかけられる。
グジュリ、という鈍い音と、耳障りな男の断末魔とともに、男は去勢されて気絶した。

「……よし、訓練終了だ。背後を取られたのと交戦後にすぐ移動しなかったのは減点だぞ」

イヤホンから、女の声が聞こえると、それに答えるでもなく少女は踵を返し、何事もなかったかのように出口へと向かう。

「……うわぁ。すごいですねえ。男の人ってその……アレを潰されるとひとたまりもないんですね」

モニター室の新人オペレーターの女性は、驚きの表情のまま少女を映し出すカメラの映像をいまも見つめていた。

「ああ。殺さずに最低限の攻撃で完全に無力化できる便利な急所だ」

士官服に身を包んだ眼鏡の麗人が、手にした細い煙草の紫煙をくゆらせながらオペレーターに語る。

「男性としても無力化ですね。あはは」

「下品な表現はするものではないぞ」

「あ、はい、すみません」

「では今回の訓練のレポートを頼むぞ。全ターゲットの攻撃目標部位を冷蔵サンプルにして添えて今日中に提出を」

「はい! ……って、あの、ひとつ質問ですけど、攻撃目標部位は男性器とありますが、
おち……ペニスもすべてサンプルとして提出するのですか?」

「そうだ」

「ターゲットA、C、Dのペニスは健在ですが……」

「それを判断するのは我々だ。飛んだ肉片も潰れたタマも吹き無事なチンポもすべて切り落として持って来い」

「あ……はい! 了解しました!」

「まあそんなにビビるんじゃない。私も以前やったことがあるが、あれは存外楽しいぞ。
ナイフを伝うグミを刻むような柔らかい感触もそうだが、歴史上崇拝の対象にもなった男性のシンボルが、
ちっぽけでグニャグニャした肉塊として切り離され、自分の手の中に納まっていると思うと滑稽でな」

士官服の麗人は、それだけ言い残してモニター室から去っていった。

「どっちが下品なんだか……でも、グロいけど確かにちょっと面白そうよね。
ここにいないと男の人のおチンチンを切り取るなんて体験できるもんじゃないし。
早くレポート終わらせてチョン切っってみよっと!」

オペレーターの女は指令に毒づきつつ、今回の報告を綴るために意気込んでパソコンに向かった。

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