02月11

リストラ代妻(2)


つづき

妻は33歳
そこそこ年齢はいってるが容姿には自信があったのだと思う
特別慌てた様子も緊張した様子もまったくなく
パートでレジ打ちやってるスーパーから帰宅後
雑誌片手に気楽に電話し始めた
しかし何度か電話を掛けるうちに自信満々だった妻の表情が曇っていくのが分かった
求人情報を探してPCに貼りついてる妻の背中を俺はぼんやり眺めるしかできなかった

そんなことが1週間ほど続いて妻から無事に夜の仕事が決まったと報告を受けた
普通のフロアレディだという
33歳未経験
採用されたことは凄いが慣れない仕事をするのは非常に辛いのではないかと心配する俺に
「お酒飲んで馬鹿話してればお金がもらえる楽な仕事よ」と強がりを言う妻がいじらしかった
その翌日から妻は16時にスーパーから帰宅するとすぐに夕食の準備をして夜の仕事へ出かけるようになった
夜の仕事が妻を変えてしまうのではないかと
とても心配だった
しかし1週間が過ぎ2週間が過ぎても妻はいつもどうりの清楚で凛とした妻だった

ある晩
目が覚めてトイレへ行くと娘の部屋に薄明かりが点いていた
何気なく部屋の中を覗いてみると
そこに妻が居た
危うく声を出しそうになった
妻は泣いていた
娘の手を握りながら泣いていた
貯金は底をつき家のローンもある
夜の仕事が辛くても辞められないのだろう 
この時俺は1日も早く仕事を探そうと心に誓った

翌日から俺はプライドを捨て親類や友人などに頭を下げ
伝手を頼ることにした
今まで馬鹿にしていたハロワにも行くことにした
しかし死に物狂いで1か月頑張ったが求職活動は全くうまくいかなかった
俺がもたもたしているうちに
いつも活き活きしていた妻の表情は曇り
空元気だけが目立つようになっていった
プライドでは飯は食えない家族も守れない
思いきって学生時代の知人に連絡をすることにした

田近佳一
親から事業を引き継ぎ不動産や貸しビルなど手広くやっている男
俺はこの男に連絡した
予想に反してあっさりアポイントが取れた 
約束の時間に訪ねていくと
秘書が出てきて急な用事で田近は外出したと封筒を差し出してきた 
封筒の中身は会社案内で
その会社を応募してみろということだった
その会社は上場こそしていないが今流行りのエコ関連ビジネスで財務内容もしっかりしていた
俺は田近に感謝しながらその会社にすぐに連絡した
電話をすると社長が直接面接してくれるという話になって翌日面接に行った
社長は45歳だと言っていたが年齢よりも若く見える男だった
簡単な自己紹介から大塚○会での営業実績や苦労話などを語ると頷きながら真剣に聞いてくれた
そして帰り際に年収は前職と同じで前向きに話を進めると採用を匂わされた
会社を出てすぐに俺はお礼を言いたくて田近に連絡した
忙しいだろうからいいよと断ったが田近が会いたいというので会社にお邪魔した
久々に会う田近は学生時代と変わりない不敵な笑みを浮かべていた

「仕事決まりそうで良かったな」
「お前のおかげだよ、ありがとう。本当にありがとう。」
「いや、いいよ。それより菜緒ちゃんに夜の仕事は辞めさせてやれよ。」
これを聞いた瞬間に俺は頭をハンマーで殴られたかのような衝撃を受けた
「な、なんで知って・・」
「当然だろ。菜緒ちゃんに店紹介したの俺なんだから。」
「え?本当なのか?」
「本当だよ。いくら仕事を探しても、まともな店は年齢言っただけで門前払いされると相談されてね。昔のよしみで紹介した。」

その後
何をどう話したか覚えていない
ただ1枚の名刺が掌に握られていた
私の妻 
菜緒の名刺だ 
源氏名も菜緒のままだった
「一度、菜緒ちゃんに気づかれないように様子を見に行ったらいいよ。一見じゃ入れないから店に話を通しといてやる。」
田近の言葉を思い出しながら俺は名刺を握り締めた

夜になって店へ行くとママと思われる人が応対してくれた
既に田近から話を聞いているらしくフロアの死角となる一角に案内してくれた
俺はキョロキョロしながら妻を探した
「真面目でウブな所が良いって、かなり人気あるのよ」
俺はママと思われる人が視線を向ける先を目で追った

そこに妻が居た
男二人に挟まれて座っていた
細い肩紐だけのワンピース姿で剥き出しの肩を抱かれていた
男の手が太ももの上に置かれる度に顔をしかめながら
愛想笑いを絶やさず必死にがんばっていた

俺は見ていられなくなって視線を逸らせた
何気なく隣のテーブルを見た
思わず目を見張った
隣のテーブルでは20代と思われる女性が胸を半分出したような服を着て
男に首筋を吸われていたのだ

「こ、この店はいったい・・」
「ご覧の通り、多少のお触り有りのバーですよ」
「多少って・・」
「お客様と女の子の交渉次第ね」
唖然とした
妻がこんなところで働いていたなんて

「仕方ないんじゃないの?菜緒ちゃん年も年だし借金もあるんでしょ?」
「借金って?住宅ローン?」
「違うわよ? 前の店がちょっと問題のある店だったみたいね。これ以上は私からは言えないけど。」
「え?前の店って、この店いつから働いてます?」
「2週間ちょっとかな?」
俺は驚いた
妻は少なくても1か月は夜の仕事をしているはずだった
何か問題があって最初の店を辞めたのか
借金まで作って・・・
それで仕方なく田近に紹介してもらいこの店で働いてるというのか

突然
妻の席が盛り上がった
妻と二人の男が立ち上がっていた
「社長さんの登場よ」
え?!
社長だった
俺が面接してもらった社長だった
あの社長が二人の男に促されるようにして妻の隣に座った

社長は妻から水割りを受け取ると妻の耳元で何か囁いた
妻はそれを聞くとすぐに社長の方へ顔を向けて頭を下げた
社長がまた妻に何か囁いた
「そろそろ帰った方が良いんじゃないの?」
ママと思われる人の言葉と同時に妻がコクリと頷くのが見えた

俺は我が目を疑った
あの社長が妻の胸を揉んでいた
妻は手をだらんと横に垂らしたまま嫌がりもせずに好きにさせていた
俺は身動きも取れず息を飲むことしかできなかった

胸を揉まれながら
妻はバンザイをするように両腕を頭上にあげた
その瞬間「お?!すげぇ?」という下卑た声が聞こえてきたような気がした
遠目にも妻が顔を赤らめているのが判別できた
学生時代から付き合っているのに妻のこんな表情を見たのは初めてだった

部下と思われる二人の男が拍手をすると
社長は妻の腋の下に顔を寄せていった
「あれ社長の趣味よ。あれって女は一番恥ずかしいのよね。」

俺は耐えられなくなって止めさせようと腰を浮かせた
するとママと思われる女が太ももに手を置いてきた
「やめときなさいよ。菜緒ちゃん、今まで1度だってあんなことさせたことないのよ。
 いったい誰のために、あんなこと許してると思ってるのよ。」
お、俺のためか・・・
「悪いこと言わないから、今日は、もう帰りなさい。」
どうにもできないのか悔しくて気が変になりそうだった

俺はママと思われる人に促されるように席を立ち店を出ようとした
最後に妻の席を振り返ると
場はいっそう盛り上がっていた
隣のテーブルの客までもが歓声をあげているようだった
妻のワンピースのチャックが
社長によっに徐々に下ろされていった
それでも妻は両腕を頭上にあげたままだった

「心配しなくて大丈夫よ。この店は本番は絶対ないから。あのワンピースも横のチャック外しただけでは脱げないから。」

俺は「はい」と元気なく頷くだけしかできなかった

「元気だして!絶対大丈夫だから!あの田近社長だって
 まだ脱がしてないのよ。高橋社長が先にやるわけないから。」

「え?田近もよく来ているのですか?」

ママと思われる女は一瞬しまったという表情をした
「決まってるじゃないの。誰がオーナーだと思ってるの。
 菜緒ちゃんが働くようになってから、より頻繁に顔を出すようになったわね。
 学生時代のご友人達もよくいらっしゃいますよ。」

俺は言葉を失った
菜緒は
俺の妻は学生時代の仲間達にも
あのような醜態を晒していたのか

(つづく)

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