05月27

探偵事務所

 私の勤め先は表向き探偵事務所となっている。所長を筆頭に女性しかおらず、仕事は三十台から四十台の女性から依頼される浮気調査や蒸発した夫の捜索が殆どだった。しかしそれだけでは収入が少なく、試行錯誤して仕事を増やそうとした。陰陽ブームに乗ってお祓いの真似事もしてみたが、上手くいかなかった。苦しくなった私達はある仕事を始めた、声高に宣伝できないのがもどかしいが、最近では人伝に噂が広がり月に決して少なくない数の仕事をこなしている。その仕事の内容から、私達は去勢屋と呼ばれるようになった。

「大丈夫ですよ。男性は臆病なくせにプライドの高い生き物です。特に女好きの人は自分が男であることにとても自信を持っています。そう言う人は、男という拠り所を無くすと情けないくらい無力になるのです。我々がこの仕事を始めて今まで揉め事にならなかったのは、そう言った男のプライドを逆手にとっているからでもあるのです」
 所長の言葉はゆっくりであり淑やかで相手を包み込む力があった。今回のクライアントは四十二歳の女性で、痩せた首と細い鎖骨が印象的なおとなしそうな人だった。
「でも、あの、本当にそんなことをして大丈夫でしょうか?」
「ええ。万が一ご主人が訴えようとしても、奥様にご迷惑がかかるようなことには絶対になりません。実際奥様が手を下すわけではありませんし、我々のエージェントがその責任をしっかりと取らせていただきます。ただ非合法のサービスですから、お金はご存知の通り高めです。前金として半分頂きますし、領収書や記録も一切お渡しできません。あくまでこの場限りの奥様と私達の口約束だけで行われます」
 半額だけでも何百万円という大金だ。こう言って信用されなければ、無理に引き止めることもしない。この方法はクライアントを守るためでもあるのだから。
 仕事が始まれば、私達エージェントと対象者の一騎打ち。それ以外の人間は関係ない。
 中年女性は「どうか宜しくお願いします」と言って、現金の入った封筒をバックから出した。
 彼女の旦那は上場企業の課長でしっかりとした社会的地位を持っていた。子供も二人いて、長男はもうすぐ中学生だそうだ。子供が小さいうちは優しかった旦那も、最近になって冷たくなり、暴力も振るうようになったと言う。そんな旦那に女がいると気づいたのは半年も前のことだそうだ。
 クライアントは自分のことよりも感受性が豊かな時期である子供の成長を気にしてここに来た。両親が不仲になり、しかも父親に女ができていると知った思春期の子供がどうなるか、どんな母親でも心配だろう。
 自分の夫を去勢してしまおうと考えるぐらいだから、嫉妬や恨みと言った心もどこかであったのかもしれない。だけどそういった事情は私達には関係ない。私達はただ仕事をこなすだけ。男を女に従属する生き物に変える。このクライアントに一生頭が上がらないよう身も心も完全に改造するのが私達の使命だ。
「ミクちゃんが担当です。極力自重させておりますが、少しの間、旦那さんと関係をもつこともご了承ください。ただ最終的に旦那様は奥様しか頼る女性がいなくなりますので、その時は優しくお迎えになってください」
「こんな綺麗な方だと、嫉妬も沸きません。モデルさんのよう」
「よろしくお願いします。と言ってもこれっきりお会いすることは無いとおもいますけどね」
 私はそう言って笑いかけた。

 今回の仕事は簡単な部類に入った。典型的なサラリーマンで生活スタイルも読みやすい。彼が付き合っていた女性と言うのもキャバクラ勤めの女の子だった。私は先ずその子と同じ店に入り彼女から男の性癖などを探った。男はほぼ毎日お店に顔を出し、その子を指名したが、指名される側はしつこい客にうんざりしていた。管理職と言っても羽振りの悪いサラリーマン。そんな人に毎日べったりされては彼女も迷惑だっただろう。
 私が彼女の代わりに同席するようになると、男はころっと私に乗り換えた。
 ホテルへ行き何度かセックスする。
 たいていの男はペニスを咥えさせることで女を支配しているような気分になるらしい。彼もそれに漏れなく、私の頭を抱えてペニスを喉の奥に押し込んできた。
「出してやるぞ。飲みこむんだ」
 遂にはそんなことも言い出す。好きな体位もバックで精力的に私のことを後ろから突き犯した。
 セックスを重ね男の責め方を覚える。先ず口につっこまれて精液を飲まされる。それから指でねっちこく股間を責められ、私が感じてくるとバックで挿入しそのままフィニッシュすると言ったパターンだった。
 そろそろお互いの体にも慣れてきたし、男の方も同じセックスに飽きてきたころを見計らい私は仕事に移ることにした。
 いつものように口淫からスタートした彼だったが、私は彼が射精しそうになったとろこで、睾丸をぎゅっと掴み顎を引いて亀頭をあま噛みしてやった。
 男は「うっ……」と言って固まる。
「まだダメ。今日は私が出したげる」
 そう言って私は男をベットに倒すと男の股間に馬乗りになった。腰を沈めると陰茎が子宮を突くのが分かる。もどかしい所までしか達しない男本位の責めより、こっちのほうが気持ち良い。ぎゅっぎゅっと締め付けると、男は気持ちよさそうにうんうんと呻いた。
 すぐにイカせてはダメだ。私は睾丸を掴んで少し力を入れて手の中で転がす。男は苦しそうに悶えた。男の両手を掴み枕の上へ押し付けて、万歳の格好させる。そして乳首へ舌を這わして舐めまわす。吸ったり噛んだりを繰り返しならが、男のペニス咥えこんだ腰をグラインドさせた。すると男は「あううっ」と情けない声を出しながら射精した。
 それから私は男のペニスを口に含み再度勃起させ、手と口を使って二度目の射精をさせる。その夜、何度も射精をさせた男はふらふらになって帰っていった。
 思いっきり責めた次の日に、『次に会うまで“だしちゃ”ダメだよ』とメールを打った。こうやってセックスの主導権は私に移った。
 男は私とのセックス以外射精しなくなった。三日に一度はホテルでセックスをせがまれるようなったが、もう彼の思う通りにさせない。男もされるほうに興奮し、私と会うだけでペニスを固くするようになった。
 次に私は徐々に彼と会う間隔をあけて行った。三日から五日、そして一週間へ。ただその分、会った時はしつこく責めて何度も射精させてあげた。
 クライアントとの約束は三ヶ月で去勢すること。私は最後のステップへと移る。
 一週間ぶりに会った男の股間はすでに大きくなっていた。
「ふふ。みっともないよ? いい大人がこんな街中で勃起しちゃ」
 エスプレッソメーカーが放つコーヒーの香りが漂う店内。夜十一時近いというのに席の七割が埋まっている。私は彼を窓際のカウンター席に座らせ、横から股間の上に手を置いた。
「ミクちゃん。早く行こうよ」
 男が甘えた声を出す。
 私は大きく盛り上がった股間のファスナーに手をかけた。
「ちょ、ちょっと」
 男が慌てて私の手首を掴んだ。
「手をはなして。ほら、早くテーブルの上」
 犬を躾けるように彼の手を掴むとテーブルの上に置いた。
 男はスーツの上にコートを着ていたが前は開いている。店内に背を向け、窓に向かって座っているので、他の客には私達が何をしているのか分からない。同じ席も観葉植物で二人分に区切られているから、後ろから覗き込まれない限り私が彼のペニスに悪戯しているなどバレない。ただ、外からは明るい店内が丸見えだった。店は二階にあるし机の下は逆光で見辛いはず。だからと言って、外を歩く人に気づかれないというわけではない。
 男はぎゅっと股を閉じたが、勃起したペニスは抑えることはできなかった。私はチャックを下ろし、ビンビンに勃った男のペニスを取り出した。
 窓の外にはスクランブル交差点を歩くたくさんの人が見える。
「ほらビンビンのペニス。そんなにイキたいならここで出してあげる」
「だ、だめだよ。ほんとバレちゃうよ」
 ぎゅっと竿を握り扱き揚げると、透明の粘液が溢れ出た。私は親指で亀頭全体に粘液を伸ばして、カリ首から上を扱いた。
「ううっ!」
 男はびくっと体を硬直させたと同時に、膝でテーブルの下を打った。ソーサーに乗ったコーヒーカップが大きな音を立てる。
「こらっ。静かにしないとみんなにばれちゃうよ」
「や、やめて。ほんとに」
 男は情けないほど小さな声で訴えた。
「静かに静かに。ふふ、でもこんなとこで射精できないよね。もし見つかったら警察につきだされて、一生、変態あつかいだよ」
 私はそう言って一週間射精を我慢させた男のペニスを扱いた。ぬるぬると粘液を噴出するペニス。男はテーブルの上で手を握り締め、必死に射精を我慢しているようだ。私は最後まで責めないように気を配りながら、男のペニスを刺激した。
 あと一歩でイクというのが、男の反応から分かる。扱いては止め、亀頭をぎゅっぎゅっと擦っては止め。たっぷり三十分は男を責め続けた。
「悪いんだけど、今日はここまでね」
「ええ?」
「これから用事があるの。ごめんね」
「そんな、もう我慢できないよ」
「ふふ。ごめんね。じゃあ次会ったら凄いのしてあげる。だから出しちゃだめだよ。出したらもう会ってあげないんだから」
 私はペニスをビンビンに勃起させズボンまでびしょ濡れにした男を置いて店をでた。
 男は次の日から何度もメールを送ってきた。もう我慢の限界らしい。日に日にメールの数が増えていく。私は二日後に会う約束をして、それをキャンセルして三日後、さらに徐々に延ばし一週間ほど男を焦らした。
 ここまで焦らしても男は自ら慰めることはなかった。してもらう誘惑が自慰を超えてしまったのだ。こうなると男はもう一人では生きていけなくなる。まるで重度の麻薬依存者ようにセックスに侵されてしまった彼は、性の奴隷となり女に管理され続ける。そして男の唯一の拠り所はペニスだけになる。
 私は男を都内のある場所に呼び出した。そこは個人経営の総合クリニックだった。所長の伝で、手術室を使わせてもらえる。
 薄いピンク色をした白衣を着て男を出迎えると、最初はびっくりした男も「今日はコスプレでーす」と言うと嬉しそうに従った。
「じゃあ、服を脱いで診察台に上がってくださいね」
 男を婦人科から運び込んだ分娩台に乗せて、手足を縛った。もう何度かこうやって拘束していたから、彼は何の疑いも抱いていない。この椅子が男を処刑する台だということも知らずに、蛙のように股を開いた男はびんびんにペニスを勃起させている。
 男の陰毛をそり落そうとすると、最初は嫌だと抵抗した。でも、少しペニスを口に含んで「もっとほしい?」と言ってやると大人しくなった。つくづく男と言う生き物はセックスに捕らわれた哀れな生き物だと思ってしまう。
「じゃあ、お注射しますね」
 私はキャスター付きの台を転がし男の横に止めると、そこから注射器を手に取る。
 男が急に不安げな顔をして、「なんの注射なの?」と聞いてくるから「麻酔ですよ」と短く答えた。
「な、なんで麻酔なんて」
「今日は、この悪いおちんちんを取っちゃうの」
 注射針をペニスの付け根に刺しながらそう言った。
「はは・・・・・・、嘘だろ?」
「嘘じゃないよ。私ね、実は浮気する人ってだめなんだ。どう? 痛い?」
 私はペニスの皮を思いっきりつねった。反応は無い。
「じょ、冗談じゃない! やめろ!」
 男は暴れたがもう逃げ道はない。この椅子から降りるときは、彼の股間にペニスは無いのだ。
「これに懲りたらもう浮気なんてしないでね。あは、おちんちんが無きゃできないかな?」
 私はペンチのような器具に太く小さな輪ゴムを装着する。グリップを握ると、輪ゴムが広がる仕組みだ。開いた輪ゴムをペニスに通し、根元に嵌める。強力な輪ゴムが男のペニスを絞り上げた。
「痛くないでしょ?」
「や、やめてくれ」
 男の声は震えていた。
「ちゃんと少しは残してあげるよ。そうね1センチくらいかな。ふふふ。そんな粗チンじゃ誰も相手にしてくれないだろね」
「なんでだ! なんでこんな……」
「言ったでしょ。浮気する人が嫌いなの。こんなおっきくして、溜まってるみたいだから、ちゃんと奥さんに処理してもらいなさい。こうやってアナルを刺激すると射精はできるらしいじゃない?」
 私はゴム手袋をすると男の肛門に人差し指をつっこんだ。そしてお腹に向かって摩り上げる。コリコリとしたでっぱりを見つけ重点的に指で摩った。前立腺という射精を促す器官。男のそれは我慢を重ねたせいかパンパンに張っている感じがした。
「あううっ! あひぃ」
 男が情けない声でなく。
「わかった? あなたはこれからお尻でしかイケない体になるのよ」
 私は男の肛門から指を抜くと、シガーカッターのような丸い穴が開いた金属板を手に取った。勃起したペニスを根元で縛り上げているせいで、ペニスは一段と大きくなっていた。そんなペニスの頭をカッターの穴に通す。
 私はこの瞬間が好きだ。
 つるつるの股間にグロテスクに伸びた陰茎。こう見ると本当に余分なものがくっついているように見える。こんな十数センチの肉棒がなんでそんなに大事なのだろう。こんなものがあるから、男はセックスに溺れてしまうのかもしれない。
「じゃあお別れしてくださいね」
「やめっ! あがっぁあああ!!」
 男の悲壮な顔をよそに私は指に力を込めた。ギロチンは少ない抵抗と共に男のペニスを切り落とした。いくら麻酔をしているとはいえ、さすがに痛いのだろう。男は苦しそうに開いた脚を痙攣させた。
 止血や尿道の確保をする。複雑な器官ではないので、二三日で血も止まるはずだ。ちょうど明日から三連休。仕事もそれほど休むことは無く出社できるだろう。
 私は止血を済ませると、玉だけになった股間の写真を彼の携帯で撮り、奥さんへメールした。つるつるの股間に陰嚢だけある姿は可愛らしくもある。
「浮気相手にペニスを切られましたってちゃんと奥さんに報告しといてあげたからね。ふふふ」
 私はさらに、一部始終を隠し撮ったビデオや写真を見せ、男が訴えようとすれば実名入りでマスコミやインターネットに公開すると脅しておいた。これは念のため。大抵ここまでセックスに溺れた男がその拠り所を無くせば、抜け殻の様になってしまう。後は奥さんが優しく向かい入れてあげれば男は自然と彼女のモノとなる。
 今回の仕事は、彼を家の前まで送り届けて終わった。
 少し可哀想なのは、彼が射精できるのは当分先のことだろうということ。もしかしたら一生できないかもしれない。
 あの奥さんではお尻で彼を射精させることはできないだろうし、子供のいる家庭で、アナルオナニーに勤しむのは勇気が要りそうだ。それにお尻であろうと彼はオナニーじゃもの足りないだろう。私がそう躾けてしまった。ペニスの無い股間で風俗に行くことはできないだろう。
 睾丸を残してるから性欲は収まらないし、あれだけ射精を我慢させたから直ぐにでもオナニーしたくて堪らなくなるだろう。
 そのことを所長に言ったら、彼女は「最後くらい出してあげても良かったんじゃない?」と言って笑った。
 私は「やっぱり?」と言って笑った。
 でも私の場合、ほとんどは射精させてあげない。時間が許す限り焦らして焦らして爆発寸前のペニスを切るのが好きなのだ。

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