麻由香は、夫に抱いてもらえない欲求不満を”大人のおもちゃ”という、はしたないまがい物の淫棒で解消した。それは、夫しか知らない麻由香にとって、セックスへの固定概念を覆されてしまうほどの衝撃的なものだった。
それがもたらすあまりの快感に、麻由香は夫への罪悪感を覚えるほどだった。そして、純真で貞操観念の強い麻由香は、そのまがい物の淫棒を包丁で輪切りにして処分した。
麻由香は、晴れ晴れとした表情で夕食の準備を始めていた。まがい物の淫棒とはいえ、それにより欲求不満をある程度解消された麻由香は、今まで何をクヨクヨ悩んでいたのだろう? と思うほどに気持ちがリフレッシュされていた。
(今日は、私の方から抱いてもらおう。私が襲っちゃえば良いんだわ)
麻由香は、そんな風にある意味で開き直るように考えることが出来るようになっていた。
(あんなはしたないおもちゃでも、役に立ったわね)
麻由香は、キッチンの隅に置かれたビニールを見て笑った。あの中には、無惨に輪切りにされたまがい物の淫棒が収っている。もし、誰かが袋を開けたら、一瞬猟奇事件か? と、勘違いするかもしれない。
麻由香は鼻歌を歌いながら、楽しそうに夕食の下ごしらえを終えると、着替えを始めた。
(もっと、浩介さんに興奮してもらわないと)
麻由香はニコニコと楽しそうに笑いながら服を脱いでいった。
誰もいない寝室で、思い切り良く全裸になる麻由香。うなじが隠れる程度の艶やかな黒髪に、真っ白な肌。ソフトボールのように大きな胸は磁器のように真っ白で、35歳という年齢も、Eカップを超えるサイズもものともせずに、つんと上を向き重力にあらがっている。
出産と子育てを経験し、少し色づいてしまった乳輪と乳首は、それでもまだ濃いめの桜色をしている。
くびれの見えるウェストは、若い頃と比べて肉付きがよくなってしまい、麻由香はあまり好きではない。でも、男が見たら誰もが抱きたくなる、抱き心地のよさそうな柔らかな曲線を描いている。
そして、モデルと見まごうばかりの伸びやかに優美な曲線を描く脚。麻由香の身体は、そのすべてが男に愛でられるために造られたようだ。
麻由香と一夜を共に出来た男は、誰もが自らの幸運を神に感謝するはずだ。それなのに、夫はもう半年近くも麻由香を抱いていない。自ら会社を経営しているので、忙しい……。それは、言い訳にもならないはずだ。
麻由香は、自分が飽きられてしまったのではないかと心配する日々だった。昨日までは、その美しい顔に憂いの影をまとわりつかせ、気持ちが沈み込む日々だった。しかし麻由香は、まがい物相手とはいえ性欲を解消することが出来たことで、気持ちを切り替える事が出来た。今日こそは、自分から抱いてもらおう。自分から襲いかかってでも……。そんな気持になっていた。
麻由香は、クローゼットの奥に隠してあった薄いボルドーのショーツを身につけた。それは後ろはTバックで、フロントもかろうじてへアが隠れるほどの面積しかないセクシーなものだ。麻由香はそれを穿き、夫を誘惑しようと思い購入した。しかし、購入してもう4ヶ月以上経つのに、一度も穿いたことがなかった。夫にはしたない女と思われるのが怖くて、どうしても勇気が持てなかった。
いま初めてそれを身につけ、麻由香はドキドキしていた。生まれて初めて穿くTバックは、とても心許なく、なにも穿いてないように思えてしまう。そして、上まで引き上げても、微妙にへアがはみ出てしまうフロント。
(はしたないって、嫌われちゃうかしら……)
鏡に映る自分の姿を見て、一瞬ためらいを見せる麻由香。でも、首を左右に振り、ためらいを振りほどく。そして、はみ出ている部分のへアを、安全カミソリで処理をした。
夫に抱いてもらいたい……。たったそれだけのことに、ここまで一生懸命になり、心砕く麻由香。世の夫達が聞いたら、浩介に嫉妬するはずだ。
結婚して長い年月が経つと、夫が妻を抱こうとして妻に拒否されるケースの方が、逆よりも圧倒的に多い。そんな不満を抱える世の夫達は、もし麻由香が自分の妻ならば、喜んで毎日でも抱くことだろう。
そして麻由香は、白の清楚な感じのするブラウスを着始めた。ブラジャーを付けることなく素肌の上に直接ブラウスを着て、上の方はボタンを留めず、胸の谷間がはっきりと見えるようにしている。
ブラウスを盛り上げる二つの柔らかな曲線。その頂点には、はっきりと蕾の形が浮き出ている。麻由香は、これまでもブラジャーを身につけずに服を着て、夫を刺激しようとしたことが何度もあったが、ニットや厚手の服だったので、夫に気がついてもらえなかったフシがある。
ノーブラでこんなに薄い生地の服を着るのは、羞恥心が強く貞操観念の高い麻由香にとって、勇気のいる冒険だった。
(こんなに……。丸見えだわ……)
ほんのりと頬を桜色に染めながら、麻由香は鏡を見ていた。
(こんなの、はしたない……。まるっきり、淫乱みたい……)
身体をひねり、角度を変えながら鏡を見るが、どの角度から見ても胸の谷間はえげつないほど見えているし、ブラウスに浮いた蕾は、細部の形もわかるほどだった。
普段の麻由香ならば、鏡の中の自分の姿を見て思いとどまるはずだ。だが、不本意な形であっても、先ほど欲求不満の解消が出来た麻由香は、多少大胆になっていた。はしたないと思われるのもいとわず、夫にあからさまなまでに迫ろうと決めていた。
そして最後に、麻由香は膝上10cm程度のスカートをはいた。夫を誘惑するつもりにしては、中途半端な丈のスカートで、ミニスカートと言うよりはショートスカートという程度の丈だ。だが、このスカートには秘密があった。秘密というか、単に麻由香が買って失敗しただけの話なのだが、この純白のスカートはとにかく透けてしまう。
ふわっとした軽そうな生地のそのスカートは、部屋の照明程度でも、下着の色と形がはっきりとわかってしまうほどだ。
麻由香は、それをネットの通信販売で購入した。まさかこんなに透けるとは、麻由香は夢にも思っていなかった。商品が届き、それを穿いてみて麻由香は本当に驚いた。あまりの透け具合に、中の生地がないのかと思ってしまうほどだった。
普通ならば、そんな状況であれば返品をするはずだ。しかし、性格的にそれが出来ない麻由香は、タンスの肥やしにしてしまいこんだ。まさかそれが役に立つ時が来るとは、麻由香は夢にも思っていなかった。
鏡を見て、麻由香は顔を真っ赤にしていた。
(やりすぎかしら?)
麻由香のその姿は、痴女もののアダルトビデオ女優のようだった。もちろん、麻由香はアダルトビデオを見たことはないので、その自覚もない。
すると、玄関でガチャガチャとカギを開ける音がした。麻由香は、夫が帰ってきたことが本当に嬉しく、花が咲いたような笑顔になると、小躍りしながら玄関に急いだ。
ドアが開いていき、まだ夫の姿も見えていないのに、
『あなたっ、お帰りなさいっ!』
と、本当に嬉しそうな声で言った。麻由香に犬のような尻尾があれば、ブンブンと残像が残るほど激しく振っていることだろう。
そしてドアが開き、
「ただいま。お客さんいるけど、大丈夫かな?」
と、夫が申し訳なさそうに言う。その言葉と同時に夫の姿が見え、そのすぐ後ろに見覚えのある顔が見えた。それは、夫の友人の白井幸雄だった。
幸雄は夫の浩介と高校時代からの親友で、これまでも何度か家に遊びに来たこともある。浩介は背も高くガッシリした体格で、とにかく体を動かすことが好きなタイプだ。そのおかげで、40歳を越えた身でありながら無駄な肉も付いておらず、とても若々しい見た目を保っている。
そして、眼鏡が似合う温和な顔には、いつも笑顔が浮かんでいるような優しい男というイメージだ。
麻由香は、幸雄に対して好感を持っていた。話題も豊富で、何よりも聞き上手な彼との会話は、普段、夫や息子以外の人間とあまり会話をすることのない彼女にとって、本当に楽しいものだった。
いつもは家に誰かを連れてくる時は、夫は必ず連絡をくれる。こんな風に、いきなり連れてきたことは初めてだ。麻由香は幸雄の来訪を喜ぶと共に、少し戸惑っていた。
「ゴメンね、いきなり。ホント、すぐそこでバッタリ会ったもんだから……」
幸雄は、申し訳なさそうだ。そしてその後ろでは、幸雄がゴメンねという顔とジェスチャーをしている。
『大丈夫ですよ! お食事も、余分ありますから! どうぞどうぞ、上がって下さい!』
麻由香はスリッパを下駄箱から取り出し、床に並べる。
「ゴメンね」
夫はもう一度謝ると、家に上がる。
「お邪魔します。麻由ちゃん久しぶり!」
幸雄は、笑顔でスリッパを履いた。
麻由香は二人を先導するように歩き、自分はキッチンに入る。
『テーブルの、先に食べてて下さいね!』
麻由香は、キッチンから声をかける。そして、冷蔵庫からビールを取り出すと、二人が座った食卓に向かう。そして、二人にビールをつぎ始める。
『今日もお疲れ様でした!』
麻由香は、本当に良い笑顔で夫に言う。麻由香は、夫のことが今でも大好きだ。夫のために何かをすることが無上の喜びだったし、夫が望むことならば、どんなことでもしてあげたいと思っている。
そして、幸雄にもビールを注ぐ。
『今日は、どうしたんですか? どこか行ってたんですか?』
幸雄の家は、このあたりではない。麻由香は、なぜこんなところにいたのだろうと、疑問を口にした。
「すぐそこにボルダリングジムが出来たでしょ? そこ覗きに行ってたんだ」
幸雄は、いつもの優しい笑みを浮かべたまま説明をする。麻由香は、幸雄が独身ということをいつも不思議に思う。モテないはずがないと思うからだ。事実、幸雄は女性に人気がある。職場でも、誘われたりすることも多い。でも幸雄は、そういうのが苦手なタイプだ。ゲイというわけではないが、男友達と遊んでいる方が楽しいと思うタイプだ。
『ぼるだりんぐ?』
初めて耳にする単語に、麻由香は子供みたいな口調で聞き返した。
「あ、えっとね、クライミングってヤツ。ほら、カラフルな出っ張り掴みながら、どんどん上に登ってくヤツ」
幸雄は、かみ砕いて説明をする。それを聞いて、やっと麻由香は理解した。そして、もう少し話を聞いて驚いた。そのボルダリングジムは、麻由香の家のすぐ二つ隣のブロックにあるそうだ。歩いても、10分もかからない距離だ。
麻由香は、全然知らなかった。そんなものがすぐ近所に出来たなんて、聞いたこともなかった。
「まだやってるんだ」
夫が幸雄に聞く。
「たまにね。でも、サボりっぱなしで指がダメダメになっちゃったよ」
幸雄が苦笑いをしながら言う。女性誌でも取り上げられることが多いフリークライミングは、麻由香も知っていたし、興味を持っていた。
『あれって、凄く筋肉いるんですよね?』
麻由香は、そんな疑問を質問した。
「そんな事ないよ。はしごが登れれば、全然いけるよ。麻由ちゃん興味あるの?」
幸雄が聞く。
『なんか、オシャレっぽいから興味あります』
麻由香は、すっかりと会話に引き込まれている。
「おっ! 良いねぇ〜。浩介、今度久々に一緒に行くか? 麻由ちゃんと一緒に」
幸雄が嬉しそうに言う。
「いや、俺はいいや。お前と行くとクタクタになるし。麻由香連れてってくれるか?」
夫は、笑いながら言う。負けず嫌いな夫は、幸雄と何かするとかなりムキになってしまう。クライミングは幸雄には絶対に勝てないので、そんな風に言ったのだと思う。
「別に良いよ。どうする? いつがいい?」
幸雄は、麻由香に予定を聞いてきた。
『べ、別に、私はいつでも……。浩介さんは行かないんですか?』
麻由香は、夫以外の男性と二人でどこかに行ったことはない。クライミングは行ってみたいし、幸雄のことも嫌いではない。でも、二人きりで行くのは気が引ける。
「幸雄とは時間が合わないからね。昼間はちょっと無理かな?」
幸雄はいわゆる総合商社に勤務をしているが、英語とイタリア語に堪能な彼は、勤務時間が通常とかなり違う。昼過ぎから、深夜まで働くことが多い。取引先の時間にあわせてのことだ。ネットが発達した今ならば、そんな事はしなくてもなんとかなるはずだが、独身の彼にとっては今の勤務形態の方がありがたいとさえ思っているようだ。
「じゃあ、明日にしよう。11時に迎えに来るよ」
幸雄は、サッと予定を決めた。長く商社で海外相手に取引をしているだけあり、さすがに決断が早い。
『は、はい。わかりました。格好とか、どうすればいいですか?』
麻由香は、そう言って初めて思いだした。いま自分は、凄い格好をしていることを……。みるみる顔が赤くなっていく麻由香。それもそのはずだ。麻由香はセクシーなショーツを透けさせて、その上、ブラウスの胸の部分もざっくりと開いていて谷間がこぼれそうだし、その大きく官能的な二つの膨らみの頂きには、はっきりと蕾の形が浮き出てしまっている。
「普通のトレーナーとかジャージでいいよ。靴下は忘れないようにね。そんなもんかな……。あ、そうだ、明日クライミングするなら、夕食は作れないと思った方がいいよ。前腕とか、疲れ切ってボタンもはめられなくなるから。浩介と外食の予定しときなよ」
と説明してくれた。そんな説明一つとっても、幸雄の気配りと段取りの良さが垣間見える。
「そうだな。俺もお前に初めて連れて行かれた時、お前にシャツのボタンしてもらったもんな」
懐かしそうに夫が言う。麻由香は、そんな言葉に嫉妬してしまう。麻由香の知らない夫の過去。それが、麻由香には羨ましい。男の幸雄に嫉妬するのもおかしな話だが、幸雄が麻由香の知らない夫の過去を話すたびに、色々と知れて嬉しいなと思う反面、どうしても嫉妬してしまう。
『い、今、夕食用意しますね』
麻由香は、自分の格好に羞恥で顔を赤くし、口ごもりながらキッチンに入る。
(どうしよう……。こんな格好で……。はしたないって思われちゃう……)
麻由香は、本当ならば着替えたいところだが、逆に注目されてしまうと考えエプロンを身につけた。これで、前からショーツが透けることもないし、胸も隠すことが出来た。
(これでいいわ……。でも、気がつかれちゃったかしら?)
麻由香は、不安になっていた。幸雄に、乳首やショーツを見られてしまったのでは? そう考えると、顔が赤くなるし、穴を掘って隠れたい気持になる。
麻由香は、そんなことを考えながらも、料理を運び始める。
「凄いね。急に来たのにコレって、いつもこんななの? 凄く手が込んでて美味しそう!」
幸雄は、驚嘆の声をあげる。確かにそれは、お客さんが来訪する予定のない普段の夕食にしては、明らかに豪華すぎた。もちろん、いつもこうしているわけではない。
「あれ? 今日って、何か記念日だっけ?」
夫も、少し怪訝そうに言う。
麻由香は、新しレシピを覚えたからだ等と言い訳をしながら料理を運ぶ。
料理は、よくよく見れば、レバーとか牡蠣とかニンニクが多い。いわゆる、精のつくものばかりだ。麻由香は、セクシーな格好をして誘惑するだけではなく、食べ物でも夫をムラムラさせようと考えていた。その結果が、こんな豪勢な料理に繋がっただけだった。
「美味しいね! 麻由ちゃんの手料理とか食べると、結婚もいいかもって思うよ」
幸雄は、遠慮なくバクバク食べながら麻由香を誉める。麻由香は、誉められて本当に嬉しかった。家族以外に誉めてくれるのは、宅配業者の男の子くらいだ。
『本当ですか? 嬉しいです! いっぱい食べて、ゆっくりしてって下さいね!』
麻由香は、弾けるような笑顔で言う。
(でも、あんまり遅くなっちゃったら、浩介さんに抱いてもらえないかも……。適当に切り上げなきゃ)
そして夫は、やはり美味しそうに食べてくれている。
「本当に美味いよ。いつもありがとうね」
幸雄は、夫の優しい言葉に泣きそうになる。本当に優しい夫だと思う。15年以上連れ添っても、夕食のたびに”ありがとう”と言ってくれる夫。簡単なことに思えるが、なかなか出来ることではない。
そして、幸雄の口から夫の昔話を聞きながら、楽しい食事の時間が流れていく。そして食事も終盤、酒に弱い夫は、
「15分したら起こして」
と言うと、ソファに寝そべった。そして、すぐに寝息を立て始めてしまう。麻由香はクーラーの温度を少し上げると、薄いタオルケットを夫に掛けた。
「麻由ちゃんって、本当に完璧な奥さんだね」
感心したように言う幸雄。麻由香は誉めてもらえたことで、少し浮かれていた。
『そんな事ないですよ。まだまだダメなとこばっかりです』
謙遜しながらも、麻由香は気分がよくなっていた。
「麻由ちゃんも少し飲んだら? コレ、余っちゃいそうだし」
そう言って、ビールビンを軽く持ち上げる幸雄。麻由香は、夫が好むのでビンビールを常備している。夫いわく、炭酸の感じが違うそうだ。結構な重さなので酒屋さんに配達してもらっているが、今時は珍しいのかも知れない。実際、後継者がいないのか、配達はいつもおじいさんと言ってもいいくらいの年齢の男性が持ってきてくれる。
『じゃあ、少しだけ』
麻由香はそう言うと、エプロンを外してグラスを差し出した。食事の時は、麻由香は飲まなかった。それほどアルコールが好きというわけでもないし、古風なところがある彼女は、夫の他に男性がいる前で飲むのは、あまり良くないと考えるようなところがある。
麻由香は誉められて浮かれていたので、深く考えずにエプロンを外してしまった。あわててエプロンを身につけた理由も忘れて、何の気なく……。
そして、ビールを飲み始める麻由香。二人の会話は、寝ている夫の話になる。幸雄は、本当に会話が美味いと思う。麻由香は、すっかり夢中で聞いている。
「麻由香ちゃんは不満はないの?」
幸雄にそう聞かれて、一瞬口ごもる麻由香。夫に抱いてもらえないことが頭をよぎったが、そんな事は言えるはずもなく、言葉が出なかった。
「あるんだ。なになに? 教えてよ。力になるよ〜」
少しふざけたような感じで言う幸雄。少し酔っているようだ。すっかりと酔いつぶれて寝ている夫とは違い、アルコールに強い幸雄だが、今はほろ酔いになっている。
『あ、あんまり、相手してくれないってこと……くらいかな? でも、浩介さん忙いいから……』
美しい頬を赤く染めながら、濡れたようなセクシーな唇でそんな事を言う麻由香。その瞳には、少し寂しそうな影が見える。
「それって、あっちの話?」
幸雄が、少しにやけながら聞く。
『……うん……』
ごまかそうと思った麻由香だが、アルコールのせいもあってか、それとも幸雄の話術のせいなのか、結局認めてしまった。
「マジで!? もったいない。俺なら毎日……いや、一日2回も3回もしちゃうね」
と、笑顔で言う幸雄。少し行き過ぎな下ネタにも思えるが、幸雄が言うとまったくイヤらしく聞こえないのは不思議な感じがする。よく言われることだが、セクハラも相手による……。同じ事を言っても、醜男の上司が言うとセクハラで、イケメンの上司が言うとセーフ……。幸雄も、そんな感じなのかも知れない。
『む、昔は……浩介さんもそうでしたけど……。今は息子もいるし、お仕事忙しそうだし……』
麻由香はもごもごと言う。麻由香は、少し話を盛ってしまった。昔も、浩介に一日に何度も抱かれたことはない。浩介は、一回射精するともう満足してしまうタイプだ。
「それでそんな格好なんだ。後で浩介誘惑するんでしょ?」
幸雄にそう言われて、麻由香は再び思いだした。自分がはしたない格好をしていることに……。
『あ、そ、その、着替えてきます!』
麻由香は、羞恥で耳まで真っ赤にしながら、慌てて席を立とうとした。
「いや、今さらもういいでしょ。それに、その格好の方が俺も嬉しいし」
いやらしさの欠片もない爽やかな笑顔で言われ、麻由香は再び座ってしまった。押しに弱い……。麻由香には、昔からそういうところがある。麻由香は落ち着かなかった。今の麻由香の姿は、ブラウスに乳首も浮き出ているし、ショーツも透けて色も形もわかるようになっている。
「そんな格好したら、イチコロでしょ?」
幸雄は、優しい笑みを浮かべたまま言う。でも、実際には夫に気がついてもらえない麻由香は、悲しそうに首を振った。
「そっか……。アイツ忙しいからね……。でも、本当にもったいないなぁ」
幸雄は真剣な口調で言う。その様子は、本当にもったいないと感じているようだ。
『仕方ないです……』
麻由香は、牛乳をこぼしてしまった子供のような顔で、うつむきながら言った。
「だからこんなの買ったんだ……。辛いね」
幸雄はそう言うと、紙の輪っかみたいなものをポケットから取りだした。それを見た瞬間、麻由香はキャンプファイヤーに近づきすぎて顔が焼けそうになったみたいに顔が熱くなり、貧血でも起こしたように頭がフラぁっとした。
それは、あの大人のおもちゃの包装の一部だった。商品名が書いてある部分で、幅2~3センチの紙の輪だ。麻由香は、それをはさみで切り取って捨てたはずだ。
『な、ど、どうして?』
あまりのことに、失語症にでもなったように言葉が出てこない麻由香。
「え? そこに置いてあったよ」
と、リビングのテーブルを指さす幸雄。興奮状態だった麻由香は、無意識にそこに置いてしまったのだと思う。麻由香は、うつむいたまま少し震えていた。それをネタに脅されて……。そんなことまで考えてしまう麻由香。
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