04月28

詰めが甘かったか

俺も元嫁が浮気しやがったんで、叩き出してやったぜ。

俺は当時31歳、嫁は27歳で結婚5年目だった。
嫁がまだ学生だった頃、たまたま呼ばれた合コンで出会って意気投合。
ちょっと(かなり?)飲ませてお持ち帰りしたのが初めてだった。

そのうち彼女が妊娠したんで、俺に定職がないからと渋る嫁親を説得して
何とか入籍にこぎつけたわけ。もちろん交際中も結婚後もラブラブだったぜ?
ただ彼女は流産して、その後も子供には恵まれなかったけどな。

          ☆            ☆

最初に浮気が発覚したのは俺のダチからのタレコミ。
たまたま用事で嫁が勤める会社の近くに出掛けたら、
ニヤついた男と嫁が楽しげに食事してたって、わざわざ知らせてくれたのさ。

もちろん、すぐに怒鳴りつけるほど俺も馬鹿じゃねぇ。
某掲示板の嫁監視スレで「とりあえず相手を特定して、証拠を固めろ」と
アドバイスしてもらったんで、まず嫁の入浴中に携帯をチェックしてみた。
ロックしてるのからして怪しいが、解除は造作もなかった。
履歴を見たら、俺や女友達からのメールに混じって
男からと思しき不審メールを発見したんだ。

メールは1日1?2回程度で、中身は仕事とか身の回りのことが中心だ。
ハメ撮りとか直接浮気を疑わせる内容のはなかったが、
「この間はありがとう」とか「ごちそうさま」とか怪しいのがチラホラ。
あと「あとでメールしとくね」ってのもあった。
どうやらパソコンのフリーメールでやり取りしてるらしい。

ならば次はフリーメールだってんで、隙をみて嫁のPCを探ったんだが、
いつもログアウトされてて、IDとパスワードが分からんと手が出ない。
仕方ねえから嫁の仕事中でも、とにかく時間があれば携帯に電話して
浮気してないかチェックした。さすがに仕事中は迷惑そうにしてたな。

んで何日か経って、またまた嫁が入浴中にパソコンを覗いたらビンゴ!
馬鹿女め、ログアウトし忘れてやがった。
フォルダを漁ったら、例の男とやり取りした大量のメールを発見。
とりあえずIDをメモして、メールは俺のアドレスにコピー転送した。

翌日、改めてメールを吟味する。う?ん、やっぱりハメ撮りの類はなし。
ただ、嫁と間男が昔からの知り合いだってことは分かった。
元彼かどうかまでは推理するしかないが、とにかく何年か離れてたらしい。
んで半年くらい前、嫁が仕事でよその会社と合同プロジェクトを組んだ時、
偶然その男が相手側のチームにいて再会したみたいだ。

メールは相変わらず下らねえ内容で、途中で読むのを断念した。
ジャズとか現代美術とか文芸小説とか…俺にはチンプンカンプンだし、
あとはMBA(バスケか?)がどーしたとか、ほとんど意味不明だったな。

ただ、嫁はメールで俺のことを金遣いが荒いとか愚痴ってたし、
間男も「昨日はつい君が結婚してるって忘れそうになった」とか意味深。
どっちにせよ男は、嫁が既婚者だと知った上で手を出したわけだ。
こいつは制裁してやらんとな。

証拠を押さえるため、掲示板のアドバイスで初めて興信所に依頼してみた。
うちは嫁が財務管理してたんだが、夫婦どっちも使える生活費口座があって、
俺の小遣いもそこから出してた。金を入れるのは嫁だけどな。
よくお馬さんやスロットに献上したから、少しくらい減っても怪しまれない。
興信所の費用もそこから捻出したわけだ。

とりあえず1週間見張らせたんだが、興信所の奴から
「クロっぽい。もう1週間やらせてくれ」と頼んできたんで延長した。
結局、2週間で嫁と間男が会ったのは、昼飯3回と夕飯2回。
夕飯のうち1回は映画付き、もう1回はジャズコンサートへ行ってから
夜の公園で良い雰囲気だったそうだ。

報告書には「抱き合ってキス」と書いてあったが、写真を押さえるのは失敗。
腕を組んでる写真は何枚かあったけどな。
決定的証拠はないが、興信所の担当者は「120%デキてますよ」と断言する。
さらに1週間延ばせと言ってきたが、さすがに高いので断念した。

興信所は間男の身元も割ってくれた。郊外のマンションに住む28歳独身。
外資系企業で働いてるが、肩書きはカタカナでよく分からなかった。

ともあれ、あとは自力でやるしかねえ。
決定的証拠を押さえて慰謝料請求…と思ったんだが、敵はなかなか尻尾を出さない。
嫁を締め上げて吐かすことも考えたが、
これまでも時々締めてたし口を割らせる自信がない。
だもんで、これも掲示板に知恵を付けてもらって、
しばらく泳がせて浮気の決定的瞬間に突撃&身柄確保…これしかねえ。

携帯とPCを定期チェックすること1カ月。ようやく見つけた。
「土曜日、楽しみにしてるね♪」という嫁からのメールだ。
翌日には消去されてたから、後ろめたい内容のはずだ。

現場で叩きつけてやるため、離婚届の紙をもらってきて署名&捺印。
当日、俺が尾行するわけにもいかんので、ダチにつけさせて
俺は連絡を受けながら近くで待機することにした。

前夜、探りを入れるってわけじゃないが、念のため聞いてみた。
「明日、何か予定ある?」
「えと、友達と出掛けるの。ごめんなさい」
嫁は引きつった顔でしどろもどろだ。
「そうか。俺はお馬さん行くから楽しんでおいで?」
思いっきり笑顔の俺。ついでに新婚当時の思い出話とかしてやった。
最後のチャンスっつうか、これで思い直してくれればと願ったんだが、
嫁は困ったような表情をしながら、翌朝バッチリ化粧して出掛けちまった。

          ☆            ☆

当日、警戒してかタクシーで隣町まで行って喫茶店で待ち合わせる嫁。
尾行役のダチだが、その日だけはヤンキー車じゃなく軽トラックにさせた。
ダチが現場入りして5分、ようやく携帯メールで連絡が入る。
『喫茶店に間男来た』『結構イケメン。竹之内豊っぽい』
怒りと悲しみで胃がキリキリ痛む。
『2人で車で出発。6号線を○○方面』
俺も車に鉄パイプを積み込んで出発した。つっても現場急行じゃなく、
遠くない所で待機して、2人がどこかへしけ込んだら現場を押さえる手はずだ。

間男と嫁、その日は郊外をドライブしてダム湖へ。
湖畔で仲睦まじく身を寄せ合う2人の写メールが送られ、怒り倍増だ。
それからダム湖近くの美術館で小一時間を過ごしたらしい。

さらに待つこと1時間、ついに来たぜ決定的メール。
『2人で今ホテルに入った!』
おっし出動。携帯で細かな場所を確認して車を飛ばした。

到着したら…んん?ラブホじゃなくてコテージタイプの観光ホテル?
まあ、ご休憩で使うんなら立派なラブホだけどな。
ダチと合流して車で待機すること1時間。馬鹿2人が出てきやがった。
嬉しそうに腕なんて組みやがって、いかにも楽しんできたって感じだ。

「よお!偶然だなあ」
怒りを押し殺して2人に声を掛ける。
俺に気づいた嫁がヒイィ!って顔。間男はといえば「誰?」って感じだ。
まあ、確かに竹之内には似てる。どっちにせよヤサ男だ。
「初めましてぇ!俺、そこの浮気女の旦那やってま?す」
はっきり言って俺もダチも若い頃からヤンチャしてきたから、
普通の奴なら見ただけでビビると思う。

「あ、どうも初めまして。○×です」
普通に返事して、握手の手まで差し出す間男。こいつ真性の馬鹿らしい。
差し出してきた手をバチンと払った俺。
「あのさあ間男クン、君は自分が何したのか分かってるのかなぁ?」
できるだけ優しく訊ねたつもりだが、まだ理解できないらしい。
「人の嫁に手ぇ出して、ただで済むと思ってんのかぁ!ゴルァ!」
ちょっと凄んでみせたら、ようやく意味が理解できたようだ。

「違う!違うの!」
嫁が横で何か喚いてるが無視する。
「誤解なさってるみたいですね。僕と彼女はそういう仲じゃ…」
並んでホテルから出てきて何をホザくか馬鹿男。
しかし、間男は「食事しただけ」と言い張る。仏の顔もここまでだ。
「ざけんな、ちょっと顔貸せや」
はい、ヤンチャでした自分。腕にもちょっと覚えがあります。

唸りを上げる俺の鉄拳。だが間男も、逃げるのだけは上手い。
俺が拳を振り回してもチョロチョロクネクネとよけやがって、
たまに当たっても、ガードした腕とか肩の上からだけ。
「オイッ!××、手伝え!」
俺に言われて、ダチが間男に飛びかかって腰のあたりに抱きついた。
ちなみにダチは180cm、100kgの巨漢だ。
つかまってもがく間男に向け、俺は渾身の力で鉄パイプを振り下ろした。

ガキッ!!手ごたえはあったが、その直後、俺のアゴに軽い衝撃が走った。
正直、この前後の記憶は飛んでて、何があったかよく分からない。
気がついたら俺は地面に座り込んで、警官から事情を聴かれてた。
どうやら嫁かホテルの従業員が通報したらしい。
嫁と間男は警察に連行されたのか、その場にはいなかった。

俺も警察まで任意で同行して、改めて事情を聴かれた。
嫁や目撃者の話を総合すると、俺が鉄パイプを振り下ろした瞬間、
間男が偶然体を引いたんで、鉄パイプはダチの肩に当たったそうだ。
んで、間男が逃げようと体をよじったら、奴の肘が偶然俺のアゴをかすめて、
俺が軽い脳震盪を起こして倒れたらしい。
ダチは幸い打撲だけだったが、後でちゃんと謝っておいた。

もちろん警察には事実を話したさ。
偶然でも俺に脳震盪を起こさせたなら傷害罪だろ?タイーホ決定!

ところがだ、事情聴取に当たった警官が信じられないことを抜かしやがる。
「本当はな、俺がこういうことを言っちゃいけないんだが」
そう前置きして警官が言うには、俺が刑事告訴したら捜査はするが、
恐らく刑事事件として立件することはできんだろう…だと。

つまり、俺&ダチと間男の2対1で、しかも俺が鉄パイプを持ってた。
さらに間男の反撃は肘の1発だけ。嫁やホテル従業員の目撃証言もある。
これだと、間男が正当防衛を主張したら認められる公算が大きい。
逆に俺も、クリーンヒットはしなかったが間男に何発も鉄拳を振るったわけで、
間男の側が告訴したら俺の方が罪に問われかねないという。

「立場に同情はするが、ここは痛み分けにした方がいいんじゃないか」
信じられるか?天下の県警が間男に味方するんだぞ?
もちろん警察なんか端から信じちゃいないが、ここまで腐ってるとは…。

まあ、体は問題なかったんで、夕方には事情聴取も終了した。
家に帰ると嫁がトランクに荷造りしてた。ムッとした俺。
取りあえず浮気の原因くらいは問いたださなければ。
「こらっ、何で浮気なんかするんだよぉ!?」
嫁が言い返す。
「浮気なんてしてませんっ!」
話にならねえ。証拠は揃ってるとか脅しても、頑として口を割らない。

仕方ないんで最終兵器を取り出した。
「出て行くんなら、とりあえずこれ書いてってくんない?」
俺が差し出した離婚届を受け取ると、そのままポケットに入れた嫁。
おいおい、こういう時は「離婚しないで?!」「あなただけなの?」って
旦那にすがりつくもんじゃねえのか?

嫁は荷造りを終えると、さっさと玄関へ行った。
「離婚届は明日にでも出します。残りの荷物は一両日中に取りに来ます。
 あと、アパートは今月で解約しておきますから」
ふざけんなっ!と追いすがる俺の目の前で、ドアがぴしゃりと閉まった。

          ☆            ☆

翌日、嫁両親が引越し業者と一緒に来た。
あまり折り合いが良くなくて、ちゃんと顔を合わせたのは結婚以来初めてだ。
「平気で旦那を裏切るなんて娘さん、どういう育て方されたんですかねぇ?」
俺の言葉を無視して、淡々と業者に荷造りを指示する嫁両親。
普通こういう時、汚嫁を殴りつけて一緒に土下座するのが親だろ?

嫁親の行き道を遮るようにしてにらみつけたら、ようやく嫁父が口を開いた。
「娘は言い掛かりだと話している」
嫁も嫁なら親も親だ。思わず立ち上がって嫁父の胸倉を掴んだ。
「だから私は最初から結婚に反対だったんだ」
悪びれる様子もない嫁父。嫁母もキっとした表情で俺を見てる。
まあ、引越し業者の連中もいたんで、ここじゃ手荒な真似は止めた。

これで情状酌量の余地なし、全面戦争だ。
まず汚嫁に慰謝料請求と財産分与の要求を郵送した。
ところが馬鹿女、素直に応じりゃいいものを
「当方は有責当事者だとは考えておりません」と拒否しやがった。
「ならば裁判で争うことになりますが、構いませんね?」
最後通告しても「どうぞ」とにべもない。こうなりゃ潰すまでだ。

だが、弁護士を介してのやり取りは困難を極めた。
こっちがいくら「不貞」を主張しても、汚嫁は「証拠がない」と否定する。
確かに探偵の尾行記録や写真には、そのものズバリの行為はない。
ホテルで現場を押さえた件も、レシートを出して「食事してただけ」と言い張る。
間男は仕方ないにしても、どう口裏を合わせたのかホテル従業員も同じ証言だ。

百歩譲って2人があの日、食事してただけだとしても、いい年した大人が
これだけ頻繁に会ってたら十分「不貞」を推定できるはず…と訴えたが、
連中は馬鹿の一つ覚えみたいに「証拠を出せ」だ。

逆に汚嫁の側、何を勘違いしたのか俺が有責配偶者だと言い始め、
慰謝料を請求してきやがった。完全にイカレてやがる。

まあ、結婚前からずっと俺がフリーターつうか無職だったのは事実だし、
お馬やスロット、風俗に金をつぎ込んでたこともある。遊びの範囲だがな。
それだけじゃ足りないのか汚嫁弁護士め、どこで調べたのか、
俺が借りてた消費者金融の利用明細まで出してきやがった。

挙句「自分が流産した時、放っておかれた」とムチャクチャな言い掛かり。
「馬鹿言うな!1回だけ見舞いに行ったじゃねえか」
思わず声を荒らげちまった。
どっちにせよ、そんな古い話まで持ち出すとは汚い連中だ。

まあ、結論から言えば痛み分け。調停員も裁判官も不倫女の肩ばかり持って、
とても公正とは言えなかったが、弁護士の勧めもあって苦渋の決断を下した。
こっちの慰謝料請求は認められなかったが、向こうからの請求も突っぱねた。

ローンはなかったが、預貯金800万のうち100万は俺のものになった。
本当は半額を要求してたんだが、弁護士に言わせると
「もともと全額奥さんが預金したんだし、家事も全部奥さんに任せて
 夫として『内助の功』もなかったんだから、100万でも御の字だ」。
結婚後の共有財産は折半にできるんじゃねえのか?
不満だったが、ここで喧嘩しても仕方ないから妥協してやった。

そうこうするうち、アパートの大家からも「退去してくれ」と言ってきた。
これも理不尽だと思ったが、まあ借りたのは嫁の名義だし仕方ねえか。
それ以降は、何人かのダチの家に世話になるようになった。

次は間男への制裁だ。当然、内容証明付きで丁寧な慰謝料請求を送る。
よっぽどビビッたんだろう。すぐ反応してきた。
「当方に不法行為はなく、慰謝料支払いの義務もないと考えます」
いい度胸してやがる。

結論から言えば、嫁の時と似たような経過を辿った。
謝罪と慰謝料を要求する俺に、「不貞行為はない」と突っ張る間男。
腹が立ったのは元嫁まで「不倫関係はない」と証言しやがったことだ。
弁護士を交えた話し合いで思わず俺も叫んじまった。
「物証がなくても、オメエは俺の女房と将来を奪ったんだ。
 金が惜しいとかじゃなく、ひと言くらい謝罪があってもいいんじゃねえか!?」
これは俺の正直な気持ちだった。
まあ結局、奴は最後まで謝罪しなかったし慰謝料も取れなかったが。

ただ、慰謝料だけで制裁が終わると思ったら大間違いだ。
独身だから間嫁はいなかったが、間親がいる。慰謝料請求後、
弁護士同伴で突撃したとき「親に連絡しろや、ゴルァ!」と申し入れたが、
「親は関係ありません」と断固拒否しやがった。
後で調べたら、間親はどうやらイギリスに住んでるらしい。
何度か勤務先とか自宅と思われる所に国際電話を掛けたが通じず、
事実関係をお知らせする手紙も宛先不明で戻ってきた。

それから、あれだけのイケメンだし女がいないわけねぇ。
そう思った俺は興信所にも依頼して身辺を探らせたが、なぜか出てこない。
アメリカの大学院に留学してた頃、仲良くしてた女はいるらしいが、
個人までは特定できなかった。くそっ、ここの詰めの甘さも悔やまれる。

次は定番、間男の勤務先突撃だ。裁判は物証がないと難しいが、
企業なら不倫社員を抱えてちゃ対外的イメージにかかわるはず。
勤務先の人事部に電話して「お宅の社員のことでお話がしたい」と申し出た。
指定された日に行くと、人事部の参事とかいう男が応対してくれた。
ちなみに間男、正社員は正社員だが年俸契約制らしい。プっ契約社員かよ。

取りあえず事実関係を説明した。できるだけ言葉遣いは丁寧にしたぜ。
「他人の妻に手を出すような社員がいると対外的影響も小さくないでしょうし、
 おたくの企業イメージを守るためにも善処をお願いしますわ」とな。
奴の業種もよく分からなかったが、とりあえず強く要望した。
「まずは事実関係を確認して、就業規則違反があれば
 内規に則って処分を下すことになるでしょう」
人事部参事が真面目な顔で説明する。それでこそ企業だ。
聞けば「社の名誉を著しく傷つける行為」は就業規則で禁じられてるし、
最低でも来年以降の契約更新はないはず…と俺は理解した。

しかし、申し入れから1週間経っても2週間経っても音沙汰なし。
しびれを切らして1カ月後、再び乗り込んだら先日の参事が出てきた。
ちょうど損害賠償請求で間男と争っていた時期だが、参事が言うに
「当該社員は事実関係を否定している。
 あなたとの法廷闘争が決着するまで、社としては推移を見守るしかない」
ハァ?法律と就業規則は別だろうが?つうか企業としての自主判断もできないわけ?
不倫した社員をかばうとは、これぞDQN企業の極みってやつだな。

何度か交渉したがラチが明かず、結局は上に書いたように
間男への慰謝料請求は認められなかったんで、企業も間男を処分しなかった。

ダチからの情報だが、何でも間男は年俸契約社員でもトップの成績で、
会社としちゃ下手に処分して、よその社に移られちゃ困るとのこと。
人間としての基本的倫理より目先の利益が大事らしい。とことん腐った会社だ。

仕方ないから、せめて関係者には間男の人間性を知ってもらおうと、
間男の親族とか、同じ部署の人間とか、勤め先の取引相手とか
調べて分かる範囲に匿名で事実関係のリポートを送りつけた。
ついでに嫁の勤務先とか友達にもお知らせしておいた。
これで奴らも社会的に抹殺されるはずだ。

          ☆            ☆

あれから5年が経ったが、今にして思えば詰めが甘かったなと思う。
特に慰謝料請求で、あんなに物証とか証言が物を言うとは思わなかった。

汚嫁だが、勤務先にも知らせたせいで居づらくなったんだろう。
騒動から1年くらいして退職しやがった。ザマーミロ。
退職してすぐ…つまり離婚から1年ちょっとで間男と結婚したらしい。
まあ「寿退社」を装ったのかもしれんが、実質は追い出されたんだろう。

結婚2年目で1人目が生まれ、今は2人目が腹の中にいるらしい。
誰だよ、不貞関係じゃないなんてふざけたこと言ってた奴は。
傍目には幸せそうらしいが、まあ表面だけだろうな。
親戚からも相手にされていないはずだ。確認してねえけど。

間男は首こそつながったが、会社での評判はガタ落ちしたそうだ。
正式に処分はされなかったが、お咎めなしとはいかなかったみたいで、
一昨年…つまり餓鬼が生まれたばかりなのに、ニューヨークへ飛ばされた。
外資だから本社扱いらしいが、どう考えても左遷だよな。
つまり今は夫婦に餓鬼まで抱えてニューヨークへ島流し。ご苦労なこった。

これは汚嫁&間男カップルが結婚した後に聞いたんだが、
やっぱりというかあの2人、高校から大学にかけて付き合ってたらしい。
その後、間男がアメリカの大学院に留学するんで、泣く泣く別れたそうだ。
遠距離恋愛する根性もなかったらしいな。
で、仕事で偶然再会して燃え上がっちまったという…大馬鹿カップルだ。

俺はといえば、心の傷が癒えずに今も独身だ。
それでも敢えて定職には就かず、たまにバイトしながら色々と夢を温めてる。

嫁からの実質慰謝料となる財産分与は、意外とすぐになくなったな。
嫁と間男とその勤務先から名誉毀損だとかで民事訴訟を起こされて、
フザけたことに支払いを命じられた。日本の裁判所は芯から腐ってるぜ。
一連の弁護士費用も結局相手負担にはならなかったし、
俺がボコボコにした間男の治療費とかも、なぜか俺が払う羽目になった。

それでもまあ、プライドだけは守れたかなと思っている。
今度結婚する時は、もう少しマシな女を選ぶつもりだ。
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