09月7

人形じゃないよ

俺、小嶋雄治はいじめられっ子だ。
小学校、中学校といじめられ続け・・・
高校では、いじめられたくない!
それが切なる願いで、知り合いが行きそうにない離れた場所にある、そこそこの進学校を選んだが・・・
やっぱりダメで。
入学以来、腹を蹴られたりとか、ほぼ毎日。
教科書を隠されたり、ノートに全部落書きされたり、鞄を捨てられたり・・・
正直もう、嫌なんだよね。
そしてあの日、昼休みに、いつも俺をいじめる坂田やその仲間達の手で、俺は教室内でズボンを脱がされかけてた。
女子生徒のいる前で、そんな事をされたら生きていけない。
その時箒を投げつけ、結果として収束させてくれたのが、江村有紀だったんだ。

「お前等、うぜぇよ!よってたかって、毎日毎日」
坂田達を見てるわけじゃない。
視線はいつも通り、外を見ていた。
そんな江村に、「なんだてめぇ」と声を荒げる坂田。
でも江村は、まるで耳に届いてないかのように、外を見ていた。
すっかり白けてしまった坂田達は、俺を開放して外に出て行った。

江村有紀・・・
風変わりな子だった。
俺の知る限りにおいて、まともに登校した事ないし、同じ時間に下校した事がない。
何時の間にか出て来てて、気付いたらもういない。
いる時は、いつも自分の机に座ってて、ぼんやりと外を見ている。
授業中に、教科書やノート、筆入れなんかを出した事がない。
先生に注意されても、知らん顔して外を見ている。
誰かと喋ってるのを聞いた事がないし、坂田達に「うぜぇ」と言った声が、俺が初めて聞いた声だった。

あの日以来、俺は江村の事が気になりだした。
江村の事、目で追うようになった。
いつ来て、いつ帰るのかも気になる。
本当に、授業を一切聞いてないのかも気になったし、誰とも喋らないのかも気になった。
一日に何回も、江村の席を見るのが、いつしか俺の習慣になった。
ま、江村がいる時は、坂田にはいじめられない。
いなきゃいじめられるし、それの確認でもあったわけだが。
でもいつしか江村に対し、恋心を抱くようになっていた。

切れ長の目。
黒く長い髪。
透き通るような白い足。
細い体。
開かない口。
遠くを見る視線。
俺は完全に、江村に心を奪われていた。

「江村は早退して、何してんだろ?」
いつしか気になりだした事は、段々と俺の中で大きくなっていき、やがて歯止めがかからなくなった。
俺は思いきって、江村の後をつける事にした。

歩いて公園に行った江村。
江村がベンチに座ると、子猫が1匹、また1匹・・・
都合5匹の子猫が、江村の周りに集まってきた。
子猫たちにパンを与え、それをじっと見ている江村。
遠くからだったので、江村の表情は分からなかった。
分からなかったが、優しい目をしてる気がした。
江村は2時間、子猫たちを見ていた。
段々と日が傾き出した頃、江村はベンチから立ち上がり、公園を後にした。

電車に乗る江村。
窓の外をいつもの、あの遠くを見る目でじっと見てる。
時折他校の男が、そんな江村に声をかけるが、まるで意に介さぬように、じっと外を見続ける。
やがて声をかけたヤツも、舌打ちしてから、そこを離れる。
そんな事が2回ほど。
終点まで乗った江村は、高校生には似つかわしくない、ネオン街に向けて歩を進めた。

スーツ姿のサラリーマンや、派手な服を着た女性達は多い。
しかし俺らのように、制服を着た高校生は少ない。
はっきりと、自分が浮いてるのが認識出来る。
しかし江村は堂々としていて、歩を迷いなく進める。
江村の足が一瞬だけ止まったのは、あるゲームセンターの前。
だがすぐに動き出し、江村は中に消えた。
俺は・・・
「補導」の2文字が頭をよぎり、中には入れぬまま、外で江村が出て来るのを待った。

15分後、江村は出て来た。
俺の知らない男と二人で。
これが江村の男?違うだろ?
醜く肥った体型と、ヨレヨレの背広。
禿げ上がった頭に、下品な笑い。
でも江村はそんな男と腕を組み、ゲームセンターから出て来た。
俺が今まで、一度も見た事がない笑顔で・・・

連れ立って歩く二人をつける。
二人が向ったのは、大通りから少し入った暗い道。
でも上を見ると、華やかなネオンが光る。
ホテル街・・・
その中にある、こじんまりとしたホテルの前で立ち止まる二人。
やがてその男に肩を抱かれ、中に入ろうとする江村。
俺の足は、自然と動いていた。

ありったけの力で、その男に体当たりしたのに、倒れたのは俺。
一瞬驚いた表情をした江村だったが、その狂人が俺と知り、不思議な顔をした。
「江村さん・・・ダメだよ・・・こんなところ・・・」
振り絞った声に、事態が飲み込めた江村の蹴りが、俺の腹に突き刺さる。
「なんだよ、お前!こんなとこに来てんじゃねぇよ!」
情け容赦なく繰り出される蹴りにに、俺はただただ悶絶する。
「誰、これ?彼氏?」
「違いますよ?。こいつ、頭おかしいんですよ。こんな奴は気にせず、中に入りましょ♪」
俺に対するそれとは、まったく異なる江村の態度。
そして、一緒に中に入ろうとする男の足に、俺はしがみついた。
「ダメだ・・・江村さん・・・自分を傷つけちゃ・・・」
江村の足が、思いっきり俺の顔を踏みつけた瞬間、しがみついた俺の手が離れた。
しかし男はすっかり冷めたようで・・・
「もういいわ、俺・・・帰るわ。また今度ね。」
そう言うと江村の腕を解き、元来た方へ歩を進める。
「待ってよ?」
江村が走って後を追うが、それすら振りほどき、男は雑踏に姿を消した。
痛かったけど、俺は満足だった。江村の事、守れたから・・・

引き返して来た江村に、また散々蹴られる。
散々蹴った後、また俺の顔を踏みつけ、江村が俺を睨む。
「いったい何なんだよ、お前!なんでここにいるんだよ!」
「江村さんの事・・・気になったから・・・」
好きとは言えない、情けない俺。
「お陰で上客、逃がしちまったじゃねぇか!どうしてくれるんだ!」そして蹴り。
「江村さん・・・あんな男と・・・ダメだよ・・・」
再び俺の顔を踏みつけ、「お前に言われる筋合いはないね!」
「江村さん・・・足どけて・・・パンツ見えてる・・・」
「何見てんだ!この腐れがっ!」そして蹴り。
「いいか!この腐れ!あたしの事に口出すんじゃねぇよ!そんな暇あったら、いじめられない努力をしな!」
江村はそう言うと、また俺に蹴りを入れ、どこかに去って行った。
暫く動けなかったが、「君、大丈夫?」と、ホテルに入りたげなカップルに聞かれ、俺は重い体を起こした。
ヨレヨレと駅に向かい、電車の床に座り込む。
血だらけの俺の顔をジロジロと見るだけの乗客。
家に帰ると、「どうしたの?その顔!」と、お袋が聞いてきたが、「何でもない」と答え、俺は自室に篭った。
何度かお袋が様子を見に来たが、俺は何も答えなかった。

俺より後に登校した坂田が、「小嶋く?ん、どうしたの??その顔?」と、バカにした口調で聞いてくる。
だが、いるはずがない江村がいるのを知り、すごすごと側を離れた。
江村はその日、早退しなかった。
だから俺も、その日一日はいじめられずに済んだ。
授業をサボる事なく、教室で一日過した。

最後の授業が済み、そそくさと廊下に出る俺。
次に廊下に出たのは、他ならぬ江村だった。
江村に呼び止められ、振り返る俺。
有り得ない、俺と江村のツーショットに、教室中の目が俺たちを見ている。
それを気にした江村。
「ここじゃなんだから・・・ちょっと面貸しな・・・」
そう言うと先に歩き出した江村の後を、俺は足を引きずりながら続いた。
江村は昨日、子猫にエサを与えていた公園に向う。
程なく子猫達が、江村の足に寄って来た。
江村は俺の方は見ないで、子猫達にパンを与えてから、語気を時折強めて喋り出した。

「昨日は・・・悪かったな・・・ちょっと・・・やり過ぎたと思う。カンベン・・・」
「でもな・・・お前・・・小嶋だったよね?小嶋、お前がでしゃばるからだよ!」
「人の後をつけたり、余計な事に口挟んだり・・・」
「いいか、今度やったら、この程度じゃ済まないからな!」
「あたしの事なんか気にしないで、お前は自分の現状を考えろや!いいか!分かったか?これ、警告だぞ!」
そこまで言うと江村は、昨夜と同じ目で俺を睨み、公園を後にしようとした。
俺は・・・
俺って、こんなに勇気があったっけか?
「好きなんだ!」と、江村の背中に叫んでいた。

立ち止まる江村。
とんでもない事を言ったと、動揺する俺。
長い沈黙。
その静寂を破ったのは、勿論江村だった。
首だけを俺に向け、「バカじゃない」とだけ言うと、駅に向って歩を進める。
「嘘じゃないんだ!俺・・・江村の事・・・好きなんだ!」
俺はもう一度叫んだが、江村は立ち止まる事無く、俺の前から姿を消した。
甘える相手がいなくなった子猫たちが、俺の足に擦り寄って来た。

あの、公園での告白から3日間、江村は学校に来なかった。
江村と二人で話してたせいか、坂田達のイジメは、前程はひどくなかった。
俺は江村を気取り、坂田達がする事に、いちいち反応しないようにした。
俺が反応しないのが、きっと面白くなかったのだろう。
物を隠すとか言う陰湿なイジメは続いたが、肉体的なそれはなくなった。
俺にしてみれば坂田達より、江村の事が気になっていたから、イジメなんてどうでも良かったってのが本音だけどね。
もしかしたら来てるかもしれないと、あの公園にも行ってみたが、そこにもやはり、江村の姿はなかった。
「人に告白だけさせといて、消えるのかよ、江村!」
俺は心の中で叫んだ。
もしかしたら・・・
「あの禿オヤジに抱かれてるのか?」
そう考えたら、いても立ってもいられない。
あのゲーセンにも行って、500円きっちりカツアゲされたし、江村に蹴られたあのホテルの前にも行った。
だけど何処にも、江村の姿はなかった。

土曜日、学校に行くよりもはるかに早く、俺はあの公園に向った。
その日一日、俺はここで張ってようと思ってた。
きっと江村の事だから、子猫たちにパンを与えに来るに違いない。
だからそれを待っていようと・・・
そして俺の目論みは的中した。
江村が現れるのを待つまでもなく、江村は既にそこにいた。
朝日が差すあの公園で、江村は子猫たちに囲まれて座っていた。

まるで、側に俺が立ってるのを気付かぬかのように、江村は子猫たちを見ていた。
俺からは横顔しか見えなかったが、江村は間違いなく笑っていた。
その笑顔は、学校で見せるクールな表情ではなく、15、6歳の少女のそれだった。
俺は江村の事が、ますます好きになった。
それに対して江村は、ただじっと、子猫たちを見ていた。
そのうち一匹が、俺の足元に寄って来るまで、じっと江村は子猫を見ていた。

「この子たちは・・・あたしと一緒なんだよね・・・」
「親の愛情を知らず、勝手にこんなとこに連れて来られ・・・ただ死ぬのを待ってる・・・」
「この子達が・・・いや・・・お前に言ってもしかたないな・・・」
あどけない笑顔が消え、厳しい目つきになり、自嘲するような笑みを浮べた江村。
立ち上がった江村に、俺は「待てよ!」と声をかけた。
自分でもびっくりするような、大きな声で。
「小嶋・・・あんたの気持ち・・・嬉しかったよ。」
「でもさ・・・真面目なお坊ちゃんと、どうでもいいあたしなんか、吊り合い取れねぇって思わなかった?」
口を挟もうとした俺を制するように、なおも続ける江村。
「あんた、ウザイんだよね。あたしの事、知りもしねぇくせに、突然好きだとか・・・」
「はっきり言うわ!あたし・・・死ぬまで誰も、ぜってぇ好きにはなんねぇから!これだけは言っとくから。」
そう言うと、公園の出口に向う江村。
俺は後を追い、江村の細い手を掴んだ。
しかし江村は俺の手を振り解くと、俺には目を向けずにこう言った。
「あたし・・・金で誰とでも寝る女だよ・・・」
去って行く江村を俺はただ、黙って見送るしかなかった。

江村の体温が残るベンチに座り、俺はただ、遠くを見ていた。
子猫達が、エサをねだって足元に寄って来たが、俺はただ、遠くを見ていた。
いや・・・何を見ていた訳でもなく・・・
ただ江村の事を考えていた。
ずっとずっと考えていた。

空が赤くなり、遊んでいた子供の声もしなくなった頃、誰かが横に座った。
江村だった。
江村も俺同様、ただ遠くを見ていた。
でも俺と一緒で、何かを見てる訳ではなかったろう。
ただ遠くに視線を向けてるだけ。
好きな女と、同じベンチに座ってる。
それだけで喜ばしい事なのに、すぐ側にいる江村の事を、俺は遠くにいるかの如く考えていた。
そして日が沈んだ頃、「やっぱ俺、江村が好きだ」と呟いた。
横にいた江村が、「ありがと」と答えた気がした。

昔さ・・・
あるお金持ちの家に、女の子が生まれてさ・・・
その子、何不自由なく育ってさ・・・
欲しい物は何でも手に入るし、海外旅行だって、年に2、3回行けるしさ・・・
でもある時、全てを持ってると思ってた女の子は・・・
お金持ちではない友達が持ってる物を、自分が持ってない事に気付いたんだよね。
友達は家に帰ると、「お帰り」って迎えてくれる母親がいて・・・
悪い事をすると、叱ってくれる父親がいて・・・
「ほしい」と言っても、「我慢しなさいっ!」って言う厳しさがあって・・・
頑張った時に、「よくやったね」って誉めてくれる優しさもある。
それ、その子は持ってなくて・・・

それでね・・・
学校から帰って、「ただいま」って大きな声で言ってみたの。
そしたら・・・
「頭痛いから、大きな声を出さないで!」って母親がね。
勉強をさぼって、遊んでばかりいて、当然成績が下がって・・・
そしたら家庭教師がね、何時の間にか増えててね。
それでも勉強しなかったら、今度は父親が・・・
「高校や大学は、お金でなんとかするから」ってさ。
200万円する、ダイヤのネックレス・・・
子供には似合わないのにね。
「ほしい」って言ったら、次の日机の上に置いてあった。
運動会で、頑張ってかけっこ、一番になったのに・・・
その子を応援してたのは、家で働いてる、使用人のおじいちゃんだけ。

その子、分かってるんだよ。
自分が甘いんだって。
ただ単に、ない物ねだりしてるだけだって。
分かってるんだよ!
だからね・・・
言えないじゃん・・・「愛して」なんて・・・

父さんは一年のうち、半分以上は帰って来ない。
お仕事だって。
母さんは、なんかいつもイライラしてて・・・
でも、そんな母さんが機嫌よくなる時がある。
週に2回の、ゴルフレッスンの日。
若いプロが、母さんに教えに来るの、マンツーマンでね。
その日だけは母さん、ニコニコしてるんだよね・・・

時々ね・・・
どこそこの御曹司だとか、誰々の息子だとか・・・
親が引き合わすのね、その子にさ。
でもそんな男って、欲しい物は何でも手に入って当たり前でね。
女の子は物じゃないよね。
で、手に入らないからって、自分で何か努力する訳じゃなくて、親に言って、親にどうにかしてもらおうとする。
バカばっかり・・・

そんなある日、女の子は家を抜け出し、夜の街に出かけましたとさ。
で、酔ったオジサンに声をかけられて・・・
自分の父親と変わらない年齢。
お世辞にも格好いいとは言えない人。
そんなどうでもいい男に・・・
引き換えにね・・・その子にとっては、はした金に過ぎない2万円を受け取ってね。
でもね・・・
その子にしてみたら、自分の親よりも、そんあスケベなオヤジ達の方が、よっぽど人間臭くてね。
家に帰ったら子供がいて、奥さんの尻に敷かれて、少ない小遣いをやりくりして・・・
そうやって貯めたお金で、若い子を買う。
一生懸命、あたしの体舐めてさ。
汗かきながら、腰振ってんの!
なんかさ、分かる気がしない?
人間って気がしない?
頑張ってるって気がしない?
分かんないよね・・・あんたにはね・・・

俺はベンチから立ち上がった。
そして、江村を見ずにこう言った。
「学校に・・・来なよ・・・江村が思うほど、きっと捨てたもんじゃないと思うから・・・」
「誰も見てなくても、俺が見てるから」
俺はそれだけ言うと、公園を後にした。
江村を一人残して。
きっと江村は、黙って俺を見送ったろう。
その日の朝の俺のように。

俺が学校に着くと、珍しく坂田が、江村に話しかけていた。
やがて坂田達は江村を囲むように、教室を出て行った。
なんか、良からぬ事が起きそうな気がした。
俺はヤツ等の後をつけた。少し離れて・・・
実験室や音楽室がある離れの棟に、坂田達は江村を連れて行った。
しかし俺は、そこでヤツ等を見失った。
化学準備室でヤツ等を見つけた時、俺は信じられない光景を目にした。

ブラウスのボタンを外され、胸をあらわにした江村。
四つん這いにされ、スカートはまくられ、パンティもヒザまで下ろされている。
その格好で坂田のチンポを口に含み、他の者には胸や尻、股間を触られていた。
かすかに、坂田の声が聞こえた。
「あんな汚ねぇオッサンのチンポ、よくしゃぶってんな?」
「今日から毎日、俺たちが相手してやっから、ありがたく思いな!」
立たせた江村を後ろから坂田が・・・
経験はなかった俺だが、それがセックスだとは容易に分かった。
「びしょびしょじゃねぇか!この淫乱が!」
江村を罵りながら、坂田が腰を振る。
そして・・・
「出るぞ!」と坂田が言い、激しく動かした腰の動きが止まって・・・
坂田が離れると、江村の細い脚を流れた汚物。

「殺してやるっ!」
俺は虎口に一人、飛び込んでしまった。
5人に殴られ、息絶え絶えの俺。
でも、江村を救いたかったから・・・
だが情けない事に、俺は江村に救われてしまった。
「あたしを好きにしていいから、小嶋にひどい事しないで!」
椅子に縛られ、身動き出来ない俺の前で、2回、3回と江村を犯す坂田達。
江村は一言も発っする事無く、坂田達を受け入れた。
江村の目は・・・そう、あの遠くを見る目だった。

「どうせだから・・・」
江村を犯しまくり、満足した坂田が口を開いた。
「小嶋にも、犯らせようぜ!」
すぐさまズボンとトランクスを下ろされ、散々陵辱された江村を側に連れてくる。
江村の口を俺のチンポに近づけ、「舐めろ」と言う坂田。
「やめろ!」と言うのに、坂田に従う江村。
俺の意に反し、そそり立つ俺のチンポ。
やがて江村が俺に跨り・・・

坂田達に何度も犯され、声一つ出さなかった江村が、俺のが入った瞬間・・・
「あぁぁぁぁぁぁぁっ・・・」
激しく腰を動かしながら、俺の口に吸い付く江村。
「いいよ?・・・小嶋・・・いいのぉ・・・」
最初は茶化していた坂田達も、段々引いて来た様子で・・・
「やってらんねぇよな!後は好きにやってろ!」と、部屋から出て行った。
坂田達が出て行ったのを見届け、一端腰の動きを止める江村。
「無理しちゃってさ」
そう言って、俺にキスした。
「でも・・・嬉しかったよ。ありがと。」
笑った江村の顔は、15、6歳の少女のものだった。
そして・・・
俺たちは、何度もセックスした。
江村は本気で、俺に感じてくれたようだった。
俺も何度も江村を突き、何度も何度も江村の中に出した。
俺たちはその日、何度も何度も愛し合った。

翌日、担任が突然坂田達5人の退学を告げた。
詳細は明らかにはしなかったが、ただ、重大な事柄に関わったとだけ。
俺は江村の方を見たが、江村は相変わらず、ただ外を見ていた。
昨日の事が退学の理由であるなら、俺が聴取されても不思議じゃないし、江村だって。
いや江村こそ、売春をしてたと言う事実が発覚していれば、ここにはいれない訳で。
もしかしたら・・・
江村の父親が、金で解決したのかな?
そう考えると、納得出来た俺だった。
でもその真相が、明らかにされる事はなかった。
俺にしてみれば、坂田達がいなくなった事は、実に喜ばしい事であり・・・
真相を究明する必要なんてない訳で、「坂田達はもういない」と言う事実を歓迎しようと思った。

江村との関係は、あの日、あんな事があったにも関わらず、何も変わらなかった。
「俺、江村と間違いなく、セックスしたよな?」
自分でも分からない程、江村の態度は素っ気無かった。
相変わらず江村は口を開かないし、ただ黙って外を見ている。
でも、少しだけ進歩した気がして・・・
時々、江村と目が合うようになった。
1日に何度も江村を見ている俺だが、大概は外を見ている江村。
でも目が合うって事は、江村も俺を見てるって事で。
それだけで、妙に嬉しい俺だった。
目が合うと江村は、慌てて外に目を向ける。
一瞬で後姿しか見えなくなるが、耳が少しだけ赤い気がする。
江村って・・・かわいいな。

夏休みを間近に控えた7月。
関東地方を台風が直撃するとの予報。
それを受けて、学校の授業は午前中で打ち切りとなった。
クラスの殆どが帰宅する中、くじ引きで負けた俺は、教室の窓ガラスにガムテープ張り。
ホント、ついてない。
しかも、同じように負けた3名のうち、2名がばっくれと言う事態で・・・
残った真面目な俺と、もう一人は、がり勉タイプの神埼響子。
二人でのガムテープ張りは遅々として進まず、1時間近くを要した。

ガムテープ張りを終えて学校を出ると、神崎の親が車で迎えに来ていた。
神崎はさっさと車に乗り込み、俺は一人、歩いて駅を目指した。
そして、あの公園に差し掛かったところで、隅の方に立っている、ウチの制服を着た女子高生を発見した。
江村だ・・・
彼女は風雨が強いにも関わらず、傘も差さずに俯いている。
俺は走り寄り、江村に傘を差し出し、「どうした?」と聞こうとして絶句した。
江村や俺の足に擦り寄り、甘えていた子猫、4匹のうちの3匹が・・・
胴体から、首を切り離されていた。
俺も持っていた傘を落としてしまい、江村と二人で立ち尽くしてしまった。

「どうして・・・こんな事が出来るんだろ?」
「人間って・・・ひどいよね・・・」
「この子達がいったい、どんな悪い事をしたんだろ?」
俯いたまま、江村は目を真っ赤にして、そう呟いた。
俺には・・・情けない事だが、かける言葉がみつからなかった。
暫くして、「埋めてあげようよ・・・」と言うのが精一杯だった。
手や棒を使って、日の当たる場所にある大きな木の下を掘った。
離れた物はくっつかないが、出来るだけ首と胴体を側に置き、俺は土をかけはじめた。
俺が一掴みずつ土を被せる度、江村の嗚咽は大きくなっていった。

ヨロヨロと歩き出し、やがてあのベンチに座った江村。
涙を洗い流すかのように空を見ていたが、やがて視線を落とし、また嗚咽を始めた。
俺は黙って、これ以上江村が濡れないように、傘を差しかけるだけだった。

「ニャー」
俺の耳にもかすかに聞こえた。
江村はすぐに立ち上がり、あたりをキョロキョロと見回した。
勿論俺も。
「ニャー」
力ない声だが、今度は間違いなく、声のする方向を認識できた。
走り寄る二人。
植え込みの中に、小さな白と黒の命が震えていた。
ずぶ濡れのその小さな命を、江村は躊躇なく抱き上げた。
頬寄せる江村。
そして小声で・・・
「大丈夫!大丈夫だよ・・・あたしが守ってあげるから・・・」
そう呟くと、尚もしっかりと抱き寄せた。

濡れた夏服から、江村の水色の下着が透けていた。
ずぶ濡れの髪を伝い、雫が電車の床を塗らしていた。
その胸元には、あの生き延びた子猫。
好奇の視線が、江村の細い体に突き刺さっていた。
しかし江村は意に介さぬかのように、しっかりと子猫を抱いていた。
視線は窓の外ではなく、子猫だけに向けられていた。

電車を2度乗り換え、江村はある駅で降りた。
傘も差さずに歩く江村。
慌てて走り寄り、傘を差しかける俺。
何度か信号待ちをして、何度か角を曲がって、江村はあるマンションに入って行った。
「ついて来い」とも「帰れ」とも言われなかった俺は、一瞬だけ躊躇したが、すぐに江村の後に続いた。
狭いエレベーターに並んで立つ。
「8階」
子猫に視線を向けたまま、江村はそう告げた。
俺が11と書かれたボタンを押すと、エレベーターの扉が閉まった。

「上がりなよ」
江村は言うが、俺もずぶ濡れだった為に躊躇した。
「帰りたいなら・・・帰っていいけど・・・」
江村はそう言うと、室内に消えた。
「濡れてるけど・・・いいかな?」
奥から「お互いさんだよ」と返ってきた。
俺は江村を追いかけるように、室内に入った。

1部屋しかないその室内は、いたってシンプルで。
ベッドとクローゼットはあるが、テレビは見当たらない。
初めて女の子の部屋に入ったけど、女の子っぽくない部屋。
ぬいぐるみの類もないし、カーテンも地味目で・・・
「江村らしいな」と思った。

「濡れた服、脱いでこれに着替えてて」
クローゼットから取り出したスェットを差し出した江村。
ピンクで、少し恥ずかしい気がした。
「風邪ひくから」
そう促され、俺はそれを受け取った。
「あたし・・・シャワー浴びてくるね。」
江村はそう言うと、子猫と一緒に、玄関の横にあったバスルームに消えた。
下着まで濡れてた俺は、流石に躊躇したが、裸の上からスエットを着た。
部屋からも、そしてスエットからも、江村のいい匂いがした。

「きゃーっ!」
バスルームから悲鳴が聞こえた。
「どうした?大丈夫?」
俺はバスルームの外から声をかけた。
「猫ちゃんに・・・引掻かれたよ?」
泣きそうな江村の声に、申し訳ないが爆笑した俺。
「ひど?い!笑ってるぅ。心配とかしてくれないの?」
「じゃ、見に行こうか?」
「ダメ?ッ!見たいならいいけど?」
俺は外で待ってる事にした。

バスローブを纏い、頭にタオルを巻いた江村が出て来た。
猫を抱いた右手に、赤い線が三本、しっかり出来ていた。
「小嶋も・・・シャワー浴びておいでよ。」
江村に促され、好意に甘える事にした。
芯まで冷えた体に、シャワーのお湯が心地よかった。
「小嶋?!あんた、下着も着けずにスエット着たの?」
「うん。下着までびっしょりだったから」
「あんた最低・・・これ、また洗濯しなくっちゃ・・・」
脱衣所のドアを開ける音に、一瞬ドキドキしたが、すぐに閉まる音がして安堵した。
シャワーを終え、脱衣所に向うと、俺の着るべき服がなかった。
「あのさ?、俺・・・何着たらいい?」
脱衣所から尋ねると、「あ?っ!スエット、洗濯するんじゃなかった?」
江村の返事だった。
「待ってて?」
しばらくして、脱衣所のドアが開いた。
思いがけず、全裸を晒してしまった俺。
慌てて前を隠すが、まるで動揺しない江村。
「これで我慢して」
あっさりと手渡すと、またドアを閉めた。

「可愛いじゃん」
部屋に戻った俺に、江村は笑いながら言った。
ピンクのタンクトップに、白のショートパンツは、かなり恥ずかしい。
「似合う?」と聞くと、「似合う、似合う。可愛い、可愛い。」とウケる江村。
「そういう江村だって、可愛いよ・・・」
きっと江村は、ピンクが好きなんだろう。
ピンクのキャミと、グレーのショートパンツが映えていた。
でも服よりも、俺は胸元の2つの突起に目が行って・・・
「こら?っ!すけべ!そんなに見るなよ?」と、江村から怒られてしまった。

「ここに座って」
促され、江村が座るベッドに、俺は並んで座った。
「ミルク飲んだら、すぐに寝ちゃったよ」
子猫はクッションの上に、丸まって寝ていた。
「一人で暮らしてんの?」
俺は部屋を見回して、そう言った。
「うん・・・お父さん、あたしの頼みは、何でも聞いてくれるから・・・」
そう言う江村は、少し寂しそうだった。
「そう言えば手・・・大丈夫?」
「これ?」
江村はそう言うと、右手を差し出した。
赤い線が痛々しい。
「野良ちゃんをお風呂なんて、ちょっと無謀だったかな・・・」
「手当て・・・してたほうがいいよ!」
「平気だよ」と言う江村だったが、薬箱を出させて消毒する事にした。

向かい合って座り、江村が右手を差し出す。
俺はその、白く細い手を取り・・・
傷口にそっとキスをした。
「あっ・・・」
江村が小さく洩らした。
「小嶋って・・・優しいよね・・・」と言った江村。
俺は江村を抱き寄せ、その薄い唇に自分の唇を重ねた。
そして、「好きだ」と言った。

俺の体の下にいる細い体の江村は、ただじっと目を閉じてる。
時折口から、「あっ・・・」とかすかに声を上げる程度で。
俺は夢中で、江村の体に吸い付いた。
頬、首筋、鎖骨、そして乳首・・・
鳩尾、わき腹、下腹部、そして太股から足の付け根へと。
江村の息遣いが、荒くなっていくのを感じた。
再度顔を江村に近づける。
声には出さなかったが、江村の口がこう動いた。
「抱いて・・・」
俺達はゆっくりと、一つになった。

江村の奥深くに達した時、江村は仰け反っていた。
俺は江村の細い体を抱きしめた。
江村もまた、抱きついてきた。
性的な快感よりも、今、江村の中にいる事が嬉しかった。
俺は腰を動かさず、ずっとそのままでいた。
「小嶋?」
江村の問いに、「もう少し・・・このままでいたい・・・」と告げると、江村は目を閉じ、俺にキスをいた。
唇を重ねたまま、俺たちはずっと繋がれたままだった。
やがて江村の体が、ビクンビクンと動き出した。
そして、「小嶋・・・もう・・・我慢できないよ・・・」
潤んだ瞳の江村に言われ、俺はゆっくりと腰を動かしはじめた。
江村の体はそれに合わせ、徐々に仰け反っていった。
「中に・・・いっぱい・・・出して・・・」
やがて俺は、大量の愛を江村の中に注いだ。

全裸のまま、江村の肩を抱いてベッドに入る。
江村は俺の胸に、その小さな顔を埋めた。
俺は時折、その綺麗な黒髪を撫でながら、江村に告げた。
「愛してるよ」
江村がコクリと頷き、尚も体を密着させてきた。

「お父さんだけど・・・」
「えっ?」というような表情の江村。
「俺・・・親の気持ちなんてよく分からないし、上手く言えないんだけど・・・」
「きっと江村の事、お父さんは愛してくれてると思う。」
「江村の言う事、無条件に聞いてくれてるのも、江村の為にお金使うのも・・・」
「それはお父さんなりの愛情表現なんじゃないかな。」
頷く江村。
「お母さんだって・・・」
「ゴルフの先生の事好きだったり、イライラしてるかもしれないけど・・・」
「確かにね・・・そこだけ見たら、江村の事、愛してないって思うかもしれない。」
「でもきっと、それだけじゃないと思うんだ。」
「よくよく思い出してみると、江村にだって、お母さんから愛情を授かった事、きっとあると思うんだ。」
「江村は自分の事、一人だって・・・誰も愛してくれないって・・・そう思ってるかもしれないけど。」
「でもそれは、絶対に間違ってると思う。だって現に俺が・・・」
そこまで言った所で、江村に口を塞がれた。
その柔らかい唇で。
江村は涙を流していた。
そして子猫の方を見て、「あたしも、この子も、もう一人じゃないんだね・・・」
そう言って笑った。

あの日繋がって以来、江村は凄く明るくなった。
自分から進んで会話するようになり、友達も増えていった。
そして・・・
窓の外を見る事がなくなった。
俺、意外と江村のあの表情、好きだったんだけどな。

終業式が終わり、江村から声をかけられた。
「明日から夏休みだね」
「あぁ」
「ちょっとさー、付き合ってほしい所があるんだけど・・・」
「あぁ、いいよ。」
「じゃ、明日の朝9時、○○駅の前で」
「オッケー」
俺ら二人、付き合ってんだか、付き合ってないんだか・・・
デートなんてした事ないし、第一あの日以来、二人きりで会った事もなくて、なんか微妙な関係。
でも俺、江村の事が好きだから、その江村からのお誘いは、めちゃくちゃ嬉しかった。

翌日。
駅で待ってると、江村が少し遅れてきた。
「ごめ?ん」
そう言いながら走ってくる江村は、とても可愛かった。
なぜか手には、くろちゃん(あの猫ね)が入ったバスケットを持って・・・
「今日は全部、あたしの奢りだから」と笑う江村。
「いいよ・・・」と言ったが・・・
「思いきって、お父さんに甘えてみた。やっぱ親は、上手く使わないとね。」
そう言って江村は舌を出した。

数時間後・・・
なぜか札幌千歳空港に、俺達はいた。
「いいから、いいから」と言われ、航空券を渡され、羽田のセキュリティをくぐった俺。
「マジ?このまま北海道に行っちゃうのかよ?」
動揺したのは言うまでもない。
どこに行くのか、何をするのか、聞いても答えない江村。
でも、何か上機嫌で・・・
千歳からバスで富良野に向った。
富良野からタクシーに乗り、気付いたら山の中で・・・
ある家の前でタクシーを降り、鞄から鍵を取り出し、開ける江村。
「ここ、うちの別荘なんだ。入って。」
江村に促され、中に入った俺。
もう夕方で、きっと今日は帰れない。
いや・・・
帰してくれそうになかった。

リビングで江村は、バッグを下ろした。
バスケットからくろちゃんを出し、エサと水を与えると、ソファーに腰を下ろして俺を見た。
クスリと笑うと、「夢じゃないよ」と言った。
「なんでこんな所に?」俺は尋ねた。
う?ん・・・としばらく考えてから、「小嶋にもっと、愛してほしかったから・・・かな?」と笑った。
「二人っきりで、ずっと一緒なんて、なんか嬉しくない?」そう続けた。
「それならそうと、言ってくれたら良かったのに・・・俺、親に何も言ってないから、そのうち捜索願を出されるぞ」
きっとお袋、心配するだろうな?
おれはそう思って言った。
「あたしもさ?言ってないんだよね。いいじゃん!なるようになるって!」
そう言うと、江村はまた笑った。

「ねぇ小嶋・・・服脱いでよ。あたしも脱ぐから」
困惑している俺にそう言うと、江村は自分のブラウスのボタンに手をかけた。
早々と、一糸纏わぬ姿になった江村。
俺はただ、じっと見てた。
「ねぇ小嶋・・・そんなに見られると恥ずかしいよ・・・」
「あたしもそうだけどさ。着替え持ってないでしょ?必要な時以外、着ないほうがいいと思うよ。」
江村の裸体を見て、「まぁ・・・いっか!」そう思った俺。
俺も自分で脱ぎだしたが、最後の一枚。トランクスは、江村が脱がしてくれた。
全裸になった二人。
江村は俺に抱きつくと、「幸せだよ」と言った。
俺は江村を抱きしめた。

「一緒にお風呂に入ろっか?」
江村はそう言うと、「待ってて。お風呂溜めてくるから」と、リビングを出た。
俺はソファーに座り、江村が戻ってくるのを待った。
やがて戻った江村は、俺の膝に座った。
俺の首に手を回すと、俺の唇を貪るように吸い出した。
俺も江村の口に舌を入れ、風呂にお湯が溜まるまでの間、二人舌を絡めあっていた。

湯船の中でも俺たちは、ずっと舌を絡めあっていた。
やがて、上に乗った江村の手に導かれ、お湯の中で結ばれた。
水の抵抗を受け、なかなか思うように腰を動かせない江村。
そのお陰で、随分長い時間、俺は江村を愛する事が出来た。
バスルームを出る時、俺の体を拭いてくれてた江村がしゃがみ、突然のフェラから1回。
体も乾ききれぬまま、そのままベッドルームに行って1回。
江村が持ってきたジュースを口移しで飲みながら、また1回。
果てたと同時に、二人して寝てしまった1回。
その日だけでも4回。

翌朝、目が覚めたと同時に1回。
朝食を終え、後片付けをする江村の背後から1回。
服を着て買い物に行き、帰って来て脱いだと同時に1回。
寝て、目が覚めたらまた1回。
昼食後、今度は俺が片付けしていたが、洗物の間中、江村がフェラして口内に。
洗物が済んで、江村の胸を触り、立たせたまま挿入。
そのまま駅弁スタイルで寝室まで行き、また1回。
ここに来てから3日間、俺らはやりっぱなしだった。
しかも全て、江村に中出しで・・・

3日目の夜、江村が俺の上で腰を振っていた時、何か物音がした。
「何か聞こえなかった?」
江村に尋ねると、「お父さんじゃない?」と言いながらも、尚も腰を振り続ける。
「ちょ、ちょっと・・・まずいんじゃない?」
慌てた俺に、「だからってもう、今更止められないもん」と江村。
寝室のドアが開き、体の大きなオジサンが顔を出して、こう言った。
「小嶋君。済んだら居間に来なさい。君一人で。」
俺は気が気じゃなかったが、江村はわざと聞こえるように、大きな声を上げながら腰を振り続けた。

ガウンだけを身につけ、俺は恐る恐る居間に向った。
居間には、江村の両親がいて、二人並んでソファーに座っていた。
俺は二人の正面に座らされた。

「君が小嶋君か・・・会うのは初めてだね。いつも有紀が世話になってるね。」
「今回の事は、恐らくは有紀が仕組んだ事だろうと、勿論私だって推察は出来るが・・・」
「乗ってしまった君にも、否がないわけじゃない。」
「今日はもう無理だろうから、明日の朝、君一人で帰りなさい。」
「有紀は、私達が連れて帰るから、君は心配しないように。」
「私が言いたいのは、それだけだ。」

「待ってください」
そう言おうとしたが、父親はそれを制するように、また喋り出した。
「有紀がね・・・娘なんだが、売春したりね・・・まともに学校に行かなかったり・・・ま、出来の悪い娘だが・・・」
「そんな娘でもね・・・私にしてみたら、かけがえのない娘だ。」
「その娘がだよ。どこの誰とも分からぬ男と、事もあろうかカケオチまがいの事をして・・・」
「付き合うのをやめさせようとしたら、こんな事をしやがって・・・」
「しかも乗り込んでみたら、裸で抱き合ってる最中なんて・・・」
「君、親として、この現実を冷静に受け止められると思うかい?」
「私は今、冷静を装って話してはいるが、本音を言うと、君を殺したい衝動に駆られているんだよ。」
「分かるかい?」

「小嶋君・・・ここに来る前にね・・・君の事。家庭も含めてだけど、色々と調べさせてもらった。」
「お父さんは、日大を卒業して、○○商事の物流課の係長で・・・」
「お母さんは、福島の女子高を卒業して、○○商事で働いて、そこでお父さんと出会って・・・」
「君のお父さんの年収は、500万ちょっと。」
「私立の○○高校に通い出した君の学費を払う為に、家計は苦しい状態。」
「400万あった貯金も、次第に目減りしているようだ。」
「そんな君がだよ?」
「江村家の一人娘と付き合って、上手く行くと思うかい?」
「君の成績も、調べさせてもらったよ。なんせ君の学校の理事長とは、私は仲が良くてね・・・」
「480人中、180番位か・・・中の上ってところか・・・」
「ま、お父さん位の大学には行けるだろうし、それ位の職場には就職出来るだろうね。」
「でも有紀は、私達に責任はあるのだが、子供の頃から我侭し放題で育ってる。」
「今の君の家のようなね・・・そんな暮らしに耐えれるとは、到底思わないんだよ。」
父や母の事、それに俺の将来まで馬鹿にされたようで、腹立たしかった。
しかし、返す言葉が見つからなかった。

「今回の事は申し訳ありませんでした。分かりました・・・明日の朝、ここを出ます。」
「うん、そうしてくれ。いや一つだけ・・・」
「ここを出るのは、明日の朝じゃなくて今にしてくれ。」
「札幌市内にホテルを予約してある。タクシーも待たせてあるから、それに乗って、すぐに出て行ってくれ。」
「私の気が変わって、君を殺してしまう前にね・・・」
「それにね。有紀はもう、ここにはいないんだよ。」
「?」
「君が居間に来るのと同時に、既に違う場所に移したよ。」
「だからもう、君がここに留まる理由はないんだよ。」

さっきまで、江村と一緒にいたベッドルームで、俺は服を着た。
江村もくろちゃんも、もうそこにはいなかった。
江村とここで過した事も、今、そこを追い出されようとしている事も、全てが夢のような気がした。
しかし股間には、さっきまで江村の中にいた感触が、はっきりと残っていた。
それだけが今の俺の支えであると同時に、一層の寂しさを感じさせた。

別荘を出る時、僕は父親に向って言った。
「お嬢さんは、人間です。ちゃんとした感情のある、人間です。」
「それから・・・」
「馬鹿じゃないし、立派なお嬢さんです。」
そう言おうとしたが、父親に遮られた。
「ご忠告ありがとう。でも、君には関わりのない事だ。」
そう言うと、玄関の扉を閉めた。
既に行き先を聞いていたのか、何も告げないのに、タクシーは動き出した。
俺は車窓からじっと、遠くを眺めていた。

帰京し、江村がいたマンションに行ったが、既に誰も住んでいなかった。
くろちゃんの形跡もなかった。
2学期が始まり、始業式の前に、担任が江村の転校を皆に告げた。
大方の予想はついていたので、そんなに悲しさは感じなかったが、やっと喋り出したクラスメートは、一様に残念がった。

2学期以降、俺は猛勉強をした。
江村の父親を見返す為だ。
徐々に上がった成績は、3学期には学年トップに。
それから卒業まで、俺はトップを明渡していない。

人間って不思議なもんで、どんなに体力がなくとも、ケンカが弱くても、一芸に秀でた者には尊敬する。
加えて一芸に秀でると、妙に自信が湧いてくるのだ。
俺が学年トップに立った頃は、俺が1年前まで、いじめられっ子だった事は忘れ去られてしまっていた。
江村以外、誰も見向きもしなかったのに、こんな俺に告白する女まで現れた。
見た目は全然変わってないのにね。
でも俺はその都度、「俺は誰も好きにならないから」と断った。
そして心の中で、「一人を除いて」と呟いた。

3年時、「東大でもいける」と言われたが、俺のキャラじゃない気がして。
俺はあえて、親には負担をかけてしまうが、京大を選んだ。
そして無事に合格。
「奨学生として、4年間、新聞配達でもするか」
俺はそう考えていた。

京都に発つ前の日、俺はあの公園の、あのベンチに座ってた。
江村が消えて以来、立ち入った事のない公園だが、その日はなんとなく行ってみたかった。
俺は空を見ながら、ただじっと座っていた。
ふと見ると、一組の親子が砂場で遊んでいた。
2歳位の子と、若いお母さん。
そしてその側に、白と黒のネコが座っていた。
振り返り、俺を見て「ニコッ」と笑った顔に、俺は見覚えがあった。

こうして並んで座るのは、2年半ぶりだった。
そう、富良野で過した、あの3日間以来だった。
俺たちは喋らず、ただ空を見ていた。
ずっとずっと、空を見ていた。

暫くして江村が口を開いた。
「あの子・・・未来(ミク)って言うんだけど・・・」
「父親はね・・・」
「今年京都大学に受かって、そして明日、京都に行っちゃうの。」
俺は驚いて、江村の顔を見た。
「あの時の・・・子です。」
江村はそう言うと、笑顔を見せた。
「未来ちゃ?ん、こっちにいらっしゃ?い。」
未来は、いや娘は、ヨチヨチ歩きでこちらに近づく。
「未来ちゃん、お父さんにご挨拶しなさい」
「こん※○▽◇わ?」

「京都でも、頑張って。」
そう言う江村に頷く俺。
「もしも・・・迷惑じゃなかったら・・・」
「4年後のお正月に、あたし、ここで待ってます。未来と、くろちゃんを連れて。」
「もしもあなたが来てくれたら、未来はもう6歳ですから、あなたの事、はっきりお父さんだって分かると思います。」
俺は江村に、2年半ぶりのキスをした。

国家公務員となって、官庁に勤めるように勧められたが、国を動かすなんて、どうも俺のキャラじゃない。
「だったら司法試験を受けてみないか?」と勧められ、とりあえず合格はしたが、人を裁くなんて性に合わない。
大学院に進むという選択肢もあったが、そろそろ働きたいと思ってた。
ずっと親に甘えてたしね。
俺は結局、母校で働かせてもうらう事にした。
高校の社会科の教師
それすら俺のキャラじゃない気がしたけどね。

内定を貰い、卒論も済み、あとは卒業を待つだけの退屈な正月。
俺はあの公園に向った。
江村と、自分の娘を迎えに行く為に。

江村は来なかった。
待てど暮らせど、妻子は来なかった。
でも俺は、来ないのは分かってたんだ。

江村の父からの手紙で、それを知ったのは3回生になりたての頃だった。
ある病院の一室に、江村有紀はいた。
高校に入学したばかりの頃のように、ベッドに座って、ただじっと外を見ていた。
俺が側に来ても、なんら反応しない目。
俺が抱きしめても、嫌がりも、喜びもしない江村。
キスしても尚、じっと外を見ていた。

妊娠が発覚し、転校した高校を中退。
出産後、子育てをしながら大検を受験して合格。
父親の援助を断り、小さな運送会社の事務員として就職。
以来女手一つで、未来を5歳まで育て上げた。

そんな時、たまたま有紀を見かけた坂田が・・・
家賃が安い公団には、セキュリティなんてないから。
未来に刃物を近づけ、有紀を脅して・・・
レイプされ、しかも目の前で・・・
くろちゃんの首を刺した坂田は、泣き叫ぶ有紀を黙らせようと、再度未来に刃物を近づけた。
過った結果とは言え、未来までも刺された有紀はそれ以来・・・
時折口が、「ミク」とか、「コジマ」と動く程度で、それ以外は人形のようになってしまったと言う。

俺の両親も亡くなり、有紀の両親も亡くなった。
俺は48歳となり、有紀もじきに48になる。
俺は今日も授業が終わると、有紀のいる病院へ向う。
有紀は相変わらず、じっと外を見ている。
俺が髪を梳かすと、「コジマ」と口が動くが、言葉を発する事はなく、目の輝きも戻らない。
俺はこれからも、俺が動けなくなるまで、この病院に通うだろう。

俺たちの薬指には、お揃いのリングが。
この病室の入り口には、「小嶋有紀」と書かれた表札が下がっている。
有紀の枕元にはこの病室で撮影した、満面の笑みを浮べた俺と、表情はないが、ウエディングドレスを着た有紀のツーショット写真が置いてある。

有紀、君は人形なんかじゃない。
生きている、感情のある人間なんだよ。
その証拠に君は、「コジマ」って・・・あの頃みたいに呼んでくれるもんね。
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