百田尚樹氏も吠えた! 憲法改正をめぐる朝日・毎日の「姑息」記事の背景は
2014.5.1707:00(1/7ページ)[憲法改正論議]
第16回「民間憲法臨調」フォーラムで発言する「作家」の百田尚樹氏。きわどい発言で会場を沸かせた=3日、東京都千代田区(原田史郎撮影)
憲法記念日の5月3日に都内で開かれた「『21世紀の日本と憲法』有識者懇談会」(民間憲法臨調)の公開憲法フォーラムには、「永遠の0」「海賊とよばれた男」で知られる作家の百田尚樹氏も出席し、熱い発言で会場を沸かせていた。ところで、翌日の朝日新聞と毎日新聞はそろって、自民党の船田元・憲法改正推進本部長の「姑息(こそく)かもしれないが…」発言を取り上げていた。その場に居合わせた記者として、この記事の背景を報告しておきたい。(溝上健良)
朝日・毎日への反論 憲法論議で「独善」やめましょう
新聞を疑え
毎日新聞は4日朝刊の「改憲ムードの中 都内各地で集会」との見出しの記事中で、船田氏の「姑息かもしれないが、理解を得やすい部分を直し9条改正を実現したい」との発言を報じた。同日の朝日新聞はもう少し詳しく、「姑息かもしれないが、理解が得やすい環境権などを書き加えることを1発目の国民投票とし、改正に慣れてもらった上で9条を問うのが現実的」などと船田氏の発言を伝えている。なお読売新聞、東京新聞は船田氏発言のこの趣旨を取り上げているが「姑息かもしれない」部分は紙面化していない。
朝日、毎日新聞の書いていることがウソだとはいわない。船田氏はたしかにそのような発言をしている。ところで実際にはこの発言の後、フォーラムの司会進行役を務めていた櫻井よしこ氏(民間憲法臨調代表)が「9条以外の条項から改正することは姑息ではないと思うのですが」と発言し、会場から拍手がわき起こった。さらに櫻井氏は「私たち民間憲法臨調は、この(9条改正を2回目以降とする)アプローチを決して姑息だとは思っていません。これはもっとも現実的で、政治的に正しいやり方だと、正しい目標を掲げて柔軟に対処するという意味でむしろ誇りに感じております」とも語った。
これを受けて船田氏は「9条について慣熟運転してから(国民投票に)かける、ということについては堂々と、現実政治の中で解決する手段としてしっかり位置づけていきたい」と改めて決意を表明した。つまり最初の「姑息かもしれないが」発言は口がすべったということで事実上、撤回したわけだが、そこを朝日・毎日新聞は「政治家が一度、公の場で発した言葉は撤回できないのだ」とばかりに翌日の記事に盛り込んだ、という次第だ。行間から「鬼の首を取ったぞ」との記者の勝ち誇った顔が見えてくるような気がする。もちろん会場でこのやりとりを聞いていた人たちは船田氏の見解を把握できたはずで、読売・東京新聞は「9条改正後回し」に触れながらも「姑息」部分は記事に盛り込まなかった。これが穏当な記事の書き方といえるだろう。
逆にいえば、朝日・毎日新聞の記事はある意味で見事というほかない。憲法改正で9条改正を2回目以降に回すことは「姑息」だと、きれいにレッテルを貼ったわけである。さすがは朝日新聞、『悪韓論』や『呆韓論』など(題名こそ強烈だけれど)単に現地報道を引用して韓国社会の問題点を客観的に指摘し、反日活動の背景を探ったにすぎない諸々の作品に「嫌中憎韓本」のレッテルを貼っただけのことはある。
「嫌韓本」に学ぶ韓国対応法
ただ一応、同紙を弁護しておくと、朝日新聞中国総局著『紅の党 完全版』(朝日文庫)は、党員8000万人(!)という世界最大の政党、中国共産党の闇に迫っている。これは朝日新聞が書くところの「嫌中憎韓本」ではないことは確かで、産経読者の方々にもぜひ一読をお勧めしておきたい力作だ。
ともあれ、両紙はこういう記事の書き方をする新聞なのだと、会場にいた人たちにはハッキリと分かったのではなかろうか。かつて「新聞を疑え」というキャッチコピーがあったが、同じ事実を扱いながらなぜ各社の記事にこうも違いが出るのか、マユにツバをつけながら読むことを推奨したい。
さて、先に挙げた毎日新聞の記事は「改憲ムードの中 都内各地で集会」との見出しだったのだが、この見出しも実は変なのだ。新聞記事の見出しは当然、記事の内容を端的に表すものであり、記事の中身をふまえた見出しを掲げるものである。では、改憲ムードが高まっていたのか…と思って記事の中身に立ち入ってみると、どうもそれらしき記述がないのである。
毎日記事によれば、「日比谷公園で開かれた集団的自衛権行使に反対する集会には、約3700人が参加した」「集会後、買い物客でにぎわう銀座をデモ行進した」。そしてデモ行進の写真が掲載されている。また「昨年成立した特定秘密保護法の廃止を求め、学生ら約400人が新宿の繁華街をデモ行進」。いわゆる護憲派はなかなか盛況である。一方、この記事では人数が書かれていなかったが、民間憲法臨調のフォーラムでは出席者は「千人以上」と発表されていた。それでも、日比谷公園の集会には大きく見劣りする人数だ。改憲派が何かデモをしたという類いの話も載ってはいない。記事からはどうにも護憲ムードが漂ってくるのだが…。これって、読者をミスリードする見出しではないのか。
あえて見出しで「改憲ムード」との言葉を使っているウラには「読者の皆さ?ん、ムードに流されてはいけませんよ?」との隠された意図が感じられる。なかなか巧妙ではあるが、そもそも改憲ムードといえるほどのものが確固として存在しているのか。毎日の記事を読む限りではむしろ最近、護憲ムードが高まっているのではないかと思えてくる。実際、「九条の会」に代表される護憲派団体の草の根活動は活発で、改憲派を圧倒している状況といっていいだろう。このあたりの実情は改めて、現地取材の上で皆さまに報告したいと考えている。乞うご期待!
(待ちきれない方は月刊『正論』5月号の筆坂秀世氏の論文「全国に8000組織も! 護憲の牙城、『9条の会』の素性」をご覧ください)
分かりやすい国・中国
ところで民間憲法臨調のフォーラムでは船田氏、櫻井氏のほかに、西修・駒沢大名誉教授と、作家の百田尚樹氏が登壇した。実は百田氏、よく事情が分からないまま出席を引き受けてしまったのだという。そのあたりの事情は「夕刊フジ」13日発行の「大放言」に詳述されている。百田氏の書く火曜日発行紙面の「大放言」は毎週、読ませる。百田作品のファンの方々には火曜日の「夕刊フジ」は必見であろう。
百田尚樹氏「NHKにややこしいのがいる」
さてマイクを握ると、百田氏のマシンガン・トークが炸裂した。「報道の皆さんが大勢おられますので一言。きょうはNHKの経営委員として来ているわけではありませんので、よろしくお願いします。特に朝日新聞の人…」と、まずはジャブを一発。「憲法はその国の国民が作るものですが、日本国憲法は主権を失った中で、占領している国が草案を作って押し付けた。これは憲法といえるか。憲法ではありません」と問題提起し、同じ敗戦国だったドイツの憲法を例示した。ドイツが制定したのは憲法ではなく、あくまでも「基本法」であり、それすら西ドイツ時代から通算59回も改正されている事実を指摘した。
そして「しかし日本人は、憲法は神聖にして侵すべからざるもの、一切変えてはならないものだという考えをずーっと植え付けられてきました。それを植え付けたのは朝日新聞です」と言い切った。会場に拍手がわき起こる。さらには「朝日新聞はクズです!」という発言も。一般人にはなかなか、思っていても言えることではない。
そして日本を取り巻く国際情勢の話に。「いま日本は未曾有の危機に置かれています。何が危ないかといえば、中国。戦後、中国はどんどん領土を拡大しています。隙あらばどんどん出てくるし、太平洋側にはとにかく出たい。中国はアメリカの影響力がなくなったら、すかさず出てきます。アメリカがベトナム戦争から引き揚げると、中国はすぐにスプラトリー諸島を武力で取りました。そしてフィリピンが何を考えたのか『米軍はいらない』と言い出して、米軍を追い出したとたんに、中国はスカボロー礁を取りました。少しでも米軍の影響力が低下したら取りに来るということで、中国の行動は非常に分かりやすい。日本では鳩山元首相が普天間飛行場の移設先を『最低でも県外』と言った、その後に漁船民が尖閣諸島沖で海上保安庁の船にドーンとぶつかってきた。もう分かりやすくて話になりませんよね」
リアリティーを追求
百田氏は日本国憲法について「世界最古の化石憲法」とも指摘し「67年間、国会で1度も憲法改正の提案すらされていない。憲法改正を唱えると社会的に葬り去るような力が日本を支配してきており、今でも憲法改正を唱えるのは怖いという状況があります。憲法改正に向けては、世論を熟成していく必要があります」と訴えた。
さて今回、特筆すべきは以下の発言だろう。「護憲派の人たちは僕からみたら大バカ者にみえるんですが結局、『戦争を起こしてほしくない』という気持ちは憲法9条を改正したいと考えている人たちも同じで、(護憲派と改憲派は)目的は同じなんです。何としても戦争は起こさせないという目的は同じで、あとは侵略されても抵抗しない国と、侵略されたら目いっぱい戦う国との、どちらに戦争抑止力があるかというリアリティーの問題なんです。ですから護憲派の人たちに、現実的に、つまり宗教の話ではなく、どちらに抑止力があるか、ということを話していきたいな、という気持ちがあります」。導入部は少し刺激的だが、護憲派と改憲派の目的は同じで、どちらの手段に現実味があるかの問題だ、との指摘は至極、正論だといえる。
翌日の東京新聞は1面で、百田氏発言のこの部分を採録した。見出しは「百田NHK経営委員『護憲派は大ばか者』」。いやあアッパレというべきか、何というべきか。
集団的自衛権の行使問題について問われ、百田氏は「日本は鎖国しているわけではなく、1国だけでは成り立たない。(世界は)近所づきあいみたいなもので、『わが家には家訓があるから、手を汚すわけにはいかずドブ掃除はしたくないから、お金だけ出します』では近所の住民も怒りますよね」と、行使の必要性に触れた。さらには「永世中立国」のスイスが実は強大な軍隊を保持し、力で平和を守り抜こうとしている現状をも紹介。その上で「日本を守るために、憲法改正は急務なんです」と訴えかけた。
全体としてフォーラムでは、リアリティーを追求する方向での議論が展開されたように感じられた。一方の護憲派の集会では、どのような議論が繰り広げられているのか。これも機会があれば紹介していきたい。
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