01月15

不倫から始まった俺の犯罪劇

今から約十数年前、当時二十六歳だった俺は勤め先の社長夫人と不倫関係にあった。
その日も駅近くのホテルにて、奥さんと激しく愛し合っていた。行為を終え、奥さんがシャワーを浴びて汗を流し、俺はベッドの上でタバコを吸っていた時のことだった。
ふと、床に見知らぬ鍵が落ちてあることに気がつく。どうやらそれは奥さんの持ち物らしく、頭の部分に『会社』というラベルが貼ってあった。
会社の鍵なんか持っていても使い道などなかったが、これも何かの機会だと思い、奥さんがバスルームから出てきた後も返さなかった。
そして、奥さんと別れてすぐ自宅近所にある鍵屋で合鍵を作りに行った。
翌日、奥さんが『会社の鍵を知らないか?』と言ってきたため、オリジナルの鍵を返して事なきを得た。
それからも関係は続いたが、その年の暮れに社長から呼び出しを食らった。
その内容はなんと、奥さんとの不倫関係についてだった。どうやら探偵を雇っていたらしく、奥さんとホテルに入る瞬間を捉えた写真を突きつけられ、俺はその場で解雇通告を受けてしまった。しかも、『慰謝料代わりに退職金は出さない』とまで言われてしまった。
途方に暮れ、ロッカーで荷物の整理をしていると、以前作ったスペアキーの存在を思い出す。そして、俺はある大それたことを決意する。
それから数日後、俺は誰もいない会社にこっそりと忍び込んだ。休日で人目がつきにくい真夜中、俺は黒のニット帽にジャンパーといった、いかにも怪しい格好で犯行に及んだ。
俺の働いていた会社は、古い雑居ビルのワンフロアを貸し切ったところで、防犯カメラなどの設備が整っておらず、合鍵さえあれば誰でも入れる状況にあった。
スペアキーで入り口のドアを開け、ゆっくりと足を踏み入れていく。そして、俺は迷うことなく社長室へ向かう。
社長机の奥にどっしりと構えた立派な金庫。俺は以前より、ここにはたいそうな額が眠っていると踏んでいた。
それは古い三ダイヤル式の金庫。中を開けるには三桁の暗証番号が必要であったが、その点は問題なかった。
なぜなら以前、ホテルで不倫行為の真っ最中に、奥さんが暗証番号について口をすべらせていたのだ。
その番号を思い出しながらダイヤルを丁寧に回していき、すべてのダイヤルを合わせていく。すると、『カチッ』という音とともにドアが手前に開かれた。
そこには帯封のついた大量の札束が、ギュウギュウに敷き詰められていた。そんな目のくらむような大金を目にしながらも、俺は冷静になって金額を数え始めた。
縦向きの札束が四つ横並びで、それが八段の層に積み重なっており、さらにその上に三束ほど乗っかっていたため、その総額はなん三千五百万円。
とりあえず百万円だけを取り出すが、この大金ならもっと多く取ってもバレないと踏み、さらに二百万ほど金庫から取り出し、計三百万円の金を手元に置く。その後、ズボンやジャンパーのポケットに札束を突っ込み、静かに金庫を閉じた。そして、長居は無用とばかりにそそくさと現場を後にした。
それから数ヵ月が経っても、警察が俺の元を訪ねてくる気配がなく、奪った金で一年半ほど悠々自適な生活を送ることができた。
しかし、その金も底を尽いた頃、俺はもう一度強盗に押し入ることを決意する。
犯行前に軽く下見をしたところ、会社は相変わらずの様子であったため、すぐさま実行に移すことにした。そして、前回とまったく同じ手口で侵入し、お待ちかねの金庫を開けると、そこには前回よりも多い四千百万円が積み重なっていた。
そのことで俺も気をよくしたのか、初犯の時よりも二百万円多い五百万円の大金をせしめた。
それから約二年にわたり、再びロクに働きもしない生活を送った。そして、再び金が底を尽き、三度目となる強盗を犯し、過去最高額となる七百万円を手にした数日後のこと。
昼の過ぎに目覚めてテレビをつけると、そこには社長と奥さんが脱税容疑で捕まったというニュースが流れていた。
なんでも、会社を創立した頃から法の目をすり抜け、これまで数千万に上る金を蓄えてきたとのこと。しかし、金庫にあった隠し預金と、マルサが事前に調べていた金額の帳尻が合わず、今後もさらなる捜査を続けていくという旨がキャスターの口から語られ、俺もさすがに怖くなってしまった。
結局、俺は一千五百万円もの大金を盗んだにもかかわらず、何のお咎めを受けることもなく、現在は親が残してくれた遺産で快適な生活を送っています。
例の社長夫婦はだいぶ前に出所したようだが、消息不明。会社はとうに潰れており、窃盗事件についても時効が成立しているため、今となってはスペアキーだけが、俺が犯行を物語っている。

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