夏休みが始まって、近所のアーケード商店街には、平日の午前中から小中学生たちの姿が見えるようになった。
平日が休みの俺は、日ごろ感じない街の華やかさに戸惑いながら買い物に向かっていると、
「お兄さん……ちょっといい?」
「あの……お願いがあるんです」
二人の女の子に呼びとめられた。
ひとりは少々ギャル気味な子で
「私、エモ って言うの。」と言い、もうひとりの髪の長いメガネっ子は
「私、リンカ と言います。」と言った。
(おいおい、それは何かのアニメの登場人物やろ……)と思いながらも、そのエモとリンカになりきった二人に、
「それで……俺はどうしたらいいの?」と聞いたら、エモが
「ちょっと、いっしょに来て欲しいの」と手をひかんばかりに歩き出した。
(うわ…… ツツモタセとかに巻き込まれないだろうなぁ……)
と、思いながら俺がひっぱられていったのはゲームセンターだった。
リンカが俺に言った。
「私達の『保護者』になって、いっしょに入ってほしいんです」
なるほど、確かに入口に書いてある。
△中学生以下の方は、成人の保護者とご入場ください。
(学生の方は必ず学生証を提示してください)
お互いに見ず知らずだけど、とにかくエモ、リンカの二人と俺は ゲームセンターの中に入ることができた。
中に入ってしまうと、エモとリンカは足早に 奥の方にあるシールプリント機の「個室」が並ぶエリアに向かっていった。
ここにも注意書きがあった。
△男性のみでのご入場はお断りいたします
仮にも俺は「保護者」役を引き受けたから、二人といっしょに動いたが、シールプリントの「個室」に入るのは二人だけだった。
個室の前で待つ間、俺はチラチラまわりのようすを観察していた。
(すごい…… あそこにあんなに、メイクするための鏡が並んでるよ……)
たくさんの女子がつどう こんな所に来たのは初めてだから、つくづく浮いている自分を感じた。
エモとリンカは、個室を出ては次の個室に移り、キャアキャア言いながら出てくる。
それぞれの個室で、何か異なる演出の画像が撮れるみたいなんだけど、二人はそれを見せてくれはしない。
保護者の俺に、かまうことなくマイペースで楽しんでる。
(それにしてもあの子たち、もう5000円くらい使ってるんじゃないかな……)
そうこうしてるうちに、二人は店の隅にひっそりと置かれた「証明写真」の個室の前にやってきた。
「すみません……」リンカが言った。「こまかいの、800円ありませんか?」
(とうとう金が尽きたのかよ……)と思いながら、俺はリンカにお金を渡すと、二人は個室の中に入りこんだ。
━─━─━
俺たちはゲームセンターを出た。
「ありがとー!」エモが言った。
「おかげさまで楽しめました。これ、保護者になっていただいたお礼です……」
リンカはそう言うと、俺に封筒を手渡した。
それは、さっき「証明写真」の個室にあった、出来あがった写真を入れるための封筒だった。
(おいおい、さっきの写真かよ…… お礼って言ったって、カネ出したの俺じゃないか……)
いつの間にか二人は、商店街の中に消えていった。
俺はふと、封筒から写真を取り出した。
(え…… ええっ!!)
それは「四コマモード」で撮られたカラー写真だった。
一枚目には、二人がアニメの「エモ」と「リンカ」のお面をかぶって並んだショットが写っていた。
二枚目には、二人の まだ小さな乳房が並んで写っていた。
三枚目には、二人の 愛らしい丸みのお尻が並んで写っていた。
四枚目には、二人の おへそから下が並んで写っていた。
(ち、ちょっと待ってよ! あの二人、あの個室の中で全裸になって ヌード写真撮ってたの?!)
俺は周りを見回してあわてて写真を封筒に戻した。
そして急いで商店街を抜け出した。
写真の余白には、たぶんリンカが書いたものらしい、こんなメッセージがあった。
「この写真、ネットで拡散したりしないでね」
俺は顔が熱くなった。
(バカ、ネットでどうこう以前に、こんなの持ってるのバレたら捕まるだろ!)
俺の顔を熱くさせたのは、それだけじゃない……
(あの、あの可愛いリンカが『男の娘』だったなんてさ……)