小学校6年?中学生の頃の話。
歩とは5年の時初めて同じクラスになった。
出席番号(あいうえお順)が同じだったから隣同士。
彼女はちいちゃくて、細くて、髪の毛と目の色がきれいな栗色で、どこか他の子と違う空気が漂っていた。
小学校時代の机は隣同士がピッタリくっついてるので、自然に話す機会も多くなる。
隣の席になって2ヶ月くらいで、歩の事が好きになった。ちょっと遅い初恋だった。
だが、口をついて出る言葉は「ばーか」「ちーび」などの暴言ばかりだった。
歩を含めた5?7人の男女グループで遊んでる時なんかは余計に酷く、
サッカーボールをぶつけたり、軽く蹴ったり、殴るマネをしたり・・・
とにかく「好きな女の子イジメ」の典型みたいな事ばかりしてた。
ある日、いつものように調子に乗って遊んでいたら、歩が泣いた。
「もぉ、なんでそんな事ばっかりするの?酷いよ・・・」とか言われてしまった。
流石にこれはマズイ!!と思ったが、
他の男の子達も居たから「ばーか、そんなんで泣いてんじゃねーよ」と吐き捨てて帰った。
歩は他の女の子にかこまれて慰められてた。
俺はそんな歩の姿を遠くから見てた。
次の日、学校での歩は至って普通だった。
いつも通り机くっつけて授業を受け、いつもの笑顔で俺に微笑んでくれてる。
何だ、心配してソンした。なんてちょっと思ったが、やっぱり女心はムズカシイ。
学校帰り。2人になった途端歩が無言になった。
「何で黙ってるの?」
「なによいまさら。昨日は徹君に酷い目にあわされて、わたしまだ怒ってるんだからね!!」
「なんだよ、学校じゃ普通だったのに」
「あんなの、みんなの前だからだよー。べーだ」そう言って走って行ってしまった。
歩にソッポ向かれたのは初めてだった。
おくびにも出さなかったが、俺は内心泣きそうだった。
どうすれば許してくれるんだろう。謝ればいいのか?
でも、女の子に謝るのは負けたみたいで凄く嫌だった。
悩んだ俺は、いつも皆で遊んでる園に行ってみることにした。
すると歩が一人でブランコに揺られていた。
俺は偶然を装って歩に話かける。
「何してんの」
「何って。ブランコ。」
夕日がまぶしいのか、俺が嫌なのか、下を向いてボソボソと喋る歩。
「昨日のことまだ怒ってるの?」
「・・・・・」
「ねぇ」
無言な状態が続いた。
好きな女の子に無視されるのって凄く痛いんだな、とこの時身をもって知った。
「歩ちゃん。」
俺は立ち上がり、歩のブランコのチェーンを掴んで動きを静止させる。
「これ・・・あげるからゆるして。」
ポケットから歩の大好きな「シゲキックス(食べかけ)」を出して渡す。
歩は一瞬キョトンとした顔をした。
「ごめんね」
恥ずかしかったから少しだけ顔をあっちに向けて謝った。
「もぉ、徹君はバカだなぁ」
歩が顔をくしゃっとさせ笑った。今までの中で一番可愛い笑顔だった。
「バカって言うなよ」
「あはは。シゲキックスありがとう。これで仲直りだね」
「うん」
この後は2人で門限ギリギリまで遊んで帰った。
グっと距離が近くなった気がした。
ある日いつもの遊びのメンバーで、いつもの公園でかくれんぼをしていた。
この公園は結構広く、物がいっぱいあったから隠れる所がたくさんあった。
俺は公園のわきにある細長い小さな物置(学校の掃除道具入れのような形)のような所に隠れた。
ちょっとキツかったけど、とっておきの隠れ場所だった。
皆が隠れ終わるのを待ってると、外に誰かがいる気配がした。
誰だよ、とチラっとドア開けると、歩がウロウロしてる。
いい隠れポイントを見つけられなかったんだろう。
「歩ちゃん!!」手を振った。歩みは俺に気付くと安心したような顔をして
「徹君、ごめん、隠れる場所ないからそこ入れて」と言って来た。
ドキっとした。しかし時間がない。早くしないと鬼が俺達を捜しはじめる。
すると誰かが「もういいよ」コールを出した。
やばい!!と思い歩を強引に引っ張り込む。
何とか入れた・・・が、狭くてあまり身動きが取れない。
体勢は、立ってる状態なんだけど、2人の間にスペースがほぼない。
それでも俺は少しでもスペースを開けるためギリギリまで壁にもたれこんだ。
とにかくかくれんぼより、この状況が、やばすぎる。
歩がすぐそばにいる。髪も、唇も、大好きな歩の全てが手の届く距離にある。
俺の心臓は鐘がマラソンした時のようにガンガン鳴ってた。
当然会話は何もない、2人で必死に息を殺してる。
だんだん呼吸が苦しくなってきて、目を閉じた。多分顔は真っ赤だ。
歩は下を向いてる。俺の心臓のドキドキ音は間違いなく聞こえてるだろう。
もうどうしようもないので目を強くつむった。
鬼よ、出来るならもうしばらくは見つけないでくれよ、と祈ったその時
歩が俺にもたれ、胸に顔をうずめた。
思いがけない行動に、俺の興奮度も120%だった。
「徹くん・・・なんか すごいドキドキするね・・・」
耳元でささやく様な声で言った。
「・・・うん・・・」
一言返すのが精一杯だった。
「なんか、わたし、のどかわいた・・・」
そんな事言われても、飲み物なんかない。
ドキドキでクラクラしてぶっ倒れそうだった
急に思いたったような顔して、歩がスカートのポケットに手を突っ込んだ。
ゴソゴソ 中から出てきたのは・・・俺があげたシゲキックスだった。
それ、まだ持ってたの?小さくジェスチャーすると、笑ってうんうんと頷いた。
俺があげたものを大事そうに持っててくれて、うれしかった。
歩はパウチの袋をそーっと開けて一粒つまんで口に入れた。
おいしーって口を動かして、ニッコリ微笑む。ちょっとだけ空気が和んだ。
次に、手をあまり動かせない俺の為に口まで運んでくれた。
俺も緊張で口が渇いてたから、ありがたかった。何より歩に食べさせて貰えたから感無量。
俺も同じようにおいしーと口を動かしてニッコリ微笑んだ。
でもやっぱ気恥ずかしかったから、空気を誤魔化すように調子に乗って次から次へと食べまくった。
しかし元もと食いかけで中身が少なかった為、あっと言う間に残りがひとつになった。
その一粒を見て 歩、食べろよ、とジェスチャーする。
いいの?と首をかしげる歩。うんうんと頷く俺。
最後の一粒を、歩がゆっくり口に入れた。ニッコリ笑ってる。
すると次の瞬間、歩の腕が俺の首に巻きついた。
「えっ?どうしたの?」動揺が隠せない俺
「徹君 これ たべたい・・・?」
歩が俺の耳元で囁いた。
考えるより先に、こくりとうなずいた
歩は目いっぱい背伸びして、俺の唇に粒を届けた。
俺はどうしていいのかわからず、とにかくそれを歯で噛むようにしてキャッチした。
一瞬だけ唇が触れた。
正直、感触とか、味とか一切分からなかった。
ただ、ドキドキ感で胸がいっぱいだった。
これが初キスの思い出。
その後何事もなかったかのように過ごした。
キスもこの一度だけ。
当然「好き」だの「付き合う」だのそう言う会話はない。
ただお互い好き合ってるのは間違いなかった。
俺達はずっとそんな関係だった。
そして歩は中2の時、親の転勤で遠くに行った。
はじめのうちは他愛のない文通もしたりしたが、すぐに途絶えた。
人の縁ってこんな簡単に切れるものなのかと寂しく思ったよ。
いや、でも俺の場合それ以前の問題だったんだが。
そして改めて「気持ちを言葉にする」意味を思い知った。
しかし歩とは何かの縁があったのかもしれない。
25歳の時、再会した。それも地元と全く違う場所で。
さすがにめぐり合わせというものを感じずにはいられなかった。
そしてまた俺は歩に惹かれ、幸運にも彼女も同じように思ってくれている。
初恋の人と結婚できるなんて、俺はしあわせものだと思う。
以上 お目汚しすまん ありがとう
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