堕とされた母 ?
?11?
ホックを外され、肩紐は二の腕にズリ落ちている。
窮屈な戒めから解放された豊かな双乳は、ともに達也の手に掴みしめられて、粘っこい愛撫を施されていた。
「気持ちいい? 佐知子さん」執拗な口吸いを中断して、達也が問いかける。
「……あぁ……達也く…ん……」
解放された口から、掣肘の言葉を吐くことも、佐知子は、もう出来なくなっている。
薄く開けた双眸に涙を光らせて、か弱く達也の名を呼ぶだけ。
揉みしだかれる乳房から伝わる感覚は、快美すぎた。
(……熱い……)直接、達也の手を感じる部分が、火のような熱を孕んで。
その熱に、肉が溶かされていく。ドロドロに。
「ほら、見て、佐知子さん」達也が重たげな肉房を下から持ち上げるようにして、促した。
「佐知子さんの、ここ。こんなになってる」
ノロノロと視線を動かして、佐知子は達也の示唆した部分を見た。
たわわな肉丘の頂上、硬く尖り立ったセピア色の乳頭。
色を濃くして、ぷっくりと盛り上がった乳輪の中心に、見たこともないほど充血しきった姿を晒している。
「……ああ……こんな……恥かしい……」
愕然と見たあとに、居たたまれないような羞恥を感じて佐知子は泣くような声を洩らした。
「どうしてさ? 可愛いじゃないか」達也の言葉が、いっそう佐知子の恥辱を刺激する。
はるか年下の若者に、いいように身体を玩弄されて。その結果、引き出された肉体の反応を、“可愛い”などと評されて。
情けなくて、悲しくて……しかし、蕩けさせられた胸には、そんな思いすら、奇妙に甘く迫ってきて。
「……もう…ゆるして……達也くん…」
結局、佐知子に出来るのは、頼りない声で、達也のゆるしを乞うことだけだった。
「ゆるして、なんて。佐知子さんをイジめてるつもりはないんだけど」
微笑をはりつけたまま、達也がうそぶく。
「ただ、気持ちよくなってほしいだけだよ。僕の手で、気持ちよくしてあげたいだけ」
そう言って、また、指を微妙に蠢かせた。
トロトロに蕩けた豊乳を、ジンワリと揉みこんでいく。
「アッ、だ、ダメッ」たちまち、佐知子の声が鼻からぬける。
火をつけられた乳房に、じれったいほどの、ゆるやかな愛撫。
思わず、“もっと強く”と求めたくなってしまって。
しかし、これ以上の耽溺の行きつく先への恐れだけは、佐知子の意識を離れない。
佐知子はせくり上がる感覚を振り払うように頭をふって、精一杯に強い声で断じた。
「ダメ、駄目よッ、いけない」すると、達也は、佐知子の耳元に口を寄せて、
「大丈夫。これ以上のことはしない。誓うよ」
佐知子の心を読んだような言葉を、真剣な声音で囁いた。
「もう、バスト以外の場所には触らないから」
「………………」
「だから、もう少しだけ。僕の手を感じていてよ」
「…………本当に…?」
「嘘はつかないよ。佐知子さんのいやがることは、したくないから」
「………………」
「だから、ね? もっと気持ちよくなってよ」
「……や、約束よ?」ついに、佐知子は許諾を与えてしまう。
「ほ、本当に、胸だけよ? それ以上は…」
せいぜい、達也の強引さに押し切られたようなかたちを繕って。
佐知子自身も、そう思いこもうとしていたが。
心の底での計算と妥協は、見え透いてしまっていた。すなわち、
“これ以上、危うい域に踏みこまないのならば…もう少しこの愉悦を味わっていたい”と。
「わかってる。約束は守るから」
内心の嘲笑は、無論おくびにも出さず、達也はもう一度請け負った。
「………………」
達也の手をつかんで、かたちばかりの抵抗を示していた佐知子の手が下ろされる。まだ迷いの気配を見せながらも。
達也の手が、佐知子の白衣を、さらに大きくはだけさせた。
双乳の裾野に絡んだブラを、鳩尾へと引き下ろした。
「……恥ずかしい……」改めて、裸の胸を達也の前に開陳することに、強い羞恥を感じて。
佐知子は、か細い声で呟いて、眼を伏せた。
「……あまり、見ないで……達也くん……」
「どうして? こんなに綺麗なのに」
「……もう、若くないから……」火照った頬に、寂しげな翳りを刷いて、佐知子は言った。
子を産み育てた中年の母親の乳房が、若い達也の眼にどのように映るかと思うと……。
「そんなことないよ。本当に綺麗だよ、佐知子さんの胸」
「………………」
達也が力をこめて告げた言葉も、そのままに受け取ることは出来なかったが。
それでも、ひとまずの安堵と、くすぐったいような喜びを、佐知子は胸にわかせる。
達也にしても、それは本音からの評価だった。
いい乳だ、と本心から思った。
たわわな量感と、艶美な曲線。あくまで白く滑らかな肌もいい。
確かに、若い娘のような張りはなく、仰向けのこの姿勢では、自重に負けて、わずかに潰れるようになっている。
また、地肌の白さのせいで強調される乳輪や乳頭の色の濃さや、肥大ぶりも佐知子の気にするように年齢のあらわれであり、子持ちの熟女らしさといえるだろうが。
そんな特徴のすべてが、年増趣味の達也の好みに合っている。
あえて文句をつけるとすれば、むしろ、年のわりには淫色が薄いことだと思った。
(……まあ、それは、これからってことだな)
内心に呟きながら、達也は、こんもりと隆起した肉丘に手を這わせた。
「こんなに大きくて、柔らかいし」
賞賛の言葉を佐知子に聞かせながら、それを確かめるように、指に力をこめる。
ズブズブと指が埋まりこんでいくような柔らかさ。しかし、その奥に、
まだしっかりとした弾力を残していて。
(いいねえ)やはり、形もボリュームも肉質も、極上の熟れ乳だと喜ぶ。
(……それに。感度もバッチリだしな)
軽い接触にも、佐知子は切なげに眉をたわめて、鼻から荒い息を洩らす。
乳房には、熱く体温がのぼっていて。
消えない快楽のおき火に、炙られ続けていることは明らかだった。
(さて。またひとつ、教えてやるか。ウブな佐知子ちゃんに)
この二日間で、キスの快楽をたっぷり仕込んでやったように。
また、新たな快楽を植えつけてやろう、と。
達也は、大きく両手の指を広げて、巨大な双つの肉を掴みなおした。
「……ホントに、大きいなあ。僕の手じゃ、掴みきれないや」
「いやぁ……」つくづくと感嘆して、佐知子を恥じ入らせておいて。
手にあまる巨大な肉房を、やわやわと揉みたてていく。
「……アッ……ア……」
「フフ、それにとっても感じやすいんだよね」
「…やぁ……あ、あっ…」
“胸だけ”という制限で、達也の行為を受け入れたことで、佐知子は、与えられる刺激を、より明確に感じ取る状態になっているようだった。
思惑通りのそんな様を、達也は冷笑して眺めて。
無防備に捧げられた双乳を、嵩にかかって攻め立てていく。
ギュッと鷲掴みに力をこめれば、柔らかな脂肉はムニムニと形を歪めて指の間から飛び出してくる。
十本の指に小刻みなバイブレーションを与えてやれば、プルプルとたぷたぷと面白いほどに震え波打った。
そして、それらの攻めのひとつひとつに、佐知子は、身をよじり、くねらせ、のたうった。
「ヒッ、ア、いやっ、ア、アア……ああぁっ」
引っ切り無しの嬌声を洩らしながら、乱れた髪を左右に打ち振る。
はしたない声を封じようとするのか、快楽に溺れる表情を隠そうとしてか、片手の甲を口元にあてて、もう一方の手は、ギュッとシーツを掴みしめていた。
「佐知子さん、気持ちいい?」
「……あぁ……達也…く…ぅん……」訊くまでもないようなことをことさらに尋ねる達也。
佐知子は、けぶる眼を薄く開いて、舌足らずな声で、甘く恨むように達也を呼ぶだけ。
少なくとも、愉悦を否定しているのでないことは明白だったが。
「気持ちよくないの? こんなんじゃ、足りない?」
「や、ちが……アアアッ!」
意地の悪い解釈に、慌てて左右にふりかけた頭は、叫びとともに
後ろに反りかえって、ベッドに擦りつけられた。
「フフ、やっぱり、ここは感じる?」
「ア、アッ、ダメ、達也くん、そこは、そこ、は」
達也は、両手の親指を、これまで捨て置かれていた佐知子の乳首にあてて、クリクリとこねまわしたのだった。
「ヒ、アッアッ、ダメ、そ、そこは」
ただでさえ痛いほどに勃起しきった肉豆をくじられて、衝撃といっていいほどの強い感覚が突きぬける。
「やめっ、やめてっ」
佐知子は達也の両の手首を掴んで、必死に身をよじって、強すぎる刺激から胸を逃がそうとした。
達也は、それを許さず、さらに指に力をこめて。
濃茶色の肉突起を、爪弾くように弄い、グリグリとこねくりまわし、
柔らかな肉房へ埋めこもうとするかのように、押し揉んだ。
「ヒイイッ!」
「どうなの? 佐知子さん。感じてるの?」
歯をくいしばり顎をそらして、いきんだ声を上げる佐知子の顔を覗きこんで。
しつこく問い質す達也の眼は、嗜虐の愉悦に鈍く輝いている。
仮面がズレて、一瞬垣間見せた本性……しかし、暴虐を受ける佐知子には、それに気づく余裕など、あるはずもなかった。
「ヒ…イッ、た、達也くん、やめて、そこは、もう、やめ」
「どうして? 感じないの? ここ」
「ち、ちがうっ、感じ、感じすぎるから、だから、やめてぇっ」
「やっぱり、そうなんだ」
無理やり佐知子に快感を白状させて、達也はようやく荒っぽいいたぶりを止めた。
しかし、それで佐知子の双つの肉葡萄を解放したわけではなくて、
「じゃあ、ここは優しく触らないとね」
指先を、隆起した大きめの乳暈にそっとあてて、軽く圧迫しながら、なぞっていく。
ゆっくりと数回、屹立した乳首の周りに円を描いてから。
親指の腹で、セピア色のしこりを根から先端へと擦り上げた。
「……フ…ハァ…ア……」佐知子が感じ入った吐息をもらして、喉を震わせた。
硬くしこった乳首の独特の肉感が、達也の指を楽しませたが。
無論、佐知子の感じる感覚のほうがはるかに強い。
「……ア……あぁ、達也…く…ん……」
ヌルヌルとした汗をまぶした柔らかな指の腹で乳首を擦られるのはたまらない感覚だった。
手荒い玩弄の後の優しい愛撫が、ことさらに効く。ジンジンと響いてくる。
「すごいな。こんなにビンビンになって」
「……いやぁ……」感嘆する達也に、羞恥の声をかえしながらも。
佐知子は、刺激に眩む眼を薄く開いて、嬲られる己が乳房を盗み見た。
(……あぁ……こんな……)達也の言葉通り、“ビンビンに”勃起した乳首。
いまは二本の指に摘まれて、ユルユルと扱かれて、切ない快感を乳肉全体へと波のように走らせている。
「敏感なんだね。佐知子さんの乳首」
「あぁ、いやっ、ちがうの」
確かに、そこが感じやすい場所だという認識は、以前からあった。
母子の秘密の閨で、裕樹が特に執着を示すこともあって
(…というよりも。乳房を吸われること以外では、肉的な快感を得ることがなかったので)佐知子にとっては、唯一の快感のポイントとして意識するのが、その個所だった。
しかし。
「……ちがう、の…こんな、こんなに……」
「こんなに? 感じたことはないって?」達也の問いかけに佐知子はコクリとうなずいた。
その通りだ。こんなに感じたことはない。こんな感覚は知らない。
「……達也くん、だから……こんなに…」
秘密を明かすように、ひっそりと呟いた。
恥ずかしげに、しかし、甘い媚びを含んだ眼で見つめながら。
「うれしいよ」達也は笑って。佐知子の頬に、軽く口づけて。
「もっともっと、気持ちよくしてあげる」
「……あぁ……」伏し目になった佐知子の、長い睫毛が震える。
怯えと期待の半ばした慄きにとらわれながら、達也が掬い上げた肉丘の頂へと口を寄せていくのを、佐知子は眺めて。
「……ア…ア……アァッ!」
唇が触れるのと、佐知子が昂ぶった叫びを張り上げて背を反らせるのと、どちらが先だったか、微妙なところ。
硬く尖った乳頭を唇で挟みこんで、チロリと舌を這わせた達也。
それだけでも、甲高い悲鳴を上げて身悶える佐知子の逆上せぶりを見て取ると、一気に烈しい攻勢に出た。
大きく開いた口にデカ乳を咥えこんで、音たてて吸い上げ、こそげるように舐めずり、歯で柔らかく噛んで扱きたて、しこった乳首を舌で転がした。
「ヒイイィッ、アヒ、ん…あああっ、ヒアアァッ」
暴虐的なほどに苛烈な刺激に双乳を攻め立てられて、佐知子はただ甲走った叫びを引っ切り無しに洩らして、身悶え、のたうった。
「ア、アァッ、いや、こんな、ダメェッ」
味わったことのない感覚、鋭すぎる快感は、いくら叫んでも身もがいても身体から出ていかずに。肉体の奥深くで凝り固まり、膨れ上がっていく。
「た、達也くん…達也、くん…」
経験したことのない肉の異変に怯えて、佐知子はすがるように達也の名を呼んだ肩を掴んでいた両手は、いつしか達也の頸にまわされて、抱きつくかたちになっている。
「……いいんだよ」くらいついていた乳房から口をズラして、達也が囁く。
「このまま、もっと気持ちよくなって」
「…アァ……でも、こんな……ヒイイィッ」
達也は再びかぶりつく。すでに、より感度がいいと見破った佐知子の左胸へと。
「ア、ああぁッ、アッアッ…」ひときわ苛烈な口舌の攻撃を受けて。
燃え盛る乳肉の快楽が急速に高まり、一点へと収束していって……
「……ア……ヒイイィィッ!」爆ぜた。
ギリリッと達也の歯が、乳首の根を強く噛みしめた瞬間に。
圧し掛かる達也の体を跳ね上げるようにエビ反った佐知子の肢体が、数秒硬直する。
“イッ”と歯を食いしばって、苦しげな皺を眉間に刻んだ顔を、頸が折れそうなほど、うしろへとふりかぶって。
ギューッと、達也の首を抱いた腕に力がこもって。
乱れた髪の先から反り返った足の指まで。数瞬の間、ピーンと硬直させて。
それから、ドサリと重たい音をたてて、崩れ落ちたのだった。
……激発は唐突であり、さほど深く大きなものではなかった。
だから、佐知子の意識の空白も、短い時間だったのだが。
「……ハ……ア……あぁ…」
自失から戻っても、佐知子には、なにが起こったのか解らなかった。
胸先から強烈な刺激が貫いた刹那、意識が白光に包まれた。
覚えているのは、それだけだった。
「……あ……わ、たし……」呆然と呟いて。頼りなく揺れる眼が、達也をとらえる。
達也は、佐知子の汗を含んで乱れた髪を、優しく手で梳いて、
「……佐知子さん、軽くイッちゃったんだね」労わるように、そう言った。
「……イッちゃ…た……?」達也の言葉を鸚鵡がえしにして。
数拍おいて、ようやく佐知子の胸に理解がわいた。
(……あれ…が……?)
“イく”という現象、性的絶頂に達したということなのか、と。
初めて垣間見た忘我の境地を、呆然と思い出す。
「うれしいよ。僕の手で気持ちよくなってくれて」
微笑をたたえて、そんなことを囁きかけながら。
(……ま、刺激が強すぎてショートしちまったってとこだな)
その裏の冷静な観察で、そう断じる達也だった。
佐知子自身よりも、はるかに正確に、彼女の肉体に起こったことを把握している。
つまりは、佐知子の感度の良さと、そのくせ快感への耐性がないことからの暴発であったのだと見抜いている。
まだ呆然としている佐知子を見れば、あの程度のアクメさえ、これまで知らずにいたことは明白で。
記念すべき最初の絶頂としては、あまりに呆気なかったと思うが。
(まあ、この先、イヤってほど味あわせてやるわけだからな)
それも、こんな浅く弱いものとは比べものにならないキツいヤツを。
とにかく、これでまたひとつ、達也のゲームは終わりに近づいたわけであり。
それには、チョット惜しいような気持ちもあるが。
佐知子の見せる肉の感受性の強さ、乳責めだけでイッてしまうほどの官能の脆さは、ゲームが終了したあとへの期待を、いやがおうにも高めてくれる。
この熟れきった感度のいい肉体が、本格的な攻めを受けて、どこまでトチ狂うのやら…と、淫猥な期待に胸を疼かせながら。
しかし、達也は、今日はここまで、と自制を働かせる。すぐそこまで迫ったゲームの結末を、思い描いた通りの完全勝利で飾るために。
……達也の手が触れて、いまだ虚脱して横たわっていた佐知子は我にかえった。
これ以上…?と一瞬怯えたが。
達也が、佐知子の鳩尾付近にわだかまったブラを引き上げようとしているのに気づいた。
どうやら、約束通りにこれで終わりにするつもりらしいと理解して。
「…い、いいのよ……自分で…」
慌てて達也を止めて、力の入らない腕をついて、重たい体を起こした。
ズリ落ちたブラともろ肌脱ぎになっている白衣にあらためてそんな放埓な姿を晒していた自分に気づいて恥じ入りながら、達也に背を向けるようにして、手早く着衣を直していく。
さんざん苛まれた巨大な乳房を掬い上げて、ブラのカップに収める……
そんな所作に、いかにも情事のあとといった生々しさが滲むようで達也はひそかに笑った。笑いながら、佐知子の背姿に漂う新鮮な色香を楽しむ。
ホックを留めるために両腕を背後にまわした時に浮き上がった肩甲骨の表情も、奇妙に艶かしかった。
気が急くのか、手元がおぼつかないのか、なかなかホックを留められずにいる佐知子に手を貸してやる。
「……ありがとう……」
「どういたしまして。僕が外したんだしね」
「………………」
小さな呟きに冗談っぽく返しても、佐知子はあちらを向いたままで、俯く角度を深くする。
いつ外されたのかも覚えていない自分を恥じていたのかもしれない。
白衣に両肩を入れて。胸のボタンを留めながら、
「……恥ずかしい…」ポツリと、佐知子は洩らした。声には涙が滲んでいた。
「どうして? 恥ずかしがるようなことなんか、なにもないじゃない」
心得ていた達也は、佐知子を背後から抱きすくめながら訊いた。
佐知子は抵抗しなかったが、肩越しに覗きこむようにする達也からは顔を背けて、
「……だって……あんな…」
「感じてる佐知子さん、とっても可愛かったよ」
「いやっ…」
「それに。僕だから、あんなに感じてくれたんでしょ?そう言ったよね。うれしいよ」
「………………」達也の手が佐知子の顎にかかって、そっと向き直らせた。
佐知子は眼を閉じて、達也の唇を受けいれた。
軽めのキスをかわしながら、達也は、佐知子の状態をうかがう。
腕の中、抱きしめた身体は、まだ高い熱を孕んで。
女の臭いが強く鼻をつく。汗と女蜜が混ざりあった、サカリ雌の臭いが。
(こりゃ、パンツはグッショリだな)
この後の、佐知子の行動が、ハッキリと予測できる。
もう少し気持ちが落ち着いたところで。股座の濡れに気づいて。
気づかれまいと必死に取り繕いながら、なにか口実を作って部屋を出ていくまでが。
(…で、トイレなり更衣室なりに駆けこんで。クッサいマン汁に汚れたパンツを見て愕然ってか)
まったく、眼に浮かぶようだと思った。
(……替えのパンツ、持ってんのかね?)
……いま、自分がいる状況が、危うすぎるものであるということを。
佐知子は自覚してはいた。
意識のすみで危険を叫ぶ声を確かに聞いていて。
だが、それに従うことが出来ない。ズルズルと流されてしまっている。
今日もまた、ふたりきりの病室で。
達也の腕に抱かれて、甘美なキスに心身を蕩けさせられて。
しかし、それだけで終わる密事ではなくなっている。佐知子が剥き身の胸を玩弄されて、生まれてはじめてのアクメを味わった三日前から。
いまも、あの時と同様に白衣の前ははだけられ、ブラジャーはズラされて、豊かな胸乳は露になっている。張りつめ、熱く体温をのぼらせて、横抱きの姿勢で脇の下から片乳を掴んだ達也の指の間に、乳首を勃起させている。
だが、それすらも、もうたいした問題ではないのだ。
ふたりの行為が、加速度的に危険な領域に踏みこんでいることを示すのは、達也のもう一方の手の行き先だった。
達也の片手は、佐知子の股間に伸びて、たくし上がった白衣のスカート部分に潜りこんでいるのだ。
佐知子のストッキングは膝まで捲くり下ろされて、両の太腿が白い素肌を晒している。
そして、逞しいほどに張りつめた太腿は、白衣の下で達也の手が微妙な蠢きを見せるたびに、ビクビクとわななき、キュッと内腿の筋肉を浮き立たせ、ブルルと柔らかそうな肉づきを震わすのだった。
「……フフ。すごく熱くなってるよ。佐知子さんのここ」
口を離した達也が悪戯っぽく笑って。“ここ”と言いながら、潜った手にどんな動きをさせたのか、佐知子が高い嬌声を上げて、喉を反らした。
達也は、仰け反った白い喉に唇を這わせながら、お決まりの問いかけを。
「気持ちいい? 佐知子さん」
「……あぁ……達也くん…」わかりきったことを聞く達也を、恨めしげに見やりながらも。
コクリ、と。小さく佐知子はうなずいた。
素直になれば……もっと、気持ちよくしてもらえる。
それが、この数日間の“レッスン”で、佐知子が学んだことだった。
レッスン?そう、それは肉体の快楽についての授業だった。
無論、達也が教師で、佐知子が生徒だ。
ふたりきりの病室が教室で、教材は佐知子の熟れた肉体。
日に何度となく繰り返される、秘密の授業。
達也は、教師として、この上なく優秀であった。その熱心な指導のもとに、佐知子は急速に快楽への理解を深めている。
本当に……自分はなにも知らなかった、と佐知子は思うのだ。
結婚生活を経験し、子供を生んで。それで、人並みには性についても知った気になっていたけれども。
それが全くの誤りであったことを、思い知らされている。この年になって。
親子ほど年の離れた若い男によって。
巧緻を極める達也の手管は佐知子自身が知らなかった肉体の秘密を次々と暴き立てていく。
性的には鈍であると思いこんでいた自分の肉体が、達也の手にかかれば、たやすく燃え上がり、過敏なほどに感覚が研ぎすまされる。
こんなにも豊かな官能が自分の身体に潜んでいた……という発見は、震えるような喜びへとつながった。より強く鮮明に、達也の手を、唇や舌を感じられることが嬉しいのだ。
だから、佐知子は、ここが病室であることも勤務中であることも意識の外に追いやって従順に達也の行為に身を委ねる。
愛しい若者の手から快楽を授かることに、至極の歓悦と誇らしさを感じて、少しづつエスカレートする達也の行為をゆるしてしまう。
いまも、スカートの中に潜りこんだ達也の手指に、下着越しに秘所を愛撫されて。
まさに、紙一重というべき危うい状況だと自覚しながら、そこから逃れようともせず、緩めた両脚に恭順の意を示して、達也の問いかけにも素直にうなずいて。
あけすけに、この瞬間の愉悦を明かして、さらなる快感を求めてみせるのだった。
「すごく濡れてるよ。また、下着を取り替えなくちゃならないね」
「……いやっ…」
達也の言葉に、佐知子は頬に新たな血をのぼらせて、かぶりをふった。
悦楽の時間のあとに、トイレで、汚れたショーツを穿き替える時の情けなさ。
だが、それほどに身体を濡らすことも、達也によって教えこまれたのだと思えば、この瞬間には、もっと濡らしてほしい、もっと溢れ出させてほしい、という倒錯した衝動がわきあがってくる。
「アアアァッ」
グリリッと、達也の指が、布地の上から強く女芯を押し揉んで佐知子の願望は叶えられた。
新たな蜜を吹きこぼしながら、淫猥に腰がくねる。
「アッ、イ、アッアッア…」
さらに連続するクリ責めに、佐知子の嬌声が高く小刻みになっていく。
そこを攻めたてられて絶頂を極めることも、すでに何度も経験させられていた。
呑みこみの良い佐知子の肉体は、すでにその感覚を覚えていて、忘我の瞬間へと気を集中させていく。
「アッアッ……あ…?」
だが。急激に高まった快感は、不意に中断した攻めに、はぐらかされてしまった。
ボンヤリと開いた眼に怪訝な色を浮かべる佐知子をよそに、達也は、肉芽から離した指を引っ掛けて、ショーツの股布をズラした。
「あ、いやっ…」
ベッタリと貼りついていた布地を剥がされ、熱く濡れそぼった秘肉を晒されたことを感得して、佐知子が心細げな声を洩らしたが。
それが拒絶の意味でないことは、すでに了解済み。
女の部分を直接触れられることさえ、これがはじめてではないのだから。
充血した肉厚の花弁を擽るように弄ったあとに、達也の指は、ゆっくりと進入する。
「……あぁ…」
佐知子が熱く重たい息をついた。女の中心を穿った達也の二本の指をハッキリと感じとる。
それへと、自分の蕩けた肉が絡みついていくのも。
達也の長い指が根元まで埋まりこんで。ゆったりとしたテンポで挿送を開始する。
「ふあっ、あ、いっ、アアッ」
たちまち佐知子は、はばかりのないヨガリ声を上げて、ギュッと達也のパジャマを握りしめて、崩れそうになる体を支えた。
「すごく熱いよ、佐知子さんの中。こんなに僕の指を締めつけて」
囁きで、佐知子の悩乱を煽りながら。達也は抜き差しする二本の指に玄妙な蠢きを与える。
「アヒッ、ア、んあ、ああぁッ」
熱く滾った肉壷を攪拌され、肉襞を擦りたてられて佐知子の閉じた瞼の裏に火花が散った。
たやすく自分の肉体を狂わせていく、達也の魔力じみた手管に畏怖と甘い屈従の心をわかせながら。さらなる狂熱と快楽の中に沈みこもうと、腰が前へと突き出される。裸の腿がブルブルと震えながら横へ広がって、膝の位置で白いストッキングがピーンと張りつめる。
「気持ちいい?」
また、達也に訊かれると、一瞬の躊躇もなくガクガクとうなずいて、薄く開いた眼で、うっとりと達也を見やった。
達也が唇を寄せると、待ちかねたようにそれを迎える。
濃密に舌を絡め、唾を交換しながら、達也の手は休むことなく動き続ける。
女肉への指の挿送を強く激しくしながら、豊満な乳房をキツく揉みしごいて、佐知子の官能を追いこんでいく。
知りそめたばかりの快感に対して、熟れた女の肉体は、あまりにも脆く。
くぐもった叫びを塞がれた口の中で上げた佐知子は、必死にキスをふり解いて、
「アアッ、た、達也くん、私、もうっ…」
切羽つまった声で、いまわの際まで追いつめられた性感を告げた。
また、あの魂消るような悦楽の瞬間を味わうことが出来るのだ、という喜びに潤んだ眼を輝かせて。
?だが。
「ああっ!?」
直後、佐知子の口から洩れたのは、感極まった法悦の叫びではなく、意外さと不満の混じった声だった。
突然達也が、女肉への攻撃を止めてしまったのだ。
「あぁ、いやぁ、達也くん」
絶頂寸前で中絶された快感に、ムズがるように鼻を鳴らして、腰をくねらせる佐知子にはお構いなしに、達也は白衣の下から手を引き抜いてしまった。
「……あぁ…」
泣きたいような焦燥と喪失感が佐知子を襲って。恨むように達也を見たが。
ほら、と、目の前にかざされた達也の手に、
「い、いやっ」
火の出るような羞恥を感じて、慌てて眼を逸らした。
達也の指は、佐知子の吐きかけた淫らな汁にまみれて、ベッタリと濡れ光っていた。
「スゴイね。佐知子さんて、ホントに感じやすいんだね」
「ああ、いやいやっ」
感嘆する達也の言葉が恥辱をあおって、佐知子は小さく頭をふった。
「……た、達也くんだからよ。達也くんだから、私、こんなに」
涙を浮かべた眼で、縋るように達也を見つめて、そう呟く。
実際、亡夫との営みでは(裕樹との情事でも、勿論)これほど濡らしたことなど一度たりともなかったから。佐知子にとっては、それは真実だった。
「うれしいよ」お定まりの弁明に、これまた、お決まりの言葉と笑みを返して。
その後に。達也は、指にからんだ佐知子の蜜を、ペロッと舐めとって、佐知子に悲鳴のような声を上げさせた。
「や、やめて、達也くん!?」
「フフ、佐知子さんの味」
「い、いやあっ、汚いわ」咄嗟に達也の手を掴んで止めさせようとする佐知子に、
「そんなこと、あるもんか。佐知子さんの身体から出たものが汚いわけないよ」
ふざけるでもない調子で、そう言い放って。
さらに達也は、チュッと音立てて、指先を吸って見せた。
「……あぁ、もう……」
あまりな達也の行動に言葉を失って、呆然と見やる佐知子。
佐知子の偏狭な常識をはるかに逸脱した行為。変質的ともいえる行為のはずなのに。
しかし、それが嫌悪の感情へ結びつかずに。
(……そんなにも……私のことを……?)
キワどい戯れも、自分に向ける想いの強さのゆえかと。恋と快楽に酔わされた心に納得してしまって、痺れるような歓喜を感じてしまう。
「ねえ、佐知子さん」達也は、佐知子の手を握って、下へと移動させた。
導かれるまま、佐知子の手は、達也の股間に触れる。
指先に感じた熱と硬度に、ハッと佐知子は息をのんで、反射的に手を引こうとしたが。
無論、達也はガッチリと押さえこんで、それを許さない。
「佐知子さんの感じてる顔が、あんまり色っぽいから。僕のも、こんなになっちゃった」
「……………」
甘えるように囁かれると、佐知子から抵抗の気ぶりが消えた。
ね? と達也に促されて、おすおすと巨大な膨らみに指を這わせる。
「……あぁ…」
相変わらずの、度外れた量感と鉄のような硬さを感じとって、熱い息が洩れた。
佐知子の指に力がこもるのを感得すると、達也は押さえていた手を外して、再び白衣の裾から潜りこませた。
「アッ、い、あぁっ」
秘裂への刺激が再開されると、佐知子は待ちわびたといったふうに、たちまち反応した。
腰をうねらせ、舌足らずな嬌声を断続させながら、達也のこわばりを掴んだ手を動かしはじめる。半ば反射的な行動だったが、さすられた達也の剛直が、ググッと力感を増すのを感じると、もう手を止めることが出来なくなった。
……白昼の病室での秘密の痴戯は、相互愛撫のかたちとなって、いっそう熱を高めていく。
もはや、“達也の強引さを受け入れるだけ”などという、おためごかしの言いわけもきかない痴態を演じながら。
佐知子は夢中で嵌まりこんでいった。
逞しい牡の象徴に触れていると、いっそう血が熱くなって、肉体の感覚が鋭くなって。
達也の手から与えられる快感が、何倍にも増幅されるように感じられた。
だから佐知子は、やがて達也がパジャマと下着をズリ下ろして、猛り狂う怒張を露にした時にも、それを当然のことのように受け容れて、一瞬の躊躇もなく巨大な屹立へと指を巻きつけていった。
?12?
「……あぁ…」
熱く、生臭い息が洩れる。佐知子は快楽に霞んだ眼を細めて、握りしめた牡肉を見つめた。
“生”は効いた。類稀なる逸物の凄まじい特徴のすべてが手肌からダイレクトに伝わってきて脳髄を灼く。総身の血肉を沸騰させる。
狂乱を強める佐知子の肉体を、達也は嵩にかかって攻め立てた。
荒々しく、しかし、悪辣なまでの巧妙さで、パンパンに張りつめたデカ乳を揉みたくり、とめどなくヨガリ汁を溢れ出す肉孔を抉りたてて、母親ほども年上の熟女ナースを
身悶えさせ、引っ切り無しの嬌声を上げさせる。
「アッ、いぃっ、たつや、くん、ああっ」
剥き出しの胸や腿を粘っこい汗にテカらせ、半脱ぎの白衣もベッタリと肌に貼りつかせて、たまらない快美にのたうちながら、佐知子は対抗するように達也の剛直を烈しく扱いた。
達也が顔を寄せると、鼻を鳴らして、自分からも吸いついていく。
舌をからめ、達也の唾を飲みこむうちにも、体の奥で、巨大な感覚の波がせくり上がってくるのを感じた。
(……く…来る…?)
これまでで最大級の波濤を予感して、ブルッと身震いを刻みながら。
無論、肉の震えは、恐れよりも遥かに大きな希求のゆえであったから。
佐知子は、諸手を上げて、迫りくる巨大な波へと身を投げようと……。
……したところで。
「…いま」口吻をほどいて。達也が囁きかけた。
「佐知子さんと、ひとつになれたら最高に気持ちいいだろうな」
「……あぁ……あ…え…?」
目の前の悦楽を掴みとることだけに意識を占められて、佐知子はうわの空に聞き返したが、
「こんなに熱くなってる佐知子さんの中に、僕のを入れたら。死んじゃうくらい気持ちいいんだろうな、って」
もう一度、より露骨に繰り返した達也の言葉の意味を理解して、ギョッと目を見開いた。
「だ、ダメよっ、達也くん」
「わかってるよ」
怯えた声で掣肘する佐知子に、達也はうなずいて見せる。
「僕も、無理やりなんてイヤだからね。佐知子さんの心の準備が出来るまでは我慢するよ」
年に似合わぬ物分りの良さを示して。それに、と笑って続けた。
「病室で、そこまでしちゃうのはマズいよね、さすがに」
「………………」曖昧な表情になって。佐知子には、答えようもない。
まだ、達也と最終的な関係を結ぶ覚悟は決められずにいた。
これだけの痴態を演じておいて、いまさらとも言えるだろうが。
それでも、やはり、“最後の一線”を越えるかどうかは、佐知子にとって大問題だった。
それを踏み越えることで決定的に倫理や良識を犯すことになる…という恐れがある。
そんな理性の部分での恐れの感情は、当然のこととしてあって。
しかし。それとは別に、もっと強く大きな恐怖がある。
もっと、根源的な部分で感じる恐れが……。
「だから、いまは、こうして触れあうだけで満足しておくよ」
そう言って、達也は、緩めていた愛撫をまた激しくしていく。
「アッ…はぁ、ああ」
水を差された快感を掻き立てられて、佐知子はたやすく悩乱の中へと追い戻される。
だが、悦楽に浸された意識にも、最前の達也の言葉は刻みこまれてしまっていた。
“ひとつになれたら、最高に気持ちいいだろうな”
……握りしめた達也の肉根が、これまで以上の存在感で迫ってきて。
佐知子は薄く開いた眼で、それを盗み見た。
(……あぁ…)圧倒的なまでの逞しさと、禍々しい姿形が眼を灼く。
その凄まじい迫力は、佐知子を怯えさせる。
そうなのだ。佐知子が、ここまで痴情の戯れに耽溺しながら、最後の一線を越えることを逡巡する最大の理由は、達也の逞しすぎる肉体に対する恐怖のゆえなのだった。
(……こんなの…無理よ……)
出産経験のある年増女の言いぐさとしては可愛らしすぎる気もするが。
佐知子としては、まったく正直な思いなのだった。なにしろ、佐知子が過去に迎え入れたことがある亡夫と息子の男性は、達也とは比較にならないほど卑小だったから。
(……こんな……)
こんなに太くて長くて硬いモノに貫かれたら……肉体を破壊されてしまう、と佐知子は本気で恐怖する。
だが。その一方で。
その巨大さに、ゴツゴツとした手触りに、灼鉄のような熱と硬さに、ジンと痺れるものを身体の芯に感じてしまいもするのだ。
若く逞しい牡の精気に威圧されて、甘い屈従の心を喚起されそうになる。
そんな己の心を自覚すれば。もうひとつの、本当の恐れにも気づいてしまう。
単純な苦痛への怖気の先にある、より深甚なる、暗い闇のごとき恐怖。
こんな肉体を、迎えいれてしまったら……こんな牡に犯されてしまったら。
自分は、どうなってしまうのか?
その時こそ。達也によって齎されてきた自分の変容は決定的なものとなって。
まったく別の自分に変えられてしまうのではないか、これまでの、越野佐知子という存在は消え失せてしまうのではないか。
そんな不穏な予感があって、佐知子を怯えさせるのだった。
……だが、そんな懊悩や葛藤も、佐知子の肉の昂ぶりを冷ますことはない。
むしろ、“達也によって変えられてしまう自分”への恐怖は、そのまま甘い陶酔に転じて、佐知子の血を滾らせてしまう。
「……でも」
そんな佐知子の心の揺れは、冷酷な眼で読み取っているから。達也は、このタイミングで
言葉をかける。熱っぽい声で、予定通りの科白を。
「正直いえば、早く佐知子さんと、ひとつになりたいよ。僕のを、思いきり、佐知子さんの中にブチこみたい」
「…ああぁっ」
露骨な物言いに刺激されて、佐知子は高い叫びを上げて、ブルッと胴震いした。
「こ、怖いのよっ」けぶる瞳で達也を見つめて、釣りこまれたように本音を口走る。
「達也くんのが、あまりにも逞しいから……怖いの」
「そんな、心配してたの? 大丈夫だよ」内心で哄笑しつつも達也の声はあくまで優しく。
「これまで、みんな、とっても気持ちいいって言ってくれたよ。僕のオチンチン」
サラリと。過去の女遍歴を仄めかして、保証した。
「……………」カッと、喉が熱くなるのを佐知子は感じる。
勿論、達也が豊富な経験を積んできたことは聞くまでもなくわかっていた。
そうでなくて、どうしてこれほど女を狂わせる術を身につけているものか。
これほど魅力に溢れた達也だから、当然だとも思う。
しかし、実際に言葉にして聞かされれば、乱れてしまう心を抑えきれずに、
「……たくさん……女を知っているのね…」
そんな言葉が、勝手に口をついて出た。
責めるではなく、恨むような声になってしまうのは、はるか年上な女の負い目か、今この瞬間にも痺れるような快楽を与えられ続けている身の弱さか。
「気になる? 佐知子さん」
「……知らないわ…」
「遊びだよ、これまでのことは。言ったでしょ?佐知子さんは、僕がはじめて本気で好きになったひとだって」
甘ったるく囁いて。達也は、弱めていた玩弄の手にジンワリと力をこめていく。
「こうして、佐知子さんを喜ばせるために、経験を積んできたってことかな」
「……調子の…いいこと…を…」
そう言いながら。確かに、女の優越心を刺激されてしまって、佐知子の声も甘くなる。
どだい、グショ濡れのヴァギナに指を突っこまれたままの状態では、年甲斐もなく拗ねたような態度を持続できるわけもなかった。
先ほど、絶頂の間際まで追いこまれた時点から、落ちることも昇ることも出来ないままに、緩やかな攻めに官能を炙られ、焦らされてもいたから。
「……あぁ……達也くん…」
佐知子は、もっと強く、とねだるように、秘肉を貫いた達也の指の周りに腰をまわした。
達也は、佐知子の快楽を引き伸ばすように、ジックリと攻め立てながら、
「だからね。その時が来たら、僕を信じて任せてくれればいいんだよ」
暗示をかけるように、佐知子の耳へと吹きこんだ。
「そうすれば、こんな指なんかより、ずっと気持ちよくしてあげるから」
「……こ…これより…も…?」これ以上の快楽など、本当にありえるのだろうか?と。
「そうだよ。だって」
グッと、達也は二本の指を根元まで佐知子の中へ突きこんで、高い嬌声を上げさせると、
「ペニスなら、こんな指よりもずっと、佐知子さんの奥深くまで届く。これまで触れられたことのない、気持ちいいところを刺激してあげられる」
それに、と。指先を曲げて、熱くトロけた膣襞を強く擦りたてた。
「アヒィッ、あっあっ」
「ペニスなら、これよりずっと太いから、佐知子さんの中を一杯に満たして。ゴリゴリ、擦ってあげられる」
無論、達也は、自分が仕向け追いこんだ佐知子の窮状を見通していた。
この同級生の母親が理知的な美貌と豊満な肉体をもった熟女看護婦が自分の与える快楽に溺れこんで“触れなば落ちん”という状態にまで追いつめられていることを理解していた。
しかし、このゲームの終着は、あくまで佐知子の側から自発的な屈服を引き出すことだと。
自らの構想に固執する達也は、非情なまでの手管で、燃え狂う佐知子の官能を、さらに追いこんでいく。
「あっ、あああっ、もう、もうっ」
今度こそ、という切実な思いを気張った声にして、佐知子が喚く。
汗に濡れた半裸の肢体を、瘧のようにブルブルと震わして。
ドロドロの女陰が、達也の指をギュッと絞りこんで。
「あ、もう、もうっ」
極限まで膨れ上がった愉悦が弾け飛ぶまで、もう、ひと突き、ひと擦り……
「……ヤバい」
らしくもない、焦った声。だが、そう洩らした達也の顔は冷静で。
見計らった、このタイミングで、女肉を攻める手の動きをピタリと止めた。
「アアッ!?」佐知子が悲痛な叫びを上げて、カッと眼を見開く。
達也の、わざとらしい呟きを、佐知子は聞かなかった。聞き取る余裕などなかった。
佐知子にわかったのは、今度こそ快楽のトドメを刺してくれるはずだった指が、突如動きを止めたことだけ。
「イヤッ、イヤ……あ、ダメェッ!」
悶絶せんばかりの焦燥を泣き声で訴えて、ズルリと引き抜かれていく指を追って、
あさましく腰を突き上げても無駄だった。乱れた白衣の裾から、
佐知子の淫汁にベットリと汚れた達也の手が抜き出される。
その動きで白衣のスカート部分は完全に捲くれ上がって、佐知子の白い太腿や、股布が横にズラされたまま伸びてしまったようなパール・ホワイトのショーツ、黒い濃厚な繁みまでが露になった。それらは、一面、粘っこい汗と蜜液にビッチョリと濡れそぼっている。
しかし、佐知子には、自分のそんなあられもない姿態を顧みる余裕などなかった。
「ど、どうしてっ? 達也くん」
泣きそうに顔を歪めて、達也に質した。ふいごのように腹を喘がせ、巨大な双つの乳房を大きく揺らして。片手は達也の男根をキツく掴んだまま、もう一方の手には、彼女自身の淫液にまみれた達也の手を引き戻そうという気ぶりさえ示しながら。
とにかく、一刻も早く行為を再開して、悦楽を極めさせてほしいという切実な思いが全身から滲んでいたが。
「……ごめん」
バツが悪そうに苦笑した達也は、自分の屹立を握る佐知子の手を外して、
「あんなこと、言ってたせいか……なんだか、我慢できなくなりそうで」
「……え…?」
「その、佐知子さんと本当にセックスするイメージを掻き立てちゃってさ、自分の言葉で。これ以上続けたら、我慢できずに、佐知子さんを襲ってしまいそうで」
「……襲っ、て…」
「それじゃ、約束を破ることになるもんね」
それを避けるために、行為を止めたということだった。
佐知子は呆然と、達也の説明を聞いて。
「……で、でも…」思わずといったふうに、取りすがるような声を出した。
「うん?」
「そ、それで、いいの?達也くんは…」
「佐知子さんが、本当に僕とひとつになる決心をつけてくれるまで、待つっていうのが約束だからね」
言葉に迷うようすの佐知子と、アッサリと言い放つ達也。
「勢いに流されて、佐知子さんの意思を無視することだけはしたくないんだ」
「………………」決然たる態度に、佐知子はなにも言えなくなってしまう。
確かに、それはあくまでも佐知子の意思を尊重しようとする達也の誠実さの表れと言えるのだろう。
(……でも……)
それにしても、あまりにも酷なタイミングではなかったかと。生殺しの悶えを抱えて、佐知子は恨めしさを感じずにはいられないのだった。
あと少し……ほんの少しだったのに……。
それほど、達也も追いつめられていたということだろうが。責めるのは、身勝手すぎるのだろうが。
でも……。
剥き出しの胸を隠そうともしないまま、ギュッと自分の腕を抱くようにして、火照りの引かぬ肉体の疼きに耐える佐知子。
その悩乱のさまを尻目に、
「……よっと」達也は、器用に腰を浮かせると、下着とパジャマを引き上げた。
「あっ……」
佐知子は、惜しむような小さな声を洩らして、咄嗟に手を伸ばしかけてしまう。
いまだ隆々と屹立したままの達也の男性が、無理やり隠される。
パジャマの股間を突上げる大きな膨らみを見下ろして、
「…ま、そのうちおさまるでしょ」また苦笑して、達也は言った。
「ほ、本当に、いいの? 達也くん」
念を押すというよりは、翻意をはかるように佐知子は訊いた。
達也の解消されぬ欲求を気遣うようで、実のところは途絶した淫戯に未練を残しているのだということは、見えすいてしまっていた。佐知子に自覚する余裕はなかったが。
「うん。我慢する。正直、手でしてもらってるだけでも、自分を抑えきれなくなりそうなんだよね、いまは」
「……そう、なの…」
「病室で、それはマズいもんねえ?」
「そ、そう、ね」
「僕だって、いやだからね」
つと、達也が佐知子の裸の肩に手を伸ばして。佐知子はドキリと反応したが。
「そんな、ドサクサみたいに佐知子さんと結ばれるのは」
しかし、達也の手は佐知子の肘までズリ落ちた白衣を掴んで、そっと引き上げたのだった。
「……あ…」
いまさら、自分の放恣な姿に気づいたように、佐知子は達也が肩まで戻してくれた白衣の襟を掴んで引っ張った。
「今日の反省もこめて、改めて誓うよ」真剣な眼で、達也は佐知子を見据えて。
「佐知子さんが、すべてを許してくれる決心がつくまで、僕は我慢する。けっして、強引に佐知子さんを奪ったりしない」
「…………………」
佐知子は、なにも言うことが出来ずに。ただ、気弱く揺れる瞳で達也を見つめるだけ。
達也は、またバツの悪そうな笑みを浮かべて、
「でも……今日ので、僕の理性も、あんまり信用できないって分かっちゃったからなあ。 明日からは、佐知子さんにキスしたり触れたりするのも、少し控えなきゃね」
「…………………」佐知子の唇が、微かにわななく。だが、結局、言葉は紡がれずに。
「…………………」首を傾げるように俯いて、捲くれ上がったスカートを直した。
膝にわだかまったストッキングを引き上げる。
しどけない横座りの姿勢での、その挙措には、物憂い色香も漂ったが。
どこか茫然とした表情や、覚束ない手の動きには、ひどく頼りない風情があった。
途方にくれるようにも見えた。
「あんた、鬼だよ。宇崎クン」
つくづく……といった思い入れで、高本が言った。電話の向こうの達也に。
市村も、それには同意である。
定例の、達也からの経過報告。今日は、ずっと高本が達也と話しているのだが。
傍らで聞いてるだけで、おおよその状況は解った。
実際、達也の遣り口は、ムゴいとも言えるほどで。それをして、鬼や悪魔呼ばわりするのにもまったく異存はないが。
しかし、やたらといきり立っている高本が、達也に翻弄される越野佐知子に同情しているわけではないこともわかっている。当たり前だ。
「ハァ?いや、越野ママが、どんだけ悶え苦しもうが、そんなこたあどうでもいいのよ。つーか、それについちゃ、ジャンジャンやってくれとお願いすることも、ヤブサカでないオレなのよ」
案の定、この言いぐさである。……なんだか、ニホン語が怪しいが。
「オレが言いたいのはさ、そうやって、宇崎クンが楽しんでる間はさ、越野ママと一緒に、 オレも焦らされてるってことよ。まだかまだかと待ち続けて、ギンギンになってる、このチンコを、どうしてくれるのかと」
ようするに、言いたいことは、それなのだった。
実のところは、それほど時間がかかっているわけではない。むしろ、順調すぎるほどに達也の佐知子攻略は進行しているわけだが。
しかし、すでにいつでもモノに出来る状態にありながら手を出さない達也のやり方が、高本には承服できかねるらしい。
「つーかさ、その状況で、ブチこまずにすませるってのが、信じられないよ。ホントに血ィ通ってるのかって、思うよ」
……まあ、高本らしい憤慨の仕方ではある。
でも、それが達也だろう、と市村は思うのだ。
まだ完全にはシナリオを消化していない。まだ、佐知子へのいたぶりを楽しみ尽くしていない。だから、達也は、トドメを刺さなかった。
すでに完全に達也の手に落ちて、本音では達也に犯されることを待ち望んでいる佐知子を突き放すこと。達也にとっては、それこそが自分の快楽に素直に従った行動だったのだ。
(……まあ、異常だけどな)
つくづく、こんな化け物に眼をつけられた、それもかなり気に入られてしまった佐知子は、哀れなことだと、同情する市村だった。
……同じ頃。越野家。
白いバスローブ姿の佐知子が、浴室から出てきた。
首にかけたタオルで洗い髪を拭きながら、キッチンへと向かう。
冷たいミネラル・ウォーターをあおって、湯上りの喉と身体を潤す。
ホッと息をついて、見るともなく周囲を見回した。
キッチンにも、続きの?リヴィングにも、ひとの気配はなかった。
先に入浴を終えた裕樹は、二階の自室に引き上げたようだ。
明日はテストがあるから、今夜は少し遅くまで勉強しなけらばならないと夕食の時に言っていた。
だから……今夜、裕樹が寝室に訪れることはないだろう。
そんな思考をよぎらせて。直後、そんな自分に眉をしかめて。
佐知子は、使ったコップを洗って、キッチンを出た。
自室へと向かう途中、階段の前で足が止まった。
階上は静かだった。かすかに、気配が伝わるだけ。裕樹は真面目に試験勉強に取り組んでいるらしい。
……やはり、今夜、裕樹が寝室に来ることはないようだ、と。
また、その事実を佐知子は胸に呟いてしまう。
学業に差し障るようなら関係を絶つと、以前に釘をさしたのは佐知子自身であり、裕樹はよく母の戒めを守っていた。
「………………」
ボンヤリと暗い階段を見上げていた佐知子の手が、手すりにかかった。
素足にスリッパを履いた片足が上がって、一段目のステップを踏みかけて……
フウと息を深い息をついて、佐知子は足を戻した。
踵をかえして、階段から離れる。
……馬鹿な考えを起こしかけた、と自省する。
やって来た息子を受け入れるのと自分から息子の部屋を訪れるのとでは、まるで話が違う。
裕樹との秘事は、快楽を求めてのものではなかったはずだ……と。
自らに言い聞かせたのは、心理の表層の部分。その裏には。
求めるだけ無駄だという諦めが、確かにあった。
この肉体に巣食った疼きを、裕樹に鎮められるわけがない、と。
それよりは……この数日に覚えてしまった、ひとりの行為のほうが……。
その思いに急かされて、佐知子は駆けこむように寝室に入った。
バタンと、大きな音をたてて、ドアは閉ざされた。
……さんざん、高本が達也への恨みごとを並べたあとで、市村は電話を代わった。
『いや、まいった』さすがに辟易した調子で、達也が言った。
「まあ、ずいぶん、念入りに楽しんでるみたいだからね。高本が焦れるのも無理ないよ」
「そうだよ。もっと言ってやって、市やん」
『うーん、実際、楽しいんで、ついついな』
「でも、怪我の回復は順調なんだろ? いつまでも入院してるわけにもいかないんだよ」
『ああ。そうだよな』
「そろそろ、次の楽しみ方に切り替えてもいいんじゃないの」
「市やんが、いいこと言った!」
横で、うるさく騒ぐ高本に手をふって黙らせる。
「まあ、達也がデティールに凝るのは知ってるけどさ。それだってもうじきなんじゃないの?」
『そりゃあ、佐知子しだいだな。どんだけ辛抱するかって』
「見当はついてんだろ? こっちも、越野への報告会を開く都合があるからさ。実際、あとどれくらい持ちそうなの? 越野のママは」
『どのくらいって…』達也はせせら笑って、
『明日一日、持ちこたえたら、感心するけどな』
まあ、無理でしょう、と。自信たっぷりに言い放った。
……その一日は、いつもとまったく変わらぬように始まった。表面的には。
「おはよう、佐知子さん」
「お、おはよう、達也くん」
いつも通りの笑顔で迎えた達也に、ぎこちなく挨拶をかえして。
朝の検診をしようと、ベッドの傍近くに寄った時に、
「……あっ」
腕を捉えた達也の手に柔らかく引き寄せられて。次の瞬間には、佐知子の身体は達也の腕の中にあった。
「今日も、綺麗だね」間近に見つめて、惚れぼれと述懐した達也が口を寄せる。
「……ん…」
少しの抵抗も示さずに、佐知子はそれを迎えて。唇が合わさると、ギュッと達也の肩にしがみついた。
「……ふ…ん……」達也の舌が滑りこめば、はや昂ぶった息を鼻から洩らして。
待ちかねたように自分から舌をからめて吸いついた。
ここ数日の習慣となった朝の挨拶。それが、この日も行われたことが佐知子を安堵させ喜ばせた。
昨日の達也の自戒の科白、“キスや身体に触れることも控える”という言葉が気にかかって、
胸を重くさせていたから……。
あっという間に口舌の快楽に嵌まりこんで、ふんふんと鼻を鳴らしながら、熱っぽい体を押しつけてくる佐知子のノボセ面を、達也は観察する。
今朝の佐知子は、特に念入りな化粧を施しているのだが。
しかし、その下の憔悴の色を隠しきれていなかった。
(クク…悶々と、眠れぬ夜を過ごしたってとこだな)
独り寝の褥で、熟れた肉体の火照りに、朝まで身悶え続ける佐知子の姿が目に浮かぶようだった。
(俺の指を思い出して、自分で慰めたのか?俺にされるみたいに気持ちよくなれたかよ?)
まあ、無理だろうな、と倣岸に確信する。
いくら自分の指で疼く体をイジくりましたって、望むような快感は得られずに。
結局、肉の昂ぶりを鎮めるどころか煽りたてるだけで終わったのだろうと。
(また、そんな辛い夜を過ごしたいか? とっとと楽になっちまえよ)
苦しみから解放されるにはどうすればいいのか、いい加減に理解しろ、と。
(まあ、佐知子が素直になれるように、俺も協力してやるけどな)
恩着せがましく、そう内心に呟くが。
“協力”などという名目で、実際にやろうとしていることは……。
優しく佐知子を抱きとめていた達也の手が滑って、肩から二の腕を撫で下ろした。
「……フン……ンフ……」
それだけで、佐知子はビクリと身体を震わせて、鼻から洩れる息を甘くする。
全身の肌が、驚くほど敏感になっていた。
一晩中、官能の火に炙られ続けたせいだ。
隠せぬ憔悴があらわす通り、佐知子はほとんど眠っていなかった。
長い夜の煩悶ぶりも、達也の見抜いたとおり。
素っ裸で、ベッドの上を転げまわるようにして。
切なく達也の名を呼びながら、自分の手で張りつめた乳を揉みたくり、濡れそぼる女肉をコネまわした。
懸命に達也の愛撫をなぞって、しかし、得られる快感は達也の与えてくれるものとは程遠く、あまりにも頼りないもので。
夜が白む頃に、疲弊によって短く浅い眠りにつくまで、ついに満足は得られなかった。
肉奥の火は燃え続けて、身体の熱は高まり続けている。
だから、朝っぱらから達也が仕掛けた接触に、佐知子は歓喜して縋りつく。
むしゃぶりつく、という気ぶりを口舌の激しい蠢きにあらわして、
腕を達也の首に巻きつける。
クタリとしなだれかかった柔らかな身体、その総身から、なにもかも受け容れるという心情が滲み出ていた。
どうにでもして、と。
この苦しみから救ってもらえるなら、なにをされてもいいから、と。
なにを……されても……
「……ンフウウッ」佐知子が、喉の中で歓悦の叫びを上げる。
白衣に包まれた豊満な胸の膨らみに、達也の手が触れたのだ。
閉じた瞼の裏に光が弾けた。
どうして、達也の手はこんなにも気持ちいいのだろう。
まだ、着衣の上から、そっと掴まれただけなのに。昨夜、自分の手で裸の胸を強く握って、どれだけ激しく揉みしだいても得られなかった鮮烈な快感が、熱く滾った肉房から身体中へと伝わっていく。
(……もっと……もっと……)
さらなる快楽を求めて、達也の手へ乳房を押しつける佐知子。それに応えて、達也の指に力がこもる。
(……あぁ……)
ソフトなタッチで、熱く体温をのぼらせた乳肉を揉みほぐされて、佐知子の背に甘い痺れが広がる。うっとりと眉宇がひらいていく。
だが、一夜の焦燥に炙られた肉体には、その繊細な刺激は、切なさを増すだけだった。
(……もっと……もっと強く揉んでっ)
口を塞がれていなければ、その求めは言葉になって吐き出されていた。
代わりに、なおも軽い愛撫を続ける達也の手を掴んだ。それは、もっと強い行為を促すためだったのだが。
(あぁっ!?)あっさりと、達也は佐知子の胸から手を外してしまった。
「わかってるよ」キスも解いて。達也は、目を見開いた佐知子にうなずいてみせた。
「控えるって、昨日約束したもんね」
「ち、違っ…」愕然として。そんなつもりではなかったと訴えかける佐知子をよそに。
「どうしても誘惑に負けちゃうんだよなあ。佐知子さんを前にすると」
自嘲するように呟いた達也は、佐知子の肩を抱いた腕も離してしまう。
「た、達也く…」
「……どんどん、佐知子さんへの想いが強くなってるってことだろうな。危ないよね。謹まないと」
「………………」苦笑する達也に、なにも言えなくなって。
佐知子は泣くように顔を歪めて、呆然と達也を見つめていた。
……佐知子の、長く辛い一日は、まだはじまったばかりだった。
達也は誓約を守った。
佐知子への身体的な接触を“控える”という誓言を守って、この日の午前を過ごした。
そう、“控える”と達也は言ったのだ。“もう、しない”とは言わなかった。
ふたりきりの病室で、昨日までは頻繁に行っていた淫らな戯れの、回数を控える。
過激さを増して、危険な領域にまで踏みこんでいた行為の、程度を控える。
そういう心づもりであったことを、実践によって佐知子に知らせた。
午前中に、もう一度だけ、達也は佐知子の腕をとって引き寄せた。
無抵抗に、というよりは、ほとんど自分から倒れかかるように達也の腕の中におさまった佐知子にキスして、身体に手を這わせた。
胸を、朝よりは強く長く揉みしだき、腰から尻を撫でまわした。
過剰なほどの反応を佐知子は示して、必死の勢いで達也の舌に吸いつき、熱い身体を押しつけた。嬉しそうに撫でられる大きな臀を揺らした。
その熱烈さには、なんとか達也を誘いこもうとする意図が見え透いていたが。
しかし、達也の手は、佐知子の着衣を乱すこともなく、核心部分に近づくこともせずに、疼く肉体の表面を撫でただけで離れた。
哀切なうめきを洩らして、やるまいと引き止める唇もふりほどかれて。
そして達也は、笑って言うのだった。
『これくらいは、いいよね』
まだ、しっかと達也の首に抱きついて、悲痛な眼で見つめる佐知子の表情には“これくらい”で終わられることこそ辛いのだ、という心がありありと映っていた。
『……達也く…ん…』
淫情に潤んだ声で名を呼ぶことで、察してくれと訴えた。佐知子には精一杯のアピール。
しかし達也は、首に巻きついた佐知子の腕を(そこにこもった抵抗の力にも気づかぬ素振りで)
優しく外すと、体を離してしまった。
佐知子には、いや増した肉体の苦しみだけが残されたのだった……。
そんな残酷な振る舞いの後は、すぐに達也は平素の態度に戻った。
ベッドに身を起こした姿勢で、傍らの佐知子にあれこれと会話をしかけることで、まったりとした時間を潰すという、いつも通りの過ごしかた。
しかし。当然ながら、対する佐知子のほうは、平常な状態ではいられなかった。
……この部屋で達也と過ごすようになって以来、佐知子が“平常な状態”でいられたことのほうが、稀であるとも言えるが。
定位置である椅子に座って、表面上は達也との会話につきあいながら、佐知子は一向に落ち着かぬ気ぶりをあらわにしていた。
すぐに、うわの空になり、沈思に入りこむ。
しきりに、椅子にすえた臀の位置を直した。
切ない色をたたえた眼で、ジッと達也を見つめた。
時折、なにか言いたげに唇が動いて。逡巡の末に、ため息だけを洩らすということを繰り返した。
何度か、些細な理由をつけては立ち上がって、ベッドへと近づいた。
急に、シーツを取りかえると言い出したのも、そのひとつだった。
その作業をする間、佐知子の体には滑稽なほどの緊張が滲んでいた。
いつものように、達也を寝かせたまま、シーツを替える作業に、やけに時間をかけて。
そして、これは無意識のことだったろうが。屈みこむときの腰つきには、微かにだが明らかなシナを作っていた。
不器用で迂遠な、しかし佐知子なりには懸命な誘いかけ。
そうと気づいたから、達也はなにも手だしをしなかった。内心の嘲笑を穏やかな笑みに変えて、佐知子を見守ってやった。
たっぷりと時間をかけて。それ以上どうにも引き伸ばせないとなって。
佐知子は、失望に顔を暗くして、外したシーツを手にベッドから離れた。
……このように、佐知子には、もう自分がどれほど、その内心の焦燥や煩悶をあからさまに態度にあらわしてしまっているか、顧る余裕もなくなっていた。
そして、その変調が、時間が経つほどに強まっていることも、明らかと見えた。
残酷な愉悦をかみしめながら、なにくわぬ顔で達也は観察を続けた。
ひとつ、達也の注意を引いたのは、佐知子が時おり、白衣の腰のポケットを気にするようすを見せることだった。手で押さえるようにして、ジッと視線をそこに向ける。
そっと達也の顔をうかがい、また手元に視線を戻す。
なんだ?と達也が怪しんだのはそうする時の佐知子が特に緊張の気配を強めるからだった。
真剣な表情で考えこんで。意を決したふうに、ポケットの中に指を差しこんで。
そこで迷って。結局、ふんぎりをつけられずに、嘆息とともに指を抜き出す。
そんなことを、達也の眼を隠れて(隠れているつもりで)、佐知子は何度も繰り返した。
佐知子の不審な行動の意味を達也が知ったのは、午後になってからのことだった。
昼食を終えて、ベッド用のテーブルを片そうとした佐知子を、達也は抱き寄せた。
この時も佐知子は、ことさらゆっくりと行動していたし、身ごなしはスキだらけだったから(そのくせ、緊張しているのだが)
後ろから腰に腕をまわして引き寄せることは雑作もなかった。
無論なんの抵抗もなかった。軽く力をかけただけで重く柔らかな肢体が崩れかかってくる。
達也は、広げた両脚の間に佐知子の大きな臀をつかせて、白衣の背に覆い被さるようにしながら、肩越しにキスを仕掛けた。
佐知子は身をよじり、細い首をねじって、それに応える。
窮屈な姿勢をものともせず、熱烈に達也の舌を吸いながら。
腰にまわっていた達也の手が、腹を撫でまわし始めると佐知子は素早く自分の手を重ねて。
重たげに張りつめた豊乳へと、掴んだ達也の手を導いた。
この積極さには、さすがに達也も驚きを感じながら。求めに応じて、掬うように柔肉を掴んだ手に、ギュッと強い力をこめる。
悦びに佐知子は喉を震わせて。しかし、これだけでは、与えられる快感に酔っているだけでは、また同じこと繰り返しになると、思い知っていたから。
さらに佐知子は、攻勢に出た。
ベッドに乗り上げた巨臀をひねって、グルリと体を反転させて、向き合うかたちになった達也に、圧し掛かるといった勢いで抱きついた。
まるで、人が変わったような積極的な動き。
それほどに佐知子は追いつめられていた。満たされぬ官能の疼きに苦悶する、長い時間に。
これ以上は耐えられない、と。必死な思いに衝かれて。
キツく達也の首ったまにしがみついて。豊満な乳房を、潰れるほど強く圧しつけて。
そして……片手が達也の背を腰のあたりまで滑りおりて。
数瞬の逡巡のあとに、前へとまわりこんで。
おずおずと、達也の股間の膨らみを掴みしめたのだった。
「……佐知子さんっ!?」
口を離した達也が瞠目する。達也からの誘導もなしに、佐知子がそんな露骨な行為に出るのは、はじめてだった。
佐知子は俯いて、達也から表情を隠すようにした。かたちのいい耳朶まで赤く染めているのは羞恥のゆえだったろうが。達也の下腹部へと伸ばした手を離しはしなかった。
「ダメだよ」腰を引きながら、狼狽を装って、達也はそう言ってみた。
佐知子の手は、離れずについていく。ギュッと指の力を強めながら。
わずかに力を得た状態だった達也の肉体が、ググッと頭をもたげていく。
それを掌に感じとって、大きく肩をあえがせると。佐知子は顔を上げた。
一瞬だけ達也に合わせた視線を、すぐに横へと逸らしながら、
「た、達也くん、辛いでしょう?」微かに上擦る声で、口早にそう言った。
「まあ……そりゃあ、ね」
とりあえず、達也は調子を合わせた。内心に、“おいおい”と呆れた思いを呟きながら。
「でも、仕方ないよ。我慢する」
「………………」
昨日からお定まりとなった、その返答を、佐知子も当然予期していたはずだが。
さて、どうでるか? と、達也は待った。
二日に渡る焦らしに耐えかねて、俄然大胆な動きに打って出た佐知子だが。
どこまでハラをくくったものかと。
「……ホントに、すごく欲望が強くなっちゃってるって感じるんだ、自分で。だから……手でしてもらったとしても、絶対、途中で抑えがきかなくなる気がするから」
胸の中で、なにか激しく葛藤しているようすの佐知子へと。
思いやるふりで、さらに追いつめる言葉をかけながら。
「大丈夫だよ。我慢できるから。そんな、気を使わないで」
そう言って、膨らみを掴んだ佐知子の手を、そっと外した。
これで、この戯れは終わり、という雰囲気を作って。
それが、佐知子にためらいを振り払わせた。
「あ、あのっ…」引き止めようとする気ぶりを、やはり上擦った声にあらわして。
片手が、例のポケットに差しこまれて、なにかを掴む動きを見せる。
なに? と物問いたげな表情を浮かべて、佐知子の思いつめた顔を見返す達也だったが。
視界のすみには、ちゃんと佐知子の手の行動を捉えて。
(まさか、“ビスケットがひとつ”ってわけでもないだろうしな)
なにが出るかな…と、興味深く待っていた。
「……あ……あの、ね…」佐知子の声は急速に勢いを失って。気弱く眼が泳ぐ。
それでも佐知子は、大きくひとつ息をつくと、
「……こ、これ、を…」
ギクシャクとした動きで、ポケットから抜き出した手を、達也へと差し出した。
「……これ?」達也は怪訝そうに、佐知子の顔と、その手に握られた物を見比べた。
佐知子が白衣のポケットから取り出したのは、薄いパス・ケースだった。
「………………」佐知子は朱を昇らせた細首をねじって、顔を横に向けている。
とにかくも達也は、ケースを受け取ろうとした。
一瞬、佐知子の指に力がこもって。まだ迷う色を見せながら、手離した。
達也は、受け取ったパス・ケースを掲げて、よく眺めてみる。
赤い合皮の、薄手でシンプルな。なんの変哲もない品物だった。
二つ折りを開いてみる。
内側の透明なプラスチックの中に差し込まれているモノを見つけて、軽く眼を見開いた。
ピンク色の小さな正方形。その中に浮き上がった丸い輪。
思わず達也は、口笛を鳴らすかたちに唇をすぼめてしまった。
(ポケットの中には……コンドームがひとつ、か)
?13?
「……達也くんが」
真っ赤に染まった顔を横に向けたまま、佐知子は震える声を吐き出す。
「達也くん、が、辛いなら……い、いいの…よ…」
弁解の響きを帯びた言葉が尻すぼみになりながらも、佐知子は言いとげた。
「………………」達也は無言で見つめた。
視線の先で、佐知子は、身も世もない羞恥に灼かれている風情だ。
実際、達也も意表をつかれたような、佐知子の大胆な行動と科白だった。
昨日来の生殺しは、達也の予想以上の効果を佐知子に齎したようだ。
それほど、達也の与える絶頂の味に病みつきになっていたということでもある。
そして、昇華されない官能の昂ぶりに責め苛まれる中で、渇望はより大きく育ってしまったのだ。
その挙句の行動が……コンドーム持参とは、ある意味、いかにも佐知子らしいというか。
どうせ、“万一のときのために”とか自分に言いわけしたのだろうが。
結果としては、それを持ち出すことで、達也に“抱いてくれ”と願ったわけだ。
言葉面はどうあれ、内実はそういうことである。佐知子の追いつめられた心の真実は見え透いていた。
佐知子にすれば、せめて許諾を与えるというかたちをとることが、最後の矜持だったのだろうが。
(……甘い)それでは、達也を満足させることは出来なかった。
(まあ、ウブな佐知子ちゃんにしちゃあ、ガンバったってのは認めるが。この期におよんで、まだカッコつけようってのが、ダメ)
到底、合格点はやれないと無慈悲な判定を下した達也は、
「……ありがとう、佐知子さん」いかにも感激したように、そう言ったあとで、
「でも、無理しないで」とても優しい声で、残酷な言葉をかける。
「……え…?」
間の抜けた声を洩らして、佐知子が横に逸らしていた顔を達也に向けた。
「僕のことを気づかってくれるのは、本当に嬉しいけど。でも無理はしないでよ。いまは、佐知子さんの、その気持ちだけで充分だから」
そう言って微笑む達也を、佐知子は呆然と見つめた。
まさか……拒まれるとは、思ってもいなかった。
「僕なら大丈夫だから」
「で、でも、達也くん」
請け負う達也の穏やかさは、佐知子が予測し期待していた反応とは、かけ離れたもので。
慌てて、取りすがるような声をかけても、
「佐知子さんの優しさにつけこむようなことは、イヤなんだ」
柔らかな口調で、しかしキッパリと言い切られてしまえば、それまでだった。
“達也が辛いなら”などと、体裁を取り繕ったばかりに。
達也はパス・ケースの中からコンドームを抜き取ると、
「これは、もらっておくよ。佐知子さんの心づかいの証として」
「………………」
そんなふうに言われても。頭から冷水をかけられたような気分のいまの佐知子には、
達也の手にする薄い四角形が、自分の姑息な手口の証拠品にしか見えない。
「……約束のしるし、でもいいけどね。“その時”まで、預かっておくってことで」
「………………」呆けたような表情のまま、佐知子は達也に眼を合わせた。
瞳が揺
次の体験談を読む