08月5

女王様

俺が小学生の時住んでた町はとある工業地帯で、住民の70%強がその工業に関わってた。
そしてそのうちの90%以上がある会社と会社の下請けの社員だった。
俺の学年にはその工業の会社の支社長の娘がいた。

もうみんなその娘を女王様のように扱っていた。
そうしないと娘本人が癇癪起こして俺たちをいびりまくるし
俺たちもそいつの機嫌をとらなきゃ親がクビになるってわかってたから。
ちなみに女王様の両親は今で言うモンペだった。

女王様には取り巻きの女が何人かいて、リーダー格がA子。
こいつがホントに小学生か?ってくらいのドS女だった。
たいがいいじめの方法はこいつが考えて「女王様次はこんなのどうでしょう」「いいわねウフフ」
みたいな感じで決まって、手を下すのもこいつ。女王様はそれ見てにやけてるだけ。

A子の考えるいじめ手段は実にエグいものばかりで
便所にターゲットの持ち物を捨てて口で拾わせる
好きな子をみんなの前で告白させられたあと好きな子の前でズボンとパンツをおろされる
鼻クソや犬のフンを食わされる
一番仲のよい友達の作った工作物を本人の前で壊させる、絵を破かせる
顔に絵の具で落書きをされてそのまま家に帰らされる
などなど精神的にクる攻撃をするのが非常に巧かった。

俺たちの復讐心が女王様よりもA子に向かっていったのは当然の成り行きだった。
女王様はA子のすることをケタケタ笑いながら見てるだけのアフォだったが
A子は虎の威を借りる狐状態で何年も俺たちをネチネチいびり続けた。

しかし不況の波は俺たちの町を突然襲撃した。
女王様の父上が支社長だった工場は撤退し、あっという間に廃墟と化した。
光の速さで県外に引っ越していく女王様一家。

あとには町にはあふれかえる失業者と、いじけきった俺たちと、女王様の元取り巻きたちが残った。
A子はじめ取り巻きたちは仕返しされるんじゃないかと怯えていたようだ。
しかし表面的には何事もなく、A子がただハブられたというだけで小学生時代は終わった。

A子へのみんなの復讐はなぜか中2になってから始まった。
誰も言い出さなかったからやらなかっただけなんだが
中1の時は誰も仕返しに乗り出さなかったからA子も安心してたらしく普通に友達作って部活してたりしてた。
なんで中2から始まったのかはよく知らない。

仕返しはかつてA子にやらされたことをそのまま返すだけのある意味淡々としたものだった。
A子は気が向いたら誰かの鼻クソを食わされたり、絵の具で顔に落書きされたり
憧れの先輩の前でスカートとパンツを脱がされたり
美術や工作で作ったものは全部その日のうちに破られるか壊されるかしていた。
みんな気が向いた時にしかしなかったが
被害者の数は膨大だったので結果的にはA子は毎日誰かしらにやられていたようだ。

A子は中2の2学期までは学校に来たが、それ以後は来なかった。
どうなったのか誰も知らない。誰もA子を迎えに行かなかった。
卒業式にも来なかったから、卒業証書は誰かが「届ける」と預かったまま捨てたと聞いた。

その後、親たちが職を求めて散り散りになったせいでクラスメイトの続報はよくわからないが
A子一家はまだあそこにいて、A子は未だに引きこもりだそうだ。

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