いまでも高円寺にはいろいろな飲み屋がありますが、先輩とよくその界隈で飲んでいました。
もう30年以上前ですが、その日はあまり持ち合わせがなくて、先輩が安いところに行こうと言って、立ち飲み屋に連れて行ってくれました。
たとえばデンキブランが小さいグラスに一杯50円でした。
今はもうその店はありません。
だから書けるんですが、そこは50位のダメ親父の奥さんみたいな顔、別の言い方をすれば、鬼瓦みたいな顔のおばさんがカウンターに立って、お客の注文を聞いていました。
常連らしい職人風のおっさんが声を掛けました。
「ねえ、今度お花見に行かない?デートしようよ」
お客はほとんど男ばっかりで、おばさんは冷やかしに馴れているんでしょう。
ぶっきらぼうに答えました。
「馬鹿言ってんじゃないよッ」
おっさんの方を見もしないで、俯いたおばさんの顔は真っ赤でした。