10月16

K男 vs 春恵

私…19歳
K男…21才
Tさん…年齢不詳 聞いた所によると50代 事務員 独身

私はバイトで予備校の中学生クラスのバイトしてた。
専門の講師が居て、私は教室をブラブラしながら、
分からない事がある生徒にちょっと教える程度だけど。
それと同じ仕事をしてたのがK男。
K男は結構イケメンで性格も明るく、生徒たちには人気があり、私たちの間でも評判が良かった。

そしてある日、私はTさんに「ちょっといいかな」とトイレに呼び出された。
なんだろうと思って付いて行ったんだけど、洗面台に手をついてずっと喋らないTさん。
話しかけてもうつむいたまま…
そしてようやく話し始めたと思ったら「私、好きな人が居るの…」。
うっとりした瞳で「愛に年齢って関係あるのかな、やっぱり…」とか言うんで
ちょっと興味持ってしまった私は「あの、相手は…」と聞いたら、
「K男君なの…どうしよう、私この気持ち止められない」と泣きだした。

Tさんは芸能人で言うと赤木春恵。
春恵の目つきを悪くしてもっと頬を垂れさがらせた顔。
身長は150ちょいで、多分体重は7?80キロはあるかな…
モロおばさん体形で胸、腹、下腹と段々になってる。
性格……(姑ってこういう感じなのかなぁ…)としみじみ思う。
機嫌が悪いと(これがまたしょっちゅうなんだわ)ネチネチ嫌みを言ってくる凄く恐ろしいおばちゃん。
だから私もその時はきっと嫌味を言われるんだと思ってた。

私の手を取り「ねえどう思う!?やっぱり無理かな!?」と迫ってくるので
「えーっと…あ、でもK男さんって彼女居ますよ…」
と言ったらすごくショックを受けた顔をして泣きだした。
どーしよーー誰か助けてーーと思いつつもTさんを慰めていたら
K男君の彼女の事を凄い勢いで聞かれた。
「えーっと、たしかK男さんの彼女は年上で…」と言ったら顔を輝かせて
「K男君って年上の女が好きなんだ!!」とはしゃぎだした。
「あ、でも年上って言っても彼女さんが一浪して入学したからいっこ上で…」
「きゃー!嬉しいーー!」
「美人でちょっと松嶋奈々子似の…」
「じゃあ私にもチャンスはあるって事よね!!私がんばっちゃう!!」
「すごくスレンダーで…」
「あー、今日三越によって行こうっと!口紅と洋服買って帰らなきゃ!
明日K男君にお弁当作ってあげよっと!一人暮らしじゃあんまりいい物食べてないよね!」
「あ、あのK男さんは実家ですけど…」
「おかず何がいいかなぁ!?あ、でもいきなりそんな事したら
はしたない女って思われちゃうかなあ!?」

聞いちゃいねぇぇぇぇぇぇ!!!!!

そしてベアハグされて「ありがとーーー元気出ちゃったーー!!」とルンルンでトイレを出て行った。
私は便器に座って(どうしよう……)としばらく考え込んでしまったが、
まいっか!!と放置決定。

そして次の日、Tさんはエラい事になっていた。
塗装の様な化粧、ショッキングピンクの口紅、ひらひらレースのチュニック、ミニのフレアスカート…
そして普段は「ハイ、おはよう」と貫録たっぷりにあいさつするのに
「おっはよー^^」と甲高いだみ声で化粧にヒビはいりそうな笑顔。
実際かなりヒビ入ってたけど。
事務員さん達は神妙な顔で、変な雰囲気。
Tさんはそれに気がつかず私に意味ありげにウィンクしてきた。

愛想笑いして逃げようとしたら追いかけて来て、またトイレに連れ込まれ
「ねぇ、こ・れっ!どう?うふふ」とクルクル回りだし、
「ああ…良いと思います。あのもうすぐ授業なんで…」と言って逃げた。
Tさんはうっとりと鏡を見ていた…

授業を終えて、変な雰囲気の事務室に行き、
報告書を書いていたらK男さんが入って来た。

K男さんも空気がおかしい事に気が付いており、
私何か問いたげな目を向けてきたけど、私が何か言う前にTさんが
「K男くーーん!」とやって来て「はい、コーヒー!スキでしょウフッ!」
目をパチパチしながら「チューターさんには出さないんだけど、と・く・べ・つっ」
K男さんは唖然としていたけど「あ、すいません…」と受け取った。
「お砂糖とミルクは?K男君の好み知りたいな!」
「ブ、ブラックで…」
「ええーすごーい!かっこいいー!あたしお砂糖たくさん入れないと飲めないのぉ」
正直(うぉーー何だこの人おもしれぇ!!)とか思ってしまった。

当然その日の内に噂が広まり、
数日の内には生徒さん達も知ることになった。

Tさんの行動はエスカレートし、K男さんが居る教室の前でじーっと見つめたり、
デートに誘ったり、お弁当を渡そうとしたりしていた。
そしてまたTさんにトイレに連れ込まれる私。
泣きながら「やっぱり私、恋しちゃいけなかったのかなぁ!
遠くから思ってるだけでもダメなのかなぁ!」
聞けば上司からは散々怒られるわ、
生徒たちから「キモババァ」と言われるわ、
おまけにK男さんに「迷惑です!」と弁当を突っ返されるわで、
Tさんは大変なショックを受けていた。
結局K男さんはバイトを辞め、
Tさんは「これ以上問題を起こしたらクビ」とまで言われたらしい。

K男さんが居なくなって激しく落ち込んだTさんはある日凄い事をした。
ある書類の署名欄に「K山T子」(K山はK男さんの名字)と書き、
K山というハンコを押して上に提出したそうで上司にがっつり〆られたらしい。
信用第一の客商売なのに、なんでクビにしないのか不思議だったけど、
何と言ってもTさんは勤続何十年のベテランと言う事もあって色々難しかったらしい。

そしてまた私はトイレに連れ込まれ、Tさんは
「ここ辞めたらもう障害はないよね?もう…いいよね…」と悲劇のヒロインに。
私は「いや、止めた方がいいと思いますが…」と進言したものの
相変わらず人の話をまるで聞かないTさんは
「彼が大学卒業したらもう一回がんばる!」と鏡の中の自分に向かって励ましていた。

ここまで来たらもう面白いとか言ってられなくって、私も講師の先生に相談。
取りあえずこの件にはもう関わらない様にして、
あとは自分たちに任せて、と言ってもらってホッとしてたら
数ヵ月後、腕もげそうな勢いでTさんにつかまり、またトイレに引きずり込まれた。
最初ワンワン泣いてるばかりで話にならず、
今の内に抜け出して誰か呼ぼうか、と思っていたら
Tさんがまたガシっと私の腕をつかんできた。
そして「K男君が…K男君が…うわぁぁーー」。

無事大学を卒業したK男さんはかなり遠い県で就職し、もう地元にはいない。
実はこれ皆知ってたんだけど、K男さんを無事脱出させるため、
Tさんを刺激しない様に地元で就職ってな事をさりげなく聞かせてた。

その次の月、Tさんは退職した。
「私の最初で最後の恋なの。諦めきれない。会えなくてもいい。
せめて近くで、同じ空の下にいたい…同じ空気を吸いたい…彼を感じていたい…」と言って、
K男さんが就職したのとは全く違う県に引っ越して行った。
ホントは大阪(仮)だけど、名古屋(仮)って皆で口裏合わせしてたもんで。

何故私がここまで気に入られたのか分からないけど、
とにかく引っ越して行ってくれて助かった。
老いらく(まではいかないか)の恋はすごいね。
しかもストーカー気質だとホント怖い。
あれから7年経つんだけど、K男さんは無事だろうか…
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