12月20

迫真の演技で・・・

親戚の法事の関係で、週末に帰省してきました。
遊びではありませんので、土日で1泊してきただけです。
久しぶりに会った親戚の人たちと、たくさん話をしました。
自分でも憶えていない子供時代のことを聞かされたりして、懐かしいひとときです。

親といっしょに実家に帰ってきたのは夕方でした。
明日の午後には東京に戻って、また月曜の出勤に備えなければなりません。

夕食をすませて自分の部屋に入りました。
最近では、年に数回のペースで実家に戻ってきていますが・・・
なんだか・・・
戻ってくるたびに・・・

私は普段、東京で一人暮らしをしています。
自分で言うのもなんですが、日々まじめに過ごしているつもりです。
でも・・・そんな私にも、人には言えない秘密があります。
いつも自分を抑えて生活している反動なのでしょうか・・・
心の奥底に、無性に刺激を求めるもうひとりの自分が潜んでいるのです。

(誰にも知られずにどきどきしたい)
(あの興奮を味わいたい)

ここ1年ばかり、帰省するたびにそんな気持ちになってしまう私がいます。
この日も例外ではありませんでした。

山奥の渓流での恥ずかしい体験・・・
野天風呂での思い出・・・

記憶をよみがえらせながら、気持ちがうずうずしてきます。
ひとたびこうなると、もう我慢できませんでした。
行きたくて行きたくて、仕方なくなります。
こうして帰省してきたときぐらいにしか、訪ねることのできないあの特別な場所・・・
でも、今回は時間がありません。
明日の午前中のうちには、帰りの新幹線に乗ってしまうつもりでした。
(したい。。。)
東京に戻れば、また変わり映えのしない日々が待っているだけです。
衝動に駆られました。
(また、ああいうことをしたい)

むかし何度か行った市営プール?
・・・でも、この時間からでは遅すぎます。

(そうだ)
ふと、頭をよぎったことがありました。
(いつかの銭湯・・・)
(あそこなら)

スマホで調べてみます。
1月に訪ねた、隣町の銭湯・・・
(そうだった)
偶然に居合わせた小学生の男の子に、
(たしかS太くんといったっけ)
どきどきしながら、はだかを見られたあの銭湯・・・
土曜ですから、きっと今日だって営業しているはずです。

もちろん、わかっていました。
あんな都合のいいシチュエーション・・・
そうたびたび巡り合えるものとは思っていません。
頭の中で計算していました。
(銭湯といえば)
はるか昔の記憶がよみがえります。
(閉店後の従業員さん。。。)
まだ地方都市で勤めていたころの羞恥体験が、頭をよぎっていました。

時間を見計らって家を出ました。
営業時間が『終わったころ』にタイミングを合わせます。

夜道を、ゆっくり車を走らせていました。
隣町ですから、そう遠くはありません。
もう雪は降り止んでいましたが、景色は一面真っ白でした。
前回来たときも雪景色だったことを思い出します。
しばらく運転していると、その『銭湯』が見えてきました。
駐車場に車を入れます。

トートバッグを抱えて車から降りました。
建物の入口まで行くと、もうノレンは出ていません。
・・・が、中に明かりはついています。

まだ鍵はかかっていませんでした。
おそるおそる入口の戸を開けます。
質素なロビー(?)は無人でした。
正面のフロントにも、もう人の姿はありません。

下駄箱に靴を入れました。
ここまではイメージどおりです。
下手にコソコソした態度だと、かえって不自然に思われかねない・・・
そのまま堂々とロビーにあがってしまいます。
奥の『女湯』側の、戸を開けてみました。

戸の隙間から中を覗きます。
照明はついていますが、無人でした。
(どうしよう)
ちょっと迷って、今度は『男湯』側の戸をそっと開けてみます。

(いる!)
中の脱衣所に、掃除中(?)のおじさんがいるのが見えました。
一気に感情が高ぶります。
(どきどきどき・・・)
まるでスイッチでも入ったかのように、
(ど・・・どうしよう)
気持ちが舞い上がるのを感じました。

(どきどきどき・・・)
(どきどきどき・・・)

見ているだけで、なかなか行動に移せません。
目の前の実際の光景に、まだ覚悟が追いついてきていない感覚です。
そこから一歩を踏み出すのには、かなりの勇気が必要でした。
(どうするの?)
もうあそこには、現実に男性がいるのです。
決断を迫られていました。
いまなら引き返すこともできます。
でも・・・悶々とするこの気持ち・・・

(やろう)
自分の演技力にかけようと思いました。
(だめなら、だめでしょうがない)
無理だと思えば、その時点で諦めればいいだけのことです。
(どきどきどき・・・)
遠慮がちな口調で、
「あ、あの・・・すみません」
ついに、そのおじさんに声をかけていました。

私に気づいたその男性が、『おやっ』という顔でこっちを見ました。
(ああ、この人)
見覚えがあります。
お正月に来たときに、フロントにいたおじさんに間違いありませんでした。
あのときは、ずいぶん不愛想な印象でしたが・・・
「はい、はい」
どうしました?という顔で、近づいて来てくれます。

「あの・・もう終わりですか?」
恐縮して聞いてみせる私に、
「いちおう○時までなんですよ」
もう営業時間が終わったことを教えてくれます。

客商売ですから当然といえば当然のことですが・・・
このおじさん、愛想はちっとも悪くなんかありません。

「そうですか・・・もう終わり・・・」

がっかりした顔をしてみせると、
「まあ、でも」
おじさんは、ちょっと考えるような表情を浮かべてくれました。

あ・・・
(チャンス。。。)
すぐに気づきました。
(見られてる)
瞬きなく私をじろじろみつめるおじさんの目・・・

私は、男の人のこの『目』の意味を知っています。
それを察した瞬間から、心の中で密かに手応えを感じていました。
大丈夫・・・
きっと引き留められるはず・・・

あえて帰りかけるふりをしようとする私に、
「せっかく来てくださったんだから」
「まあ、いいですよ」
(やっぱり来たっ!)
「よかったら入っていってください」

『えっ?』と驚いた顔をしてみせて、
「いいんですか?」
半信半疑の面持ちを向けてみせました。
(よしっ!よしっ。。。)
本当は、迷惑なんじゃ・・・
表面上そんな戸惑い顔をつくって、おじさんの表情を確かめるふりをします。

「はいはい、どうぞ」

・・・本当にいいのかな?
そんな遠慮がちな仕草で、ちょっとおどおどするふりをしつつも、
「ありがとうございます」
嬉しそうに、お礼を言いました。
日頃鍛えた業務スマイルで、『にこにこっ』としてみせます。

私ももう、そんなに若いわけじゃありませんが・・・
この田舎のおじさんから見れば、まだまだ今どきの『若い女の子』です。
(・・・この人)
この目の動き・・・
(・・・絶対そう)
私は、しっかり見抜いていました。
このおじさんは、女の子に弱い・・・というか、完全に甘いのです。
はにかみながら、
「じゃあ・・・すみません」
私が『にっこり』微笑んでみせると、
「いえいえ、いいんですよ」
ますます愛想のいい顔になっていました。

(きっと、うまくいく)

演技を続けました。
「あ・・じゃ、お金」
私がトートから財布を出そうとすると、
「あまりお見かけしないけど・・・」
「このあたりの方?」
しゃべりながら、フロントのほうへと促されます。

「いえ、東京からちょっと用事で」
適当に言葉を濁しながら、千円札を渡しました。
「どうりで見ない顔だと思った」
「いっつも、ばあさんしか来ないもん」
返答に困ったように首をすくめてみせると、
「はい、おつり」
楽しそうに小銭を返してくれます。

こうしてしゃべってみると、何も特別なことはありません。
そう・・・よくいるタイプの中年おじさんでした。
若い女の子を相手にするのが嬉しくてしょうがないという感じです。
そして・・
「途中で片づけに入らせてもらうかもしれませんけど」
「ごゆっくりどうぞ」

さりげなく付け加えられたその一言に、
(来たっ)
心の中で電気が走っていました。
自分でも怖いぐらいに、『思いどおり』な展開です。

無垢な女の子になりきっていました。
最後まで遠慮がちな感じで、
「それじゃあ・・・すみません」
「ありがとうございます」
精一杯のはにかみ顔をつくってみせます。

背中におじさんの視線を感じながら、女湯側の戸を開けます。
中に入って、静かに戸を閉めました。

(どきどきどき・・・)
胸の鼓動が収まりません。
(やった)
ここまでは完璧でした。
自分でも信じられないぐらいに、狙いどおりの展開です。

とんとん拍子すぎて、かえって現実感がないぐらいでした。
(あのおじさん。。。)
途中で入ってくるかもしれない・・・
あのせりふは、たぶん布石です。
間違いなく来るはずだという確信がありました。
(どきどきどき・・・)
今日に限っては、運頼みなんかじゃありません。
自分の力でつかみとったチャンスです。
そう思うだけで、異様なほどの高揚感がありました。

貴重品をミニロッカーにしまいます。
誰もいない脱衣所に、私ひとりだけでした。
服を脱ぎます。
『かもしれない』なんかじゃない・・・
(きっと来る)
私の勘がそう言っています。

脱いだ服を畳んで、手近な脱衣カゴの中に入れました。
下着も脱いで全裸になります。

「ふーっ」
息を吐いて、気持ちを落ち着かせました。
(だいじょうぶ)
ここは銭湯です。
(裸でいるのは、あたりまえのこと)

これでも、外見の容姿にだけは多少自信がある私です。
姿見の鏡の前に立ちました。
ほっそりした色白な女・・・
(どこからどう見たって)
そこに映っているのは、いかにも『奥ゆかしげ』な女の子です。

(相手は銭湯の人なんだから)
(堂々としてればいい)
わかっていても、
「ふーう」
久々の緊張感に、ついつい何度も深呼吸してしまいます。

(役に立つかも)
そんな気がして、トートバッグからヘアピンのケースを取り出しました。
ポーチの中に移します。

ポーチとタオルを持って、奥のガラス戸を引きました。
お風呂場へと入ります。
洗い場のイスに腰かけて、手早く髪を洗いました。

(親切そうな、あのおじさん)
50代の後半ぐらいでしょうか。
歳のわりには、禿げ上がった頭がつるつるでした。
『いい人』なのは間違いありません。
でもやっぱり、
(さっきの、あの目・・・)
ちょっとはにかんでみせただけで、
(簡単に鼻の下を伸ばしちゃって)
良くも悪くも、人のいい『田舎のおじさん』という感じでした。

流した髪を後ろで結わえました。
続けて、からだも洗ってしまいます。

(あのおじさん。。。)
きっと女湯に入って来ます。
仕事がら、たぶん女の裸なんて見慣れているに違いありません。
あの人には、日常の光景かもしれないけど・・・
(それでも、かまわない)
私にとっては、じゅうぶん恥ずかしすぎるシチュエーションです。

シャワーで、からだを流しました。

ポーチは、洗い場に置いたままにしておきます。
タオルだけ持って、立ち上がりました。

大きな湯船に入ります。
「ふーっ」
からだをお湯に沈めて、大きく息を吐きました。
もう後には戻れません。
頭の中でイメージしていました。
(おじさんが脱衣所に入って来たら)
そのタイミングで、私もお風呂からあがるのです。
(あの人だったら)
きっと、また・・・
掃除をしながら気さくに話しかけてくることでしょう。
少し恥ずかしげに、タオルで胸を押さえながらも・・・
下着もつけずに、おじさんと談笑する私・・・
「ふうー」
想像するだけで、なかなかのプレッシャーです。

10分ぐらい・・・?
だんだんのぼせながらも、ずっとどきどきしていました。
(だいじょうぶ)
(自然体でいればいい)
私は何も悪くない・・・
(ただ銭湯に来ているだけ)

しばらくして、
(あ・・・)
そのときは、唐突にやってきました。
(来た!)

ガラス戸の向こう・・・
脱衣所に、あのおじさんが入ってきています。

(どきどきどき)

女湯を一望する感じで、おじさんがこっちを見ました。
ガラス越しに目が合います。
お湯につかったまま、軽く会釈してみせました。
おじさんも、ガラス戸の向こうで『にこっ』としてくれます。

(どきどきどき・・・)

自分の心拍数が急上昇しているのを感じていました。

(どきどきどきどき・・・)

おじさんが、向こうで脱衣カゴを重ねています。
お風呂からあがるなら、
(いましかない)
あの人が脱衣所にいる今こそが絶好のチャンスでした。
(行かなきゃ、行かなきゃ)
タイミングを逸したら、もうそれまでです。
(あっちは客商売)
絶対に安全な相手・・・
(私は、ただの入浴客)
後ろめたいところなどありません。

(どきどきどき)
自分の心のタイミングを計りました。

「ざば」

自然な感じで、お湯の中から立ち上がります。
目線を上げると、脱衣所のおじさんが目に入りました。
顔はにこっとしたままで、
(あ・・あ・・あ・・・)
『じっ』と、こっちを見ています。

一糸まとわぬ真っ裸でした。
おっぱいも、アンダーヘアも、まる出しです。
(どきどきどき)
私は、あたりまえの『何食わぬ顔』をしていました。
そのまま、髪を結わえ直します。
「ざば、ざば」
お湯の中を大股に歩いて、
「ざば」
湯船のふちに置いていたタオルを取りました。
(やぁん、見られてる)
そのまま跨いで、湯船の外に出ます。

15mぐらい向こう・・・
ガラス戸の向こうから、ずっと視線を感じていました。
(恥ずかしい)
顔が『かーっ』と熱くなってきます。
でも、そんな感情はおくびにも出しません。
平然とした顔で、控えめにタオルを胸にあてました。
からだの前に垂らしたまま、『なんとなく』おじさんのほうを見ます。
また目が合いました。
警戒心のない表情で、ちょっと微笑んでみせます。

内心、ものすごく興奮していました。
(気持ちいい)
真っ裸でいながら、無垢な女の子を演じる自分が快感です。
非日常の興奮にどきどきしていました。
(あそこに男の人がいるのに)
私はこんな格好でいるのです。
表情こそ、いやらしさは感じさせなくても・・・
あのおじさんは、間違いなく『じっ』とこっちを見ています。
(もっと)
脳を溶かすような陶酔感が、私を後押ししていました。
(もっと近くで)

自然に演技に入っている自分がいます。
洗い場に置いたポーチを取りに向かっていました。
そして、どうして突然そんなことを思いついたのか・・・
自分でもわかりません。
(ああ、どうする?)
頭にイメージが浮かんでいました。
(できる)
(やっちゃえ)
自分が使った洗い場の前まで来て・・・
いきなり、ふらふらとよろけてみせます。

立ち止まって、顔をしかめていました。
おじさんが・・・またこっちを見ています。

(今だ)

突然、からだを『くにゃっ』と折り曲げます。
その場に、へたりこんでみせました。
お風呂の床に、お尻をぺたんとつけてしまいます。
そのまま、『がっくり』うつむいてみせました。

「ガガっ」
ガラス戸の開く音がしました。
脱衣所にいたおじさんが、慌てて近寄ってきます。
「大丈夫ですか!?」
さすがに驚いた感じの口調でした。

つらそうにゆがめた顔を『ぼーっ』と上げて、
「すみません・・・」
「ちょっと、貧血が・・・」
かすれた声をしぼりだします。
タオルで胸を押さえて、かろうじて前だけは隠していました。

「だいじょうぶ?」
おじさんが、寄り添うようにしゃがみこんでくれます。
(イヤぁ、近い)
目の前におじさんの顔がありました。
私は、つらそうに顔をしかめたまま、
「気持ち・・わるい・・・」
それどころではないふりをします。

ただの『貧血』とわかって・・・
とりあえず、おじさんも安心したのでしょう。
「向こうにベンチがありますよ」
やさしく声をかけてくれます。
・・・が、
「ここだと冷えるから」
銭湯の人といえども、相手はやはり中年の男性でした。
その目線だけは『正直』です。
(イヤぁ)
からだに当てた細いタオルだけがよりどころの私・・・
すべてを隠しきれているわけではありませんでした。
(恥ずかしい)
羞恥心に火がつきます。

「向こうまで行ける?」
おじさんが、脱衣所のほうを指しています。

「立てる?」

泣きそうな声で、
「はい・・・」
返事をしていました。

のっそり、立ち上がろうとする私・・・
補助するように、おじさんが私の両腕を取ってくれます。
そして・・・
(あっ、あ・・ああ)
その腕を引かれていました。
押さえていたタオルが離れて、
(あ、ああ。。。)
からだが露わになってしまいます。
(いじわる)
絶対に、わざとでした。
おじさんの眼前で、私のおっぱいがまる見えです。

「だいじょうぶ?」
立たせてもらった私は、
「・・はい・・・すみません」
それとなくタオルで胸を隠します。
弱々しくうつむきながも、
(泣いちゃう)
内心では興奮に打ち震えてしました。

そのまま、よろよろと脱衣所へ向かいます。
胸にあてがったタオルを垂らして、前を隠していました。
心配そうに、付き添ってくれるおじさん・・・
(もうだめ)
バスタオルは、脱衣所のカゴの中です。
弱々しく歩いてみせながら、
(ひいい)
(恥ずかしい)
まる出しなお尻に、ひざが震えそうでした。

「ガガっ」
おじさんが脱衣所へのガラス戸を開けてくれます。
(恥ずかしいよ)
じろじろ見られているのを感じていました。
伏し目がちに、
「すみま・・せん」
つらそうな顔を向けてみせるのがやっとのふりをします。

「あそこにベンチがありますから」

「・・はい」

脱衣カゴから、自分のバスタオルを取りました。
よろよろ歩きながら、からだに『しっかり』巻きます。

そして、ぐったりと・・・その長ベンチに腰かけました。
「だいじょうぶ?」
おじさんが心配そうに、私の顔をのぞきこんできます。

もう完全に、この人の『本心』が垣間見えていました。
「水でも持ってきましょうか?」
(このおじさん。。。)
あくまでも紳士的ですが、それは表面上のことです。
さりげなく顔を近づけてきて、
「休んだほうがいい」
バスタオルの胸もとに目線を走らせるこの男の人・・・
(恥ずかしい)
たぶん本人は、私に気づかれていないと思っているのです。

「顔が真っ白ですよ」

生気のない顔を『ぼーっ』と上げてみせます。
そこに立つおじさんの顔をみつめながら・・・
「気持ちわるい・・・」
すがるような眼差しを浮かべてみせました。
「気持ちわるい・・です」

「横になったほうがいいですよ」
やさしい声でした。
「無理しないほうがいい」

泣きそうな顔で、
「・・・はい」
かすれ声をしぼりだします。

そして、そっと・・・
その長ベンチの上で、からだを横向きにしました。
胸から腰まで、きっちりとバスタオルを巻いてあります。
でも、その長さは、本当に腰ギリギリでした。
仰向けになるには『すそ』が短すぎます。
涙ぐんだまま、ベンチの上で両脚を伸ばす私・・・
(見えちゃう)
余裕のないこの子には、そんなことを考えるゆとりがありません。
(恥ずかしいよ)
そのまま仰向けに寝そべっていました。

天井の照明が目に飛び込んできます。
やけにまぶしく感じました。
つらそうに顔をしかめて、目をつぶってしまいます。
むき出しの太ももを露わに伸ばしたまま、
(ああん)
ぐったりと全身を脱力させました。

もう確かめるまでもありません。
寝そべったバスタオルのすそは、完全に寸足らずでした。
揃えていた両ひざも、外向きに開いてしまいます。
ちょっと内側を覗きこめば、
(イヤぁ、おじさん)
恥ずかしいところが露わでした。
自分では、ちゃんとわかっていないふりをします。

立っていたおじさんが、
「ガガッ」
そのあたりにあった丸イスを引き寄せたのがわかります。
(あ。。。ああ。。。)
「カツッ」
すぐ横に腰かけている気配がしました。
(ヤぁあん)
目をつぶったままでも感じます。
(見ないでぇ)
何もわからないふりをして、
「すみま・・せん」
つらそうにつぶやいてみせる私・・・

(だめ)
(泣きそう。。。泣きそう。。。)

「だいじょうぶですよ」
「休んでれば、落ち着きますからね」

そのやさしい声色に、
(ヤあん)
かえって羞恥心を煽られます。
(見てるくせに)
まんまと『いい位置』に陣取ったおじさん・・・
この人にしてみれば、まさに役得といったところでしょう。
目の前の私の股を、のぞき放題の特等席です。
(ああん)
頭の中で拒否しながらも、最高に興奮していました。

「のぼせちゃいましたかねえ」

「すみま・・せん・・・」

顔をしかめたまま、つらそうに返事してみせます。

(泣いちゃう)
ちゃんと、からだにタオルを巻いてはあります。
でも、肝心なところは完全に披露してしまっているのです。
(いくら貧血だからって)
(かわいそう)
自ら演じる真面目なこの子が、自分でも不憫でした。
そんな自分が恥ずかしくて・・・
気持ちよくて・・・
親切ぶっているこの男性の、心の裏側を想像してしまいます。
(おじさん、しっかり見て)
(こんなキレイな子だよ)
目をつぶったまま、身悶えたいほどの快感でした。
何の罪もないこの女の子・・・
(この子のわれめが、見えてるよ)
泣きそうにこみあげる興奮を奥歯で噛みしめて、
「すみま・・せん」
朦朧としているふりをします。
縁もゆかりもないこの中年おじさんに、
(ちゃんと見なきゃ損だよ)
私の『縦の割れ目』を覗かせてあげました。

たぶん・・・3分ぐらい、そんな状態を続けることができたでしょうか。

おじさんも、さすがに怪しまれることを恐れたのだと思います。
「なにかあったら、声をかけなさいね」
そのうち向こうのほうへと離れていきました。

「ガタ・・ガタ・・・」

いろいろと片付けもの(?)をする音が聞こえてきます。

満足感でいっぱいでした。
もうそろそろ、このあたりが潮時です。
(こんなにどきどきできたなんて)
しかも、完璧にハプニングを装うことができたのです。
(最高。。。)
幸せな気持ちでした。
(来てよかった)
この興奮こそが、誰にも言えない私の『秘密』の喜びなのです。
(勇気を出してよかった)

つぶっていた目を、そっと薄目にします。
(帰ろう)
(帰って早くオナニーしたい)

急に元気になるわけにはいきません。
起き上がるには、まだ少し早すぎます。

「ガタン・・ガサッガサッガサッ・・・」

作業を続けるおじさんは、何度も私のベンチの横を通っていました。

まだ寝そべったままですが、薄目にした私には見えています。
3度目か4度目ぐらいのときでした。
横を通りがかったおじさんが、心配するふりをして私の顔をのぞきこんできます。
(どきどきどき)
緊張しました。
なんとなく予感があったのです。
わざと何の反応も示さない私・・・
薄目のまま、眠ったように息をしてみせていました。
『すっ』と姿勢を低くしたおじさんが、
(ひいい)
私の股のあいだをのぞきこんでいます。
(イヤあ、だめ)
いくらなんでもという至近距離で、あそこを見られていました。
脚を閉じたくなる自分に必死で耐えます。
そして、また・・・
『さっ』と立ち去っていきました。

(どきどきどき)
私にまったく気づかれていないと思い込んでいるのです。
(どきどきどき)
あからさまに本性を見せられてしまった・・・
その事実に、私はショックを受けていました。
いまさら、きれいごとを言うつもりはありません。
頭ではわかっていたことでした。
でも・・・
(表向きは、あんなに親切ぶっていたくせに)

しばらくして、
「ガタン・・バタ、バタ、バタ・・」
おじさんが脱衣所から出ていく気配を感じました。

私はからだを起こしました。
とにかく最後まで演技は通さなければなりません。
(あのおじさん)
(すっかり油断しちゃって)
内心、まだ動揺は残っていましたが・・・
(そんなに見たかったの?)
一方では、自尊心をくすぐられます。

あのおじさんを喜ばせたい・・・
そんな気持ちがわきあがってくるのです。
(どんなに恥ずかしくたって)
どうせ、相手は赤の他人でした。
二度と会わなければ、この場かぎりのことなのです。
バスタオルを、きちんと巻き直しました。
長ベンチに、普通に腰かけます。
(戻ってくるまで待っててあげる)

なんとなく、あの人の思考はつかめているつもりです。
まずは少しだけ、話し相手になってあげれば・・・

(どきどきどき)
(どきどきどき)

たいして待つまでもなく、入口の戸が開きました。
ロビーからおじさんが戻ってきます。
ベンチに座っている私を目にして、『おっ』という表情になっていました。

「少しは、よくなりました?」

まっすぐに近づいてきます。
(どきどきどき)

「はい、だいぶ」

静かにおじさんの顔を見上げました。
(どきどきどき)
いかにも申し訳なさそうに、
「すっかりこんな・・」
「ご迷惑をおかけしてしまって」
しゅんとしてみせます。
(どきどきどき)
本当は、もう・・・
こうして顔を合わせていること自体が、恥ずかしくてなりません。

「いいんですよ」
「気にしないでください」

さすがは大人です。
このおじさんも、見事なポーカーフェイスでした。
あたりまえですが、いやらしさなど微塵も感じさせません。
どう見たって、人のいい親切なおじさんです。
「無理しないでくださいね」
どこまでもやさしい笑顔を向けてくれますが、
(わかってるんだから)
こっちはすべてお見通しでした。
(私の恥ずかしいとこ・・・)
(思いっきり、のぞきこんでたくせに)
心の中でそう思いつつも、華奢な女の子を演じます。

「よかったですね、たいしたことなさそうで」

すぐそこの丸イスに腰かけたおじさんに、
「すみませんでした」
まだ弱々しい感じの表情で、微笑みを浮かべてみせます。

「貧血なんて、子供のとき以来です」
「25にもなって、恥ずかしい」

どうせわかるはずもありませんから、嘘に嘘を重ねます。

「お疲れだったんでしょう」
「のぼせたのかもしれませんね」

そこから、なんとなく世間話になりました。

「時間が終わっていたなんて知らなくて」
「わたし、こどもの頃から銭湯ってあまり来たことなかったから」
「入らせてもらえて、すごくうれしかったです」

微笑みを絶やさずに目を合わせてみつめてあげると、
(やっぱり。。。ほら。。。)
だんだんと、おじさんの表情が不自然にゆるんできます。
(よかったね、おじさん)
(この子に、すっかり信用されちゃったね)
相手の反応を確かめながら、目線の駆け引きを続けました。

「ひとりで、こんなに大きなお風呂」
「まるで貸切みたいでした」
「私、すごいラッキーですね」

「いえいえ、それはよかった」

思ったとおりに、おじさんの鼻の下が伸びてきます。
(単純だなあ)
(本当に、女の子に弱いんだね)
すっかり気を許しているふりをする私・・・

「壁に富士山の絵とか、描いてあるわけじゃないんですね」

「うちは○年に改装しましたから」

このときには、もう思い出していました。
(お風呂場にポーチを置きっぱなし)
私の心の中で、むくむくと黒い雲が膨らんできます。

「うちのマンションはユニットバスだから、脚を伸ばせないんです」
「いつも仕事の後とかに来られたら、最高なのに」

(職業のことを聞かれる)
(田舎のおじさんに受けそうな職業は・・・)

「どんなお仕事をなさってるんですか?」

「え・・・あ・・CAです」

一瞬わからないという顔をされて、
「はい?」
聞き返されます。

「あ・・キャビンアテン・・・」

とっさについた嘘だったのですが・・・

「ああー、スチュワーデスさんね!」

CAさんというのが、このおじさんのツボにはまったみたいでした。
(本当は嘘なのに)
私を見守るおじさんの眼差しが、明らかに興奮の色を帯びてきています。

「そうですかあ」
「スチュワーデスさんなんですねえ」

(恥ずかしい)
あらためて、顔をじろじろ見られていました。
なんだかすごくいやらしさを感じます。
(恥ずかしいよ)

(おじさん)
・・・いまどんな気持ち?
・・・CAのはだかを見れたと思って、優越感でいっぱいなの?
最高のタイミングでした。
(今、このバスタオルを取ったら)
(恥ずかしすぎて死んじゃう)
私は変わらず、無垢な女を演じ続けます。

ようやく体調が戻ってきたという感じで、
「ふ・・う」
ゆっくりベンチから立ちました。

「うちの近くにも、こういう銭湯があればいいのに」

ごく普通に会話を続けながら、
(どきどきどき)
自分の脱衣カゴの前へと歩いていきます。
丸イスに腰かけているおじさんとは、4?5m離れたでしょうか。
からだに巻いていたバスタオルを取りました。

「そうしたら、毎日来ちゃうのになぁ」

にこにこした顔で、おじさんのほうを振り返ります。

(ひいい)
(恥ずかしい)

「都会は、銭湯が減ってるって聞きますからねえ」

動いているのは口だけでした。
おじさんの目線が、あからさまに泳いでいます。

あ、あ、あ・・・
(隠したい)
恥ずかしい・・・
(見ないで)

私は、まったく気にする素振りをみせません。
『銭湯の人だから』と割り切っているふりをしていました。
もう生乾きになっている髪を、あらためてバスタオルで拭いてみせます。

「うちも、来るのは常連ばかりだからねえ」

「そうなんですか?」

返事をしながら・・・
おじさんの正面を向きました。

内心では、
(せめて胸だけ)
おねがい・・・
(股だけでも)
隠させて・・・

「じゃあ、私なんか本当によそ者ですね」

『にこにこっ』と向けるこの笑顔は、警戒心のなさの現れでした。
一糸まとわぬ立ち姿で、
(ひいいいい)
真正面からおじさんの視線を浴びてみせます。
髪をもしゃもしゃ拭きながら、
(ああんだめ)
オールヌードの私をさらけ出していました。

そして唐突に、
「あ・・・」
動きを止めます。

いま初めて置き忘れに気づいたかのように、
「そうだ・・・」
お風呂のほうに顔を向けてみせました。

もういちど、バスタオルをからだに巻きます。
イメージは浮かんでいました。
「ガガッ」
ガラス戸を開けて、洗い場に入っていきます。
(ああ、おじさん)
待っててね・・・
(もっとニヤニヤさせてあげるから)
すべて計算ずくでした。
適当に巻いたバスタオルは、わざと後ろでお尻を出してあります。

置きっぱなしになっていたポーチを拾い上げました。
ボックス型のチャックが開いたままです。
あえて閉じずにそのまま持ちました。

戻ろうと振り返ると、ガラス越しに目が合います。
私のことをずっと目で追っているおじさん・・・
もうあの人にとって、私は完全にCAです。
自分で書くのもなんですが・・・
こんなに笑顔の綺麗な『スチュワーデス』さんでした。
(待ってて。。。)
わざと水びたしなところを通って、足の裏を濡らします。
私が演じる、『可憐』なこの女の子に・・・
(恥かかせてあげる)
自虐的な気持ちを押さえられません。
ポーチの中でヘアピンケースを開けて、
(ああ、早く)
そのまま逆さまにひっくり返しておきます。

「ガガッ」
ガラス戸を開けて脱衣所にあがりました。
手に持ったポーチを掲げて、
「忘れちゃうとこでした」
いたずらっぽく照れてみせる私・・・

そのままわざと床に足を滑らせかけて、
「きゃっ!!」
転びかけるふりをします。
実際には転ばずに、持ちこたえますが・・・
とっさに手から放してみせたポーチは、
「ガシャ!」
真っ逆さまに落ちて、床にひっくり返っていました。

クレンジングやシャンプーのミニボトルが、床を滑っていきます。
狙いどおりに、
(よしっ!)
けっこうな数のヘアピンも床に散らばりました。

「・・・・」

一瞬、絶句してみせた私・・・
思わず、おじさんとお互いに顔を見合わせてしまいます。
自分でも信じられないというように、
「すみません」
呆然と、つぶやいてみせました。
慌てて足もとの化粧水パックを拾い上げると、
(来たっ)
つられたように、おじさんが丸イスから腰をあげています。

「すみません、ほんとうに」
シャンプーボトルを拾ってくれたおじさんに、
「ありがとうございます」
「わたし、今日・・ドジばっかり」
恥じらうように、はにかんでみせました。

「いえいえ」
手渡してくれるおじさんの鼻の下が伸びています。
本当に嬉しそうな顔・・・

まだヘアピンが、あちこちに散らばっています。
いちど、ポーチを床に置きました。
「仕事だったら、ぜったいミスしないのに」
おじさんも、拾うのを手伝おうとしてくれています。
私の斜め後ろにしゃがみこんだのを、横目に見届けました。

足もとのヘアピンに気をとられたふりをして・・・
そのおじさんに、さりげなく背を向けます。

「スチュワーデスさんのお仕事って、大変なんでしょう?」

私はしゃがみませんでした。
「そうですねえ」
バスタオルが落ちないように、片手で胸を押さえます。
立ったまま、床のヘアピンに手を伸ばしていました。
「意外と動いている時間が長くて」
「わりと体力勝負なんです」
腰をかがめてピンを拾いながら、
(ヤああん)
まる出しのお尻を、後ろに突き出していました。

われながら、完全に確信犯でした。
(ああん、見て)
すぐ真後ろにしゃがむおじさんに、
(ひいいい)
ちょうど、お尻の穴がまる見えです。

「横柄なお客さんとかもいるんでしょ?」
「ムッとすることも多いんじゃない?」

平らな床に落ちた細いヘアピンは、なかなか指でつまめません。
爪先に引っかからないピンに苦労しているふりをします。

「いますけど・・・」
「いつも笑顔で乗り切ってます」

健気に答えてみせるこの女の子・・・
おじさんに、この『スチュワーデス』さんの肛門を、目の当たりに見てもらいます。

最後の1本を拾い終えて振り向きました。

おじさんが、自分で拾った分を差し出してくれます。
「ありがとうございます」
(ああだめ)
さすがに、もう限界でした。

おずおずと脱衣カゴの前に戻ります。
ポーチをトートバッグの中に突っ込みました。

「どこの飛行機のスチュワーデスさん?」

尋ねてくるおじさんの『目』の奥に、興奮がにじんでいます。

「・・・○○○です」

適当に話を合わせながら、バスタオルを外しました。
ひざが震えそうになるのをこらえながら、
(もうだめ)
(恥ずかしい)
ようやく下着を身につけます。

私も必死でした。
最後まで笑顔の女の子を貫きます。

「本当にすみませんでした」
「いろいろ迷惑をおかけしてしまって」

「どういたしまして」

何事もなかったかのように平然と服を着ながら、

「またこっちに来ることがあったら・・・」
「そのときは、また寄りますね」

唇をしぼって口角を上げました。
本物のCAになりきったつもりで、
(さようなら)
おじさんに、最高の笑顔をプレゼントします。

逃げるような気持ちで、建物をあとにしていました。
(二度と来れない)
(来られるわけない)
こみあげてくる屈辱感に、『ぶわっ』と視界が曇ります。
本気で泣きそうになりながら・・・
かろうじて涙をこらえました。
(早く・・・うちに・・)
オナニーしたくて全身がうずうずしています。
必死に我慢して、車に乗りこみました。
事故をおこさないように、慎重に、慎重に、雪道のハンドルを握ります。
自分の部屋のベッドまで・・・
その瞬間を迎えるまでが、はてしなく長く遠く感じました。

(PS)
おじさんの言葉は、あえて標準語に直して書きました。
実際の言葉づかいはまったく違うのですが、私なりにいろいろ考えてのことです。

それから・・・
あのおじさんは、ぜんぜん悪い人じゃありません。
本当に親切で、すごくいい人でした。
私の書き方のせいで、ひどい人のようになってしまっていますが・・・
そうではありません。
私のほうが、自分の都合で他人の気持ちを利用したのです。
それだけは書き添えておきたいと思います。

皆さん、良いクリスマスを。
最後までお付き合いいただいて、ありがとうございました。
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