長岡タクシーは、すぐに見つかった。旅館と同じ通りに面しており、50メートルも離れていない。
だが。
旅館から長岡タクシーまでの道はブロック塀に挟まれており、、雨を回避できるような屋根や
軒下が無かった。そのうえ、傘は昨晩壊れて捨ててしまったので、その50メートルの距離でも
ドクオたちを水攻めにするには十分だった。
('A`;)「はぁはぁ…………」
(;^ω^)「ぜいぜい…………」
('A`;)「また…………」
(;^ω^)「結局……………」
('A`;)「濡れちまったな」
(;^ω^)「うん…………」
いま、ふたりは『長岡タクシー』の駐車場にいる。駐車場とはいっても、タクシー会社が
マンションの1階部分を事務所兼駐車スペースにしているため、雨は凌げる。
駐車場には3台のタクシーが停まっていたが、その全てに運転手が居なかった。
(^ω^)「まぁ、とにかく運転手さんを探すお。ほら、ドクオも」
そう言って、ブーンは事務所のドアを開け、中へと入っていく。
ドクオはその後ろに続いた。
(^ω^)「ごめんくださーい」
( ・∀・)「はいはい。タクシーのご用命でしょうか」
事務員らしき服装の男が応じた
(^ω^)「そうですお。えと、1日4000円の乗り回しコースをお願いしますお」
('A`)「自分も入れて男2人です」
(;・∀・)「……こんな嵐の中を、ですかぁ?」
(^ω^)「こんな嵐の中、だからこそですお」
(;・∀・)「いや、今日は近場の送迎だけにしてしまおうと思って……」
(^ω^)「高松の観光はこれが初めてなんですお」
(;・∀・)「うーん、しかし……」
_
( ゚∀゚)「おいモララーよ」
モララーと呼ばれた男が振り返る。
背後に濃紺のスーツを着た男が立っていた。
(;・∀・)「あ、社長。いつの間に……」
_
( ゚∀゚)「馬鹿野郎。ここは俺の会社だ。自分の気配を空気に溶け込ますことぐらい簡単なものよ」
そばにあった台帳で、社長と思しき人物がモララーの頭を叩く。バシッと、乾いた音がした。
( ;∀;)「痛いじゃないですか社長」
_
( ゚∀゚)「うるせぇ。愛のムチだと思って受け取りやがれ。そんなんだからお前はヒラなんだ」
(;・∀・)「こんな小さな会社、社長以外はみんなヒラじゃないですか。それに、
一日くらい休んでもたいした損害じゃないでしょう」
_
( ゚∀゚)「いちいち細かいこと気にするじゃねぇ。で、折角のお客さんじゃないか。
それを門前払いするたぁ、お前なかなかいい度胸してんな。あん?」
ふん、毒づくと、社長と思しき男はくるりと向きを変え、ふたりに向き直った。
_
( ゚∀゚)「これはどうもお見苦しい場面を。私は長岡タクシー?の社長、ジョルジュ長岡と申します」
('A`)「はぁ。どうも」
_
( ゚∀゚)「で、当タクシーの乗り回しコースを利用したいと?」
(^ω^)「そうですお」
_
( ゚∀゚)「お安い御用です。おい、モララー!!」
( ・∀・)「何でしょう。社長」
_
( ゚∀゚)「このお客さんたちは俺が直々にご案内差し上げる。お前は留守番でもしてろ。どうせ
この天気だったらお前は運転したくないだろう」
(;・∀・)「仰るとおりで……。わかりました。では、お気を付けて」
_
( ゚∀゚)「では、さっそく参りましょうか」
('A`)(^ω^)「はい」
長岡は黒塗りのタクシーの運転手に乗り込むと、運転席から後部座席のドアを開け、
2人を促す。ドクオは左側に、ブーンは右側に座った。
_
( ゚∀゚)「じゃ、どこから行きますかね?」
長岡がルームミラーを調節しながら訊いてくる。
('A`)「えと、まずは高松駅お願いできますか?」
_
( ゚Д゚)「高松駅?そりゃまたなんで?」
('A`)「みどりの窓口で明日の切符を買わなきゃならないのと、乗れなかった夜行の切符の払い戻し
です。それに、朝食を食べてきたので、すぐにうどんを食べるのは難儀なもので……」
_
( ゚Д゚)「おふたりさん、何処からいらしたんです?」
(^ω^)「東京ですお」
_
( ゚∀゚)「へ?。わざわざ遠い所からようこそ」
(;^ω^)「でも、本来も目的は出張ですお。いまは臨時で有給を取っているんですお」
_
( ゚∀゚)「ははは、なるほど。では、参りましょうか。高松駅へ」
エンジンがかかり、ふたりを乗せたタクシーは嵐の中に出て行く。
事務室の中で、モララーはそれを遠い目で見ていた。
( ・∀・)「……あれ?」
そのうち、なにか妙な感じがしてきた。
( ・∀・)「えーと、たしか……」
記憶を手繰り寄せるように呟く。
( ・∀・)「…・・・たしか5年くらい前にも同じような客2人が来たっけな。
そう、ちょうどこんな嵐の日に……」
「中央通り」と名づけられた高松駅へ至る道は整然としており、中央分離帯にはクスノキが
整然と並んでいる。だが、強風のせいで「整然と」並んでいるようには見えない。
平日の朝だというのに、片側3車線の道は閑散としている。まあ、そとが大嵐で警報も3つ
出ているのだ。いくら車をもってしても、外出する気分にはなれないだろう。
そんな中、ふたりを乗せたタクシーは順調に高松駅へと向かっていく。
_
( ゚∀゚)「ところでお客さん。どのうどん屋に行くとかのご予定は?」
('A`)「今のところは無いです。官庁街にある『松村』には行ったんですが。もともと来たばっかりで
どこがいいのかサッパリ分からないもんで……」
_
( ゚∀゚)「ああ、『松村』ですか。あそこは美味いですからね。そこが初めてとはラッキーですよ。
香川にも看板ばかりの不味い店がありますからねぇ。そんなところが初めてだったらトラウマに
なりかねないですから」
(^ω^)「そういや、東京では池袋のデパート上の讃岐うどん屋が繁盛してますお。東京に
来たら一度寄ってみるといいお」
_
( ゚∀゚)「ははっ。自慢じゃありませんが、私は生まれてこのかた四国から出たことがありません
のでね。ココのうどんで大満足ですよ。東京なんざ死ぬまでに1回行くか行かないか……」
タクシーは、赤信号にかかるたびに止まる。
それに合わせるかのように、車内の会話も止まる。
車内の静寂。
車外の轟音。
停車していても車は揺れる。
_
( ゚Д゚)「…………」
ふと後部座席からルームミラー越しに長岡の顔を見る。眉間にシワが寄っていた。
('A`)「どうか…なさいました?」
_
( ゚Д゚)「ン、いえね……。以前にもこんな会話したかな、と思いまして」
(^ω^)「そうですかお?僕らが高松に来るのはこれが初めてですお」
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( ゚Д゚)「あ、いや……。あなた達ではないんですよ」
信号が青になった。
車が発進する。高松駅が見えてきた。
_
( ゚∀゚)「そろそろですね。私は駅のタクシー乗り場で待っていますから、いちおうナンバーを
覚えておいて下さい。参りますので、間違えて別のタクシーに乗らないよう」
タクシーは、きぃ、と軽いブレーキ音を立て、駅へと至る屋根つきの通路を左手にして
後部座席の左手のドアを開ける。
(^ω^)「ドクオ、先に出てくれお。右のドアから出たら雨に濡れてしまうお」
('A`)「ああ、わかった」
ドクオが左のドアから出ると、ブーンが窮屈そうに同じドアから出てくる。
(^ω^)「じゃあ、早めに済ましてきますお」
_
( ゚∀゚)「そんなに急がなくてもいいですよ」
ドアが閉められ、運転手の長岡だけを乗せたタクシーは、大通りと同じように空いている
タクシー乗り場へと滑り込んだ。
サイドブレーキを引く。
エンジンが切られる。
車内は本格的な静寂に包まれる。
_
( ゚Д゚)「しかしなぁ……」
ひとり腕組みをしながら長岡は考え込んでいた。
_
( ゚Д゚)「確かにあんな感じの客を乗せた気がするんだけどなぁ……。
そう、ちょうどこんな嵐で、5年くらい前に……」
思い切り背もたれを倒して、上空の雲を眺めながら長岡はそう呟いた。
第5章:長岡タクシー 了
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