07月23

仲良し夫婦

最初に
これは自慢話である!
また、結婚がいかに素晴らしいかを伝えるための体験談でもある。

俺と妻はもうすぐ結婚5年目に入る。
にもかかわらず、マンネリという言葉には、まるで縁はなく、
今でも仲良く手を繋いで出勤したり、
毎日、いや、毎朝毎晩、チュー&ハグを欠かさないオシドリ夫婦だ。
もちろん浮気などしたこともなく、お互い会社が終われば、まっすぐ家に帰ってきては
二人で料理を作ったり、お茶を飲みながらテレビを見たり、
そして、、セッ●スを愉しんでいる。

妻は俺より4歳ほど年の離れた、俗に言う『姉さん女房』だ。
そんな妻とどのようにして出会い結婚したのかを細かく書いたら
それだけで何キロバイトも使って一つのドラマが出来あがってしまう。
だから、ここでは簡単に書かせてもらうことにする。

俺は新卒で経営コンサルティング会社に入社した。
会計ファームなどと呼ばれていた時代は、とてもモテ囃された業界だったが
現在では、それほど難関でもなく俺ごときでもなんとか入社することができた。

その会社の新入社員研修は少し変わっている。部門が被らないように社内でも指折りの優秀な社員が選出されて
順番に1日だけ研修を担当するのだ。
もちろん各部署の仕事内容を新人に叩きこみ、早く会社組織を知って貰うのが主な目的なわけだが、
「こんな素敵な人がいる会社に入れて良かった?俺も頑張って先輩みたいになりたい!」
なんて、
新人にとっては、優秀な先輩社員と交流を持つことで良い刺激を与えられ、モチベーションがあがったりもする。

妻の誓子は、この研修担当に選出された社員の一人として俺の前に颯爽と現れた。
初めて誓子を、いや、伊藤さんを見た時、俺は胸を撃ち抜かれたがごとく満足に息もできなくなり、
高鳴る胸を押さえながら、只管その整った顔をガン見していた。
休憩時間になると
「この会社に入って本当に良かったよ」と何処からともなく聞こえてきて
みな赤い顔をしながら頷き合っていた。
その日、俺だけじゃなく同期の男達のほとんどの頭の中に
”伊藤誓子”という名前が鮮烈に刻みこまれたのだ。

もちろん個人の好みなども当然あるだろう、
しかし、研修途中の昼休み、ある先輩社員がきっぱりと断言した。
「顔は文句なく社内一!」

「そして、、グラビアアイドルもびっくりの絶品ボディ!」
「って、おいおいw お前ら睨むなよ、生でボディ拝んだわけじゃないからw」
「今はまだ分からんが、夏になればなあ、服着てたって色々と分かるのよw」
「まあ、なんにしても常に男達の熱?い視線を受けてるよ」
「彼氏?それが不思議なことに居ないらしい、散々口説かれてるけど、絶対に落ちない難攻不落の城って感じだな」

誓子はとんでもない美女で、責任感が強く仕事もできる、にも関わらず
かなり真面目で、男の影さえ見えない、というのが皆の共通の認識だった。

それほどの女性が何故俺なんかの妻になったのか、、、
念のため記載しておくが、俺はイケメンでもなければ財閥の息子でもない。
子供の頃は男でありながらハーマイオニー(エマワトソン)に似ているなどと言われていて
今も時々見た目オネエ系などと言われることさえある貧弱な男だ。
なんであんな美人が?お前なんかと?と親でさえ不思議がる世界の謎なのだが、
これには深い理由と壮大なドラマがあったのだ。

研修後、俺は誓子と同じ部署に配属され、誓子に直接指導を受けながら仕事を覚えていくことになった。
最初は緊張して満足に顔を見て話せない程だったが、誓子の気さくさのおかげで徐々に打ち解けていき、いつの間にか普通以上に話せるようになっていた。

それは、思いがけないトラブルが発生して、誓子と二人でかなり遅くまで残業していた時に起こった。
席を外していた誓子が戻ってくるのが遅くて、少し気になりだした俺は、自分もトイレへ行こうと執務室から出て行った。
通路を少し歩くと、声が聞こえてきた。
「ヤめて下さい!」
非常階段に続く扉の奥からだった。

慌てて扉を開けた俺の目に飛び込んできたのは、胸元を乱した誓子とその華奢な肩を抱く村松という他部署の先輩だった。
まるで頭の中がグツグツ沸いてくるようだった。
気付いた時には、村松に飛びかかっていた。

村松は、いきなり飛びかかってきた俺に、一瞬呆然となったが
すぐに冷静になって、
「ごめん!」と言いながら土下座をした。
頭を下げ続ける村松を見ながら
『こいつが蛮族でなくて本当に良かった』などと考えていると
大事にしたくなかったのだろう、
誓子は「仕事以外では二度と自分に近づかないで!」と約束させて村松を許した。
その台詞に少し違和感を感じながら席に戻ると、
夜も10時を回っていたので、フロアには俺と誓子二人だけしか居なくなっていた。

キーボードを叩く音だけが異様に響く中、
突然、誓子がポツリポツリと話しだした。

「もしかしたら気付いてるかもしれないけど、」
「私、子供の頃に酷いことが、、とても言えないようなことがあって、、」
「男の人が苦手なの・・・」
「だから、いつもはもっと警戒しているんだけど、●●君が一緒に居るせいか、少し安心しちゃったみたい・・・」
「さっきみたいなことになってしまって、迷惑かけて、、ごめんね」

「いえいえ、伊藤さんが無事で本当に良かったです。でも、私も一応は男なんですよw」

「●●君は、なんか分からないけど、怖くないのよね。最初からそうだったの。こんなの初めてで・・・」
「私もいつまでも男の人を怖がりながら、生きていくのは辛いし」
「当然だけど、クライアントの殆どは男性だから、あ!もちろん仕事だけなら問題ないのだけど」
「軽いスキンシップや握手などでも、怖くて震えてしまうことがあって・・・」
「そんな時、●●君が現れて・・」
「だから、貴方の教育係、、私からやりたいって課長に言ったのよ///」
「いつも男の人の担当なんて絶対にやらないから、課長すごく驚いてたw」

「ほ、本当ですか!」
「じゃ、じゃ、、私でよければ伊藤さんの男嫌い克服プロジェクト、ぜひとも協力させて下さい!」

そんな感じで、最初は手を繋ぐことから始めて、徐々にスキンシップを増やしていき
男嫌いをほぼ克服する頃には、俺は”伊藤さん”ではなく”誓子”と呼ぶようになっていた。
そして、誓子と呼ぶようになってから、また暫く経った時、いよいよ
男嫌い克服プロジェクトの最後を飾るテストが行われることになった。

暗闇の中で、散々憧れ続けた社内随一の美女が全裸になっていた。

当然色々触ってみたいところはあった。
しかし、俺はガチガチに堅くなっている誓子を少しでもリラックスさせたくて
肩から首筋をゆっくり揉みほぐすように揉んでいった。
次いで、腕を揉み、手を揉み、脇腹を揉むと
「クスクス」と誓子が笑いだした。

「もう緊張とれた?怖くない?」

「うん」
その返事を聞いてから、ようやく俺は
陰で絶品と称されていたボディにむしゃぶりついた。
その手触り、柔らかさは、堪らない味わいだった。
俺は誓子の全てを自分のモノにしたくて、
夢中になって、身体の隅々まで舌を這わせた。

「ああ、気持ちいい、気持ちいいよ?」
途中、誓子は何度も声を上げてくれた。

「男の人とこんな風になるなんて、今までは考えられないことだったの・・・本当にありがとう」
そう涙ぐむ誓子を抱き締めながら、ぐっすり眠った。
それからすぐに結婚することになり、もうすぐ丸4年が過ぎようとしている。

結婚後、誓子は男に対して優しくなったなどと独身時よりも評判が上がってしまい
社内外を問わず飲み会やパーティーなどに誘われるようになってしまった。

そんな下心見え見えの男達を上手くかわせるまでに成長した誓子は
仕事上でもマネージャーに昇進していた。

頭も良く責任感の強い誓子は順調にプロジェクトを成功させてきたが
最近になって、大きなトラブルが発生していた。
開発を請け負っていたベンダーが全員現場から引き揚げてしまったのだ。

実は、そのベンダーの担当者は俺だった。
俺のせいで、誓子が総責任者であるプロジェクトが暗礁に乗り上げてしまったのだ。

誓子は旧姓の伊藤誓子のまま仕事をしていたから
俺と結婚していることを知る者は社外には、ほとんど居なかった。
そのことと夫婦の仲の良さが災いした。

「●●さんとこのマネージャさん、顔も良いけど、身体がまた凄いでよねw」
「あれは社内でも相当もてるでしょ? やっぱ身体使って出世してるんですかね?」

聞いた瞬間、大人げなく社長の横っ面を思い切り張ってしまった。
我に返って、すぐに謝ったが、時すでに遅し。
もともと俺が絞りに絞ったため、ベンダーには利益が乗っていなかったプロジェクト。
ヤル気のなかった社長の怒りは収まらず
「現場に入ってるメンバー全員引き払うぞ!」となり、
また、俺が偉そうにしているとかで、現場のメンバーに嫌われていたことも大きく作用して
「分かりました!すぐに引き上げます!」となってしまったのだ。

このままでは、プロジェクトの進捗は大幅に遅れてしまい
クライアントに対しても申し訳が立たない。
俺も謝りに行ったが、結局、俺は出入り禁止になり、
上司の誓子が頑なになったベンダーの社長を説得するため折衝を重ねていた。

その日も夜遅くなって帰宅した誓子は、疲れ切った顔をしていた。

「誓子ごめん。やっぱり社長だめか?」

「う、うん、、でも」

「でも?」

「社長が、1回飲みに付き合ったら、みんなを説得してくれるって・・・」

「飲み?・・いやいや、あのスケベ社長、絶対にそれ以上求めてくるよ!」

「恐らくね。キックオフの時にも、一度口説かれたことある。結婚してるってキッパリお断りしたけど」

「てか、行く気なの?」

「うん。飲むだけなら、接待と同じだし。行こうと思ってる。」

「それって、俺のためか?このままじゃ俺が終わるからか?」

「違うよ!そんなんじゃない!私はこのプロジェクト、社会の役に立つと思ってるの。。だからどうしても成功させたいの」

「だけど、もしもアイツが変なことしてきたらどうするんだ?」

「それこそ、付け入る隙になるでしょ。誠意を示してダメなら、セクハラで脅しちゃうw」

「お、お前、、成長したんだな・・・ついこの間まで男性恐怖だったのに・・・」

結局、俺は止めることができず、次の日、ハンズに行って
防犯ブザーを買ってきた。
本当は催涙スプレーにしたかったが
催涙スプレーを持ち歩くと違法になるとどっかに見たことがあったので止めた。

その日の朝
誓子は「絶対に、変なことにはならないようにするから、私を信用して待っててね」
そう言って防犯ブザーを振ってみせた。
どこか強張ったような笑顔に見えた。

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