はまった男
王が起きた。寝ぼけた顔をして、僕の手を握ってくる。
こんな王の顔を見ていると、不思議と疑惑が薄らいでくる。
中国女性に、本気で言い寄り、本気で怒る日本男性はいるのだろうか?
僕は、もし王が僕のことを騙していても、本気では怒れないだろう。(たぶん)
午後4時40分、定刻より20分遅れて福州に着いた。
こちらは大連と違い暖かい。
顔立ちも北とは違う。南の中国に来たという感じだ。
王はタクシーは高いから、バスで行こうと言ったが、僕は時間がかかる上、窮屈だし、衛生的にも抵抗があり、タクシーにしようと言った。
タクシーに乗り込み、王が行き先を告げる。
福建語だ。
タクシーの運転手は「ハァ??」と大声をあげた。
王の家が遠いからだろう。王が何やら交渉している。
王が、僕のポケットからお金を取り出し、運転手に渡している。
どうやら、メーターに関係なく、目的地まで、幾らで行ってくれと交渉したらしい。
遠くに行く時は、こちらの方が安いんだろう。(高いという説もあるが)
車がスタートした。空港近くは、舗装された普通の道だったが、40分も走れば、ガタガタ道に変わった。
しばらくガタガタ道を走り、また、
舗装された道路になり、それの繰り返しだ。
周りもマンションが建ち並んでいたかと思えば、ぼろい集合住宅に変わったり、初めての体験だったので結構面白い。
途中で王がトイレに行きたい、と言い出した。
タクシーの運ちゃんが、公衆トイレの前で止まった。
田舎の公衆トイレだ。
僕もトイレに行きたかったので、車を降りた。
トイレに近づいたとき、ものすごい臭気が鼻を突いた。
頭がぐらっとするような・・・。
日本では、まず体験できない臭気だ。
僕は一度トイレを離れて、大きく息を吸いトイレの中に入った。
「・・・・・・・・!!」想像を絶する汚さ。
汚物がそこら中にはみ出している。3秒で気分が悪くなり、トイレを出た。
どうしよう、外でしようか。でも、外でしているときに王が出てきたら、軽蔑されるのかな。
トイレが目の前にあるのに、外でする奴は、いないよな。
でも、トイレの中にはもう入れない。倒れてしまう。
そうだ、どこかでご飯を食べよう。その時トイレを借りればいいんだ。
王と運ちゃんが、すっきりした顔をしている。この二人は、あの臭いが平気なんだろうか?
食事中に読まれたかた、すみません。
夜の12時頃、王の家に着いた。食事をしていたので、すっかり遅くなってしまった。
結構立派なマンションだ。
王は、はしゃぎまくって、早く行こう!早く行こう!とせかせる。
下に、若い男の子がいた。
王と仲良さそうに話す。
僕は、「こいつが王の彼氏か!?」
と思ったが、王のいとこだった。どうも、過敏になっている。いとこが、荷物を持ってくれた。
「ニーハオ」 「ニーハオ」 お互い簡単に挨拶を交わす。王の家は5階だ。
家にはいると、お母さんが王のことを軽く抱きしめ、再会を喜び合っている。
王も「マー!!」と言って甘えている。
ほほえましい光景だ。
お父さんは、もう寝てしまったようだ。
王と、お母さんは、顔がよく似ている。
「ニーハオ!」 「ニーハオ」 僕は、お母さんと挨拶を交わす。
お母さんが、中国語で話しかけてきた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
僕は、「ティン プートン(わかりません)」と答え、得意のメモ帳と、ボールペンを取り出した。
お母さんに、書いて下さいと言うと、お母さんは、唖然としていた。
お母さんが王に話しかける。「・・・・・・・・・・・・・・・」
王「・・・・・・・・・・・・・・」王が答える。
どうやら、お母さんは、「彼は中国語がわからないの?」と聞いてるようだ。
僕が本当に、中国語がわからないのが理解できると、急に笑い出した。
大笑いしている。
「言葉もわからないのに、うちの娘を好きになったんですか?」
「今まで、どう会話してたんですか?」
「そんなに、うちの娘が好きですか?」と言ってるみたいだ。
王は、苦笑いしている。
僕は、知っている中国語でなんとか会話しようと、話しかけた。
しかし、王は僕の中国語を聞いているから、理解できるみたいだが、初めて聞く人には理解不能らしい。
もっと、中国語を勉強しなくては。
お母さんが、お茶を出してくれた。福建省のウーロン茶、鉄観音茶は、日本でも有名だ。
僕は、「ハオ フー!ハオ フー!(おいしい!)」と言ったら、お母さんが笑った。
どうやら、通じたようだ。
お母さんが、王の部屋に案内してくれた。
ここが王のが育った部屋か・・・。
綺麗に片づいている。(本人がいないから、汚す人はいないのだが。)
お母さんが 「あなたはここで寝なさい。私と娘は隣の部屋で寝ます。」と言っている。
僕は、王と一緒に寝たかった。1人で寝るなんて、寂しすぎる。王も僕の方を見て何かを訴えかけている。でも、お母さんとは言葉も通じないし、どうすることも出来ない。
王が、誰かに電話している。こんな時に、誰に電話してるんだ?
王が、僕に電話を渡した。「Tさん?」 李さんの声が聞こえた。
李さんに電話をしてたのか。よし、なんとかなるかも。
僕 「あ、李さん、これから僕の言うことを通訳してくれ。僕は、あなたの娘さんといろいろ話したいし、一緒にいたい。あなたの大事な娘さんには指一本触れないので、一緒の部屋で、寝ていいですか?こう伝えてくれ。」
李さん 「それ、ホントに通訳するの?大丈夫かな・・・。」
僕 「頼むよ、1人で寝るなんて、寂しすぎる。」
李さん 「わかった、ちょっと変わって。」
お母さんに電話を渡す。
お母さんと、李さんが話している。お母さんが僕の方を笑いながら見て、電話を渡した。
僕 「どうだった?お母さん、何て言っていた?」
李さん 「ダメだってさ。うちの娘はそんな子ではありません。もっと、お互い仲良くなってからだって。」
僕 「えー?何とか、なんないかな・・・。」
李さん 「Tさん、バカだよ。一緒に寝ていいですよ、なんて言う親、いるわけないでしょ?」
僕は1人で寝ることになった。隣の部屋には、王がいる。親が寝た後、王がヒョッコリ、この部屋に入ってこないかな。
王に逢いたい。
こんなに近くにいるのに一緒にいれないなんて、拷問に近い。
僕は仕方なく、行きの飛行機で暇つぶしに読んだ、西村京太郎の推理小説を、読み始めた。犯人がわかっているから、つまらない。
2月4日、朝8時頃、僕はドアの開く音で、目が覚めた。
王のことを考えていて、よく眠れなかった。
王が部屋に入って来て、僕に抱きついてきた。
いい香りだ。僕は抱きしめ返した。
たった、一晩逢えなかっただけなのに、僕は久しぶりに抱きしめたような気がする。
僕たちは、しばらく抱き合ったままだった。
時間が過ぎていく。
突然、爆竹の音が鳴り響いた。ものすごい音だ。それも、いつまでも鳴り響いてる。
中国では、お正月には爆竹を鳴らすと聞いたことがあるが、実際に聞くのは初めてだ。
今は上海、北京、大連などの都会では、禁止されているはずだ。
僕が驚いて、窓の外を見ると、王が笑っていた。
僕は、顔を洗いに、洗面所に行った。トイレとシャワーが一緒になっていて、湯船はない。
そういえばスイスホテルでも、王はシャワーはいつも浴びていたが、湯船には入らなかった。
中国人は、シャワーだけで、湯船に入る習慣はないようだ。
顔を洗い、歯を磨いて部屋に戻る。
王が「ご飯食べよう!」と僕の手を引っ張ってテーブルに連れて行く。
男の人が椅子に座っている。王が「パパ!」と僕に紹介してくれた。
見た目は怖そうだが、どのような人なんだろう?
王は、僕のことをお父さんに紹介している。お父さんが笑い、握手を求めてきた。
簡単に挨拶を済ませ、僕は椅子に座った。お母さんは食事の支度をしている。
ベランダには、鶏(かな?)が3匹吊してあり、ちょっと残酷に思えた。
お父さんは、何か話したそうに、僕のことを見ているが、話しかけてこなかった。
お母さんから、僕は中国語がわからないと聞いているのだろう。
僕は王の部屋に戻り、メモ帳とボールペンを持ってきて「書いてくれれば、わかります。」
と言ったら、やはり、お父さんも笑い始めた。王に何か言っている。
お父さん 「お前たちは、いつも筆談で、会話をしているのか?」
王 「彼は、これから中国語を習うし、私は日本語を勉強するから大丈夫。」
こんな会話だったと思う。
朝ご飯が食べ終わり、王が、タバコをくわえて火をつけた。
お母さんが「王○!!!」と言って怒っている。
王は、舌を出し、お母さんに謝るとそのタバコを、僕に渡してきた。
お母さん、結構、厳しいな。
王が素直に、言うことを聞く。
家族の絆は強そうだ。
しばらくして、親戚のおじさん、おばさん達が、どかどか訪れた。
みんな、日本人の僕を珍しがっている。若い子もいた。王のいとこだろう。
おじさん達は、僕に名刺をくれた。名刺の住所は、上海になっている。
こっちの、おじさんも上海だ、こっちの人も・・・。
なるほど、親戚に上海の人がこれだけいるのか。王が上海語を話せる訳がわかった。
僕と、王が手を重ね合って、座っていると、おばさん達が、筆談で問いかけてきた。
ちゃんと答えられるか、心配だった。
下手なことを言って、気分を害されたら困る。
「あなたは、王のことが好き?」 「はい。」
「王のこと、愛してる?」 「はい。」
「王は、あなたのこと、愛していると思う?」 「はい。」
「王と結婚したい?」 「はい。」
「王のこと、幸せに出来る?」 「はい。」
「結婚するには、家がないとダメでしょ?」 「はい。」
「王のために、家を買ってあげる?」 「はい。」
「王は、上海か、北京に家を欲しいと言ってるよ?」 「はい。」
「上海、北京は家、高いよ?」 「はい。」
「80万元以上するけど、大丈夫?」 「はい。」
僕は、全て「はい。」で通した。下手なこと言うより、無難だったからだ。
僕が、「はい。」と答える度に、みんな大笑いしている。まるで見せ物だ。
王と、家のことばかりだ。僕のことなんて、何も聞いてこない。
王は、恥ずかしくなったのか、自分の部屋に行ってしまった。
ちょっと待ってよ、僕を1人にしないでくれ、心で思った。
僕1人になってから、家を買え攻撃が、いっそうひどくなった。
最後に、おばさん達は、「今のは、冗談です。」と言ったが、どうだろう?
家を買いなさい、と言ったのは、本気のような気がしたのだが・・・。
通訳がいないので、筆談、ゼスチャー、全て会話にしました。
あまりつっこまないで下さい。(^o^)
僕は、王の部屋に戻り、まいったよ、というような顔をしたら、王が苦笑いをして「ごめんなさい。」と日本語で言ったきた。
王 「でも、私のために、家を買ってくれる?」笑いながら聞く。
僕 「後で、考えましょう。」 僕は、誤魔化した。
中国人は、家にこだわる人が多いみたいだ。
王が、アルバムを持ってきて、僕に見せた。
大連で見た、写真スタジオで取ったものではなく、普通の写真だ。
僕の知らない、小さい頃の王が写っていた。
そこには、若い頃のお父さん、お母さんも一緒に写っている。
幸せそうに、笑っている。両親が王のことを、大切に育ててきたのがわかる。
もし、王の両親が、自分の娘が、売春をしていたなんて知ったら、ショックで寝込んでしまうだろう。
しかし、どうして王は香港で売春をしていたのか?
売春をしているカラオケ小姐たちは、いろいろ事情があると思う。
家が貧しくて、しかたなく
親が病気で、働けないから、
学歴がなく、ほかの仕事が出来ない
ただ、贅沢したいだけ
日本語を覚えたいから
多いのは、こんなもんだろうか。
どれも王に、当てはまらない。
今は、王も答えたくないと言っているが、いつかわかる日が来るだろう。
写真をめくっていくと、初めて恋人らしい男が現れた。
カッコイイ男だ。
僕 「彼は、誰?」
王「前の恋人。」
僕 「今は?」
王「もう別れた。」
僕は、その幸せそうに写っている、2人の写真を見つめた。王が恋人に抱きついている。
僕 「これ、王が何歳の時?」
王「19歳。」
僕 「彼は?」
王 「26歳。」
二年前か。今より、少し子供っぽい。
写真をめくっていくうちに、前の恋人が、この王の部屋で、上半身裸で写っている写真が出てきた。
この部屋で、セックスをしたのか?
僕 「彼と、この部屋でセックスしたの?」
王「・・・・・」バツ悪そうな顔をしている。
違うなら、違うと言うはずだから、したんだろう。
僕 「彼は、王が初めてセックスした人なの?」
王「・・・・うん。」
聞かなきゃ良かった。
何でこんな質問したんだろう?王だって聞かれてイヤだったはずだ。
男の嫉妬か?情けない、自己嫌悪だ。しかし、面白くない。
僕 「彼とは、どこで知り合ったの?」
王 「上海で。前の会社の上司だよ。」
僕 「王は、上海で働いていたの?初めて聞いた・・。今でも会ってるの?」
王 「・・別れてからは会っていないよ。」
僕 「彼は、今、何をしているの?まだ、上海の会社にいるの?」
王 「・・・・わからない。」
上海か。この男が、電話の相手なのだろうか?少し間が空いて、王が言った。
王「私は、彼と結婚すると思っていた。」
通訳がいないので、筆談、ゼスチャー、全て会話にしました。
あまりつっこまないで下さい。(^o^)
僕 「どうして別れたの?」
王 「あなたに言っても、わからないよ。」
これは、言葉が通じないから、わかららないよ、と言ったのか?
僕 「今は、僕が恋人でしょ?じゃあ、以前の恋人は忘れよう。」
王 「そうね。」
僕は、自分で以前の恋人のことを聞いておいて、勝手に話を終わらせた。
自分に都合の悪い話は、聞きたくない。
勝手な男だ。
王のいとこが、2人部屋に入ってきた。なにやら、王と話している。
3人とも、1000元ずつ出しあい、封筒に入れた。
僕 「そのお金、どうするの?」
王 「おばあちゃんに、あげるの。」
王は、更に1000元取り出して、
王 「これは、お父さんと、お母さんの分。」
僕 「王は、いつも両親にお金をあげているの?」
王 「お金があるときはね。」 笑いながら答える。
中国人は、家族の絆が強く、親を大切にすると聞いていたが、
お金をあげているとは、思わなかった。
日本で、21歳の女の子が、両親にお金をあげたりするだろうか?
全て、自分で使ってしまうだろう。
男だって家にお金を入れているかどうか。
いとこが、部屋を出て行った。お金を渡しに行ったんだろう。
僕は、バックを取り出し、中身を見た。
元は、4000元近くある。
そのうち、3000元を取り出し、
僕 「日本じゃ使えないから、王にあげる。」
王 「いいよ、悪いから。」
僕 「じゃあ、両親に渡して。ホテル代、食事代。」
王 「私の両親は、受け取らないよ。」
僕 「じゃあ、やっぱり王にあげる。」(本当は、欲しいんでしょ、無理しないで)
王 「・・・・ありがとう。」(日本語で言った。)
僕 「無駄使いはしないでね。」
王 「わかってる。ありがとう。」
少し、間があいて
僕 「香港には、もう行かないで。」
王 「・・・・・・・。」
僕 「もし、お金が必要だったら、僕に言って。」
王 「・・・・・・・。」
僕 「僕の気持ち、わかるでしょう?カラオケの仕事はもうやらないで。」
王 「・・・・あなたの、パスポートを見せて。」
僕 「え??」
王 「私に、パスポートを見せて。見せたくない?」(なんだろう、何を見るんだ?)
僕は、バックからパスポートを取り出し、王に渡した。
王は入国、出国のスタンプの日付を見ている。
僕は、2001年2月に初めて大連に行き、その後、5回ほど、大連に行っている。
そのうちの1度は3ヶ月の長期滞在だ。
ほかの都市に行ったことはあるが、全て大連経由だ。
王 「大連は、仕事で行ったの?それとも、恋人に逢いに?」
僕 「・・・・仕事だよ。」
(これは、ウソだ。以前、大連に好きな女性がいた。)
王 「本当に?ウソついてない?」
僕 「王にウソはつかないよ。」
王 「うん、信じる。」
王は、にっこり笑い、そして、自分のバックから何かを取り出した。
香港の通行許可書だ。パスポートみたいな形をしている。王は僕に見せた。
香港に入った日付が記されている。王が、日付を指さした。
2005年1月11日に香港入り 2005年1月27日に香港を出ている。
後にも、先にもその日付しか記されてなかった。
一度しか香港に行ってないのだ。
そして、僕は2005年1月11日に、初めて香港に行き、12日に王と知り合った。
王は、メモ帳に「縁」という文字を書いて、僕にキスをした。
晩ご飯はみんなで、外に食べに行くことになった。
全員で16人、すごい人数だ。
僕がバックを持っていこうとすると「危ないから、家に置いていきなさい。」、と言われた。
福建省の田舎は、治安が悪そうだ。
王が、「1人じゃ危ないから、はぐれないで。」と言っている。
僕のことを、何歳だと思っているんだろう?
レストラン(??)に入る。テーブルも床も汚い。こんなところで食事をするのか?
王が、僕の手を引っ張り、「食べる物を選びに行こう!」と、食材があるところに連れて行った。(・・・・・・・こんなモンが食べられるの??)というような初めて見る食材が、沢山あった。
僕は、無難なところで、野菜ばかりを選んだ。
王は、なにやらグロテスクな食材を選んでいる。
みんなが、お茶碗に、ポットに入っている熱湯をかけている。
不衛生だからか?大連では、見ない光景だ。
料理が運ばれてきた。
ほとんどが炒め物で、王が選んだグロテスクな食材がどれに入っているかわからない。
みんな、すごい勢いで食べているが、僕は食欲がわかなかった。
王が、僕の茶碗によそってくれた。これは、何だ?肉か?魚か?
せっかくよそってくれたのだから、無理してでも食べないと悪い。
やっと食べ終わるとまた、王がよそいはじめた。
ニコニコしながら「たくさん食べてね!」と言ってる。
また、無理して食べ始めた。
噛むと気持ち悪いので、ほとんど噛まずに飲み込んだ。
空になったお茶碗に、また、王がよそり始める。
僕 「もういいよ、たべられない!」
王 「え?もういいの?」
中国人は、痩せているのに、よく食べる人が多い。
ぼくは、中華料理には、幾らか慣れたつもりだったが、田舎の(福建省の中ではではそこそこ都会だが・・)料理は、慣れるまで時間がかかりそうだ。
田舎には、都会では体験出来ないことが沢山ありますよ。
ここには書ききれないので飛ばしますが、是非、皆さんも中国の田舎に行ってみて下さい。
あっという間に、日にちが過ぎて、2月6日大連に戻る日が来た。
一緒に大連に、戻るのかと思ったのだが、王は福建省に残ることになった。
今日で王とお別れか・・・。もう一日、一緒にいれると思っていたので残念でしかたない。
王の自宅では、一緒に寝ることも出来なかったので別れる前から、もう会いたくなっている。
王の誕生日まで、1ヶ月ちょっと。
きっと長く感じるのだろう。
王が、空港まで送ると言い出した。両親は反対している。空港まで行って、また自宅まで戻ってくるんじゃ、大変なので、親としたら当然だろう。
でも、僕は王に来てほしかった。
王も、空港に行くと言って聞かない。
両親も諦めて、空港に行くことを許してくれた。
お父さんが、果物と福建のお茶とおみやげに、たくさんくれた。優しい両親だ。今度来る時は日本から、おみやげを持って来るようにしよう。
タクシーに乗り、みんなに手を振る。みんなが見えなくなると、王は抱きしめてきた。
僕も王を抱きしめた。空港までの約4時間、ずっと抱き合っていた。
空港に着き、最後のお別れだ。王は泣くかと思ったが、笑ってサヨナラを言ってきた。
なんか、思っていたのと違うな。
まだ、会って2回目だからかな?
泣いてくれたりでもしたら、嬉しかったんだけど・・・。
2月7日、日本に帰る日だ。王と恋人同士になれたのか?なれなかったのか?
王の誕生日に来たときには、もっと仲良くなれれば、よいのだが。
電話が鳴った。でると李さんからだった。眠そうな声をしている。
李 「あ、Tさん?今、王さんから電話があって、気を付けて日本に帰って下さい、日本に着いたら、必ず電話して下さい、って言ってたよ。」
僕 「わかった、ありがとう。今回は李さんにも、ずいぶんお世話になっちゃって・・。」
李 「気にしないで。」
僕 「李さん、今どこにいるの?」
李 「自宅だよ。どうして?」
僕 「飛行機の時間まで、まだあるから、食事でも一緒にどう?」
李 「いいよ、どこにいけばいい?」
僕 「じゃあ、パパスにしようか。」
李 「OK、1時間くらいで行く。」
先に僕が着き、しばらくして李さんが来た。
李 「福建省どうだった?」
僕 「うん、面白かったよ。王のお父さん、お母さんにも会えたし。」
しばらく福建省の話をした。そして
僕 「ねえ、李さん、ちょっと聞きたいんだけど・・・。」
李 「何?」
僕 「李さんは、香港の恋人と付き合っているでしょ?遠いからなかなか会えないけど、寂しくないの?ひと月、ふた月に一度会う位で、平気なの?」
李 「平気だよ。私、以前からそうだったじゃない。」
僕 「李さんは、強いから・・・・。王が、寂しかったら、かわいそうだな・・・。」
李 「彼女は・・・・どうだろうね・・・・。」
僕 「王は、寂しさから浮気しないかな?」
李 「浮気?どうだろうね。私は、別に寂しくないけど、彼氏いるけどね。」
僕 「え?彼氏?香港の恋人以外に???」
李 「うん。」 李さんは、あっさりと答える。
僕 「・・・・・そのこと、香港の恋人は知っているの?」
李 「まさか、知れたら、怒られちゃうよ。」
僕 「そうだね、怒るよね。」(お金も貰えなくなっちゃうしね。)
しかし、あっけらかんと言う李さんは、通訳をやってくれている李さんと違って見える。
僕 「ひょっとして、S社長と付き合ってた時も、彼氏いたの?」
李 「どうかな?想像にまかせるよ。」
恐らく、いたんだろう。今頃S社長はクシャミでもしているんじゃないか?
僕 「ねえ、李さん、ちょっと聞きたいんだけど・・・。」
李 「なに?」
僕 「中国の女性って、恋人がいても平気で、ほかに男をつくったりするの?」
李 「人によるんじゃない?でも、カラオケで働いている子は、彼氏いる子が多いよ。上海で働いている子は、平気で騙す子が多くて、ひどかったよ。」
僕 「王は、どうかな?」
李 「え?」
僕 「王は、彼氏いると思う?」
李 「え・・・?だって彼女・・・・。」
少し間があって
李 「彼女さあ、私とTさんの前で恋人と電話してたじゃない。それが答えなんじゃない?」
僕 「その、電話の男だと思うんだけど、以前、結婚を考えた男がいたのは、王も認めてるんだ。その上で、僕のことを愛してると言ってくれたんだよ。これは、間違いなく、僕のことを愛していると思うんだけど・・・・。」
李 「でも、彼女、2月13日上海に、電話の男に会いに行くんだよ?」
僕 「それは・・・たぶん、男の方が、王に未練があって、しつこくしているんだよ。王は、迷惑だけど、今まで付き合っていたから、仕方なく会ってあげるんだよ。」
李 「それは違うよ。一度別れたら、好きな男じゃなかったら、女は会わないと思う。好きでもない男に会いに、わざわざ上海まで行くと思う?私だったら絶対に行かないよ。それに、彼女、電話の男と、上海で一緒に泊まるかもしれないんだよ?」
僕 「なんだよ、李さん、王のことカワイイって言ってくれてたじゃん。どうしてそんな冷たいこと言うの?王は、僕のために日本語を覚えてくれると言った。好きじゃない男のためにそこまでやると思う?
李 「確かに、彼女はカワイイと思うよ。でも、口じゃ、幾らでも言えるからね。Tさんのために日本語を覚えるのと、他に恋人がいるのとは、別のことだよ。」
僕 「意味わかんないよ。どういう意味?」
李 「今は、Tさんに好意を持っているのは、間違いないけど、しばらく会わなければ電話の男に戻っちゃうよ。Tさんが大連に来たときは、Tさんのことが好き。お金も貰えるしね。Tさんが日本に帰ったら電話の男が好き、その繰り返しだよ。」
僕 「李さんは、そんな女友達しか、いないからだよ。王は絶対に、そんな女じゃない。」
李 「二回しか会ってないくせに。」
バカにしたような口調だ。
僕 「回数は、関係ないよ。お互い好きなんだ。」
李 「じゃあ、こんな話すること無いじゃない。お互い好き同士。それでいいじゃない。」
僕 「・・・・・・・・。」
李 「彼女のこと信じていれば、こんな話、しないでしょ?何でするの?」
僕 「・・・・・・・・。」
李 「本当はTさんが、彼女のこと、信用してないんじゃないの?」
僕 「そんなことない、僕は王を信じている。」
李 「おめでたい人。」
またバカにしたような口調で言った。
遠距離恋愛している人は、みんな彼女のことを信用しているのか?
それとも、浮気は当たり前だと、割り切って付き合っているんだろうか?
僕は、話題を変えた。
僕 「若い人って、1ヶ月どの位お金が必要なの?」
李 「生活に必要な、お金のこと?」
僕 「そう。僕は、王に1ヶ月、4000元(5万円)渡そうと思っているんだけど。」
この時、1万円=約800元だった。今は680元くらいかな?
李 「贅沢しなければ、大丈夫じゃない?私だったら無理だけど。」
僕 「李さんは、贅沢しすぎだよ。」
李 「でも、ちゃんと彼女にお金あげるんだ。へえー。」
僕 「カラオケの仕事、もうしないでくれって言ったんだ。僕の言うことを、聞いてくれればその位のお金は、あげようと思っている。そりゃあ、本当はあげたくないよ。お金目当てで、付き合っていると思うと、いい気分しないし。」
李 「そうね。でも、彼女だって、お金が必要で、カラオケで働いていたのに、Tさんのために辞めてくれるんだったら、その位のお金は、あげないとね。」
僕 「どうして、王はお金が必要なんだろう?家は、貧乏とは思えなかったけどなあ。」
李 「若いから、物を買ったり、遊びに使うお金が欲しいんじゃない?」
僕 「そうなのかな・・・・。」
飛行機の時間が迫ってきたので、僕は、李さんと別れて空港に向かった。
1人で空港に向かうのは、少し寂しい。
空港に着いた。お別れを惜しんでいる、日本人と中国人のカップルが何組かいる。
目に涙を浮かべている女の子もいる。
こっちが貰い泣きしそうだ。
王の誕生日に、会いに来たとき、あの女の子みたいに、泣いてくれるんだろうか?
つぎに大連に来るのは、1ヶ月ちょっと先か。3月は幾らか暖かくなっているんだろうか?
日本に帰ってきてから、何日か過ぎた。その間、お互い何度か電話をした。
王と李さんも、連絡を取り合っているみたいだ。どうしても伝えたい事は李さんにお願いしているので、李さんから、電話がくるときもある。
そういえば今日は2月13日だ。
王が電話で、上海に行くと、言っていた日だ。
今頃、電話の男と会っているんだろうか?
夜になり、電話をしてみたが、パワーオフでつながらない。
何度、電話してもそうだ。僕は心配になったが、どうしようもない。
明日、もう一度かけてみよう。
僕は会社で寝ることにした。自宅と会社が隣なのでよく、会社で寝泊まりする。
王は、明日は電話にでてくれるのだろうか?
次の日の夜、李さんから電話があった。
李 「あ、Tさん?今、男の人から私の携帯に電話があったんだけど・・・・。」
僕 「どうしたの?」
李 「その男が、いきなり、「お前は誰だ!?」って言ってきたのよ。だから私、「電話してきたのは、あなたなんだから、自分から先に名前を言ってくれ」って言ったの。」
僕 「それで?」
李 「そうしたら、「俺は王の旦那だ!」って言ってたわ。」
僕 「え・・・・・?」
李 「「どうして私の電話番号がわかったの?」って聞いたら、「王の携帯にあんたの番号が入っていて、知らない名前だから電話した」って言ってるのよ。」
僕 「・・・・・・・・・。」
李 「王さんの携帯に、私の名前は、Tさんの友達ってメモリーされてるじゃない。」
僕 「そうだ、李さんの名前じゃなくて、T朋友で、メモリーされてるよ。」
李 「それで、電話の男が、「あんたは、王と、どういう関係なんだ!」って、しつこく聞いてくるから、何て答えたらいいのか、わからなくて。」
僕 「・・・・・・・・・。」
李 「「Tは誰なんだ?」とも、聞いてきたわ。」
僕 「そうなんだ・・・・・。で、李さんは、何て答えたの?」
李 「「私と王さんの、日本人の男友達」って、言ってやったわ。まずかったかな?」
僕 「本当のことだから、別にまずくないよ。」
李 「それで、私、すぐ王さんに電話をしたのよ。「今、あなたの旦那って言う男の人から電話があったけど、彼は誰なの?」って。」
僕 「そしたら?王は、なんて言ってた?」
李 「以前の恋人で、今は、ただの友達って言ってた。でも、王さん、すごく話しずらそうで、すぐ電話を切っちゃったわ。近くに、電話の男がいたみたい。」
僕 「そう・・・・・。その電話の男、本当に、ただの友達かな?」
李 「どういうこと?」
僕 「ただの友達が、王の携帯を勝手に調べて、李さんに電話するのかな?」
李 「ただの友達じゃないよ。間違いなく、王さんの恋人だよ。」
僕 「でも、王は、今は、恋人いないって言ってた・・・・。」
李 「Tさん、いい加減にしなよ!ただの友達が、勝手に人の携帯電話のメモリーを見たりする?ただの友達が、勝手に、メモリーに入っていた電話番号に電話をする?T朋友じゃ、男か女かもわからないんだよ?それなのに、電話してきたって事は、嫉妬深い、恋人としか考えられないじゃない。ただの友達じゃなくて、恋人だよ。以前の恋人じゃなくて、現在の恋人だよ!」
僕 「でも、王は・・」 僕の話の途中で
李 「いいよ、別に。王さんの言ったこと、信じてれば?とにかく、こんな電話は私は迷惑だから、王さんに、メモリーを消してもらうのと、二度と電話してこないでくれって、言うから。」
電話が切れた。李さん、怒っているみたいだ。
僕に対してか?王に対してか?
それとも、電話の男に対してか?全員に対してかもしれない。
王が、男といたのは間違いない。李さんの電話番号をメモリーしたのは、この間僕が大連に行った時だ。それ以降に会ったことになる。
やはり、上海で、電話の男と会っているんだろう。
王が、カラオケクラブでもう働かない、日本語を覚える、と言ってくれたときは僕は、恋人のつもりだったが、どうやら、ほかにも恋人がいるのは間違いない。
王は、一度に2人の男と付き合えるのか?
僕は、3月王の誕生日、大連に行く気が薄れてきた。
李さんから電話が来た次の日、僕は王の誕生日に、大連に行こうかそれとも止めるか、迷っていた。
昼ご飯時、僕は社員に話しかけた。
僕 「なあ、1月に香港に一緒に行ったじゃない。」
社員 「はい。」
僕 「お前の選んだ子、可愛かったよな。」
社員 「可愛かったですね。また行きたいですね。」
僕 「その子のこと、好きになったりしないの?」
社員 「え?だって、彼女は売春婦ですよ?」
僕 「いや、僕の知り合いに、売春婦を好きになった人がいてさ。」
社員 「そうなんですか?中国人の売春婦をですか?」
僕 「そうだよ。本気で好きみたいなんだよ。」
社員 「中には、そういう変わり者もいるんですかね?」
僕 「変わり者かな?」
社員 「だって、彼女たちは、売春婦ですよ?」
そうか、割り切って遊ぶにはいいかもしれないけど、本気になる人は変わり者か・・・・。
でも、はまってしまう男もいるんじゃないのか?
僕は、日本でも、中国でも風俗遊びはしたことがある。
でも、王みたいに好きになった人は、いなかった。遊びと割り切っていたからだ。
王には、はまってしまった。
これは、いけないことなんだろうか?
李さんは、王は間違いなく恋人がいると言っていた。
普通の人はそう思うだろう。
王に、恋人がいて、その男と仲良くしているのだったら、僕は王にとってどんな存在なんだろう?ただ、お金をくれる、都合のいい男なのか?
社員にウソをついて会社を休み、お金をかけて会いに行く、そしてお金を渡す。
王は、僕と会っているときだけ、恋人のふりをする。
そして僕が日本に帰れば中国の恋人に逆戻り。
ほかの人から見れば、僕は、馬鹿な男だろう。
まるで、ピエロだ。
僕は、3月の王の誕生日に、会いに行くのを止めることにした。
これ以上はまらないようにしよう。でも、どうやって断ろうか?
「あなたには、恋人がいるから、もう、僕たちは終わりにしよう。」、とでも言おうか?
でも、王は恋人はいないと、何度も言っていた。当然、今回もそう答えるだろう。
僕は、夜、飲屋街を歩いた。
呼び込みしている中国の女の子を捕まえて、
「ちょっと、通訳してほしいんだけど。通訳が終わったら、
お礼に、君のお店に飲みに行くよ。」と頼んだ。
女 「誰に通訳するの?」
僕 「知り合いの女の子にさ。君は、僕の友達と言うことにしてくれ。」
僕は、国際カードを取り出し、王に電話をした。
王が出て、はしゃいでる。
女に電話を代わり、通訳してもらった。
僕 「3月、王の誕生日は、仕事の都合でいけなくなった。」
王 「え?あ、そう。・・残念だけど、しかたないね。じゃあ今度、いつ来られるの?」
僕 「わからない。」
王 「そう・・・。じゃあ、この間の写真だけでも送って貰える?私、早く見たい。」
僕 「わかった、写真は必ず送る。」
王 「・・・・誕生日逢いたかった。なるべく早く逢いに来て。」
僕 「ごめん、たぶんもう逢えないと思う。」
王 「え?どうして?」
僕 「僕は、日本に恋人がいるんだ。王とは遊びだった。もう、ウソはつけないから逢わないことにしよう。」
王 「・・・・え?あなた、日本に恋人がいるの?ウソついていたの?」
僕 「そう。結婚も考えている。だから、もう逢えない。」
王 「いきなりそんなことを言われても・・私、なんて答えればいいの?」
僕 「・・・・・・・・・・・・」
王 「どうして、この間、言ってくれなかったの?どうして、私の両親に会ったの?」
僕 「・・・・・・・・・・・・。」
王 「もういい!私、明日から香港に行く!もう、電話してこないで!!」
電話が切れた。
イヤなウソだ。
王が、かわいそうになったが、しかたない。
女 「通訳しづらかった。こんな事言ったら、彼女かわいそうだよ。彼女、明日から香港に行くって言ってたけど、どういう意味??」
僕 「いいんだ、ゴメン、ちょっと用が出来たから、君のお店に飲みに行けない。」
僕は、通訳のお礼に、千円渡してその場所から去った。
きっと王は、二度と僕に、電話をかけてこないだろう。
僕も、王には、もう電話を出来ない。
僕は、家に帰る気がしなくて、飲屋街を歩いていたら、携帯が鳴った。
通知不可能で、かかってきている。電話にでたら、驚いたことに、王だった。
王は、友達に代わって!友達に代わって!と、言っている。涙声だ。
僕は、友達はもういない、と言っても、友達に代わって!と繰り返している
僕は、明日電話をする、と言って、電話を切った。
あの、必死になって言っていた涙声を、僕は今でも覚えている。
次の日、家に帰ると、中国から手紙が来ていた。王が、日本語で書いてくれた手紙だ。
消印は4日前、ずいぶん早く届くもんだ。
懐かしい、もう1年以上前のことに感じる。この手紙を大連で見たときは大感動した。
下手くそな字だが、なんとか読める。王に逢いたい、でも、昨日あんな電話をしたから、今更逢いたいなんて言えない。
でも逢いたい。
僕は我慢が出来なくなり、以前通訳をしてくれた、中国クラブのママに電話をした。
僕 「あ、ママ?今日は仕事、何時から?」
ママ「8時からだよ。」
僕 「じゃあ、仕事行く前に、ご飯をご馳走するから、付き合ってよ。」
ママ「そのあと、店に来てくれるなら、付き合ってあげる。」
僕 「しっかりしてるな、それでいいよ。」
僕は、ママとご飯を食べながら、僕と、王のことを相談した。
ママ「それは、絶対、Tさんが悪いよ。」
僕 「え?どうして??」予想外の返事だった。
ママ「だって、王さんは、恋人がいるのに、Tさんが勝手に好きになったんでしょう?」
僕 「王は、恋人はいないと、何度も言ってたんだよ。僕は、何回も聞いたんだ。」
ママ「うちの店に来るお客さんだって、奥さん、恋人がいても、いないって答えるよ。うちの女の子もそう。彼氏がいても、いないって答える。そんなの、当たり前だよ。」
僕 「ママのお店で働いている女の子と、王は違うよ。」
ママ「とにかく、彼氏がいても、いないって答えるのが普通だよ。そんなの、ウソのうちに入らないよ。騙された訳でもなんでもないよ。」
僕 「えー?そうかな??」
ママ「で、Tさんは、私にどうしてほしいの?王さんと仲直りしたいの?」
僕 「昨日、ウソの通訳してもらって、王が泣いちゃったんだ。カワイソウでさ・・。」
ママ「じゃあ、王さんに誕生日、会いに行くのね?」
僕 「逢いたい、でも、昨日あんなこと言っちゃったから・・・。」
ママ「大丈夫、私が上手く言ってあげる。」
僕は、王に電話をした。王が、元気のない声で出た。
ママ「あ、王さん?私、以前通訳をした、Tさんの友達だけど、覚えている?」
王 「・・・・覚えている。あの時はどうもありがとう。」
ママ「昨日、通訳の女の人と、何を話していたの?王さんが怒って電話を切ったからTさん、心配しているよ?」
王 「Tさんは、私にひどいことを言った。私にウソをついていた。バカにした!」
ママ「だから、何を話していたの?通訳の女は、王さんに何て言ったの?」
王 「Tさんは、日本に恋人がいる、私とは遊びだった、そう言ったのよ!許せない!」
ママ「ハハァ、だから、王さん怒ったのね?」
王 「当たり前でしょ?そんなこと言われたら誰だって怒るよ!!」
ママ「ちょっと待って、今、Tさんに聞いてみる。」
ママが僕に話しかけてきた。
ママ「私、ここからウソを言うから。」
僕 「?????」
ママ「いま、Tさんに聞いたけど、Tさん、そんなこと言ってないって。」
王 「Tさんウソついている!!昨日の、通訳の女が、Tさん、結婚を考えてる女がいるって言ったもん!!」
ママ「いいから、Tさんの言ってることを聞いて。昨日の通訳の女は僕のことが好きなんだ。だから、僕と王に、ヤキモチをやいて、ウソの通訳をした。」
王 「・・・・・・・・・。」
ママ「僕は早く王に逢いたい、王の誕生日プレゼントも用意してある。早く会って渡したい。」
王 「本当に?昨日の通訳の女がウソついていたの?」
ママ「Tさんは、そう言っているよ。Tさん、いつも王さんの写真を財布に入れているよ。Tさんが王さんを、好きじゃなければ、写真だって持っていないと思うよ。」
王 「じゃあ、昨日の通訳の女が、ウソついたのね!ひどい人!許せない!!」
ママ「まあ、いいじゃない。王さんの誕生日には、Tさん逢いに行くんだから。」
王 「私はすごく傷ついた。どうしてくれるの?」
ママ「そうよね。」
王 「私は、ショックで、ご飯も食べられなかった。悲しかった。どうしてくれるの?」
ママ「Tさんも、心配だって。僕は王のことを愛しているから、安心してたくさん食べてって。」
王 「・・・・・・・・・。」
ママ「王の誕生日には、美味しいものをたくさん食べよう。王が食べたいものがあったらどこでもいいから、食べに行こう。北京でも、上海でも、広州でもだって。」
王 「・・・・Tさん、カワイイ。」
ママ「飛行機のチケットが取れたら、また、電話するだって。王さんは何か言うことある?」
王 「もっと、電話をしてほしい、あと、私をもっと大切にして。」
ママ「わかった、Tさんに伝えておくね。」
電話を切った。王とママは、何を話していたんだろう?ママに聞いてみた。
僕 「え??そんなウソついていたの?昨日の通訳の女の子かわいそう・・・。」
ママ「いいじゃない、もう会わない女なんだから。」
僕 「まあ、そうだけど・・・・。」
ママ「Tさん、はっきり言うけど、王さんに恋人がいても、本当に好きだったらその恋人から王さんを奪う気持ちぐらいじゃないと、ダメだよ。そのぐらいの気持ちがなければもう逢わない方がいいと思う。どっちを選ぶか、王さん次第だよ。恋人のいる女の子を好きになった、その女の子を自分のものにしたい、ただ、それだけでしょ?」
僕 「・・・・・・・・・・・。」
ママ「王さんの電話の対応からすると、Tさんのこと、愛していると思うよ。ガンバッテね。あと、王さんに誕生日プレゼントを買いなよ。私、もう用意してあるって言っちゃったから。あと、財布の中に、王さんの写真も入れておいてね。」
僕 「わかった、いろいろありがとう。」
ママ「別にかまわないよ。じゃあ、そろそろ、私の店に行こうか。」
さすが、日本で10年いるだけあって、ウソも上手い。このママは大したモンだ。
でも、やはり二股をかけられているのは、騙された気分だ。
僕と付き合うんだったら僕1人にしてほしい。もし、今度恋人の影が見えたら、ビシッと言ってやろう。
3月、王の誕生日に大連に来た。大連の王の家には、王のお母さんとおばさんがいた。
僕は、王のおばさんは苦手だ。
福建省で、さんざん、王のために家を買えと言われたからだ。
今回も、家を買えと言ってきた。
僕は、まだ結婚もしていないのに、家を買うのは早いと言ったのだが、結婚していようが、していなかろうが、まずは家がないと始まらない、とにかく家を買えと、メチャクチャなことを言っている。
どうして、中国の人は家にこだわるんだろう?不思議だ。
僕は、王に誕生日プレゼントをあげた。
赤いルビーの付いているネックレスだ。
このネックレスは、ヤフーオークションで買った物だ。
市場小売価格12万円の物を3万円で落札した。ただ、市場小売価格というのは、かなり高く設定されていて、店頭で売っている価格は3分の1から4分の1だ。(僕は知らなかったが・・・。)
王は最初、綺麗!と喜んでいた。
「このネックレス、幾らしたの?」と聞いてきたので、僕は定価の「12万円。」と答えた。
とたんに、王は怒り始めた。
王 「高すぎる!Tさん、バカだ!こんなの中国で買えば1500元だよ!」
僕 「え?そうなの?」
王 「このネックレス、いらないから、日本に行って返してきて。お金で頂戴。」
僕 「返品できないよ。僕の気持ちなんだから、身に着けてよ。」
王は、ぶつくさ言いながら、身に着けた。
よく似合っている。カワイイや。
しかし、プレゼントをして怒られたのは、今までで初めてだ。
王は、ほんの少し日本語が出来るようになった。
僕も少しだが中国語を勉強している。
お互いが少しずつ話せるようになるだけで、ずいぶん会話が出来るもんだ。
今回は、王と仲良くできた。
お母さんも、僕が王に、何もしないという条件付きで王と僕が、一緒の部屋で寝ることを許してくれた。
電話の恋人の影も、今回は見えなかった。
これから王も、もっと日本語を覚えて、もっともっと仲良くできたらいいな。
王は、仕事はまだ見つからないと言っているので、今回は6000元渡した。
無駄使いしなければよいのだが。
次に逢うのは、5月の約束をして、僕は日本に戻った。
今思うと、今回が一番仲良くできた。この先は、こんなに仲良くできた時はない。
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