私は現在47歳、弟の和彦は45歳です。
私たちは共に一度も結婚することなく、これまでずっと2人で暮らしてきました。
私が12歳の時、両親が借金を苦にして心中してしまった時からでした。
元より、身寄りの無いもの同士が出会い、結婚して作った家庭でしたから、家も土地も全て取られ、
残された私達は施設に預けられるより無く、私が中学を出るまで、同じ施設にいました。
中学を卒業すると、私は、当時はまだ有った、集団就職で東京に出ました。
本当は、弟の近くに居てやりたかったのですが、田舎では中卒の私にはろくな就職先が無く、
弟だけはどうにか高校まで出してやりたいと考えて、社員寮が有って、少しでも貯金が出来るところと思い、
都会に出ることにしました。
最初は和彦と離れ、心細くて仕方ありませんでしたが、たまに寮の公衆電話で和彦の声を聞いたり、
手紙を交換したりして励まし合うことで、和彦の優しい気遣いを感じると嬉しくて、
声を出して泣きじゃくったこともありました。
いよいよ、和彦の卒業が近付いた頃、私はどうにか和彦も東京へ呼んで、
一緒に暮らそうと中学の先生にも手紙と電話で、いろいろと相談すると、
和彦の学力なら都立のどの高校でも大丈夫ということでした。
私は嬉しくて、職場の皆に和彦の自慢話を言いふらしていました。
ところが、和彦の方が「姉さんだけに辛い想いをさせてまで、僕だけ高校へは行きたくない」と言い出したのです。
私は和彦が私を気遣って言ってくれることが嬉しくないはずはありませんでしたが、
その頃の私は、和彦が立派になってくれることだけが生き甲斐だったのです。
どうにか説得しようと試みましたが、逆に
「それほど言うのなら、僕も就職して、定時制の高校に行くことにする。姉さんも一緒に行こうよ。
姉さんも成績は学年でトップクラスだったんだから、中学だけで終わるのはもったいないよ」
と説得されてしまいました。
ともあれ私たちは念願が叶って、また一緒に暮らせるようになりました。
職場こそは違いますが、同じ夜間高校に通い、帰りは一緒に並んで帰れるのですから、
6畳1間のアパートとは言え、どんなに遅くなっても本当に幸せでした。
4年後、共に高校を終えると、2人ともW大学の2部に進学しました。
全日制の良い高校を出ても難しいと言われていただけに、合格した時は抱き合って喜びました。
学費が嵩むので都心に住むことは出来ませんでしたが、2人とも通学の便を考えて、通いやすい会社に移りました。
自分は中学だけで終わっても、和彦の成長だけを願っていた私にとって、華やかな都会の街を、
大学生として和彦と文字通り肩を並べて歩けるのですから、夢をみているようでした。
そして4年後、和彦は更に大学院へと進み、私はアルバイトとして勤めていた某大手電気メーカーから、
正社員ととして採用されました。一時は、どん底落ちた私たち姉弟にとって、望外の結末に思われました。
その頃、弟に想いを寄せる女の子がいました。頻繁に電話がかかり、
時には和彦は相手をしているようでしたが、殆どは断っているようでした。
それまで和彦を男としてみることは有りませんでしたが、和彦がその子を冷たくあしらう時はほっとし、
相手をしに出かけたりすると不安を感じてしまう自分に気付きました。
それまでは何の曇りも無く、2人で辛い時を潜り抜けて来れたことに、
幸せ一杯の気持ちでしたが、俄かに暗雲の垂れ込めた気分でした。
出来るだけ表情には出さないようにしていましたが、抑えきれず、和彦にあの子をどうしたいのか尋ねると、
「僕は何とも思ってないよ。あっちからいろいろ、言って来るから仕方なしに相手してるだけだよ。
僕は姉さんに面倒見てもらってる分際で、そんないい気になんか、なってられないよ」
「そんな、面倒見てるなんて少しも思ってないわよ。私はあんたが立派になってくれればそれで良いの。
負担になんて思ってもらいたくないの。あの時、あんたが高校は定時制で良いって言ってくれたから
私も学校へ行けたし、大学まで出られたのよ。感謝してるのは私の方よ」
「感謝だなんて・・・、それなら僕はその何倍感謝しても足らなくなるよ。それより姉さんはどうなの?
早く彼氏とか作って幸せになってもらわなきゃ、こっちが安心できないじゃないか」
「ばかねぇ、何言ってるの。今、私が居なくなったら和君やってけなくなるじゃないの?
私は和君が結婚するまで絶対に嫁に行かないって決めてるんだら・・・」
「おいおい、それじゃ30になっちゃうよ・・・」
「良いの! 私はそれで良いの。和君と一緒にいたいの。どこへも行きたくない。いや? 迷惑?」
「姉さん・・・」
私は話してるうちに和彦の私への気遣いが伝わってきて、胸が一杯になって、思わず和彦を抱きしめていました。
そして、もう何も言わなくて良いからと唇を重ねてしまいました。25歳にもなって初めてのキスでした。
もはや姉弟ではなく恋人になった瞬間でした。
とは言え、実の姉弟であることは紛れも無い事実だけに、それ以上は出来ませんでした。
それから6年経ち、私は会社では営業部の係長となり、和彦が大学院の博士課程を終え、
某女子大学に講師として教壇に立つようになり、感謝とお礼を言いに行こうと故郷の施設を訪ねました。
お世話になった院長に、挨拶して名刺を差し出すととても喜んでくれました。
卒業した中学校へも行くと同様に歓迎されました。
その夜、ビジネスホテルに着くとベッドに並んで座りごく自然に唇を重ねました。
「私たち、もうそろそろ良いんじゃない?」
私から和彦を誘ってみました。予約した部屋は敢えてダブルベッドにして置きました。和彦には内緒で・・・。
その前からずっと、お互い生涯結婚せず2人だけで暮らして行こうと誓い合っていました。
「子供を作れなくても良いの?」
何度も問い掛けましたが、和彦の決心は動きませんでした。
2人が心だけでなく、体も夫婦となるのは時間の問題でした。
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