11月6

清楚な美女の公開処刑1

俺は左手の指先が少し欠けている。
幼い頃、凍傷に掛かったせいだ。

指が欠けているせいで級友達からは随分と虐められもしたが
悪いことばかりでもない。
左の指が不自由な俺に、家族が、
特に母が過保護と思える程、優しかった。

母は子供の幼心にも、とても美しく思えるほどの容姿だった。
授業参観日など、母が教室に入ってくると、
それまで後ろを振り返って俺にちょっかいを出していたヤンチャな虐めっ子が
突然ぽうっと頬を染めて黙り込み、男性教師は緊張から汗ダラダラになって必死にハンカチで拭っていた。
そんな時だけは、ハンディキャップがあることも忘れて鼻高々になれた。

俺は優しくて綺麗な母のことが大好きだった。
だから母を喜ばせたくて勉強も運動も一生懸命やった。
中学生になっても反抗期もなく、母の手伝いを少しでもしたくて
学校が終われば、真っ直ぐ帰宅する、そんな毎日だった。

ところが、そんな風に母一辺倒だった人生も、一変することになる。

その日は、俺の誕生日だった。
放課後「寒い寒い」言いながら校舎から出ると
校門のすぐ前に、天使が立っていた。
恥ずかしい表現だが、そう思ったのは俺だけではなかったはずだ。
門番に立つ体育教師も、帰宅を急ぐ学生たちも軽く口を開けて、その女性に見とれている様だった。
それほど、その女性は美しかった。
年齢は20歳に達しているかどうかと思われた。その時の俺にはそう思えた。
派手ではないが、品の良い清楚な服装。
それに似合った容貌は、端麗で凛としたものを感じさせる。

その驚くほど端正な美貌が、学生たちの顔を見ては失望したように瞳を伏せていたが
なんと俺の姿を捉えた瞬間、ぱっと顔を輝かせて近寄ってきた。

「・・・あ、あの。私は・・」

あまりにも控えめで弱弱しい話し方に俺は驚いた。
それまで背筋を真っ直ぐ伸ばして輝かんばかりに堂々としていたのが嘘のような
まるで、何かに怯えるかの様な話だし方だった。

それでも、なんともいえない甘い香りが鼻をくすぐると

「は、はいいい」なんて

俺は珍妙な返答をしてしまった。

なんとも間の抜けた初対面ではあったが
その女性こそが、母の実の妹である紗季さんだった。

紗季さんは東京の有名大学を卒業後、そのまま東京で暮らしていたが
姉である母の居る街に引っ越してきて、
父の会社(といっても自宅の一部を事務所にしているような小さな設計事務所)で働きだしたと言う。

叔母であるはずなのに、それまで一度も会ったことがなかった事実にも驚きだったがそれ以上に、
どう見ても、叔母というより、お姉さんにしか見えない紗季さんが
母とは5つ違いで実は28、9歳だったという年齢に驚かされた。

年齢を知っても、当時の俺は真面目とは言ってもヤリタイ盛りの中学生だ。
しかも童貞だった。
年齢差など全く気にせず
当然のごとく、俺はこの美貌の叔母に夢中になった。

最初は、用もなく父の事務所に顔を出しては、ただ紗季さんを遠目に眺めていただけだったが
俺と接しても恥じらうばかりで、おとなしく、弱弱しい紗季さんに
俺は完全に調子に乗ってしまった。
慣れてくるに従って、紗季さんの傍に行っては、さりげなくシャツの胸元からオッパイを覗いて喜んだり
しまいには、何かにつけてスキンシップを楽しむようになっていった。

だが、紗季さんは滅多に居ないような飛びぬけた美女だ。
俺以外の様々な立場の男達だって当然目を付ける。
特に、名もない田舎町だ、すぐに、紗季さんの美貌は評判になり
大きな建設会社など取引先の男達が、紗季さん目当てで
父の事務所にわざわざ仕事の依頼に来るようになった。

俺は気が気ではなく、こっそりバレないように事務所内の様子を伺うことが日常になったが
そんな時は、決まって紗季さんは、いつも自信に満ちていて、どちらかと言うとプライドの高い気の強いタイプに見えた。
取引先のイケメンが必死に口説いても、
大企業の男が立場を利用して口説いても
紗季さんは、毅然と、そして、はっきりと断っていた。

そんなシーンを見る度に、俺はさらに一層調子に乗っていった。

それは盆休みに起こった。
お盆ということもあって、紗季さんがうちに泊まっていくことになったのだ。
俺は夕食を食べている時も、居間でくつろいでいる時も、紗季さんのことが気になって仕方がなかった。
普段見慣れない純白のワンピースが、清楚な雰囲気の紗季さんにとても良く似合っている。
ノースリーブの剥き出しの肩が眩しく、少し薄手の生地はブラジャーの線が透けているように思えた。

バレない様にじっくり穴が開くほど見入っていたが
何かの拍子に紗季さんが腕を上げた時、
俺は思わず、まるで覗き込むように身を乗り出してしまった。

別に腋フェチではないのだが、普段見慣れないノースリーブの紗季さんが、あまりにも眩しすぎたのだ。

この不自然な行動は、当然、紗季さんにバレてしまう。
慌てていると、ほっそりした手が俺の手をしっかりと握ってくる。
え?
たら?っと汗が流れた。
「辰也君、学校はどう?楽しい?」紗季さんは優しい声で聞いてきた。
答えずに黙っていると
「彼女とかできた?叔母さんにも紹介して欲しいなぁ」
などと、さらっと聞いてくる。

な、なんだよ!それは!
手なんか握ってくるから変なことを期待したじゃないか!
自分が恥ずかしくなって理不尽にも腹が立ってきた、
気づいた時には叫んでいた。
「紗季さんのことが好きだから、彼女なんか作らない!紗季さん!俺の彼女になってよ!」

言った瞬間、急に頭が冷えてきて
俺はあまりにも恥ずかしくて、すぐに下を向いて紗季さんの反応を待った。

しかし、いくら待っても何の反応もない。
恐る恐る顔を上げると、紗季さんは悲しそうな表情で、じっと俺を見ていた。
さ、紗季さん・・・
声をかけようとしたが、目が合った瞬間、
紗季さんは何も言わずに、そそくさと部屋から出て行ってしまった。
最終話(5話)まで、つづく
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