の続き
京子の夫です。
以前書いたとおり、前回の報告以来、もう嫁と高木は会っていない。
しかし、これも以前書いたとおり、俺がPCで取得したフリーメールで高木を騙って嫁とメールをしていた。
「なんでPCからのメールなの?」といいう嫁の問いからは、
「彼女が出来そうだから、携帯だとばれるとまずいし」といった感じの返答をしといた。
それで嫁も特に疑う様子はなく、俺扮する偽高木とメール交換を応じてくれた。
高木はその事を了承してくれてはいるものの、内容には一切ノータッチ。
万が一俺が居ないところで、嫁と高木がばったり街中で出くわしても、
適当に誤魔化してくれと言ってある。
まぁ休日にお互い単独で行動することなんて皆無に等しいので、そもそもそんな心配は要らないだろうが。
高木は高木で例の気になる娘と順調に親密になれているようで、
この件とはもう関わりたくは無いそうだから利害は一致している。
俺と高木の友人関係については、以前と変わらぬまま良好。
結果からいうと、他人の立場から嫁とメールをするというのは物凄く新鮮で、そして刺激的だった。
メール交換を繰り返す内に、自分がまるで本当に高木になったかのように感じる時もあり、
こっちの「また会いたい」という誘いに対し、嫁が拒否をすると嫁の相手(すなわち俺のことだが)に対して凄まじい嫉妬を覚え、嫁をやっきになって口説こうと熱くもなる。
要はまるで付き合う前の片思い状態を思い出す。
その逆に嫁が高木(本物)を褒めるような事があれば、高木の役になりきっている俺は、俺自身に対して寝取ってやったと優越感も抱くこともあるし、さらには本来の俺の立場としては、嫁を取り戻したいという強い思いに駆られ、それがまるで恋愛していた頃のように、嫁への気持ちを募らせることになる。
自分で書いてて分裂病というか、サイコホラーな感じがするが、別にそんな危うい精神状態では無いということだけは一応きちんと記しておきたい。
要するに、この遊びに真剣にのめり込んでいたということ。
他人の立場で嫁を口説くというのは、まさに自作自演だが、本当に楽しかった。
実際嫁を抱かせることに比べると、リスクは無いと言ってもいいし、色々な興奮を楽しめる。
でもそれももう終わりにしようと思ってる。
それにはいくつか理由があって、まず一つは嫁が思っていた以上に高木を男性として気に入っていたことがわかったから。
その他には、前述した通り、自分も少々のめり込みすぎた部分があるので、そろそろ自制を利かさないと不味い、と思い始めたから。
最初はせいぜい2?3往復くらいの他愛の無いメールだった。
最初から「やっぱりまた会いたい」などと送って引かれては元も子もない。
(と言いつつも、初めのころに、実際試すつもりで一度そのようなメールを送ったが、嫁ははっきりと断ってくれた。
とはいえ以前もそんな感じの対応だったのに、結局顔を合わしてしまうと、最後までしてしまっているので、嫁の拒絶は決して見せ掛けだけ、とまでは言わないものの、そこまで絶対的なものではないのだろう)
なにより他の男の立場から嫁とメールをするという状況は、特に突っ込んだ会話じゃなくとも、とても刺激的で面白かった。色々と本音も聞けたし。
その内容の多くは、やはり共通の話題になりやすい俺に関することで、最初は家と会社での違いなんかを冗談交じりに言い合った。
当たり前だが嫁は俺(偽高木)に対して好意的な意見(というかぶっちゃけノロケ)を送ってくれてたし、それが照れくさい俺(偽高木)は、俺自身を腐すような返信をすると、少し怒ったような文面が届いたりもした。
素直に嬉しかった。
前にも書いたと思うが、嫁は長々とメールをするのが好きじゃない。
しかしその辺りも、メール交換を続ける内に大分変化していった。
もしくは、本来はそんなこともなかったのかもしれない。
そんな他愛の無いメール交換を続けるうちに、嫁の中でも浮気をした罪悪感が徐々に薄れていったのだろうか。
メールの内容は少しづつ、俺と嫁の夜の生活や、高木との比較に話が及ぶようになっていった。
その皮切りが、「旦那さんとはどんなエッチをするんですか?」と送ったメール。
事前に高木から、嫁とはそういった話をしていないということは確認済み。
そもそも嫁は普段からの下ネタは勿論、H中も殆ど喋らない。
そんな嫁が、実はすこしむっつりな一面があるのも興奮した。
上記の質問に対し、「普通だよ。優しいかな」と返してきた直後、
「でも正直物足り無いときもあるかも。なんて」と追加でメールがきた。
正直落胆よりも、興奮のほうが大きかった。
そこは是が非でも、詳しく聞きたかったのでしつこく食い下がった。
「どうして?」と何度も繰り返し尋ねると
「ちょっと優しすぎるかな」
ちなみに、メールをしている時の状況は、大体俺が書斎(というよりは物置に近い)で仕事をする振りをしながら、嫁はリビングでという形。
いつも俺が書斎に入ってからメールが来るというのが不自然に思われないように、
メール交換を始めた初期の頃に、「メールを送っても良い時間教えて?」と送ったところ、
「旦那は大体9時?10時くらいは書斎に篭るから、それくらいなら大丈夫かも。でもなるべく止めようね」と返事を貰ってからこうしてる。
たまに、仕事帰りにネカフェから送ることもある。
「京子さんって実はMなんだ?」前から思っていたことを質問。
「そうかもね」
嫁は基本しっかりしてるし、誰に対しても物怖じせずハキハキと意見を言う人間だ。
顔立ちも篠原涼子似で、気の強そうな釣り目と、筋の通った鼻に、いつもキリっと結ばれた口元。
内面的にも外面的にも、あからさまにSっ気がありそうな人間と思われがちだが、俺はなんとなくそうじゃないかと思っていた。
俺もドMなので、たまにお互いの感情のやり取りがチグハグに感じてしまうことも多々ある。
まぁそれでも長年やってこれたのは、それらを超越する他の部分による相性や、情が有り余っているからと思いたい。
別に夫婦とは漫才コンビではない。
勝手な持論だが、S同士のカップルは絶対上手くいかないが(というかそもそもくっつかない気もする)、それに比べれば、M同士は全然可能性があると思っている。
「旦那さんもMっぽいよね」
「多分ね」
「それってどうなの?」
「相性的には微妙なのかもね。でもだからって不満とかじゃないよ」
「それでもHでちゃんと満足できてる?」
「うーん。正直に言っていい?引かないでね?」
「なに?」続きを聞くのが少し怖かったが、好奇心がそれに勝った。
「実は○○君(嫁はたまに俺のことを君付けする)でイったことって無いんだ」
激しい劣等感に襲われると同時に、痛いくらいの勃起。
その瞬間は、高木に対して、怒りとも思えるくらいの強い嫉妬を感じた。
しかし同時に、拝んでしまうほどの感謝。
もう何年も一緒で、最低でも何百回、もしかしたら千に近い回数で身体を重ねてきたのに、
一度も満足させたことが無かった自分に失望するのと同時に、それを他の男に告白する嫁に激しく欲情した。
嫁の返信には続きがあった。
「だから高木君とのは余計衝撃的だったな」
溜息をつきながら、若干震える手でメールを続行する。
「俺のどんなところが良かった?」
「やーだ。そんなの言えない」
「お願い。いいじゃん」
「もー。激しいし、すごい硬かった。上手いし。以上。馬鹿」
「何が?」
「うるさい」
「またしたい?」
「もうだめ」
「何で?」
「今でも少し残ってるから。君の感触」
「もっと残したいんだけど」
「それがやなの」
「最近旦那さんとしてるの?」
「してるよ」
「俺の感じがまだ残ってるんだ?」
「あー。うん」
「それで本当に気持ち良いの?」
「別にそれだけが夫婦生活じゃないし」
「不満じゃないんだ」
「当たり前。夫婦っていうのはそういうもんなの」
「性欲的には不満でしょ?自分でやったりとかは?」
「はいはい。おやすみなさい」
その返信を見て少し安心した俺は、その日はもうそれでメールを止めようと思った。
でも一つだけアイデアが頭に浮かんで、それを提案した。
「これから旦那さんとする時さ、俺のこと考えててよ。目を瞑ってさ。
そしたら気持ち良いかもよ?」
最後にそうメールをすると、その日はもう返信がなかった。
書斎から出て、嫁を誘おうかどうか迷った。
リビングに行くと、いつもと変わらない嫁がいた。
笑顔で、一緒にアイスを食べようと腕を絡めてきた。
その後は、結局自分からは誘えなかった。
自分から提案しときながら、実際そうされたらと思うと怖くなった。
でもそうなってほしい、そうされたいという二律相反する期待もある。
いつも通り、二人で床についた。
しばらく時間が経ち、もう寝たと思った嫁が、俺の身体に手が伸ばしてきた。
無言で俺に愛撫を続け、布団の中で、衣擦れと、嫁の微かな鼻息だけが響いていた。
暗闇の中で、嫁と目が合う。
「いい?」
半身だけ俺の上にのしかかり、俺の脇腹をさすりながら、上目遣いでそう聞いてきた嫁に対し、情けないことに、覚悟が決まらない俺は、返事を逡巡してしまった。
「……疲れてる?」
心配してるのか、ガッカリしてるのか、よくわからない表情の嫁。
俺は覚悟をきめて、嫁を押し倒した。
嫁はいつもより興奮している様子で、薄明かりの中でも、潤んだ瞳に紅潮した頬、
そして何より興奮を抑えきれないといった様子の鼻息がありありとわかった。
下着を脱がすと、うっすらと下着の股の部分に糸が引いていた。
正上位で挿入すると、しばらくはいつも通りだった。
嫁はいつも、俺のことをじっと凝視するように見つめながらセックスをする。
そうやって見つめあいながら、キスをしながら正上位、というのが自然に多くなるパターン。
その時も初めはそうだった。
しかし数分ほど経つと、嫁の顔には、どう表現していいかわからない表情が浮かび出し始めた。悲しそうな、辛そうな、申し訳無さそうな、そんな表情。
やがて嫁はそっと目を閉じた。
それから少しづつ、嫁の様子が明らかに変わっていった。
歯を食いしばるように口を開けて、喉の奥で声を我慢するかのように辛そうな顔を浮かべた。
膣内も心なしかぎゅっと俺を締め付けた。
その瞬間嫁は自分でも困惑したように目を開けたが、しばらく潤んだ瞳で俺を見つめ逡巡していると、また辛そうに口を結び、目を閉じた。
さらには俺に気づかれないようにやっていたつもりだろうが、嫁は時折
自分から物足りなさそうに、腰を下から押し付けてきたりもしていた。
膣内は相変わらずぎゅうぎゅうに締めつけてきて、俺の背中に回った手や足も、
強く俺を引きつけて、また今まで聞いたことが無いような
「あっあっあっあっあっ!」と切なく、そしてリズムカルな喘ぎ声を上げだした。
そしてついにはセックス中に、初めて嫁が「いやぁ」とか「だめぇ」と喘いだ。
あんな風にセックス中に、明らかに無意識な感じで出たのは多分初めて聞いたと思う。
少なくとも、あんなに連呼したのは初めて。
それも、心底気持ちよさそうな、でも本当に何かを嫌がってるような声だった。
目を瞑ったままの嫁に唇を重ねようとすると、触れた瞬間、嫁は嫌がるように首を横に振った。
そして嫁は、俺の後頭部に手を当てて引き寄せた思ったら、耳元で「……もっと」と呟いた。
俺は無我夢中で腰を振り出した。
その時もう一度キスを求めたら、今度は応じてくれた。
それどころか、これも初めてじゃないかってくらいの激しいディープキスだった。
下品とも思えるくらい、嫁の舌は俺の口腔を激しくまさぐってきた。
その間、嫁はずっと、頑なまでに瞼を閉じていた。
たまに空けても、すぐに気まずそうに俺から目を逸らし、そして閉じる。その繰り返し。
嫁のその明らかに不自然な挙動に、俺は激しく興奮していた。
俺に抱かれながらも、他の男を頭に思い浮かべ、こともあろうかそれで普段より興奮している嫁が、愛おしくてたまらなかった。
もう何年も付き合い、さらには結婚して数年経つ嫁に対して
今更「俺の女にしたい」と、激しく欲情した。
ただ流石にショックだったのは、生で挿入していたのだが、俺がイキそうなのを伝えると、
嫁は俺の胸を手で押しながら、すすすっと腰を引いて、外で出すのを言外に要求してきたことだ。
俺が自分で手でしごき、嫁のお腹に射精している様子を、
嫁は額に手の甲をあて、肩を上下させて呼吸を整えながら、悲しそうな目で眺めていた。
悲しそうというよりは、つまらなさそうと言ったほうが近いかも。
玩具を取り上げられた子供みたいだった。
片付けを終え、一息つくと、嫁はいつも通りふっと微笑み、無言で唇を重ねてきて、
「すごかった」と、照れくさそうに口にした後、目を逸らしながら「愛してる」と囁いてきた。
その晩は、その後もお互いの身体を冗談っぽく突っついたり、愛情を伝え合いながら寝た。
次の日、嫁の様子はいつもと変わらなかった。
俺より早く起きて、朝飯と弁当を作り、笑顔で送り出してくれた。
しかし仕事から帰りPCを開くと、偽高木フリーメールに、嫁からメールが来ていた。
嫁からメールが来たのは初めてだった。
送られていたのは昼間だった。
「今お仕事中だよね?てどうせ見てないか。見てたらサボってるって事だもんね。
まぁすぐ返してくれたら嬉しいけど。そう言えば前言ってた女の子とはどうなったの?」
「サボってなかったんで、今返信。特に進展無いよ」と返信。実際今でも、まだ友達以上恋人未満らしい。
「そっか。えらいえらい」
「何で?」
その日は返信が無かった。
次の日も返信は無く、俺から「もしかして会いたい?」と送ると、やはりまた返信は無かった。
それから2?3日後、嫁からメール。
「わかんない。でもそうなのかも」
怒りや失望ではなく、興奮する自分に危機感を覚えた。
でもその時点ではもう少しだけ、もう少しだけと好奇心を押さえ切れなかった。
嫁の本心が知りたかった。
「会おうか?」
「だめだよ」
「俺のこと忘れられないんでしょ?」
「そうかもだけど。でもだめ」
「正直になったほうが良いんじゃない?溜め込むのよくないと思うよ」
そこからまた二日ほど間が置いて、「正直ね、最近、君のことばかり考えてる」とメールが来た。
その間も、俺と嫁は身体を重ねていた。
しかし嫁はやはり目を瞑り、そしてゴムの着用をお願いしてきていた。
その二日間。嫁は何を考えていたんだろうか。
「会いたい?」
「だめ」
「嫌?」
「嫌とかじゃない」
「もし会ったらどうしたいの?」
「君って意地悪だね」
「意地悪されるの好きだろ?」
俺にSっ気は全く無いが、メールをしている時は軽く別人格になっているので、
これくらいの言葉攻め(という程でもないんだろうが)は出来た。
「そうかも」と返信。
その直後、嫁から追加のメール。
「やっぱり君が忘れられない。してほしいって思っちゃう」
頭がグラグラした。
偽高木としては歓喜で、本来の俺としては嫉妬で、嫁が好きで好きでおかしくなりそうだった。
もうおかしくなってるのかもしれない。
「正直に言って。オナニーってしたことある?」
「ある」
「最近は?」
「してる」
「どんな時?」
返信に時間がかかった。
「昼間とか。あと…………旦那とした後とか」
「なんで?物足りないから?」
「そんな風に言わないで」
「でもそうなんでしょ?それで自分で処理するんだ?どうやって?」
「どうやってって言われても。わかんないけど普通だよ」
「どこで?」
「昼間は寝室とか。した後は旦那が寝た後トイレとか行って」
「何考えてるの?」
「何でわかってるのに聞くの?そういう意地悪しないで」
「聞いてほしいんだろ?何考えてオナニーしてんの?」
「君のこと」
「ちゃんと言えって」
「君とのセックス思い出してしてる。あと君のメール見ながらとか」
「それで満足出来るんだ?」
「うん」
「やばいね」
「うん。本当最近やばい。終わってベッド戻る時とか本当ごめんって思う」
「旦那さんに?」
「うん」
「今もしてるんじゃない?」
「してないよ」
「じゃあ濡れてる」
「わかんない」
「触ってみて」
「やだ」
「本当のこと言って」
「やだ」
「俺のちんこ想像してみてよ」
「絶対やだ」
「次は俺と生でするとこ想像してオナニーしてみてよ。俺に生ちんこガンガン突かれるの」
そこで、リビングの扉が開く音が聞こえ、嫁がスリッパを鳴らして廊下を歩く音がした。
嫁はトイレに入っていったようだった。
本当にトイレにいっただけかもしれない。
それでも俺は扉の前に聞き耳を立てに行った。
中からは、スリッパが地面を擦る音と、「……っん……くぅ」と
嫁の辛そうな声が、ほんの微かに聞こえてきた。
俺はそこでどう表現していいかわからない感情に襲われた。
やはり怒りや失望じゃない。
初めて女の子を好きになった時のような、そして初めて射精を経験した時のような
むず痒くて、でもどうしたらいいかわからず、ただ股間を布団に押し付けていた頃のような感覚を思い出した。
やがて水が流れる音。
しかしそれと同時に、「はぁ……」とまるで男が射精した時のような声が漏れてきたのを聞き逃さなかった。
またこっそり部屋に戻ると、しばらくすると、
「もうやだ。君が欲しい。馬鹿。もう最悪。どうしよう。やっぱり会うのはやめよ。絶対やばい」
と返信がきた。
その晩、俺は激しく嫁を求めた。
俺が忘れさせてやると本気で頑張った。
嫁も激しく喘いでいた。
演技とは思えなかった。
何度も激しく身体を痙攣させていた。
その様子を、不思議と冷静に、ああこれが本当にイッてる嫁なのかと、観察することが出来た。
でもやはり嫁は殆ど目を瞑っていて、俺とは目を合わそうとしてくれなかった。
というよりは、必死で俺のことを見ようとするものの、やはり気まずさに
耐え切れず、やがて逸らしてしまうといった感じ。
キスも全然乗り気じゃなく、露骨ではないものの、あまりしたくなさそうな感じだった。
でも中出しはOKだった。
嫁の本音がますますわからなくなった。
後で確認すると、その晩に嫁からメールが来ていた。
俺が寝た後に送ったのだろう。
「ずっと君のこと考えてた」
俺は流石に焦りを感じ始めたが、どう幕を下ろせばいいかわからず、
またとても自制が利かないほど興奮していたので、高木モードに入りこんだまま続行してしまった。
「何を?」
「君に抱かれたいって。最悪だよね」
「旦那さんのこと嫌いになったの?」
「そんなわけない」
「今の生活不満?」
「違う」
「でも俺と会いたい?」
「君って本当意地悪」
「京子さんから会いたいって言ってくれたら会ってあげるよ」
「会うのはもう絶対駄目。本当もうやばいから」
「何が?」
「君とのこと」
「本気になりそう?」
「てゆうか、前からタイプだなって思ってたし」
「いつから?最初から?」
「ごめんね。もう本当やめよ。あたし本当馬鹿だなって思う。
君とするのすっごい気持ち良いし、君のことも好きかもだけど、
でももうこれ以上はもう無理だよ。もう○○君裏切りたくない。ごめんなさい」
頃合かと思い、最後のつもりでメールを送った。
ちゃっかり自分の本音とフォローも入れて。
「わかった。苦しませてごめん。でも浮気なんて、誰でもしちゃうもんなんだから
そこまで背負わなくてもいいと思うよ。ただ旦那さんは、今のところ絶対してないから
それは安心していい。これからもしないと思うよ。あの人、京子さん以外眼中ないから」
その後、嫁は涙目になっていた。
一応追求したらTVを観て泣いたとか言っていたが、多分嘘だろう。
高木との関係を清算したのが辛かったのか、それとも俺への罪悪感によるものか。
それからそのまま返信は無く、そして例の大震災が起きた。
以前報告したとおり、俺や嫁、高木を含め、幸運にも被災に会うことは無かった。
しかし当然俺もだが、嫁は未曾有の震災に大きなショックを受けており、
地震関連のニュースを見る度に目に涙を浮かべている。
震災直後は、お互いそんな気になれなくて、しばらくは夜の生活そのものが無かった。
しかし最近は、高木に抱かせる以前のような、まったりとしてセックスに戻っている。
俺の目を覗き込み、嫁からキスをねだってくる。
おそらく嫁は、いわゆるラリった状態だったのが、大震災のショックで、
現実に引き戻されたのだろうか。
だからといって、勿論今回の地震が起こって良かったなどと微塵も思えるわけもない。
とても複雑な心境で、今を過ごしている。
本来は元彼の話なんかも聞き出したいから始めたのに、全く聞けずじまいだったので
いずれ落ち着いたら、それだけ聞けたらなと思ってます。
俺と嫁の関係は、少なくとも表面的には何の問題も見えないまま、
以前と同じような円満な夫婦生活を送っていた。
いつも最初に同じようなことを書いている気もするが、実際そうなのだから仕方ない
一緒にTV番組に突っ込みを入れあって笑ったり、週末も大体嫁が計画して遠出デートをする。
夜の方も最低週イチ。
自分で言うのもなんだが、理想の夫婦といっても過言では無いと思っている。
一方高木の方も、前回の報告直後に例の子と無事付き合い始めていた。
ただ後述する理由で、現在ではもう別れる寸前らしい。
付き合った直後に飲みに行ったら、「京子さんのが全然羨ましいですけどね」
なんて冗談交じりに言われて、少しは優越感に浸ったり。
偽高木メールについては、送ってはいたんだけれど、それはもう完全にシカトされていた。
別に「会いたい」とかそんなメールじゃなくて、普通に世間話とかなのに、
それももう一ヶ月以上完全に相手にされなくなった。
流石にもう無理かと思って送るのを一度やめた。
ただ嫁が俺との性生活に満足していないということは懸念事項だったから
その部分に対しては正攻法で、ちゃんと正面から話し合ってみることにした。
嫁が性的に不満を持っているというのは、普通の夫なら屈辱を感じる人が多いのかもしれないが、
どうも俺には結構な被虐嗜好があるようで、その状況すら興奮出来た。
ただそれは俺自身の話であって、嫁が結婚生活の一部に不満を持っているという事実は、
やはり申し訳ないと思うので、そこについてはなんとか解消したいと思った。
とある事情により離婚の心配はしていないが、かといって嫁の気持ちをないがしろにする
なんて事はもっての外だと考えている。
話をするきっかけとして清水さんという、最近離婚した同僚を利用させてもらった。
「清水さんって憶えてる?」
「んー、なんとなく」
「あの人離婚しちゃってさ」
「えーそうなんだ。そっか」
おそらくは本当に記憶の片隅にいるかどうかくらいの清水さんの離婚に、
思った以上に気落ちした様子の嫁の表情。
気のせいかもしれないが、高木との件以来、嫁は離婚とか浮気といった言葉に
少し敏感となっている気がする。
そういった相談を受ける法律のTV番組なんかは、以前も別に積極的に見るわけではなかったが、
たまたま映ってたら、なんとはなしにそのまま観る、といった感じだったのに、
今ではさっさとチャンネルを変えて観ようとしない。
浮気がテーマのドラマや映画も同様。
まぁそれはただの考えすぎなのかもしれない。
「なんかすごい下世話な話なんだけど」
「うん」
「やっぱり早い段階で夜とか無かったみたいでさ」
これは俺が勝手に作った。清水さんには申し訳ないと心の中で謝罪。
「そうなんだ」
「こないだ飲みに行った時にさ、それも原因の一つだったんじゃないかって凹んでた」
「そっかぁ。まぁ色々あるよね。しょうがないよ」
覚悟はしてたけど、少し気まずい空気が流れた。
「あのさ、こんなの改めて聞くのあれなんだけど」
「なになに?」
「京子は不満じゃない?」
「え?」
「ああだから、その、夜のとか。まぁそれに限らず、他にも色々とさ」
「え、あ、ああ。ないない。ないよ。あたしはない。ないよ」
少し慌てた様子で、胸の前で小さく両手を振る嫁。
本音を知っているから、それが嘘であるのは明白だったんだけど、
まぁ俺への気遣いなんだろうと好意的に解釈。
「いや案外付き合い長いとさ、そういうのって言いづらいこともあるじゃん?」
「うんうん」
「でもほら。これからもさ、ずっと、その、二人でうまくやっていきたいしさ」
「うん。だね」
「ちゃんと話し合って解決できるならさ、しといた方がいいと思ってさ」
「あー、うん。本当そうだね。でもそんなの本当ないよ。あたしは。うん。全然大丈夫」
その後もわりとしつこく聞いたんだけど、結局本音を言ってくれることはなかった。
「これからもよろしくね」とニコニコモジモジしながら言われただけ。
相性なんかに問題があろうと、ちゃんと話し合えば、色々と多少は良くなると思ったんだけど、
嫁は罪悪感からか、それとも倫理観からなのか、とにかく頑なに俺で満足してると言い張ってしまう。
夫としているのに、欲求不満になっているなどと、本人に向かって意地でも認めたくないのかもしれない。
それは嫁の優しさなんだろうけど。
かといって、俺から「知ってるんだぞ!」なんて問い詰めることも出来ない。
その日から嫁は、セックス中に少し演技をするようになってしまった。
わざとらしいとまではいかない。
そう言われてみれば、いつもより少し声が大きいかなとかその程度。
(これについては気のせいではなく、後述の部分で確認が取れている)
かといって、それで萎えたりはしない。
むしろどちらかといえば、そんな嫁の姿に興奮してしまう。
でも嫁に対して申し訳ないなという気持ちの方が、徐々に強くなってきてしまった。
そんな中、一ヶ月ぶりくらいに嫁から偽高木にメールが来た。
「勝手でごめんなさい。相談したい事があるんだけどいい?」
内容を聞くと、やはり俺のことだった。
ここぞとばかりに嫁の本音を聞きだす事に集中。
「旦那が自分で満足してないんじゃないかって悩んでるんだけど、男の人ってそんなの気にするの?」
「そりゃするんじゃない?京子さんは?」
「別に。本当に気にしてないよ」
「でも満足出来ないんでしょ?」
「それはそうかもだけど。でもそれでどうこうってわけじゃないし」
「京子さんはどうしたいの?」
「そんな事で旦那が悩んでるのはやだ。あたしの責任でもあるし」
「やっぱり俺としたい?」
「今はそういう話やめよ。ごめんね。あたし勝手だよね。でもこんなの誰にも相談出来なくて」
「じゃあそれに答えたらちゃんと相談にのってあげる」
「何が?」
「また俺としたい?」
「だからもうしないって」
「したいかしたくないかで。実際するしないは関係なくて」
「やだ」
「したくないってこと?」
「何で意地悪言うの?」
「別にいいじゃんメールでくらい。正直に言えば」
「駄目だよ」
「したいってことでOK?」
「勝手にすれば」
「じゃあ相談乗らないよ?」
「そんなのわかんない。でも気持ちよかった」
本気で相談に乗ってもらいたがってる嫁には申し訳なかったが、もう少しこの問答を続けたかった。
「何が良かったの?」
しかしこれが良くなかったのか、「もういいです」とだけ返信があり、そこからまた何も無いまま数日経った。
俺(偽高木)が謝ると、「そういうのもうやめよ?お互い良くないよ」と返信。
そこからは真面目に相談。
相談というか間接的な夫婦の会話というか。
「京子さんはどうしたいの?」
「旦那の悩みを解消したい」
「じゃあちゃんと本音で話しあうのが一番だと思うんだけど」
「本当は満足出来て無い、なんてあの人に言えないよ」
「なんで?」
「なんでって、言えるわけないじゃんそんなの。大切な人にそんなの言えないよ」
「これからの夫婦生活が大事ならちゃんと言ったほうがいいと思いますけど」
「そうかな。やっぱり言わなきゃ駄目なのかなぁ」
「そうしないとどうしようもないと思うんだけど。あと京子さんはさ、本当に今のままでもいいの?」
「なにが?」
「もし話し合って色々試してやっぱり満足出来なかったら」
「別に良いよ。あたしは本当問題ない。そこまで重要なことじゃないと思ってるし」
「でもそれで浮気する奥さんとか世の中に一杯いるよ?」
「あたしは別に誰でも良いなんて絶対思わないし」
「それって俺は喜んでもいいところ?」
「知らない。でもあれだね。時間経って落ち着いたから、君とも普通にメールできるようになった」
「シカトされまくったから嫌われたかと思った」
「嫌いになろうと努力はしたよ」
「ひどいなぁ」
「しょうがないじゃん」
「今はどんな感じなの?」
「もうだいぶ落ち着いたよ。代わりに罪悪感でいっぱいだけど」
「前は俺のこと考えちゃったり?」
「ちょっとはね」
「今は割り切った関係とかも出来そうなくらい?」
「それはないない。もう旦那一筋です」
「じゃあ俺は二番くらい?」
「二番も三番もない。旦那だけ」
少し質問の路線を変えてみる。
「あと相談の続きなんだけど俺だと満足できたんだよね?」
「まぁそれなりに」
「どこが旦那さんと違った?」
「だからそういうのはやめよって」
「いやでもそこを確認するのって大事じゃない?要は京子さんが満足できればいいわけだし」
「だから別に不満ってわけじゃないよ。それにやり方がどうこうってわけじゃないと思うし」
「一応考えてみてよ」
「やっぱり単純に違う部分があるじゃん」
「どこ?」
「馬鹿」
「そういうのって言った方が男は喜ぶよ。旦那さんも絶対そう。保障する」
「だからって君にメールで言う必要ないじゃん」
「そりゃそうだけど。どう違った?」
「形とか硬さとか。相性とかじゃないの?なんか恥ずかしいんですけど」
「旦那さんは?」
「普通だと思うよ」
「旦那さんよりおっきい?」
「馬鹿。でもそんな変わんないかも。でも何ていうか君のって先っぽの方がすごい膨らんでるよね。硬いし」
「カリのこと?」
「それかな。最初した時ヤバイって思った。うわってなったもん」
「どうやばいの?」
「わかんないよ」
「丁度良いところ当たるって感じ?」
「そうかもね。知らないけど」
「京子さんやらしいね」
「違うし。でもそんなの○○君どうしようもないじゃん」
「腰の動き方とかで違ってくるんじゃない?」
「自分なりに色々試したんだけどなぁ」
「試したって?」
「気にしないで」
「いやそこは正直に言ってくれないとちゃんと相談できないですよ」
「だから上で動いたりとか。わかるでしょ馬鹿」
「駄目だった?」
「うーん…って感じ」
「俺のが今までで一番良かった?」
「というか他の人のあんまり知らないし」
嫁の男性遍歴は是非知りたかったので、是が非でも聞きたかった。
あと今更だけどこのメールのやり取りは、数日かけて行われたもの。
途中で何度か日を跨いでいると思ってください。
「俺で何人目?」
「五人かな」
「俺以外は全員彼氏?」
「当たり前でしょ」
「昔の彼氏の話とか聞きたいな」
「なんで?」
「単純に好奇心。あと京子さんの相談のヒントもあるかもしれないし」
「そんな上手い事言って。○○君に絶対秘密なら良いけど」
「約束します。絶対」
「絶対だよ?一人目の人は高二の時だったかな。バイト先の先輩。その時二十歳の人だった」
「大学生とか?」
「うん。その時は大人っぽく見えて格好良かったんだけどね」
「付き合うきっかけは?」
「向こうから告白されて」
「京子さん昔からモテてたんだろうね」
「全然そんな事ないよ」
「最初は彼氏の部屋とか?」
「そうだね」
「憶えてる?」
「とにかく痛かった。早く終わって欲しかった」
「その元彼とは良い感じだったの?」
「わかんない。今思うと恋に恋してって感じだったのかも。高校卒業する前に別れたよ」
「なんで?」
「なんでだろ。普通に別れたよ」
「次は?」
「大学の先輩。2回生の時。優しそうな人だったから良いなって思ったんだけどね」
「駄目だったんだ?」
「その時は恋愛向いてないのかなって思った」
「次は?」
「会社の先輩。多分高木君は面識ないと思うけど」
「阿部先輩でしたっけ?」
「知ってるの?」
「いや。旦那さんがそうかもって以前言ってたんで」
「やっぱりわかってたんだ。なんか自己嫌悪だなぁ」
「何で嘘ついたんですか?」
「なんとなく。あと後ろめたいこともちょっとあったから」
後ろめたいことという言葉に、色んな想像をして一瞬胸が痛くなる。
少し不安になりながらも、質問を続行した。
そもそも阿部先輩とのことが聞きたくて、このメールを始めたので
少々不自然だろうが、強引に詳細を聞いていった。
「付き合うきっかけは?」
「一緒に仕事しててすっごい尊敬できるって思ったから」
「好きだったんだ?」
「そりゃまぁ付き合ってたんだし」
「歴代で何位?」
「そんなのわかんないよ。ていうか今の人が一番でそれ以外はないって感じ」
「元彼さんとはH満足出来てたの?」
「あー、うん。そう言えばそうかも」
「じゃあ例えば旦那さんとどう違った?」
「えーわかんない。でもこんな風に思ったことなかった」
「こんな風って?」
「だからその、イケないなぁとか」
「旦那さんとしてる時そんな事考えてるの?」
「別に早く終わって欲しいとかじゃないよ?でもなんだろ。そうかも」
「俺としてる時はどうだった?」
「えー。またそういう事聞く」
「今後の参考にさせてよ。相談乗るお礼のアンケートってことで」
「うー。なんかずっと頭真っ白で怖かった。声とか変じゃなかった?」
「すごい可愛かったよ。旦那さんともあんな感じ?」
「違うと思う」
「元彼さんとは?」
「普通」
「普通って?」
「普通に良かったってこと」
「じゃあ順番的には俺元彼旦那さんって感じ?」
「別に良いんじゃない?どうでもいいよそんなの」
「じゃあ元彼さんと旦那さんって何が違う?」
「わかんない。別に一緒だと思う。ただ最近あたしが思うのは、○○君とはリラックスしすぎなのかもって」
「倦怠期とは違うの?」
「違うと思う。そういう時期もあったけど、今はそういうのとは違う」
「じゃあ変わったことすれば?ソフトSMとか」
「何それ?」
「タオルで目隠ししたり手を縛ったり」
「やだ」
「なんで?」
「なんかやらしい」
「何で別れたの?」
「ふられちゃったんだ」
「浮気されたの?」
「それはわかんない。でもその時は『あっそう。じゃあさよなら』って感じ。その後一人でずっと泣いちゃったけど」
「それから旦那さんと付き合ったんだ」
「そうなるね」
「旦那さんに後ろめたくて嘘ついたっていうのは?」
ここで嫁の返信が一旦止まった。
わざわざここには書いてないけど、日を跨ぐ時は
「また明日ね。おやすみ」みたいなメールがあったのだがそれも無し。
そして次の日。
「本当はね、最初は好きで付き合って無かったんだ」
「旦那さんのこと?」
「うん。正直元彼へのあてつけだった。誰でも良いってわけじゃなかったけど」
流石にこの事実は堪えた。
単純に凹んだ。
興奮なんかしない。
頭や肩に重りをつけられたみたいになった。
それでもなんとかやり取りを続けるうちに、やはり聞いて良かったと思い直せた。
「今でもずっと上手くいってるんじゃ?」
「だね。結果的にはあの人と結婚出来て良かったって本当に心から思ってるよ」
「でも最初はそうでもなかったんだ?」
「最初の半年くらいは元彼の事ずっとひきずってた。心の中でずっと○○君と元彼を比べてたりしてた。
それでね、半年くらいにその元彼に誘われたんだ」
「旦那さんと付き合って半年ってこと?」
「そう。それで最悪だけど、あたし凄い嬉しくてね。もうやり直すつもりだったの。
○○君と付き合ってる間も本当はずっとそう考えてた。よりを戻したいって」
「それで浮気しちゃったとか?」
「ううん。結局会わなかった」
「なんで?」
「会う直前だったんだけど、なんか急に涙がぶわって出てきて、
○○君のこと裏切れないって思って引き返した」
「その時旦那さんへの気持ちに気づいたって感じ?」
「そうかも」
「浮気してないんだったら別に嘘ついてまで隠さなくても」
「でも最初のころはずっと元彼のこと考えてたし」
「でもその後引き返したんでしょ?」
「そうだけど。でもやっぱり悪いなって」
「それから元彼さんとは?」
「考えることは無くなったしよ。○○君のことしか考えなくなった。それでも何回か誘われたけどね」
「それでも会ってない?」
「うん。ちゃんと断ってた。○○君が一番大事だからって。結婚してからは連絡先もわからないから音信不通」
ここまで聞いて、胸を撫で下ろした。
「やっぱり隠さなくても良かったと思うんだけどな」
「うーん。後ろめたい部分はあったからね」
「今回の相談もそうだけど、もっと旦那さん信頼して本音で話し合ったほうがいいんじゃない?」
「ずばり言うね。そうだね。でも中々それが出来ないんだ。○○君には。今までの彼氏には
自分でも口煩いと思うくらいズケズケ何でも言ってたんだけどな」
「なんで?好きだから?」
「○○君に対しては何かもう好きとかそういう感覚じゃないなぁ。
とにかく大事って感じ。大切な人。君も結婚したらわかると思うよ」
少し照れくさくなった俺は、浮気されてる夫はATMだという表現をよく見かけるので、
「生活費稼いできてくれるしね」なんて自虐的なメールを送った。
「そういう意味じゃない。もし○○君が仕事に疲れたんなら代わりにあたしが働くの全然OKだし」
偽高木に対するメールで、絵文字や顔文字が一切使われてなかったのはこの返信だけ。
以前にも嫁には、直接そういうことを言われたことがある。
「でもHの相性は良くないんだ」
「だからあたしはどうでもいいんだけどね。でも向こうが気にしてるから」
「でも欲求不満になっちゃってるんでしょ?」
「なってない」
「オナニーしてるんでしょ?」
「してません」
「旦那さんと終わった後自分で処理してるって言ってたじゃん」
「嘘だし」
してたのは前回書いた通り、俺がこの耳で確認したから嘘というのが嘘。
夫で満足出来てないことを恥じているんだろうか。
そして気になってたことを聞いた。
「もしかして旦那さんとしてる時演技とかしてる?」
「してない」
「本当は?」
「ちょっとだけ。でも皆してると思うよ」
「いつから?」
「いつからっていうか、いつもといえばいつもだけど」
「付き合ったころからってこと?」
「どうだろね。でも友達とかと話しててもよっぽど相性良いとか以外はそんな感じだって皆言ってるよ」
最近のことだけかと思っていたので、ここで不意打ちでショックを受けた。
「男ってそういうの案外わかるもんだから止めたほうがいいよ」
「そうなの?でも自分で自分を盛り上げるって意味もあるよ?男の人もそうじゃないの?」
「ああそれはあるかもね。もしかして俺の時にもしてた?」
「だから相性良いのは以外って言ったじゃん」
「俺とは相性良かったんだ?」
「別に」
「すごい声出てたもんね」
「知らない」
これ以上やるとまたメールが途絶えてしまいそうだったので、話題を元に戻した。
「とにかく旦那さんとは本音でぶつかりなよ。あとしてる最中にやらしい言葉とか言ったほうがいいよ」
「やだよ恥ずかしい。○○君はそんな変態さんじゃないし」
「変態じゃなくても好きだよ。元彼には言わされてたんじゃないの?」
「だから嫌なの。君もそういうの好きなの?」
「男は大体好きだって」
最後に少し雑談。
「それ以外には夫婦生活で問題ってあるの?」
「自分でもびっくりするくらい無い。結婚前は結婚生活ってもっと色々大変だと思ってた」
「お子さんは?」
「どうだろね。出来たら出来たで嬉しいんだろうな。でも今はまだそんな気分にはなれないかな」
「なんで?」
「君のせい」
「どういうこと?」
「別に。気にしないで」
「浮気しちゃった罪悪感がまだ残ってるってこと?」
「まぁそんな感じ。こんなふわふわしたまま子供作れないって感じだった。今はもう大分落ち着いたけど」
「結婚生活は幸せ?」
「あの人と一緒に笑ってると幸せってこういうことなんだろうなってしみじみ思うよ」
そして最後のやりとり。
嫁の方からメール。
「男同士でそういう話ってしないの?」
「幸せとは言ってますよ」
「本当に?」
「本当ですって」
「そっか。やらしい話とかは?こういうのが好きとか」
「俺は下着は黒が好きですね」
「いや聞いてないし。どうでもいいし。旦那のだって」
「直接聞けばいいじゃないですか」
「君も本当に大切な人出来たらわかるよ。そんなの聞けないし、もし好みと違っても正直に言えないもんなの」
「別にそういう話はしたことないですね」
「今度聞いたら教えてね」
これくらいで嫁の相談は一旦終わった。
最後に嫁からお礼のメールが来て。それ以降連絡はない。
上記のやりとりは、G.W直前くらいまでのもの。
それから一度試すつもりで、嫁に「今度久しぶりに高木呼ぼうかな」なんて言ってみたが、
「ああ、そう言えば最近見てないね。いいんじゃない?」と何の動揺もなくさらっと
言った嫁の姿を見て、もう大丈夫なのかなと安心した。
その後、「それよりさ。今晩大丈夫?」と照れた様子で求めてくる嫁は、
今までで一番可愛かった。
高木に抱かれて以降、やはり女として魅力が上がった気がする。
上がったというよりは、取り戻したと言った方がいいのかもしれない。
俺の見方が変わったというのもあるんだろう。
可愛いし、綺麗だし、とにかく片思いのころに戻った感じ。
ちなみそれ以降も、Hの内容が変わったりはない。
最中にHな言葉喋ったりはして欲しいと言えばして欲しいのだが、
素の自分は完全にドMなので、そういうのを引き出すのが苦手だし、むしろ苦痛でもある。
きっと嫁もそうなんだと思う。
昔H中に喋るのが嫌って言ってたけど、本当はそういうのを言わさせてほしいんじゃないかって。
そして現在の話になる。
俺は結構前(それこそ1年前ほど)から高木から転職の相談を受けていた。
転職というよりは、今の仕事を辞めて、実家の自営業を継ぐかどうかという話。
今年の春にはそれを決意したみたいで、初夏には辞めるという話を会社ともつけたみたい。
高木の実家はかなり遠いから、これもこのプレイを始める上での保険の一つといえば一つだった。
(まぁこんな不確定要素の強いものは、サブのサブくらいの保険だったけど)
だから最後にもう一度だけ、嫁を抱いて欲しいと提案したら、喜んで承諾してくれた。
予定日は今週の土曜のつもり。
最後は出来れば覗いてみたいと思ってる。
また報告します。
結論から言うと、上手くいった。
でもやらない方が良かったと、頭がおかしくなるくらいのショック。
矛盾しているけど、後悔はしていない。
まるでこうなる事をどこかで望んでいた気さえする。
まだ余韻で、高熱を出した時みたいに、ずっと頭がぐにゃぐにゃしている。
苦しいといえば苦しい。
でもそれが辛いとかじゃなく、あくまで興奮が冷めないといった感じ。
うまく考えがまとまらない。
一人になると、うろうろと歩き回ったりしてしまう
作戦はいつもと一緒で、出張を利用した。
ただ少し違うのは、出張なんて本当は無くて、行った振りをしただけ。
そこまでは当然高木も知っている。
嫁に駅まで車で送ってもらって、そして駅にいったん入り、そこから頃合を見計らって、タクシーで家に戻るという寸法。
しかし、そこは高木にも内緒だった
高木にはどこか小旅行でも行って来ると嘘をつき、
そして尚且つうちの家でしてもらうよう指示しておいた。
しかも寝室で。理由は後述。
この辺は全てが不確定要素ばかりだったが、駄目だったら駄目で良いと思っていた。
高木にはなりすましメールの内容は、大体教えた。
恥ずかしいのでそれを直接見せることは無かったが、
嫁と話が合わないと不味いので、概要だけはしっかりと伝えた。
高木には呆れられた。
ちなみに高木は、実家に帰ることを彼女に伝えて、結局別れることになったそうだ。
高木は続けたかったらしいが、向こうが遠距離を嫌がったらしい。
事前に高木が会社を辞めて、実家に戻ることを嫁に伝えた。
嫁は「ふーん」と興味無さげに返事しただけ。
でもその夜。偽高木メールに
「旦那から聞いたよ。会社辞めるんだってね。今までお疲れ様」とだけメールが来た。
それに対し返信をせず、そして嘘の出張の前日。
「最後にもう一度会って欲しい」とメールを送った。
返事は、「最後だからね」とあっさり了承。
びっくりした。
時間を置いてリビングに行くと、俺を見た途端にそわそわしだす嫁。
不意打ちで後ろから抱きつくと、「わわわわわ」と物凄く慌てていた。
無言でキスしまくると、目がきょろきょろと左右に泳いで、
「ど、どどど、どうしたの?」と引きつった笑顔を浮かべていた。
挙動不審の理由を、聞いてもないのに
「いきなりだから、ビックリしたよー」と釈明する嫁。
それで興奮して、犯すように嫁を抱いた。
久しぶりに一晩で2回もした。
でもゴムは有り。
着けさせられた。
嫁は「すごいね?」と笑っていた。
「嫌だった?」と聞くと
「ううん。帰って来たら、もっかい、ね?」と、モジモジしながらそう答えた。
そして昨日。
前述したとおり、昼過ぎくらいに嫁に駅まで送ってもらった。
その車中、俺は気が気じゃなかったのだが、嫁の様子はいつもと何も変わらない
むしろ鼻歌交じりでハンドルを握っていた。
別れ際、嫁は運転席から満面の笑顔で手を振りながら、大声で「気をつけてねー」と声を掛けてくれた。
嫁が去っていくのを見た俺は、タクシーで家付近まで戻って、しばらく家の周りでうろうろしていた。
事前の打ち合わせでは、見知らぬ車が家に止まっているのは不味いだろうということで、
嫁が高木を迎えに行くという段取りになっていた。
家に戻ると実際嫁の車は無かったのだが、高木に問い合わせると
「まだ迎えにきてません」とのことだった。
そこからは、高木にも秘密にしていた俺のプランを実行するかどうかで迷った。
本当はずっとしたかったことがあって、でも勇気がなかなか出なかった。
しかしこんなチャンスは、もう人生で最後なんだからと、覚悟を決めた。
俺は無人の我が家に入って、そして書斎に閉じこもった。
簡単な食糧や水。そして大人用のオムツなんかも前もって用意していた。
書斎は寝室の隣で丁度ベッドも書斎側の壁。
壁も薄いので、会話も丸聞こえできる算段があった。
そして何より、もし万が一バレても構わないという覚悟があった。
それくらい、嫁が他の男に抱かれてる姿は、魅力的だった。
バレるバレない以前に、最悪の事態が起こる可能性というのも、勿論考えていないわけではなかったが、
それは絶対に阻止したいという気持ちと、でもどこか心の片隅で、
それを見たいなんて矛盾した気持ちもあった。
数十分待っても誰も来ない。
もしかしたら、高木の家でしてるのかもしれない。
それならそれで仕方ないと諦めるようと思った。
しかしやがて、誰かが階段を踏み上がる音。
そして隣の寝室のドアが開いた。
「なんか緊張するー」
「いや俺のが絶対してますから」
そしてすぐに、んっ……と吐息が聞こえた。
ドアが開いてから足音はしなかったから、入ってすぐのところで、
キスをしているようだった。
予想以上に音は明確に聞こえ、ディープキスをしようものなら、
その水音までしっかりと聞き取れた。
そして無言のまま、激しい衣擦れの音。
結構乱暴に服を脱がしあっていたのが容易に想像できた。
その合間に、激しく唇を重ねているような音も聞こえてくる。
自分だけが服を着ているであろうことに劣等感すら感じた。
そしてベッドが一度大きく軋む音。
「きゃ」と嫁の声も聞こえたから、高木が嫁を押し倒したのだろうか。
しばらくキスの音と嫁の吐息だけが響いていた。
嫁の吐息とキスは同時に聞こえてきたから、キスは愛撫の音だったのかもしれない。
そしてやがて、「京子さん」と高木が嫁を呼んだ。
「ん?」
「今日は何時まで?」
「一応泊りなんだよね?」
「みたいです」
「ん。でも、夕方まで、ね?」
「もっと一緒は?だめ?」
「だめ。匂いとか、あるし」
「わかった」
高木の愛撫を受ける嫁の声は、俺の時と全然違った。
切なそうとしか言えない。
こんな可愛い声を出すのか、と嫁の魅力をまた一つ知った。
「ね、高木君。あたしも」
「うん」
ほどなくして、カチャカチャとベルトを外す音がして、
「わぁ」と嫁の声。
そして女性が口で奉仕する音。
この時点で、俺はパンツを下ろしてオナニーをしたい欲求に駆られたが、
その音が向こうに伝わるんじゃないかという危惧が頭をよぎり、
ただ壁にへばりついて耳を澄ましていた。
高木には事前に、言葉攻めというか、嫁にやらしい言葉を言わせてみてほしいと頼んでいた。
そうでなくても、メールの内容を伝えた時に、
「京子さん本当はそういうの弱いんですかね」とそわそわしていたから、
元々する気だったんだろう。
「これ、どう?」
「ん……硬い」
「それだけ?」
「やだ、もう。……おっきいよ」
「好き?」
「かもね」
「欲しい?」
「やぁ」
「言って」
その後ごにょごにょと嫁の声。
そして高木が鼻で笑った。
ガサゴソと何かの包装を破く音(多分コンドームだと思う)がして、そしてその数秒後。
「あっ」という嫁の甲高い声と共に、ベッドが揺れる音が聞こえ出してきた。
最初はそれほど激しくなかった。
ギシギシギシと定期的なリズム。
それに合わせて嫁も声を出していたが、
それは愛撫を受けている時よりも、どこか苦しそうな声だった。
「んっくっ……んっ」みたいな感じ。
それでも正確なリズムでベッドが揺れ続けていると、
そのうちそれは、「……あっ、あっ、あっ、あっ」と
リズムカルで、甘い声に変わっていった。
やはり俺が聞いたことのない声だった。
すごく可愛くて、甲高くて、いやらしい声だった。
子犬みたいだな、と思った。
嫁の本当の喘ぎ声を、初めて聞いた。
本当に、気持ち良さそうな声だった。
「最近旦那さんとしてる?」
「あっ、あっ、あっ……あんっ!あんっ!あああっ」
「な?」
「も、やだぁ………してない」
前日に、2回もしたのに、していないと言われた。
反射的に「え?」と声を出しそうになってしまった。
「どれくらいしてないの?」
「あっ、そこ、だめ……あたる……」
「なぁって?」
「いっ、あっ、いいっ!……もう、や……だってぇ」
ピストンの音が止んだ。
「どれくらいしてないの?」
「…………………ずっと……して、ない」
以前からも、週に一度は必ずしていた。
この一ヶ月は、間違いなくそれ以上。
俺は我慢が出来なくて、チャックの間からちんこだけを取り出し、
自慰をした。本当、自ら慰めるって感じだったと思う。
ピストンの音が再開した。
「あっ!あっ!あっ!あああっ!……すごいっ!あぁっ!これっ!」
「何が?言いな」
「あん!あん!あっ!……やだ!おちんちん!……すごい!」
「誰の?」
「君のっ、すごい……すごい、気持ち良い」
「ちゃんと」
また音が止む。嫁の息切れの音だけ。
「高木、君の、おちんちん……」
「が何?」
「気持ちいい。すごく、いい……あっ!あっ!あっ!そこっ!……そこだめ!」
「いいよ。いって」
「あああっ!だめっほんと!もう……ああっだめっ!いっちゃう!」
「いいよ。ほら。ほら」
「だめ……いっくぅ!……いくいくいくっ!いっちゃう!あっ!やぁ、ん……!もうだめ!あああああっ!!!」
こんな風に、「いく」と絶叫しながら連呼するなんて、知らなかった。
嫁が本当にイク時は、こうなるんだって、妙に頭の中は冷静に聞いてた。
俺は自分がいきそうになる度に、その欲求を抑え、我慢をした。
俺も頭が真っ白で、高木とタイミングを合わせてイクことしか考えていなかった。
今嫁を抱いて、嫁を満足させているのは、自分だと思いたかったのかもしれない。
「……やっぱ、すごすぎ」
「京子さんもやばいって。てか超プルプルしてる」
「もう真っ白……」泣き笑いみたいな口調。
「休憩する?」
「おねがい」
高木が抜いたのだろう。
「あぁっ」と嫁の残念そうな、甘い声。
「またすぐ、な?」
「……もう」
平手で軽く身体を叩いたかのような音と、キスをする音。
「京子さん好きかも」
「やめて、そういうの」
「今だけ。いいじゃん」
「だめ」
「なんでさ」拗ねたような口調の高木に
「あたしも、って言っちゃいそうになるから」とぶっきらぼうな嫁の口調。
「じゃあ今だけ恋人気分とか。だめ?」
「えー」
「今だけ今だけ。ごっこごっこ」
「何それー。じゃあ……守」
嫁が冗談っぽく作った、可愛い声で高木の下の名前を呼ぶ。
二人でクスクス笑いながら、お互いの名前を呼びあっていた。
「でもさー、もうすぐ会えなくなっちゃうよね」と嫁。
「だね。寂しい?」
「別に。全然」
「無理しちゃって」
「してないし。でも……」
「でも?」
「なんだろ。思い出は欲しい、かな」
「どんな?」
「わかんない」
少し会話が途切れた。
でもそのうちクスクスと楽しそうな声。
最初は聞き取れなかったけど、少しづつ会話の内容がわかるようになっていった。
「ここでいつも旦那さんと寝てるんだ?」
「うん」
「セックスも?」
「もーやだぁ」
「でも最近してないでしょ?」
「しょうがないの。○○君は仕事忙しいから。疲れてるの」
「どんなくらいしてないの?」
「えー……もうわかんない」
「俺だったら、毎晩なんだけどなぁ」
「はいはい」
高木はそれが嘘だとわかっていたんだと思う。
もし本当にそんなずっとしてないのなら、この間嫁が高木に相談してた事が辻褄が合わないし。
というかなぜ嫁が、そんなバレバレの嘘をついたのかはわからない。
少し間を置いて、真剣な高木の声。
俺が聞いたことのない、同僚でも友人でもない、男としての高木の声だった。
「俺を忘れられないようにしたい」
「もう充分、だよ」
「そうなの?」
「ん」
「しよっか」
「うん」
「言って」
「……ほしい」
「なに?」
「守が欲しい」
「いいよ。あの、ゴムさ、だめ?」
「…………駄目」
「ごめん」
「ううん。多分、一緒だから。気持ち」
「うん……じゃあ、はい。京子つけて」
「ん」
そして小さく「よいしょ、よいしょ」という嫁の声。
続けて呆れたように、でも同時に楽しそうに「ほんと硬いね」とも。
「旦那さんとあんま変わんないんでしょ?」
「ん、でも、やっぱり違うかも」
そしてすぐにまたベッドが軋みだした。
もうこの辺で、俺は少し泣いてた。
色んな感情が混ざってたんだけど、一番大きかったのは、怖いって感じだったと思う。
「あっ……かた……守」
「なに?」
「呼んだ、だけ……あっ……あっ、あっ、あっ」
「気持ちいい?」
「すごい、いい」
「ちゃんと言いなって」
「……くぅ、んっ……なんか、すごい、こすられる」
「ここ?」
「やっ、はぁ、あっ、そこ、やっ、だめ……あんっ!あんっ!あんっ!」
「京子、バックでいい?」
「え?あっ、うぅ…………嫌、かも」
「なんで?嫌い?」
「ううん」
「じゃあいいじゃん。しよ?」
「……やだ」
「なんで?」
「キス、出来ない、じゃん」
俺はそんな事言われたことがない。
「キス好き?」
「うん……守のは、好き」
「は?」って何だと思った。
それを高木も一緒だったようで、俺の気持ちを代弁して聞いてくれた。
「はって何?旦那さんとは?しないの?」
「バックで?」
「キス」
「する、よ」
「良くない?」
「そんなこと、ない」
「俺とどっちがいい?」
「も、そんなこと、ばっかり」
「教えて。な?最後だし」掠れたような声で、そう尋ねる高木に対し、
「ちょっとだけ……守」と答える嫁。
「ちょっと?」
「ん、ちょっと、だけ」
「本当は?」
「あっ、あっ、あっ、そこ……だめ」
「どう。いい?」
「うん、すごい、いい。守の、いい」
「本当に?」
「ん、あっ、いい、よ。おちんちん、守の、んっ、好き」
「やらしいね」
「だって、あっ、こういうの、好きって。あっあっ、守が」
「どっちがいい?」
「だから、あっ、あっ……守……あんっ……だって」
「ちょっと?」
「うん……やっ、ぁん」
「本当は?」
「……ちょっと、だってばぁ……あんっ!あんっ!あんっ!」
俺はずっと嗚咽を堪えながら、我慢汁だらけの自分のちんこを
あまり刺激しないように、ただ撫でていた。
それでもいい加減耐えれなくなった俺は、そっと携帯を取り出し、
嫁に「早く帰って京子のご飯食べたい」とだけメールを送った。
やがて隣から聞こえる、嫁の俺専用の着信音。
でも止まないセックスの音。
ギシギシギシと鳴り響く音の中で、
「いいの?」と高木。
「ん、でも」
高木は着信音のことまでは知らないだろうが、もしかしたら
俺からかもと思ったのかもしれない。
「いいよ。出て」と嫁に携帯を確認することを促した。
「ん、メール、だから」
しばらく音が止む。
「もういいの?」と高木。
「ん」
ピストンが再開した音。
「誰だった?」
「……友達…………あっあっあっあ!」
それを聞いた瞬間、射精が我慢出来なくて、漏れてしまった。
完全にイキきったわけじゃなく、まだ硬かったけど、
それでもどくどくと精液が出てきた。
そしてまたピストンの音が止むと、高木が
「京子」と嫁を呼んだ。
「……何?……ん」
ぴちゃぴちゃと唾液を交換しているかのような音。
「ゴムさ、だめ?」
「……ごめん」
「そっか」
「……ごめんね……なんか、怖い、から」
「病気、とか?」
「違う……その、欲しいって、思っちゃいそう、だから」
「え?」
「……嘘、やっぱ、だめ」
また激しく唾液が交換される音。
「欲しい?」
「……守」
「な?」
「だめ」
「気持ちだけ。知りたい」
「……ほしい」
「え?」
「君の、欲しい、って思っちゃいそう、で怖い」
「外していい?」
「……わかんない」
「やっぱ、やめとこっか?」
「……ん」
「じゃあ口で、良い?」
「うん」
ごそごそと音がして、そしてフェラの音が響いてきた。
それほど激しくはないが、愛しそうに、そして丹念に咥えているのが、容易に想像できるような音。
「京子……いきそう」
「いいよ」
「このまま、いい?」
「うん」
「あ、やべ……あっ」
高木のその声を契機に、水音は緩やかになっていき、そしてそれやがて完全に静かになった。
「はぁーっ」と高木の気持ち良さそうな声。
すぐにシュッシュッとティッシュを取る音。
「はい」また高木の声。
嫁の返事は無い。
「え?」と高木が驚いたように声を出した。
すると「ふふ」と嫁が小さく笑い、
「いいの?」と高木がそう尋ねると、
「うん…………うわ、すっごい苦い」
と嫁が素の口調で答えた。
俺はそこで完全に射精した。
かなり飛び散った。
声が出そうになったが、なんとか堪えた。
「はーあ」と嫁の声と同時に、ベッドに人が倒れこむ音。
「やっぱ守、すごいね」
はは、と高木の笑う声。
続いて「相性いいんだって絶対」と高木。
「ねー」
そんな会話の中、バイブも着信音も無しにしてあった、俺の携帯の液晶が光った。
「お仕事頑張ってね。明日ご馳走作って待ってるよ」
嫁からのメールだった。
それからしばらく、隣からは何も音が聞こえてこなくなって、怪訝に思った俺は高木にメール。
「今どうしてる?詳しく教えて」
送った直後に、隣で着信音。
「女の子?」とからかうような嫁の声。
「違うって」
すぐに返事が返ってきた。
「一回終わったところです」
「現状の詳細お願い」
「京子さんを後ろから抱きかかえて座ってます」
壁を一枚挟んだむこうで、恋人みたいに裸で密着して座っている二人を想像する。
しかも無言。
その状態がさらに1分くらい続いて、嫁の声が聞こえた。
「守ってさ、絶対もてるよね」
「そんなことないよ」
「そんなことあるに決まってるじゃん」
「なんで?」
「別に。そういえばさ」
「ん?」
「彼女とはもう会わないの?」
「元、な。ちゃんと別れたし」
「なんかすぐだったね」
「しょうがないさ。遠距離は嫌だって言われたし」
「そっかー……でも、あー……ううん」
「何?」
「なんでもない」
「言ってよ」
「なんでもない。まぁでもあたし的にはそっちのがいいけど」
「そっちって?」
「だから、守に彼女いないほうが」
「なんで?ひどっ」
ごそごそとベッドが軽く軋む音。
「なんでって、わかるでしょそんなの」
そしてまた、ちゅぱちゅぱと水音がし始めた。
「うっ」と高木が小さく呻いて
「いや、わかんないし」と口にした。
嫁はそれに対してすぐには返事をせず、ただ水音だけが徐々に激しくなっていった。
そして数十秒後、音が止んだ。
「わかるでしょ」と囁くような嫁の声。
そしてまたすぐにちゅぱちゅぱと音。
激しくなったそれは、じゅるっじゅるっといったほうが近いかも。
「京子、口だけで、そう、手こっち置いて」
水音だけが延々と続いた。
そして高木が「京子、そろそろ、やばいかも」と呻くように言うと、
音が一旦止み、またベッドが軽く軋む。
「どうしよ?」と嫁の声。
「どうする?」
「ほしい、な」
「じゃあ、乗って」
そして緩やかに、ベッドが軋みだした。
ゴムを着けた気配は無かった。
「ああっ、やだ、すごい、やっぱり」
「なんか、マジで俺、幸せって感じ。」
「わかる、かも」
「動くよ」
「ん、でも、あたし、すぐ、やばい、と思う」
「俺も」
ベッドがまた激しく軋みだした。
その音は、ギシギシと横に揺れるような感じじゃなく、
ギッギッギと縦に揺れてるふうに聞こえた。
そして嫁が、高木にこう語りかけた。
「やっ、ホント……気持ち良い…………ね、守」
「ん?」
「……好き」
「俺もだよ」
「大好き」
「ん。俺も」
「本当?」
「ああ。大好きかも。お前のこと」
「やばい、嬉しい。あたしも、ほんと大好き、かも。ああ……守…………あっあっあっあっあっ!」
俺は再度勃起していたけど、オナニーどころじゃなく、なるべく足音を立てずに、
ただ部屋の中を、号泣しながらうろうろと歩き回っていた。
頭の中は、ぐるぐると、嫁との記憶が暴れまわっていた。
でもそんなの関係無しに、隣からは愛し合ってる二人の声。
「あっ!あっ!あっ!これ、やばい、あたし、もうだめ」
「俺も、すぐ、かも」
「守!守!……いっ!あっ!……もうだめ」
「俺も、どうする?」
「ほしい。だめ?」
「京子は?大丈夫?」
「もう、我慢、できない……欲しい」
「あ、く、やば」
「あ、待って、これ、外す、から」
「いいの?」
「……今は、君だけ……」
数秒音が止み、そしてまた嫁の声。
「あんっ!あんっ!すごい!守!やだ!全然違う!」
「京子!」
「守!好き!好きだから……あっあっあっあっあ!」
「俺も、愛してる
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