10月19

「みゆ」

硬い硬いそれを、
夢中で貪っていた。

その人が紡ぐ液体は全て飲み込んで、
なのに、
わたしの唾液は、
口の端からだらしなくこぼしながら。

その人の太腿が時々引きつったように動き、
ふと見上げると、仰け反った首筋が目に入る。

そして、荒い息に混じる、隠し切れない声。

すごくどきどきして、
体の真ん中が火照ってくるのが分かって、
多分その時、
わたしの唇や舌は、性感帯になっている。

このまま口の中で達して欲しいと、
わたしは心から思うのに、
いつも頭を抑えられて、その行為は中断させられる。

「もう挿れたくなってきたでしょ?」

ずるい。

我慢できなくなったのは、
絶対にわたしじゃないのに、
そうやって、わたしのせいにするんだ。

でも、わたしは笑って答える。

「うん、挿れて」

そう答えれば、
その人が嬉しそうにするのを知っているから。

ゆっくりその人を倒して、わたしが跨る。

わたしが嫌いな、その人の硬い腹筋を両手で押さえつけ、
わたしが腰を動かす。

上に乗るのは苦手なんだけど、
さっき最後までさせてくれなかった復讐のつもりで、
一生懸命、でも、多分相当ぎこちなく動いた。

わたしの中が何度も満たされる。
求めつつ、弾く感覚。

背骨は甘く疼くのに、
頭はすっきりと冴えてくる。

多分、跨るときに特有の快感。

気付くとわたしは、
背中に汗が滲むほどにそれに没頭していた。

ちょっと苦しそうに喘ぐその人の顔を見て、
わたしは体を動かすのを辞めないまま、
その人の頬に自分の手を重ねた。

そうしたら、
その人は、目を閉じたまま、優しい顔をした。

一瞬。

そして、名前を呼んだ。



その人の、前の彼女の。



心臓がひとつ大きく動いて、
わたしの体は、だんだんに動かなくなった。

それでもその人の胸の上に倒れて、
繋がったまま首に手を回した。

その人は、自分が呼んだ名前に気付いてなかったみたいだった。
それくらい、その人には馴染んでいる名前なんだと思った。



そのままひっくり返されて、
何度も何度も奥まで突かれた。


いつもより声が出た。
止まらなかった。

いつもは言えないような言葉も言えた。



気持ちいい。
すごい。
大好き。
もっとして。

急がないで。
いまは、ゆっくり。

おねがい。
いっしょに。


最後は、いっしょに。




かっこつかない、わたしの叫び。

もうどんなにイっても冴えることのない頭は、
わたしがひとりで冷ますしかない。

聞かなかったことにするから、

わたしを愛してとも、
昔を忘れてとも言わないから、

いつか、そのきれいな名前の女の子との思い出を、
わたしに話して聞かせてね。

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