11月2

優勝フーリガン

警官隊ともめる若者たち、橋から飛び降りる人々。
大通りはあらゆる喧騒に満ちていたが、その裏手の廃ビルの中は、
少年の頬を張る音が響き渡るほどに静寂だった。
「おいガキ、さっきお前なんて言ってた? 18年は長かったって? 」
「ふざけんじゃないよっ! 18年前にはてめぇ、オヤジのこん中に入ってたんだろーが!」
声の主は高校生くらいだろうか――その2人の少女のうち、1人が
部屋の隅でしりもちをついていた少年の股間を激しく蹴りつける。
生まれて初めて体験する男の痛みに、
少年は断続するうめき声を上げてうずくまることしかできない。
頬を張られたときに飛んでしまった、少年のキャップが少女たちの目に留まった。
汚れた床の上で目立つ白に、細い黒のストライプ柄が目に飛び込み、
オレンジ色のうさぎのようなマスコットを
カバンにつけている少女たちをさらに興奮させる。
「優勝したのがそんなにうれしいかよ? おかげでアタシたちは不快極まりないってのに!」
「まったく見せつけやがって! こっちは今年1年、テレビをつけるたびにムシャクシャすることばっかりだったんだよ!」
少女たちは、まるで浦島太郎の亀をいじめる子供のように、
小さく丸まっている少年を何度も蹴りつけた。
容赦ない攻撃が加えられるたびに痛みを感じる場所が次々と増えてゆき、
少年はもはや、どこが痛いのかすらわからなくなっていた。
その加虐は、少女たちが疲れを感じて息を整えようとするまで止まらなかった。
「ハーッ……ハーッ……バカにしやがって。ねえ、こいつどうする? 殺そうか?」
「何言ってんの!? 冗談でもやめてよねそういうの……確かにこんなバカガキ許せないけど、どうせこのあと、また10年……いや20年はこんなことないんだし。」
「あームカつく! このあと20年後にでも、また同じようなガキが生まれてくるって考えるだけでマジ殺したくなるよ。どうせこいつの子供も同じこと繰り返すんだよ!」
「それは絶対許せないよね……うん、絶対許せない!」
服は靴跡だらけで、ズタボロになってうずくまる少年を見下ろす少女たち。
不意に、少女のうち1人の瞳に、どす黒い邪悪な光が宿った。
「いいこと思いついた……ねえ、こいつのズボン下ろしちゃってよ」
「はぁ!? なにトチ狂ってんだよ? 敵のガキに欲情でもしたワケ?」
「んなわけないじゃん! そうじゃなくて、これ以上あいつらのファンを増やさないために、こいつを子供が生めないようにするんだよ。」
「はぁ!?……えぇ?……ああ! そういうことか! アハハ、そりゃいーや!」
ようやく言葉の意味を理解した少女の一人が、
さっそく少年のズボンのボタンをはずして、チャックを下ろそうとする。
我を取り戻した少年が反射的に抵抗しようとしたが、
もう一人の少女が「おとなしくしてろよ!」という声とともに放った膝蹴りを
横っ面にもらい、ふたたび萎縮した。
「そうそう。さっさと脱ぎな……ほら腰を浮かせなよ!」
下半身をむき出しにされた少年は、羞恥とこれから何をされるのかの恐怖感で、
これまで以上に小さく丸まっている。
しかし一人の少女が少年をはがいじめにしたせいで、
大事なところを隠すことも出来なくなってしまった。
「ハッ! んだよトラの子のくせに小せえなぁ。」
少女はそう言いながら、カバンの中をごそごそと探して、万能バサミを取り出す。
「あ? あんた子供生ませないようにするって、タマ潰すんじゃないの?」
「あれ? アタシはチンポ切っちまおうと思ってたんだけど?」
その会話で、これから自分の身に何が起こるかを悟った少年の顔が
みるみる青ざめた。恐怖のあまり悲鳴もあげられない。
「それじゃダメだろ。ザー汁出せたら妊娠させられるって! タマ潰せよタマ!」
「いや、やっぱ男はチンポでしょ。いいからアタシに任せなって。」
「あー……まあいいや。でも、そのまま切ったら出血多量モードだよ?」
「そっか。じゃあ、これで止めておこっと。」
そう言うと少女は、髪を留めていたクリップをはずして、少年の根元を挟んだ。
「はい、止血オッケー! んじゃいくよ……ほーら、アンタのチンポの最期だよ!」
若い処刑人はクリップの手前に刃を当てて、唇を歪ませながら力いっぱい鋏を握りこむ。

ぷちっ

弾けるような音がした。そして、断末魔のような少年の息が詰まる音――
「あは! 取れた取れた! ほら見てよ」
「んなみすぼらしいモノ見たくねーよ!」
「ほら、アンタも見ときな。もう見れないんだから」
切り取った、大事なものだった肉片を少年にみせびらかす少女。
絶望、そして激痛に、少年は涙と嗚咽をこぼしながらうずくまった。
「そういえば、トラのチンポってカンポー薬じゃなかったっけ?」
「売れるかもねっ! って売れねーよハーカ。でも、戦利品としてもって帰ろうかな?」
「捨てとけよ! 腐っちまうって!」
心底嫌そうな表情を見せて講義する少女。
しかしもう一人の少女は指でつまんだ男性のシンボルを
ぷらぷらと揺らして、それを興味津々に眺めている。
「んー、でも、ホラ理科室とかにあるやつ? あれみたいにしてさ?」
「あーそれならイケるかな? アルコールだっけ? なんかハブ酒みたいなのだろ。」
「それでいーんじゃん? んなら途中で買っていこうよ。」
「その前にさ……やっぱアタシどーしても気になるんだよね……」
「なにが?」
言おうか迷っている少女は、相手の疑問に答えるのをしばらく躊躇したが、
やはり放ってはおけない、というように口を開いた。
「やっぱタマも潰しておかねー?」
「えー……でもこいつの股血だらけだよ? まあ、アンタがやるなら別にいいけど。」
「しゃーないかっ! それじゃ、今度はそっちがコイツ持っててよ」
「マジなんだ。オッケー、じゃあ交代ねっ。」
全身がひきつっているかのように硬直していた少年に蹴りを入れて、
不意に弛緩した瞬間に後ろ手に両手を押さえる。正面に立った少女が、
わきわきと指先を動かした後、少年の股に手を差し入れた。
縮み上がったしわくちゃの皮を強引に揉みしだき、
中に入っている楕円状の球体を探り当てた。
コロコロと皮の中で逃げるそれを、しっかりと握りこむ。
「おーい少年、おまえ男じゃなくなるけど、これからは少年じゃなくてなんて呼べばいいんだろうな?」
少年への問いかけに、後ろの少女が答える。
「ガキでいーじゃん。」
「そっか。」
少女が指に渾身の力を込める。それと同時に、少年が短くうめいた。
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