12月3

召しませ孕ませ憧れの人

 「なにこれ?」

買い物袋を片付け、テーブルに置かれたビデオテープを見つめ沙夜香が問う
 「3年前の・・・・あんときのやつ・・・」
聞こえるか聞こえないかギリギリの声で俺は呟く
 「あー!  あれね、懐かし?」
申し訳なさそうな直人とは正反対に沙夜香は明るい笑顔で答える
 「で、急にどしたの?こんなの出して」
 「ほら、俺達もうすぐ卒業だろ?だから・・・」
 「だから?」
 「覚悟は出来てる・・・!訴えるなり、通報するなりしてくれ!
 「ふーん・・」
 「・・今まで・・・ホント、ゴメン・・・」
直人はそう言うと黙りこんでしまった

あれは二人が高校に入学したばかりの頃だ
しっとりとした長い黒髪、優しげな瞳、天真爛漫を絵に描いたような明るい性格、彼女は光り輝いていた
その娘の名前は沙夜香  
彼女の魅力に惹かれた男子は数知れず、告白し撃沈しフラレた男子も数知れず
中学時代から高校生や大学生からも告白されたが「恋愛に興味がない」とその全てを断っていた
そして、俺もその魅力に魅了された一人だった
しかし俺は他の男子とは違った

彼女を初めて見たときからずっと憧れていたが告白したって最初からフラレるのがわかっていたから告白などしなかった
だからといってこの気持ちは抑えきれなかった
そして俺の起こした行動―――

家庭の事情で一人暮らしだった俺は下校中の彼女が一人になった時を見計らってナイフで脅して無理矢理部屋に連れ込んだ

 「やだぁっ!やめて!やめてったら!やめなさいよ!!」
 「うるさいっ!黙れ・・・!」
 「む゛ーっ!!む゛ーむ゛ー!!・・・イッ!!!っっ!!!!!!」
 「ほ・・・ら・・、入った・・ぞ、ハハ・・・やっぱり初めてだったんだ・・・・!」
 「ぅぅ・・・ぅぅ・・・・・」
 「よし! 中に出すぞ!!!」
 「うっー!ぅー!ぅー!・・ぅぅぅ・・・・」
俺は彼女が無反応になるまで何回も何回も彼女の体内に注ぎ込んだ

 「あの時は怖かったし痛かったしで散々だったわ」
あっけらかんと沙夜香は話す、二人の始まりはレイプだったというのに
 「いつの間にかビデオとっててさ、この映像バラされたくなかったら黙った言うこと聞け、だもんねぇ」
まるで懐かしむように沙夜香は語る
 「最初は直人が憎くて怖くてたまらなかったなぁ、本当に殺してやろうって何度思ったかなぁ?」
直人はうつ向いたままだ
 「しかも直人ん家に住むことになるし、ま、どうせ私は寮だったからなんとか誤魔化せたけど」
コタツに入りお茶を煎れ直人に差し出し自分にも煎れる
 「あれから三年か・・・ なんか直人に体の隅々まで弄ばれたって感じ?」
 「参考だか知らないけどえっちなゲームやビデオもほどほどにしてね」
と付けたしお茶をすすり笑みを溢す

 「だから・・・こんな関係・・・終らせよう」
直人がじっ、と沙夜香を見つめ口を開いた
 「終わり・・ねぇ」
 「今更こんなこと言って許されるとは思ってない・・・けど」
 「けど?」
 「俺は沙夜香に取り返しのつかないことしたんだって・・・ 気付いた・・・」
直人の声が若干震えていたが沙夜香は気付かないふりをする
 「一緒に暮らしていって・・・俺の中で沙夜香の存在が・・・どんどん大きくなって・・罪悪感も大きくなって・・・」
直人は半分泣いていた

 「それで・・・沙夜香はどうなんだろうって・・・考えたら・・・俺・・・ 酷いことしてたって気付いて・・・・ 」

 「はい」
涙と鼻水で汚れた顔を上げる直人、目の前にはテッシュの箱を差し出す笑顔の沙夜香がいた
 「さ・・・や・・か・・・?」
 「顔、拭きなさいよ せっかくのいい男が台無しよ
  あ、そういえばヨウカン!、直人好きでしょ?安かったから買ってきたんだ」
切ってくるね、と沙夜香はキッチンへと向かっていった
半ば放心状態の直人を知ってか知らずか沙夜香が鼻唄混じりで戻ってきた
 「おまたせっ、食べよ」
 「・・・沙夜香」
 「ん?」
 「話・・・聞いてた?」
 「ぅ?ん」
沙夜香はヨウカンに舌鼓をうってあまり関心がない様子だ
 「俺は・・真面目に!」
 「私のこと捨てるんだ?」
えっ?、と直人がたじろいだ隙に沙夜香が巻くし立てる
 「ナイフで脅して無理矢理レイプして、私の初めて奪った上に三年間もあんなことやこんなことして、飽きたら結局捨てちゃうんだ」
 「あ、飽きてなんかない! お・・・俺は、沙夜香の・・ために」
 「私の?違うでしょ、自分が辛いから、逃げたいからでしょ」
珍しく怒気を孕んだ口調に直人はまた黙り込んでしまった
 「・・ねぇ、直人? もうさ、三年だよ?」
 「・・・うん」
 「ずっと一緒に暮らしてさ、同じ物見て泣いて笑って過ごしてきたんだよ?
  なんていうかさ、直人と一緒なのが当たり前っていうか」
 「でも俺は・・無理矢理、あんなことを・・・ 沙夜香を悲しませるようなことを・・・」
 「最初だけ・・・・でしょ」
ふぅ、沙夜香の声が漏れる

 「確に、お尻舐めさせられたり変態みたいななことはいっぱいさせられたりしたけどさ、基本直人優しいし、特に好きな人とかいなかったし、いつの間にか嫌じゃなくなったよ」
直人は黙って聞く
 「アレかなぁ?映画とかである被害者が犯人を好きになるってヤツ、なんとか症候群ってやつ?」
くすくすと笑う沙夜香
 「それにね・・・」
突然真剣な顔付きになり直人は固まった
 「それに・・・?」
ふう、と溜め息
 「直人に捨てられて悲しむのはもう一人じゃないんだよ・・・」
 「・・・えっ?」
直人は沙夜香の言葉の意味が分からず更に固まる

沙夜香は直人の隣に移動してそっと寄り添い直人の手をとりお腹にそっとあてた
 「ずっと避妊もしないでえっちしてたんだよ? 今まで出来なかった方が奇跡でしょ」
にっこりと微笑む沙夜香
 「あ・・・ぇ・・ぁ・・・」
 「ほぉら、しっかりしてよね」
そう言って笑いながら沙夜香は涙と鼻水で汚れ、声も出ず固まってる直人の顔を愛おしそうにテッシュで拭く
 「さっさとヨウカン食べちゃいなさい、そしたらお風呂入ろ、一緒に入って体洗ってあげるからね」
 「ざ・・・やが・・・」
 「ほら、泣きやんで、お父さんでしょ」
直人は泣いた、嬉し涙だった

出会いは最悪だった二人、しかし今は三人で幸福に包まれていた

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