12月22

続 オバちゃん

「もぅ聞いてるの?」
目の前に美雪の顔が迫ってきたので僕は思わずあとずさった。
「ああ、聞いてるよ。なんでお前と映画に行かなきゃいけないんだよ?」
「なんでって…、もういい!」美雪は膨れっ面のまま大股で僕の先を歩いた。
やれやれ…。最近美雪はますます扱いにくくなった。この春高校生になった僕と美雪は、
共に同じ高校に通っている。美雪とは別に付き合ってはいないが、美雪はなにかと
僕に付き纏ってくる。今も定期試験が終わる週末に映画行こうと誘ってきた。

「あっ、ママ!」美雪の視線の先に信号待ちをしている女性がいた。
ブランド物のスーツに身を包んだ美雪の母親は、顔立ちも凛として隙の無い印象だった。
美雪のママ自慢によると、美雪をはたちの時に生んだらしいので三十代半ばのはずだが、
美雪とは歳の離れた姉妹と言ってもいいくらいだった。
「あらお帰りなさい。試験はどうだった?」
娘に柔らかい微笑みを返していた美雪の母親は、後ろに立っていた僕に気づいた。
「…お友達?」美雪は僕を紹介した。僕も頭を下げ挨拶をした。
美雪の母親が手に提げていたバッグの中の財布やコンパクトそして文庫本などが
見るともなく目に入った。
その時、僕は「おや?」と自分でも説明のつかない違和感を覚えた。

その交差点で僕と美雪母娘は別れた。
「美雪のことよろしくね」
美雪の母親は僕にニッコリと微笑んだが、その目には僕が娘の友達に相応しいか
どうかを観るような雰囲気があった。
その夜、僕は自慰をした。夢想するのはいつものように去年の夏の本屋のオバちゃん
との体験だ。

オバちゃんはレジの前で色のついた小さい短冊形の紙を揃えている。
待ちきれない僕はオバちゃんに後ろから抱きつき胸を触っていた。
「ちょっとやめて…すぐ終わるから、後ろの部屋で待ってて」
オバちゃんは僕をたしなめた。
「やだ…待たない…」僕の指はオバちゃんの胸の頂きを探り出して撫でていた。
下半身をスカート越しにオバちゃんのお尻に密着させ軽く突いた。
「だめ…お願いだから待って」僕の指はオバちゃんの手で遮られた。
僕は仕方なしに手を離し、オバちゃんの髪の香りを嗅いでいた。

「これ何?」僕は色付きの紙を指差して聞いた。
「ああ、スリップね。元々本に挟んであって、本の注文とか集計に使うの。
本が売れた時に必ず本から抜いて取っておくの。…さぁ終わったぁ」
オバちゃんはくるっと僕に顔を向けキスをせがんだ。目を瞑って唇をくっと
差し出すオバちゃんの表情はさっきまでとは全然違っていた。僕は途端に欲情した。

僕たちは互いの舌を貪りながら、引き戸を開け部屋へと倒れこんだ。
僕はオバちゃんを後ろから抱きしめ、スカートの中に手を入れた。
「待って、自分で脱ぐから…ねっ」
僕は耳を貸さず、下着をお尻から引き下ろし足首から抜き取った。
「後ろ向いて」「このまま…で?」
「うん」「もう、エッチね」
そう言いながらオバちゃんは四つんばいになるとお尻を僕に向けた。
僕はスカートを捲って、オバちゃんのお尻を剥き出しにした。
覗きこむと、オバちゃんのそこは既に充分溢れていた。
「もうすっかり準備できてるよ」「やめて…見ないで」
僕はズボンを下ろすと、自身をオバちゃんにあてがった。オバちゃんの腰が
僕を迎えに動き出す。
しかし僕は自分の脚の付け根とオバちゃんのお尻との間に両手で握り拳を作り、わざと
深く入らないようにした。
「いや、手をどけて…」オバちゃんは拳に阻まれて僕自身が入り口までしか入らない
ことに焦れて声を上げた。オバちゃんの背中が切なそうにうねっている。
「やだ」僕はさっき待たされたお返しとばかりに、拳をどけなかった。
オバちゃんが剥き出しのお尻を振って、何とか僕を奥に迎え入れようとしているのが
いやらしかった。
「いや、いや、お願い…」オバちゃんは泣きそうな声で僕を求めた。
「どうして欲しいの?」僕はわざと小さな子供に話しかけるような口調で尋ねた。
「お願い!奥を突いて!ねぇっ!」
僕はオバちゃんの腰を掴み、ずんと思いっきり突き立てた。
「ああ――っ!」オバちゃんは悲鳴を上げ、僕の突き上げを歓んで受け入れた。
服を着ていながら交わるのはその時が初めてで、僕は異様に昂ぶりオバちゃんの中に…。

「あっ、あっ…」僕はその場面で射精した。
後始末をして、ベッドに寝転んだ。うとうとしだしたその時、僕ははっとした。
美雪の母親のバッグに入っていた文庫本にスリップが挟まっていた。
つまりあの本はレジを通していない…。
大型スーパーの中にある書店で、本を立ち読みするふりをしながら僕の視線は、
数メートル先の書棚の前にいる美雪の母親の背中に向けられていた。

あの夜、美雪の母親が本を盗んだのではという疑いを持った僕は、美雪の母親を
見張ることにした。僕は美雪の母親が土曜毎にカルチャーセンターに通っている事を
美雪のおしゃべりで知っていた。その講座が終わる時間を問い合わせた僕は、その時間に
教室から出てきた美雪の母親の後をつけた。
美雪の母親は何軒かブティックや小物店を覗いた後、この書店に入った。
僕は一体何やってるんだろう…。僕は自分の暗い情熱に我ながら呆れていた。

美雪の母親はここに来るまで特に怪しげな素振りは見せなかった。
やっぱり勘違いだったかなと思い始めた時、美雪の母親の手が動いた。
文庫本を二冊手に取った美雪の母親は、一冊を戻し、もう一冊をバッグの中へ滑らせた。
やっぱり…。僕はまるで自分が盗んだかのように緊張した。美雪の母親はそのまま
早足で書店を出ようとしていた。僕もすぐ後を追ったが、僕の目の端に同じく後を
追う人影が目に入った。
まずい、私服の警備員だ!僕はもう少しで書店を出るところだった美雪の母親を、
走るようにして追いつき腕を掴んだ。
「母さん、本買ってよ。ねっ、いいだろ!」
美雪の母親の顔は怖いくらいに強張っていた。
「私、あなたに助けられたのね…」
リビングのソファに体を預けた美雪の母親は、下を向いたままぽつりとつぶやいた。
あの後、美雪の母親が万引きした本をバッグから抜き取り元に戻した後、震えている
彼女をタクシーに乗せて美雪の家まで送り、抱きかかえる様にしてソファーに座らせた。
それから今まで美雪の母親はずっと黙っていた。

「主人が単身赴任でめったに帰ってこないことや、ひとり娘に精一杯いい母親を
演じて疲れたことなんかは理由にならないわね…」
僕は何も言わなかった。
「とにかくありがとう…でも、このことは美雪には…」「…はい、誰にも」
「ごめんなさい…ごめん…なさい…」
美雪の母親は僕の胸に顔を埋め、嗚咽の声を漏らした。まるで子供のように
泣きじゃくる体から大人の女性特有の匂いが香りたち、僕の下半身は疼き始めた。
僕は腕を彼女の背中に廻して抱きしめた。泣き声はさらに高まった。
僕は美雪の母親にキスしたいと思った。彼女の弱みに付け込む罪悪感はあったが、
元々後をつける決心をした時から心のどこかでこういう展開を期待していた。
でもそれは一か八かの賭けだった。もし外れたら僕はここから即座に叩き出されてしまう。
でも当たれば…。
さすがに手が震えた。僕は美雪の母親の顔を両手でゆっくりと引き寄せ、
まずおでこへキスをし、それから瞼へと移り、そして唇を合わせた。
美雪の母親は抗うことなく僕の唇を受け入れた。僕はゆっくりと唇を吸った。
髪をかき上げると、彼女は「ああ…」と吐息を漏らした。
僕が唇を首筋へと這わせると、彼女は細い首を仰け反らせた。
僕は美雪の母親をソファーに横たえた。

僕の唇は耳へと移り、軽く耳たぶを噛んだ。
「あん…」吐息が喘ぎ声に変わった。
右手を徐々に胸へとずらした。ここで拒否されたらそこまでだと思ったが、
僕の手はすんなり思いを遂げられた。
美雪の母親の胸は見た目より豊かで張りがあった。僕はゆっくり丁寧に揉みしだいた。
「はぁ…んん…」声音が切なさを帯びてきた。
僕は少し大胆になって、ブラウスのボタンに手をかけた。一つ一つボタンが
外され、中の下着が露わになった。ベージュの下着には胸の辺りに花模様の
縁どりが施されていた。僕は一気に剥ぎ取りたい衝動に駆られたが自制した。
美雪の母親は、一時の気持ちの昂ぶりで身体を預けているかもしれない。
しかも相手は娘の同級生だ。焦ったらどうなるか解らなかった。

「ねぇチュウして…」子供が甘えるような声がした。
「チュウ、チュウ…」目を瞑り、うなされるように美雪の母親は繰り返した。
それまでの雰囲気とは違っていた。
美雪の母親は素の自分を曝け出している、そう思った僕はさらに大胆になった。
僕は唇を合わせ、中へと舌を滑らせた。すぐにふたりの舌は絡まり、互いの唾液が
行き来した。彼女の腕が、僕の首に廻される。
僕の手は美雪の母親のお尻を撫でた後、スカートをくぐり中へと入って行った。
手はゆっくり慎重にストッキングの中を進んでいく。そしてわずかに脚が開かれた
ことで目的の場所へ辿りついた。
そこは熱を帯びていて、ストキッング越しでも湿っているのが解った。
僕は湿りの中心へ指を潜らせた。
「んっ…」美雪の母親は眉間に皺を寄せ、びくんと震わせた。
ストッキング越しなので指に少し力を加えて上下させた。一段と熱気と湿り気が
高まったように感じた。
「熱い…熱いの…」鼻にかかった声はさらに甘さを増した。
その声が僕の欲望を一気に膨らませた。
僕は体を起こし、ストッキングに手を掛けると下着ごと引き下ろした。
いやぁ…」美雪の母親はそう言いながらも腰を浮かせ、僕の作業に協力した。
僕は美雪の母親の内腿を掴み、脚を拡げさせた。
薄めの茂みは肉の裂け目あたりにはほとんど生えておらず、その形を露わにさせていた。
充血してぽってりとした周辺と、その奥の鮮やかな肉の色、そこから溢れ出す滴りを
僕は息も忘れ眺めた。
「やぁだ恥ずかしい…」美雪の母親は脚を閉じようとしたが、その前に顔を密着させた。
久々に女性のなまの匂いを嗅ぎ興奮した僕は、その部分を舌で舐め上げた。
舌にねっとりとした柔らかさと、しょっぱさが伝わった。
「あっ、あっ、あっ」規則的な感覚で喘ぎ声が聞こえてきた。僕の舌は泉の入口から、
その上の敏感な場所へと徐々に移った。
「んっ、んっ、んっ」声音が変わり、腰がせり出してきた。僕は舌の動きの速さを増した。
「く…くっ…るっ…」彼女に、もうすぐ快感の波が訪れようとしていた。

ピンーポーーーン。突然長く余韻を持った音がが鳴った。
一瞬の間の後、ふたりとも慌てて身を起こし顔を見合わせた。
「ママー、開けてー」美雪の声だった。
美雪の母親は慌ててスカートの捲れを直しながら、僕に言った。
「台所の勝手口から出て!」僕は頷き台所へ急いだ。
美雪の母親はボタンを急いで留め、髪を整えながら玄関へ向かっていた。
しまった!玄関には靴が!
声を出して美雪の母親を呼びとめる訳にはいかなかった。僕は慌てて玄関へ走った。
美雪の母親がドアの施錠を外したところで、玄関に滑り込み靴を掴んだ。
そのまま台所へ戻る暇はもう無かった。とっさに近くにあった階段を駆け上がった。
玄関のドアが開け放たれるのと階段を上りきるのが同時だった。
「ただいまー」美雪の声が聞こえる。
僕は一番手前にあったドアを音が出ないように開け、部屋へ飛び込んだ。
部屋を見回した。そこにはぬいぐるみ、ベッドの上のピンクの布団カバー、枠に模様の
付いた姿見、机の上に無造作に置かれた学生カバンがあった。
明らかに美雪の部屋だった。
くそ…、寄りにもよって…。僕は狼狽した。
「映画どうだった?」「うん、面白かったよ」
階下の母親の問いかけに答える美雪の声が、階段を上る音と共に段々近づいてくる。
僕はベッドの下に30センチ足らずの隙間を見つけた。急いで潜り込んだ。
ドアが開けられ美雪が入ってきた。辛うじて僕は間に合った。

走った後だけに猛烈に息苦しかったが、手で口を覆って必死でこらえた。
目の前を美雪の脚が行き来している。その脚がこちらを向いてぴたっと止まった。
僕は見つかったのかと思い身を固くした。
ファスナーを下ろす音が聞こえてきた。チェック柄のスカートが足首まで下ろされ、
脚が交互に抜き取られた。
僕は見つかる危険も顧みず少しづつ頭をベッドの縁の方へずらした。
姿見に美雪の姿が映っていた。美雪はブラジャーとショーツだけの姿で姿見にお尻を
向けていた。きゅっと締まったお尻と水色のショーツが僕の目に飛び込んだ。
美雪は部屋着に着替えようとしていた。だが部屋着を手に取った所で、ふと動きを止め
それを脇へ置いた。そしてくるっと振り向くと、姿見に自分を映した。
今まで意識したこともなかったが、美雪は均整の取れた体をしていた。
しばらく自分の姿を眺めた後、美雪は両腕を背中へと廻した。
ブラジャーのホックを外すと、肩紐に手を掛けた。そしてブラジャーを取り去ると、
美雪はまた姿見の中の自分を見つめた。
「二人でだったらもっと楽しかったのに…」
こぶりながら形が良く、張りのある胸が映し出されていた。桜色をした頂きは
誇るようにツンと上を向いていた。
「魅力ないのかな…」
美雪は両の掌で自身の胸を持ち上げた。その指先は頂きにかすかに触れていた。
「私の気持ち、伝わらないのかなぁ…」
美雪はぎゅっと胸を抱きしめた。少しして指先が頂きの上でゆっくりと動きだした。
目を閉じた美雪は、顔を徐々に上へと向けた。僕はすっかり見入っていた。
美雪の右手が少しづつ下へと降りて行き、臍の上を通過し、ショーツに覆われた
丘の上で止まった。二本の指が丘の向こうまでおずおずと分け入り、行きつ戻りつを
繰り返しだした。
美雪の頬は紅潮し、唇がわずかに開いた。右胸の頂きは左手の指で摘まれ、弄られていた。
右手が少しだけ上に引き上げられ、ショーツの縁をくぐると再び下へと降りていった。
右手の侵入によってショーツが引き下げられ、美雪の丘のはじまりが晒された。
指の隙間から茂みがほの見えた。
「…あっ」美雪は苦悶の表情で小さく声を漏らした。
「美雪ちゃーん。もうすぐご飯できるけど、先にシャワー浴びたら?」
階下から美雪の母親の声が聞こえてきた。
美雪ははっとし、反射的に右手をショーツから抜いた。
「はーーい!」美雪は慌しく服を着ると部屋を出て行った。

助かった…。僕は最悪の事態を避けられたことに感謝したが、一方でもっと美雪の
秘密の行為を眺めていたかったとも思った。
美雪がシャワーを浴びている隙に、僕は玄関から出て行った。

その晩も自慰をした。美雪や美雪の母親や本屋のオバちゃんが入れ替わり立ち代り
現われ、僕は二回射精した。

「映画面白かったよー」休み時間に美雪が話しかけてきたが、僕はそっぽを向いて
ああそうとだけ言った。美雪は何を言っても生返事の僕に「馬鹿!」と怒って
行ってしまった。美雪の後姿に水色のショーツが重なった。
僕は美雪の顔をまともに見られなかった。美雪の自慰を覗き見たせいもあったが、
何よりも美雪の母親とのことがあったからだ。

まったく…、二十も上なのに。
元々の僕の性癖なのか、初めての相手がそうだったせいなのか解らないが、僕は年上、
しかもかなり年上の女性に心惹かれてしまうようだ。僕は美雪の母親を自由に
したかった。だから美雪とは距離を置こう、そう考えた。
しかし、美雪の母親が昨日以上のことを今も望んでいる保証はなかった。
一時の気の迷いで、ああいうことをしたと自分を恥じているかもしれない。
色々考えた挙句に次の日、思い切って電話を掛けた。
「週末に…逢えませんか?」声が緊張しているのが自分でも解った。
美雪の母親も緊張した声で「…ええ」と答えた。
「こんな風になっているのね。思ったよりキレイ…」
美雪の母親はもの珍しそうに言った。

僕は美雪の母親に逢うとラブホテルに向かった。
それまでこういうホテルに来たことがないと言う美雪の母親は、入る時はかなり緊張の
面持ちだった。僕は彼女の腰を抱き半ば強引にホテルの中へ入った。
部屋に入ると幾分緊張が解けたのかベッドの端に腰掛けると、部屋を見廻していた。

僕は美雪の母親の横に座った。彼女は僕の方を見遣った。
「あなたはこういう所初めてなの?」
「い、いえ…」二度目ですとは言わなかった。
「そう…、まさか美雪と?」
「い、いいえ、違います!美雪…さんは妹みたいなもので…」
「そうよね。あの子まだ子供だものね」
僕は裸の美雪を思い起こした。
「娘の同級生とこうなるなんて、とんでもないおばさんだと思ってない?」
「いえ…、思ったら誘いません」
美雪の母親は背中を向けた。
「私ね、学生結婚ですぐ美雪を生んで…、でも主人はずっと向こうへ行きっぱなしで…、
おまけに他に女がいて…、でも私がいい妻、いい母親だったら主人は私と美雪の元へ
戻ってくるかなって頑張って…、でも疲れてイライラして…、万引きまで…」
僕は美雪の母親を背中からひしと抱きしめた。
長い時間そうしていた。ふたりとも黙ったままだった。空調の音だけが部屋に響いていた。

「チュウしてもいいですか?」僕はこの間の彼女の口調を真似た。
背中が揺れだした。笑っているようだ。彼女は振り向いた。
「ありがとう…あなたは優しいのね…」瞳が涙に滲んでいた。
「チュウして…」僕は差し出された唇を吸った。

僕は美雪の母親の服をゆっくりと脱がせた。その間彼女はされるがままだった。
ブラジャーが外され胸が露わになる時両手で彼女は胸を覆ったが、僕はその手を掴み
降ろさせた。
白い豊かな胸が、淡い間接照明に浮かび上がる。最後にショーツを足首から抜き取った。
目の前に立つ美雪の母親を眺めた。肩から始まった二本の線は、胸に向かって
大きくふくらみ腰に降りるにつれていったん狭まった後、また綺麗な曲線を描いた。
僕は息を呑んだ。
「あなたも…」
美雪の母親は僕の服に手を掛けた。今度は僕が彼女のなすがままになった。僕の足元に
跪きパンツを引き降ろす時、彼女は恥ずかしそうに下を向いていた。
僕たちは、ベッドに入り抱き合った。
「んっ…あんっ…」
ベッドに入った途端、それまでのゆったりとした時間が嘘のように、僕たちは
激しく求め合った。互いの舌を貪り、首筋を舐め、耳を噛んだ。
僕の欲望が、美雪の母親の欲望を掻き立て、さらにそれが僕の欲望を増幅させ…。
喘ぎ声がふたりの共通の言葉のように交わされた。
「いやっ…いやっ…」
胸を荒々しく揉みしだき頂きを強く噛んでも、彼女は歓びの声を上げた。
脚を大きく開かせ、挿入した指を乱暴に出し入れしても身を震わせた。

「私あんまり上手じゃないけど…」
髪を掻き上げると美雪の母親は、僕自身を握り唇を近づけた。
彼女はまず僕自身の先っぽ辺りに唇をくっつけ、そのまま舌で撫でるように舐め上げた。
思わずぴくんと脈打った。
「どうすれば気持ちいいか言って」
彼女は僕が歓ぶ場所を、方法を探した。彼女の喉の奥深くに当るほど包まれた時、
僕は大声を上げて仰け反った。
「こうすればいいのね…」
彼女は時おり喉を詰まらせながらも、僕自身を奥まで含んでくれた。

僕は目を開け、少し体を起こした。美雪の母親の頭が上下を繰り返している。
すぐ後ろの壁は一部が鏡張りになっており、そこに美雪の母親のお尻が映りこんでいた。
彼女はうずくまっているので、肉の裂け目はぱっくりと開かれ、全部が丸見えだった。
彼女に最初に逢ったときの、凛とした表情を思い出した。そのひとがあられもない
格好で、ただ僕を歓ばたい為に懸命の奉仕をしてくれていた。
僕は体の向きを変えると、彼女の脚の間に顔を埋めた。互いに舐め、啜りあった。
自分たちが演じる痴態が、さらに興奮を高めていく…。
「んふっ…んあっ…」
彼女は僕自身を含んだままで、くぐもった声を上げていた。僕が充血した敏感な
突起を唇で摘んだときは、僕自身を口から離し喘いだ。

「ねぇ、欲しい…」
美雪の母親は、さらなる深い肉のつながりを欲しがった。それは僕も同じ思いだった。
僕は美雪の母親にそのまま入れたかったが、オバちゃんの言葉を思い出し、
スキンをつけ、十分に待たされたそこへと入り込んだ。
「ああっ、ああっ、ああっ、ああっ…」
すぐに美雪の母親は反応した。僕が突くたびに腿を高く上げ、深く導こうとした。
僕も彼女の脚を肩に掛け、奥へ深く打ち込んだ。彼女を焦らしその様を楽しむ余裕は
とてもなかった。ひたすら奥へ奥へと突き続けた。

「んんーっ…んんーっ…んんーっ…」
美雪の母親は僕にしがみつき、肩口に噛みついた。それさえも僕の快感を呼んだ。
僕はつながったまま美雪の母親の体を起こした。自由な動きを得た彼女の腰は、
逆に僕が突かれているかのように思えるほど激しく動いた。その動きで僕の尻が
シーツに擦れて焼けるように熱かった。僕はたまらず仰向けになった。
「ああぁっ…もうすぐ…来そう…来るの…来るのっ…」
僕に跨った美雪の母親の腰の動きはさらに貪婪になった。僕は目の前で上下する
膨らみを掴み弄び、頂きを捩じ切るように摘んだ。
「来るっ、来るっ、来るっ、来るっ…くっ…るっう…」
その瞬間、彼女は大きく胸を反らし、口を開いた。しかし声は出ずぱくぱくさせていた。
その後、大きく息を吐いた。

「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ…」
彼女は僕の胸に倒れこんだ。荒い息遣いが僕の胸に伝わる。
彼女の体は時おりぴくんぴくんと痙攣していた。
僕はまだ達していなかった。僕はまだ息の荒い彼女の背中に腕をからめると、
いきなり下から突き上げた。早い動きで連続して突き上げた。
「ああ――っ!」
美雪の母親は、がばっと体を起こすとまた腰を動かし始めた。そして果てると
倒れこんだ。しばらくして僕はまた下から突き上げた。
「ねぇっ…お願い…一緒に…いっ…しょ…に…」
彼女は腰を動かしながら僕に懇願した。僕はすっかり汗ばんだ彼女とぴったり肌を
合わせると、最後に渾身の力で腰を動かした。

少し眠った後、僕と美雪の母親はまたお互いの体を、反応を隅々まで確かめ合った。

僕の腕の中で軽く寝息をたてている彼女の顔を見て、僕はこれからもずっと彼女との
時間が続くことに、叫びたいくらいの幸せを感じた。

次の週、僕はかなり焦っていた。美雪の母親とぷっつり連絡がとれなくなったからだ…。

僕は毎日電話を掛けた。しかし、美雪の母親が電話を取ることは無かった。
美雪に聞いてみたかったが、あの美雪が最近は元気がなく、休み時間もひとり
ふさぎこむことが多かった。
まさか、美雪にばれたのでは…とも考えたが、美雪は僕を完全に拒絶する風でも
なかったので、それは無いはずだ。
僕の知らない所で何かが起こっているようで不安だった。
結局、美雪に聞くしか方法は無く、僕は一緒に帰る時に聞き出すことにした。
いきなり母親のことを聞く訳にも行かず、迷っているうちにとうとういつも別れる
交差点まで来てしまった。
「…うちに来ない?」美雪がぼそりと言った。
願ってもないチャンスに、僕は素っ気なさを装いながら同意した。

美雪の家に入ると、僕は真っ先に美雪の母親の姿を探した。しかし彼女はいなかった。
美雪の部屋に通された。僕は椅子に座り、美雪はベッドに腰掛けた。
「お母さんは?」つとめて違和感がないように聞いた。
「来週までいない…、今パパの所にいる」
「…急用で?」「知らない…」
僕は美雪の母親に裏切られた気がした。妻が夫の赴任地へ行くのは別に普通だが、
黙って行ったことが嫌だった。僕に言えない理由に違いないと思った。
僕は気分がささくれ立つのを感じた。夫に組み伏され恍惚の表情を浮かべる美雪の
母親の姿が頭をよぎった。
「何か話があるから家まで来たんでしょ?」
嫉妬と猜疑に苛まれ、黙ったままの僕に美雪が尋ねた。
「いや、別に…。お前こそ、話があったから家まで誘ったんじゃないのか?」
「いや、別に…」美雪は唇を尖らせて、僕の口調をそのまま真似た。カチンと来た。
「お互い用がないなら帰るよ」僕は立ち上がった。前を美雪が立ちはだかる。
「バカ!どうして言わなきゃ解んないの!」美雪は射抜くような目で僕を見た。
美雪の視線に耐え切れず顔を背けると、あの姿見があった。
姿見に、ショーツの中へ手を入れ自慰をする美雪の姿が、僕の脚の間で頭を動かしている
美雪の母親の後姿が映った。耳の中が、きーんと鳴った。
僕は美雪にいきなり抱きつくと、ベッドに押し倒した。
「いやっ!いやっ!」美雪は足をばたばたして抵抗した。スカートが捲れ、太腿が露わに
なった。僕は構わず美雪を押さえつけ、シャツをスカートから引き出し手を突っ込んだ。
ブラジャーに触れた。そのまま乱暴に掴んだ。
「いやあ―――っ…」叫んだ後、美雪の抵抗が止まった。顔をくしゃくしゃにして
泣き出した。僕は急速に冷めていった。僕は美雪の胸から手を離すと、おずおずと
シャツから手を抜いた。
美雪の泣きじゃくる声が僕に突き刺さる。僕はいたたまれず部屋を出た。
最悪だった。僕は全てを自分でぶち壊したのだ。

翌日、美雪はいつも通り学校に来たが、僕に近寄りも目を合わせもしなかった。
次の週にあんなに待ち焦がれていた美雪の母親からの電話があっても、僕は喜べなかった。
彼女は「会って話をしたい」と言った。
鴨が連なって暢気に泳いでいる。その周りの道を親子連れや老夫婦が散歩していた。
僕は池がすぐ見下ろせるベンチに腰掛けていた。隣には美雪の母親がいる。
この公園を指定したのは美雪の母親だった。
「黙って行ったのは謝るわ。ごめんなさい」
美雪の母親は、以前のような雰囲気に戻っていた。
ついこの間、このひとと狂おしく求めあったのが信じられなかった。僕は覚悟した。
「私…あれから気がついたの。私は誰かに傍にいてもらわないとダメなんだって。
でも…悪いけどそれはあなたじゃないわ。それで私、主人の所へ行ってこう言ったの。
『私あなたと一緒に住みますから、あなたもあの女と別れて下さい』って。
ずっと話し合って…主人もまたやり直そうと言ってくれた。私そうしたいの」
僕はうつむいたままで黙っていた。
「あなたには、本当に悪いと思ってる。でもあなたのおかげで私は夫とやり直す気に
なったの。あなたとのことは私の中の大切な思い出にしたいから、だから…きれいに
終わらせて」彼女は僕に深々と頭を下げた。
「もう何もかも…決まってるんですね」それしか言えなかった。ふと美雪の顔が浮かんだ。
「あの…美雪さんは?」
「十六歳の娘をひとり置いていけないわ。美雪には主人の所へ行く前に私の気持ちを
話したんだけど、あの子最初はいやだと言ったわ。でも昨日、美雪は一緒に行くと言って
くれたの」
僕は目の前の池に飛び込みたい心境だった。あの時、美雪は僕に伝えたかったのだ。
それなのにこの僕は…。ひたすら美雪に謝りたかった。

僕たちは最後に少し長めの握手をした。一瞬だけ彼女は僕の腕の中で見せた表情になった。
ふたりの指が離れたとき、僕は肝心なことを知らないのに気がついた。
「あのご主人はどこに…いるんですか?」
「えっ?…ごめんなさい、言わなかったかしら。シンガポールよ」
僕はベンチからずり落ちそうになった。
僕が好きになる人は、みんな僕から去っていく…。公園から帰る道、柄にもなく
感傷的になりひとり笑ってしまった。でもそのあと鼻の奥がつんとした。
明日、どれだけ罵倒されても美雪に謝ろう、そう決心した。

家の前に人が立っていた。美雪だった

「家、誰もいないの?」美雪は部屋に入ると、緊張を紛らすように聞いた。
「うん、親父もお袋も日帰り温泉ツアーに行った。馬鹿みたいに毎月のように行ってる」
「いいじゃない、仲が良くて…」そのまま美雪はうつむきおし黙ってしまった。

「あの、美雪…この間は…」
美雪はうつむいたままもういいというように首を振り、そのまま話を始めた。
さっき美雪の母親から聞いたことだった。僕は初めて聞くふりをした。
「そうか…さみしくなるな…」偽らない本心だった。
「嘘、せいせいしてるくせに…」美雪はまだうつむいていた。
僕は美雪がいじらしくなった。もっと前に美雪ときちんと向き合えばよかったと思った。
僕は美雪を抱きしめた。美雪は抗わなかった。美雪のうなじからコロンの香りがした。

「ねぇ…」ずっと僕の胸に顔を埋めていた美雪が口を開いた。
「…なに?」「…しよ…」消え入りそうな声だった。
「えっ…」「命がけで言ったから、もう言わない…」
「絶対に振り向かないでよ」
僕は「うん」と大仰に頷いた。美雪が服を脱ぐ気配が背中に伝わってくる。
「いいよ…」
振り向くと、美雪は僕のベッドで布団を肩まで被ってむこうを向いていた。
椅子の上に、美雪の服がきちんと畳まれて置いてあった。
僕も服を脱ぎ、ベッドの中に入った。布団を捲ると美雪の華奢な背中が見えた。
美雪の肩に触れると、美雪は一瞬身を竦めた。顔を僕の方に向かせた。

くりっとした瞳、小っちゃくて丸い鼻、ぷるんとした唇…こんなにまじまじと美雪の顔を
見たのは初めてだった。美雪はとても可愛かった。
僕は唇を美雪の唇に重ねた。
美雪の唇を吸った。美雪は少し唇を開いて受け入れた。
舌で美雪の舌を軽く舐めると、美雪もそれに応えておづおづと舌を動かしてきた。
お互いの唇や舌が触れ合う音や吐息が僕の興奮を高めていく。
美雪も徐々に慣れてきて僕の舌を自分から舐めてきた。ふたりの吐息はだんだん荒くなり、
舌は相手の舌を奪うように絡みあう。
美雪が突然顔を僕から外し、大きく息を吸った。
「はぁ、苦しかった…」「どうした…?」
「…なんか胸がぎゅーんとなって…」
僕は布団を捲り美雪の上半身を眺め、まだ固い感じが残る胸に触れ、頂きを口に含んだ。美雪は体をぴくんとさせた。舌先で頂きを転がすと、いよいよ体が揺れだした。
美雪はくすぐったいのだ。見るとしっかり目と口を閉じて耐えていた。
「くすぐったい?」「うん…でも大丈夫…」
僕が脇腹や臍辺りに舌を這わせると、美雪はさらにお腹をひくひくさせた。
僕は唇を一旦美雪のお腹から離すと、横から抱いて体を密着させた。

もう一度キスに戻った。一方で右手を徐々に下げていき、美雪の茂みに触れた。
脚は閉じられていたが、キスの熱が高まると少しずつ脚は開かれていった。指を進める。
そこはまだ湿っているだけだった。僕はゆっくりと指を動かした。
「…ううん…」
美雪が少し反応した。僕は唇を首筋に移し、指も少しだけ深く沈めた。脚がまた少し
開いた。
「…んん…んん…」
美雪は首筋を仰け反らせ、吐息を漏らした。僕の指に次第に滑らかさが加わってきた。
指を美雪の敏感な部分に軽く当て、動かした。
「…あっ…」
美雪がびくっと震えた。耳を舐めていた唇を胸に移し頂きを転がすと、また震えた。
今度はくすぐったくないようだ。指が熱い潤いの中に浸ってきた。指の振動を速めた。
「いや……いや…」
美雪は僕にぎゅうっとしがみつき、訪れる波に備えていた。ぴちゃぴちゃと指の間から
音がする。はあっと息を吸い込むと、美雪はぶるるっと痙攣した。
美雪の熱を帯びた頬が、僕の首筋に押し付けられた。
「大丈夫か?…」「…うん…びっくりした…」思わず笑ってしまった。
僕は美雪から体を離すと、スキンをつけた。本当はひとつになる前にもっと美雪の
体を確かめたかったし、美雪にも僕にそれをして欲しかったが、我慢した。
美雪の脚を拡げさせ、その間に体を入れた。美雪は横を向いて目を閉じていた。
美雪の腿を持ち上げると、美雪の全てを見ることができた。
僕は僕自身をあてがうと、美雪に体を重ねた。

一気に入りたいのをこらえて、慎重に浅いところでの律動を繰り返した。
美雪はさほど痛く無さそうだったが、体に異物が入る怖さが身を固くさせていた。
美雪の掌は冷たいのに汗でじっとりとしていた。
ゆっくり腰を沈ませた。美雪の体が強張った。
「うん…大丈夫…そのまま来ていいよ…」美雪は僕の問いかけにそう答えた。
そのうち段々と美雪の中での動きが滑らかになってきたので、僕はもう少し深く入った。

「んっ…んっ…んっ…」
僕と美雪の動きがひとつに重なりだした。僕の動きにあわせて美雪から声が漏れる。
美雪の腰が僕を迎えに動き出した。僕は根元まですっかり美雪に包まれていた。
最初より中が熱く感じられ、僕は急速に昂ぶった。
美雪の唇に噛みつくようにキスすると、美雪も応じた。

「もう少し速く動いてもいい?」「うん…うん…いい…」
美雪の頭を抱え体を密着させ、腰の動きを速めた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…」
僕の首に廻された美雪の腕に力がこめられる。
僕は美雪の名を何度も口走りながらのぼりつめた。

合同模試が終わった後、木枯らしに身を竦めながら帰宅すると郵便受けに手紙が
差し込まれていた。美雪からだった。
美雪たちが日本を発って半年以上が経っていた。
彼女たちが目の前から居なくなってから、僕はしばらく落ち込んでいた。
ようやく夏休みが終わるころに元に戻ったが、それでもぽっかりと開いた穴は
今でもきれいに埋まった気がしなかった。
封を切り手紙を開いた。
『元気ーーぃ?』
文頭に色つきの文字が躍っていた。美雪の声が聞こえてきそうだ。
手紙には学校のバスケット大会で優勝したこと、両親とタイへ旅行に行ったこと、
その両親が今陶芸に凝っていること、もっと語学を勉強して将来は通訳になりたいと
思っているといった内容がとりとめも脈絡もなく綴られていた。
僕はすぐ横で美雪のおしゃべりにつき合わされているような気になった。
でもそれはとても楽しいことだった。

写真が同封されていた。
見ると、手を繋いでいる美雪の両親が写っていた。美雪の母親は少しふっくらした
ような感じがした。そして、その横に小麦色に日焼けした美雪と、その肩を抱いている
背の高いインド系っぽい男が写っていた。
裏返すと『彼はただのクラスメートです。誤解しないでね』と書いてあった。
「おい!初めての男に他の男に肩を抱かれた写真を送るかよ!不倫した男に旦那と
手を繋いだ写真を送るかよ!」と声に出してツッこみを入れた。

まったく、女って逞しいや…。

僕はベッドにどーんと体を投げ出した。僕がうじうじしている間に、彼女たちは自分たち
の居場所を見つけて馴染んで根をおろしていた。
笑いがこみ上げた。笑い声が段々大きくなっていった。そうすると心の中の澱が少しづつ
なくなっていく様な気がした。
ピンポーーーン

呼鈴が鳴った。誰だろう。あいにく両親はいつものように日帰り温泉ツアーに
出かけていた。僕はベッドから起き上がった。
ドアを開けると、見知らぬ女性が立っていた。
「あのー、わたくしこの地区の担当になりまして、そのご挨拶に参りました」
保険の外交のオバさんだった。オバさんは、よく見ればわかるのに僕をこの家の主と
勘違いして営業トークを始めたが、ひどくたどたどしかった。たぶんこの仕事を
始めたばかりなのだろう。
オバさんは三十代くらいで肉感的な体をしていた。この寒いのに何軒も回ってきた
のだろう、額にうっすらと汗が滲んでいた。汗と香水の混ざった匂いが僕の鼻腔を
くすぐった。それは久しぶりに僕の中の何かを呼び起こす刺激だった。
「あの…外寒いし、中に入りませんか?」
オバさんは「あ、ありがとうございます」と深々とお辞儀をした。
ジャケットの下の薄手のセーターの胸のあたりがぶるんと揺れた。

僕も懲りない奴だなぁ…。
僕はオバさんを居間に案内しながら、自分に呆れていた。
でも、これから楽しいことが起こりそうな気がして自然に顔がほころんできた。

                                  (おわり)
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