12月26

僕子

「僕子」と呼ぼう。
高校の同級生に、ボーイッシュな女の子がいた。
華奢だけれどパワフル、一人称は「わたし」だが少し乱暴な言葉使い、下ネタにも顔色一つ変えない。
胸も小さく校内ではいつもジャージ姿で、スカートをはいている所をホトンド見たことがなかった。
中型バイクを乗り回し、平気で雑魚寝・野宿をするような子だ。
けれど嫌味な感じはなく、自然に女を意識させないそんな感じ。
工業高校で周りが男ばかりというのもあったのかもしれないが、仲の良い男友達のウチの一人という扱いだった。

そんな僕子だが、俺は意外な一面を見たことがある。
渡り廊下ですれ違った僕子と、冗談を交わしていた時だ
グラッ
そんな音が聴こえるような揺れだった、俺も一瞬びくっとするほどの地震。

「ヒャッ」
黄色と桃色を足したような、甘い声だった。
僕子の白い手が、俺の制服の襟元をしっかり握っている。
すぐに収まった揺れに、落ち着きを取り戻した俺。
「お前、なんて声だしてんだよ」
「あ…」
みるみる顔色の変わっていく僕子。
そして襟をいっそう強く握られ、俺は壁にドンと押し付けられた。
「い、今のなし…」
僕子は顔を下に向けたまま小さくつぶやいた、イヤ正確には顔を上げられなかったのだろう。
「ブフッ」
たまらず吹き出した、可笑しくてしかたなかった。
クラスの仲間に見せてやりたかったぐらいだ。

皆の進路も大体決まり、登校日も減った頃の事。
卒業旅行というわけではないが、クラスのバイク仲間でツーリングに出かけた。
俺、僕子、他の男二人。
かなり長距離を走り、コンドミニアムとは名ばかりのプレハブ小屋についたのは夕方の事だった。
体力にはソコソコ自信のある俺でさえ、疲労で腕がシビレ、尻が痛い。
男でさえそうだというのに、僕子はピンピンして軽口を叩いていやがる。
ぎこちなく歩いていた俺の尻を、パーンと叩いて
なんだよ、だらしね?ぞ?
というような顔で笑いやがった。
やっぱアイツはスゲーな…
口にはださないが、日頃から認めざるえない事だ

破格の安い料金なのだから文句は言えないが、宿泊場所はチャチな作りだった。
軽く料理の出来る台所と、8畳ほどの畳の部屋。
色気も何もあったもんじゃねぇ、テレビすらねぇときた。
ところが、備品で麻雀牌が借りられる事が解かったのだ。
「お?、麻雀牌あるみたいだぞ」
「おお、やろうぜやろうぜ」
色めき立つ男ども。
「三麻ってどうやるんだっけ?、マンズ抜くんだっけか?」
「大丈夫、俺ルールしってるからかりに行こうぜ」
その時、畳の上に大の字で寝転がって伸びをしていた僕子がヒョイと首をあげた。
「ん?、わたしも麻雀できるぜ?」
「なっ、マジで?」
「さすが僕子!」
「お前カッコイイなぁ?」
僕子はそしらぬ顔をしていたが、まんざらでもなさそうだった。
誰もこの時には、後に待ち受けている出来事なんて露ほども想像していなかった事だろう。

なにもないが滅茶苦茶楽しかった、コンビニで仕入れてきたレトルトや惣菜が不思議なほど美味かった。
僕子とから揚げを取り合いながら、ビールを飲む。
本当は飲めない俺が、その場の勢いで1缶開けて自分のガキ心を満足させていた。
だがビール2缶飲んだ上に、俺の口をつけただけの2缶目まで綺麗に飲み干した僕子を見てションボリ。
酔いのせいか、僕子とかなりじゃれた覚えがある。
そんな流れのまま、メインイベントの麻雀へと突入したのだ。

「レートどうするべ?、点5くらい?」
「点5ってどれくらいだっけ?」
「千点50円だよ、箱で1500円」
「えーまてよ、俺全然金ねー」
いつも特に金の無い、「金無し」が真っ先に言った。
なにしろ貧乏高校生どもだから金なんてある訳がない。
すると器用に牌を積んでいた僕子が
「麻雀、賭けずにやっても面白くないじゃん」
事もなげに言いやがった。
うおっ、ノーレートでやろうと言おうとした俺が恥ずかしい…
他の男二人も同じ気持ちだったろう。

「脱衣麻雀にするかっ!」金無しの言葉だった。
「おお?、面白れぇかも」
もう一人がニヤニヤしながら、手をポンと鳴らす。
「はぁ?、馬鹿じゃないの」
さすがの僕子も、焦って甲高い声を上げた。
今まで観た事の無い、僕子の慌てふためく姿に俺は調子に乗っていた。
「?10ごとに一枚脱ぐって事にすると丁度よさそうだな」
「明日も早いし、ハンチャン2回くらいか」
顔を少し赤くし始めた僕子から、目が離せなかった。
「まてって、お前らの裸なんて見たくねぇ?しっ」
ムキなって抵抗していた僕子だが
「なんだよ僕子?、お前恥ずかしがるようなタイプじゃないじゃん」
何の気無しに言った俺の言葉が、予想もしない効果を見せた。
一瞬「え?」という顔をした僕子。
「ま、まぁ、そうだけどさ…」
一気にトーンが落ちていく。
「よーし開局開局?」
俺は揺れる僕子にとどめをさすように、サイをほうり投げた。

俺にしたって実戦経験がそれ程豊富という訳ではなかったし、別に僕子を狙い打とうなんて浮かびさえしなかった。
金無しにいたっては、完全に「絵合わせ」「初心者」レベルだという事がすぐ解かった。
それに比べ僕子はナカナカ打てるようだ、キチンと押し引きが出来ている。
「脱衣」なんてことはスッポリ抜け落ち、純粋に麻雀を楽しんだ。
金無しがリーのみカンチャンを二度も一発でつもったり、俺が初のリャンペーコーを上がったり、僕子が白中さらしてビビらせたりと大盛り上がり。
終わってみればかなりのいい勝負。
僕子が-10程、金無しが-20程だった。

怪しげな鼻歌を歌いながら靴下をほッぽり、シャツをシナシナと脱ぐ金無し。
俺たちは下品な手拍子と喝采を送る。
僕子は体育座りの格好で足をチョコンと浮かすと、スポンスポンと両足の靴下を引っこ抜きほうり投げた。
目に飛び込んできたのは僕子の小さな足の指、赤みがかっていてまん丸で女の子の指だった。
ドキッとして顔を上げると、両膝を胸に抱え込みその上にチョンと頬を乗せている僕子と視線が絡む。
「なんだよ?」目が挑戦的にそういっている。
俺は慌てて目をそらした。

夢中になっていたらしい、気が付けばかなり良い時間になっていた。
早く終わらすため&メリハリをつける為に最後のハンチャンを「割れ目」でやる事に。
金無しに「割れ目」を説明する僕子は、このルールが自分を剥く事になるなんて思っていなかっただろう。
その場に居る誰もが思っていなかったはずだ。

ラスあがりの俺がサイをふる、自5そして自9
「俺が起家か?」
もう一度振ると出た目は右10、僕子の割れだった。
「よーし、一気に終わらすよん」
僕子は歌うように言って、俺にウインクしてきやがった。
「なんだよ、俺狙いかよっ」
嵐の前の静けさ、和やかな笑い。
親の俺の配牌はまったくやる気がない、出来面子がないうえペンチャンが目立つ。
唯一光ってるドラトイツをなんとか生かしたいよな?
赤セットが集まってきた時などもそうだが、こんな時はえてして手が進まない物だ。
だがこの日の俺のツモは凄まじかった、面白いようにシャンテン数を減らしていく。
しかし、それは俺だけではなかったようだ。
6巡目ぐらいだったろうか、僕子の張りのある声が響いた
「リーチ!」
「げっ、はえ?」
「マジかよ、割れリーかよ?」
僕子は得意満面という感じで、俺に目配せしてきやがる。
俺にだせってことか…
わけのわからん「一発ツモの歌」とかいうのを楽しそうに歌い始める。
対面、金無しと二人とも安牌を手出し。

実はこの時俺の手はイーシャンテン。
待ち牌はドラトイツとのシャボ受けと、カンチャン一つ。
ちと厳しいし、危険牌なら当然降りる気でいた。
ところが、ツモってきたのが事もあろうかドラ牌。
おれはのけぞった、出上がりは効かないカンチャンだがリーチすればマンガンか…
チラリと僕子を見ると、ニヤニヤ笑ってやがる。
ムクムクと日頃の対抗心が首をもたげる。
ここで振っても笑いが取れそうだな、よしっ! 俺は決めた
「とーらばリーチ!」
僕子の顔からみるみる血の気が引いていくのが解かった。
反して場は一気に盛り上がる。

恐る恐るツモ牌に手を伸ばす僕子の顔が忘れられない。
それはもう、完全にか弱い女の子の顔だった。
あまりの弱弱しさに、追っかけた事をチト後悔したほどだ。
なんだろう、ある種予感のようなものが頭をよぎった。
はたして僕子の白い指から、こぼれるようにして落ちた牌はまさに俺の待ち牌。

「一発!!、12000は24000!!」
ドッと爆発する場の空気
「おおぉぉぉぉ!!!」
「まてっ、まてまて、リー棒でてるから丁度0点?」
「0点は飛びじゃないよな」
「お、おう!こっからだよ、こっから」
僕子は気を取り直すように、強がっていたが潤んだ目が完全に泳いでいた。
小さい手がシャツの胸の辺りを握りしめている。
牌牌を積もってくるのにも、手がおぼつかない。

決着は直ぐについた、ノーテンでも飛ぶ僕子が金無しのリーチに振り込んで終局。
「きたー!!」
「あっけね?、東1で終了かよ?」
「24000は酷すぎるよな」
その時おれは考えた。
イヤ、ちょっとまて、そんなことよりも僕子は-30だろ?
シャツを脱いで、ジーンズを脱いで、もう一枚は… ブ、ブラか?
「僕子-30か?、3枚ぬ…」
男二人も何かに気が付いたらしい。
3人の目線が、ゆっくり僕子に集まっていく。
テーブルに突っ伏していた僕子が、ガバッっと立ち上がった。
「おおおお!」
「僕子行け?!!」
金無しが手拍子を始める。
俺はこの時でも半信半疑だった、ホントに脱ぐのか?
そんな訳ないよな?

そんな俺の気持ちはよそに、小さな指が裾に掛かりシャツがゆっくりめくられていった。
陶器のような白い肌が、あらわになっていく。
無駄な脂肪のないなめらかなお腹、控えめなオヘソ、うっすらと見える肋骨。
動悸が激しくなっていくのが自分で解かった。
頭の中が揺さぶられているような気がした。
僕子は意を決したように一気にシャツを頭から抜き、乱暴に投げ捨てた。
スポーツブラに近い、質素な水色のブラが飛び込んでくる。
僕子らしい、とても似合う物だった。
僕子はすぐに前かがみになってしまう。
だが、ブラを隠したわけではない。
ジーンズのボタンをはずし、一気にズリ下げる。
細めの艶のある太ももが眩しい。
僕子は片足を抜くと、もう片方の足でジーンズを蹴り捨てた。
小さな白い布切れを少しズリ上げる。
そして僕子の動きが止まった。

華奢で小さいが、スリムな体は蛍光灯の光を反射させていた。
そこに居るのはいつもの僕子ではなく、幼さはあるものの女性の体をしたまぎれもない女の子だった。
漫画雑誌のミス?というようなグラビアの子達から、お尻と胸を一まわりか二まわり小さくした、そんな感じだ。
俺も男二人も無言で固まっていた。スタイルの良さに完全に見とれていた。
普段スポーツ刈りに近い髪形をしているので気にならないが、本来僕子は顔も十分可愛いのだ。
美人ではないが、キュートと呼ぶにピッタリ。
その僕子の顔が恥ずかしそうに伏せられ、まつ毛が震えている。
僕子の体が鎖骨のあたりまで、赤くなっていた。
「も、もう無理しなくていいぜ?」
無意識のうちに、上ずった声が俺の口から出た。
それなのにその俺の声に弾かれたように、僕子の腕が背中にまわる。
緊張を解かれた紐が緩む、胸の前でブラがすこし下がる。
なにかスローモーションを観ているような、現実感のない情景だった。
金無しが唾を飲み込むのが聴こえた。
僕子は乱暴に水色の布を掴み、投げ捨てた。

衝撃的だった。
僕子は胸が無いとおもっていたが、大の間違い。
確かに小ぶりではあるのだが、お椀形をした張りのある胸がつんと上を向いていた。
恥ずかしげなうす桃色の小さな先端部に、目が金縛り状態に。
ヌード写真などで見る物とは全く違う、エロさが微塵もない新鮮な胸。
綺麗だと本気で思った。
もの凄く長い時間に感じたが、実際は数秒だったのだろう。
僕子はたった今気が付いたというかのように、突然胸を腕で隠すと
「もういいだろっ」
慌てて服を拾い、台所へ駆け込んでいった。
3人の視線は僕子の後ろ姿が消えた時にやっと開放され、はっと我に返る。
男達は取り繕うように、上ずった声で大袈裟に喋り始める。

ついさっきの感想戦を語りながら、山を積みドラめくりの練習を始める面々。
どいつの目にも、僕子の裸体がちらついたままだったろう。
ん?
俺の視界に、水色の物が入った。
「あいつ、ブラ忘れてるよ」
俺は誰ともなしにつぶやくと、立ち上がり拾いあげた。
あまりの軽さにビックリしながら、俺はそのまま台所へ向かう。

電気の付いていない薄暗い部屋の中で、僕子は服も着ずにボーとしていた。
ギクッとした

「お、おい、これ忘れてんぞ」
ハッとした僕子は、俺に気が付くと
「おぉ、サンキュ」
とブラをひったくった。
どうしても、胸のうす桃色部分に目がいってしまう。
俺の視線に気ずいた僕子は、あわてて胸を隠す。
「なんだよ?」
口をチョイととがらせ、ちょっと睨むような仕草で言った。
いつもの僕子の顔だ。
安心した俺は、次の瞬間 間抜けな事をいってしまう。
「ちょっとさ、さわってもいい?」
はぁ?俺はなにを言ってるんだ!?
僕子も完全に意表をつかれていた、あんなに間の抜けた顔を見せるのは初めてだった。
俺はなんとか取り繕おうと必死に言葉を探すが、なにも出てこずますます慌てる。
すると、僕子が胸を隠していた腕をゆっくりとさげていくではないか。

えええ!?
本格的にパニった俺は後ろを振り向く。
隣の部屋では二人が牌をいじりながら「ダブル役満」がどうとか言っている、手役でも並べているのだろう。
「ん」
僕子の声にあわてて顔をもどす。
僕子は胸を突き出したまま、じっとしていた。
俺に見られないようにか、そっぽを向いている。
なんなんだこれは!?
薄暗さも手伝ってか、おかしなところに迷い込んだような感覚に包まれる。
きっとここにいるのは俺一人だけで、目の前にあるのは僕子の体だけ。
俺の視線は僕子の膨らみに釘付けになり、なにも考えられなくなった。
手を恐る恐る動かしてみる。
俺の腕が俺の物でないような錯覚に陥る、全然いうことをきかねぇ。
落ち着け俺!
鼓動が手を通して伝わるんじゃないかと思うほどうるさかった。

俺の指が白い膨らみにそっと触れた時、僕子の肩がピクリと動いた。
それは一瞬で、すぐにまた動かなくなった。
僕子の腕がピンと張って、蝋人形のように固まっていた。
僕子の胸から最初押し返されるような感触がした、張りのある弾力感。
だが少し力を加えると、今度は一転して吸い付いてくるような感触に襲われる。
揉むというより、押し付けるようにして胸をまわした。
ポチっと飛び出す小さな先端部を親指で触れてみる。
僕子の体が、小さく震えたような気がした。
俺はそこまで無心だったが、どんな顔してるんだろうと気になった。
目を上げてみると
僕子は上気した顔を斜め上に向け、目を細くして唇をかんでいた。
耐えかねたかのように、僕子の唇からフッと息の漏れる音がした。
俺はたまらなくなった、抱きしめたい衝動にかられた。
「ドンッ」
次の瞬間、俺はおもいっきり突き飛ばされた。
「はいっ、着替えるんだからあっちいってろよっ」
片腕で胸を隠し、手をシッシッと振っている。
「おっおう」
俺の足取りは、きっと夢遊病者のようだったろう。

仲間達との会話も、完全に上の空だった。
手に残る感触、上気した僕子の顔、唇からもれた吐息。
しかし、着替えて出てきた僕子は完全にいつもの調子にもどっていた。
「おおー僕子ごくろう!」
「おつかれ?」
そんな仲間達の声に
「もうお前らとは二度と麻雀しねぇ」なんて毒づいている。
俺もホッとしたような置いていかれたような歯がゆい気持ちながら、いつもの調子を取りもどす。

ストリップの事など無かったように、その後も楽しいツーリングが続いた。
僕子は言うまでも無いが、他の男二人もさっぱりした性格で俺もそこが好きだった。
いつまでも悶々としていたのは、俺だけだったのかもしれない。
無事に帰ってきたときには、ガラにも無く仲間達との一体感みたいな物を感じた。
別れ際に僕子が恨めしそうな顔をして蹴りを入れてきた、脱がせた事、胸を揉んだ事だろうと思い少し後ろめたかった。

それぞれ別の道に進んだ俺達が、その後一緒にツーリングに出かける事はなかった。
だからいっそう忘れられない思い出だ。
得がたい仲間達と共有した時間、ふざけあい 叱咤しあい 馬鹿をやった。
そしてきっと、俺は少し僕子に惹かれていたんだろう。
いや、惹かれていたんだ。

卒業してから会う機会がなくなったが
この半年程の後に、たった一度僕子の事を生涯忘れられなくなる体験をさせてもらう事になる。
そして僕子は地元を離れ、それ以来連絡が取れない。
今となっては少し難しいのだが、いつかまたあの面子で酒でも飲みに行きたい。
俺の淡い夢。
俺の脱衣麻雀話は、これで終わりだ。

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