02月26

恍惚とした母の顔

中3の時の話です。あの出来事は、私にとってトラウマです。

私の母は身長160センチで、やや背が高いです。鼻は高く、眼は深く澄んでいてロマン派の絵画の人物のような、顔だちをしていました。周りからは、
ーきれいなお母さんだね
とよく言われたものです。
髪は少しウェーブのかかったしっとりした黒で、肩に届くくらいまでの長さです。
まあ性格も大人しく、優しい母でした。勉強もよく教えてもらい、おかげでいい中学に入れました。私はそんな母が大好きでした。

7月、その日も朝はいつもの母でした。トーストを綺麗に焼いてくれました。父はビジネス誌を読みながら美味しそうに食べていました。
「和樹。今回の期末はうまくいきそうか?」
「うん。ばっちし。」
「そうか。頑張れよ。」
いつものように母は、父と息子の会話を微笑みながら、見ていたような気がします。

その日は部活が中止になったので、早めに家に帰りました。
とにかく暑く、汗をダラダラと流していました。
「お前。汗凄いぞ。」
「ああ。じゃあな。」
「和樹。」
「なんだ。貴紀。」
「お前の家に来ていい?」
「いいけど。」
私は貴紀と、家へ向かいました。

貴紀は同級生です。エッチな話が大好きでした。男子校であることをいいことに、授業中でも平気で下ネタを話してあたました。そんな貴紀ですが、お母さんが浮気を繰り返した結果、性病になってしまったのです。
その時は大変だなと思いながら、人事のように聞いていました。そこから、貴紀は下ネタを口にしなくなりました。

庭の池の錦鯉にエサをあげると、玄関のドアを開けます。すると1階のリビングから母と複数の男性の話し声がしました。
ーお客さんかな
私と友人は、邪魔にならないようこっそりと2階の勉強部屋へ上がって行きました。

その後は、ベッドで寝転がりながら2人で数学の勉強を楽しんでいました。しばらくは母と男の人達の声が、微かに聞こえてました。しかし、急に聞こえなくなったのです。
ーん?
私は、不思議に思いました。数学を中断し、すっと耳を澄ましました。それでも聞こえません。
そこで押し入れを開けました。そして、底板を外しました。こうすると下のリビングの声がよく聞こえるんですね。ただの好奇心です。深夜、両親はドキュメント番組をよく見るんです。私はそれが好きなのですが、小学生の時は早く寝ないといけないので、こまっそりと聞いていました。

「何?俺にも聞かせて。」
私は貴紀と2人でウキウキしながら床に耳を当てました。
ーどんな話をしているんだろ。ビジネスの話かな。

しかし、いつもと様子が違うことに気付きました。
まず、チュバッ!チュバ!
といった音がしました。
次いで、
「はあん!はあん!」
喘ぎ声がしました。母の声がしました。

「真昼間にこんなことしていいの?講義受けなさいよ。学生でしょ。」
「そんなこといって、もうこんなグチョグチョじゃないですか。」
「旦那さんが知ったら、どう思うんだろうな。」
「フフッ、もうここまでにしときなさいよ。ああ!」
母の叫び声がしました。聞いたことのない声でした。
「もうイッたみたいですね。」
「マンコだけではもう収まりませんよね。あなたは。」
その時私は、うぶだったので、彼らが何と言っているかわかりませんでした。ただ、何となくエロい会話をしているんだなと思いました。
それだけでも私にはショックでした。
貴紀が私を真顔で見つめました。
「お前の母さん。かなりヤバイぞ。」
怖ろしい目つきをしました。
「え?まさか!?」

私は固唾を飲んでまた、見を押し当て聞きました。
「はあん。はあん。もうダメよ。トイレに行かせて。」
「じゃあ。ここでしちゃいなよ。」
「その前に俺もしたいよ。奥さん。飲んでよ。」
「しょうがないわね。」
何を言っているか、皆目見当がつきませんでした。しばらくすると、
ジョロジョロジョロ
という、水が床に溢れるような音がしました。
「はあん。美味しいわあ。」
という母の声もしました。

何を言っているかわかりませんでした。
「あの。」
貴紀が私に話しかけてきました。
「お前の母さん。男のションベンを。」
「え?今何を。」
「ションベンを飲んでいるんだ。」
あの上品で優しい母が、男のおしっこを、それも望んで飲むなんて・・・。
「うそだ。」
「嘘じゃない。俺の母さんも、男のションベンを飲んでいたんだ。」

私と貴紀はまた耳を押し当てました。

「次は奥さんの番ですよ。」
「仕方ないわね。たっぷりと飲みなさい。」
ジョロジョロジョロ
という音がまたしました。

「これですっきりしたでしょ。ねっ。ねっ」

「まだ、すっきりしていないわ。こんなに、汚しちゃって。あなたのは、口で掃除してあげるから。あんたは後ろからついて。後ろの方の穴でね。」
ー母は何を言っているんだ?

しばらくすると、

「おお!おお!おおん!」

と、さっきとは違う喘ぎ声がしました。
貴紀が、私の母が今何をしているのかを話しました。その話を聞き世界が壊れるのではないかと思いました。
私は居ても立ってもいられなくなりました。そして、2人で覗きに行きました。ベランダの床の隙間からリビングを見ることができます。普段はレースのカーテンを引いていたのではっきりとは見えませんが、何をしているかは大体わかります。隙間から覗くと、その日は何故かカーテンが開けられていて、割とはっきり見えました。
窓側の方に立っている裸の男はよく見えました。しかし、向こう側にいる男と、母らしき人はよく見えませんでした。他にも何人かいるようでした。
貴紀は、窓側の男が、後ろから挿入をしているんだろうと話しました。
頭がクラクラとしてきました。私たちはもっと見ようとします。衝撃は大きかったのですが、妙な興味が先走っていました。

頭を出すと、赤いマスクをした女が両手で、自分の乳房を揺らしながら、窓側の男の一物を咥えている様子が見えました。たぶん、そんな感じだったと思います。
「おおん!おおん!」
低い喘ぎ声がしました。赤いマスクの女が母であると私にも分かりました。

ーあの上品な母が、父以外の男と変態プレイ!?

見たくない現実をこれでもかこれでもかと、突きつけられているようでした。しばらくすると、母はヨロリと倒れこみました。
貴紀はおし黙っていました。そしてボソリと言いました。
「俺の母さんと同じだ。」
と。
ピンポーン!

そのとき、インターホンが鳴りました。母は、マスクを外し、他にも何か衣服やらを脱ぎ、着替えていました。そして急いで玄関に行きました。
ー誰だろ。
と思っていたら、妹のようです。
私はひとまず、押入れに戻りました。
妹は、母の異変に気づいた様子もなく、2階へと上がって行きました。
「お兄ちゃん。いる?勉強教えて!」
妹が部屋に入りましたが、押入れにいたので、私に気付きませんでした。申し訳ないなと思ったのですが、もう少し様子が見たかったので、いないふりをしました。
「なんだ。いないじゃん。よしこちゃんの家に遊びに行こう!」
妹は外に出ていきました。

私と貴紀は再び、床に耳を当てました。
「何か冷めてしまった。子供もまた帰ってくるし。」
「またまたあ。アソコはグチョグチョですよ。」
「じゃあ早く縛って。30分で終えましょう。」
「え?それだけ?」
「もう、時間がないから、はやく。バレちゃうわ。」
「は、はい!」
「週末にたっぷりしよ!」

しばらくすると、ドタバタという音がずっと聞こえていました。私達はベランダの方に回りました。ミーン!ミーン!という蝉の音が静かに聞こえてきました。
ーかゆ!
蚊にさされたようです。うっとおしい音も聞こえてきました。

構わずに恐る恐る下を覗いてみました。

ー嘘だろ

リビングの光景を見てそう思いました。
逆さずりにされながら、身体中を縛られている母の姿がありありと見えました。傍らには、筋肉質の男がいました。

ー何かの曲芸かよ。

男は、母の股間にズブリと腕を肩まで入れていたのです。
貴紀はボソリと言いました。
「別に珍しいことじゃない。」
目を疑った私は急いで、双眼鏡を机から取り出します。
ーかゆいな
痒みに悩まされます。
ーまあいいや。
私は覗きました。やはり、男は腕を母の中に入れていました。私は双眼鏡を目に当てます。ムワッとした風が私を吹き付けます。
目を細め何とか覗こうとします。

ー何か見えてきたぞ。
双眼鏡の先の像がはっきりとしてきます。
ー何だ!これは!?
長い筒の先にあるのは化け物の顔でした。化け物は白目を左右にひん剥かせ、ニヤリと笑い、真っ白な歯を浮き出させています。化け物は何が可笑しくて笑っているんでしょう。何も考えずに笑っているようにも見えました。もともとは端正であったはずの顔は著しく歪んでいました。顔の筋肉はピクリとも動いていませんでした。
私は、双眼鏡を動かします。
不自然に膨らんだ下腹部がうつりました。蛇の入れ墨のようなものがされていました。その部分だけ異様に膨らんだり凹んだりしました。
更に動かすと薔薇らしき入れ墨がされた大きな乳房がうつりました。乳房は肌色ではなく、真っ赤でした。乳首にはピアスのようなものが開けられていました。

私は、体を起こしました。
はあはあ。
あまりの光景に息をしていなかったようです。汗もびっしょりとかいていました。水泳の時間が終わったような感覚でした。
風が再び吹き付けました。奇妙な心地よさを感じました。庭を見渡すと、そこには夏の狂気がありました。
「うわあ!」
背筋が凍っていくのを感じました。私は慌てて背中を叩きます。手に何か得体のしれないものがありました。大きな虫の死骸でした。私が叩き殺したのです。
ー人間は何て怖ろしい生き物なんだ
そう呪いながら死んでいったように感じました。
その虫の名前を私はまだ知りません。

疲れた私は部屋に戻りました。寒い空気が私を襲いました。貴紀が先に戻っていました。
「お前。何を覗いたんだ?」
「見てはいけないものだ。」
「それはこの世のものか。」
「いや、たぶん魔界から来たものだろう。」

下からは、この世のものとも思えない雄叫びやラリった声が、ギョエめえ!ギョエめえ!じぬう!じぬう!と断続的に聞こえてきました。化け物がリビングで暴れているようでした。私は怖くなって布団に身を隠しました。そして、とめどなく涙を流しました。

30分ほどして、男達は帰っていきました。しばらくすると、シャワーの音が聞こえてきました。母が入っているようです。私は急いで外に行きました。
「まあ気を落とすなよ。お前の母さんだけじゃないからさあ。」
慰めにもなっていない慰めを、貴紀は言ってくれました。私はそれに対し、奇妙な感謝で答えました。
「ああ。本当にこれはありふれた光景なのだろうか。」
「ありふれているよ。魔界ではな。」
「ありがとう。じゃあ達者でな。」
私はチャイムを鳴らし入ってきました。

「あら。今日は早いわね。部活なかったの?」
お風呂場から母の声がしました。慌てた様子もありませんでした。人間の声でした。
「勉強ばかりしないで、たまには家の手伝いもしなさいよ。」
「わかってるよ。」
何で昼間から風呂に入っているの?と聞こうとしましたが、それもやめて数学を再開しました。

その夜は一緒にカレーを作ったのですが、いつもの淑やかで優しい母に戻っていました。父も帰ってきましたが、何事もなかったかのように接し、澄み切った深い眼を細めて笑っていました。母の慎ましげな微笑みをみて
ーあれは夢か
と思いました。あの恍惚とした怖ろしい顔、白い眼・・・。
あれは、幻覚だったのか。

私はそれは夢だと自分に言い聞かせました。
でも、数ヶ月後それが紛れもない事実だと私は思い知るのです。

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