どこから、どこまで?
僕は長い夢を見ていた。いや、そんな気がしただけであって本当は現実の話だったのかもしれない。そんな不思議な感覚だった。
起きて2.3秒後に目覚ましの音が慌ただしくなり始めた。僕は基本目覚ましと同じ時間に起きる。起きようとして出来るものではないが、なぜかその瞬間に目が覚めてしまうのだ。
目覚ましの音を止めて、一つあくびで立ち上がった。寝起きが悪い方ではないが、夢の見すぎか少し頭がクラっとした。疲れが取れていないのが自分でもわかる。
いつも通りの時間に起きて、少しスマホを確認して1階に降りた。
下に降りると、いつも通り麻衣は起きていた。手慣れた手つきで洗い物をしている姿が目に入る。
こちらに気づいたのかニコッと笑って朝の挨拶をした。僕もおはようと挨拶を返した。
「朝ごはん出来てるからね?」
「ありがとう。」
麻衣はいつも早起きだ。僕だってすごい早起きだと友達から言われる時間に起きているのに、麻衣はそれよりも早くに起きて朝の支度をしていた。
前になぜ早起きをするのかと質問をしたことがあるのだが、早起きは三文の得でしょ?と曖昧でよくわからない返事が返ってきた。知識人ぶるのもらしいと言えばそうだろう。
椅子に座り、いただきますと手を合わせて小さな声で言った。それに麻衣もはーいと小さな声で返事をした。
「美味しいよ。」
「そりゃどーも。いつもそれしか言わないじゃん。」
少しムッと表情を変えた。
「だって美味しいものは美味しい、でしょ?」
「えー、もっと何か無いの?女の子に嫌われるよ?」
洗い物を終えて向かいのテーブルに腰掛けながらそう言った。
「麻衣に嫌われないなら大丈夫。」
「はい?これだから最近の若者は…。なってないなってない。」
「分かったから早く食べなよ。」
「ムカつく!いいもん食べるもーん。」
頬を膨らませて何よ、私が作ったのにとボソボソ聞こえる声で言った。
「ねぇ麻衣?」
「お姉ちゃん。」
「麻衣ちゃん?」
「お姉ちゃん!」
ご飯を一口含みながらキッとこっちを睨んだ。
もう見慣れたものだ。最初は少しビクッとしていた僕だが、今では何一つ怖くないし、むしろ面白がっている自分がいた。
「今日の夜、友達に呼ばれててそっち行くから帰ってこないよ。よろしく。」
食卓から目を逸らさずそう言うと、前で箸が止まったのが見えた。
「…だめ。」
「へ?なんで?」
「遅くなるんでしょ?だめだよ。」
「だからなんでって。」
「今日、何日だと思ってるの?」
麻衣はいつもより暗い顔を見せた。どこか寂しいような、悲しいような顔だった。
「知らね。」
「ちょっと!なんでそんな事言うの?!」
「何も?身に覚えがないからそう言ったの。とりあえず遅くなるから。」
ご馳走様と小さく口にして、僕は足早に2階に上った。麻衣が怒っている声が聞こえるが、僕は無視をした。
麻衣は、いつもこの日になるとこうなんだ。
あいつらの事ばっかり考えて、泣いて泣いて、つらそうな顔を見せる。
なんで麻衣があんな思いをしなくてはいけなかったのか。
僕は麻衣をここまで傷つけて、縛っているあいつらが許せない。
それは僕の父親と母親。いや、肉親ではない。仮の父と母。
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