01月30

突然の海外赴任

"親子3人幸せに暮らしていた私に、突然の海外赴任の話が持ち上がったのは今から4年ほど前でした。


妻と何日も話し合いましたが、赴任先が地球の裏側と遠い事や期間が1年と短い事、娘の学校の事や、娘が幼稚園に行き出してから、妻が以前勤めていた同じ銀行の比較的近い所に有る支店にパートとして雇ってもらえた事などを考えて、ついて行きたいと言って譲らない妻を説得して、単身で赴任するという私の意見を押し通しました。


最初、1年ぐらい頼むと言われていた赴任でしたが結局半年延び、ようやく帰国出来たのは、私が43歳、妻智子38歳、結婚5年目にやっと授かった娘、理香が8歳になった初夏でした。
空港に着いて、当座必要な身の回りの物を詰め込んだスーツケースを受け取って出ると、そこには家族や知り合いの人を迎に来た、大勢の人達でごった返していましたが、私を迎に来た者は誰もいません。


それもその筈、海外赴任が終った事や、私が今日帰国する事を、妻や身内には誰にも知らせていないのです。
それは、私が赴任して7ヶ月ほど経った頃にかかってきた、私の母からの一本の電話から始まりました。
「おまえ、一度帰ってこられないのか?休暇ぐらいは有るのだろ?」
「それは無理だ。ここは地球の裏側だぞ。日本までどれだけかかると思っているんだ?お金だってかかる。」
「旅費なら私が出すから。」
「お袋、だうした?何か有ったのか?」


母の話によると、1ヶ月ほど前から妻の行動が変わったと言うのです。
残業だと言っては、帰りの遅い日が何日も有り、先週の土曜日は休日出勤になったと言って娘を預け、その後、友達の相談に乗っていて遅くなったから泊めてもらうと電話が有り、娘を迎に来たのは日曜の昼近くだったそうです。
「智子と喧嘩でもしたのか?それとも理香を預かるのが疲れるのか?」
「いや、智子さんは良くしてくれるし、理香ちゃんを預かれる事は嬉しいよ。」
「もうやめておけ。お前の思い過ごしだ。」
その時、後ろから父の声が聞こえ、電話は切られてしまいました。




母が何を言いたかったのかは、想像がつきましたが、その様な事は私にはとても信じられる事では有りませんでした。
妻の両親は、妻が小学生の時に離婚し、それも父親の暴力が原因だったので、怖い思いをした記憶が残り、母親と姉の女だけの家庭で育ち、女子高、女子短大と進んだ妻は、男性恐怖症とまでは行きませんが、男性には人一倍慎重でした。


会社の隣に有った銀行の窓口に座っていた妻の、制服を着ていなければ高校生でも通りそうな、童顔で可愛い顔と、それとは反比例するかのように制服を持ち上げている胸のギャップに惹かれて交際を申し込んだのですが、なかなかデートに応じてもらえず、今のように携帯も無かったので、半年以上手紙の交換が続きました。


手紙の内容では私に好意を持ってくれているようだったのですが、初めてデートを承諾してくれたのは半年以上経ってからで、その時も私の横ではなくて、少し後ろを歩いていたのを思い出します。
2人で逢う様になってからは、見掛けだけではなくて、妻の真面目で可愛い性格に惚れ、結婚後も妻の真面目で誠実な面は変わる事が有りませんでした。
その妻が浮気をする事など想像も出来ません。
何より、妻が私を愛してくれているという自負が有りました。
赴任する前日の夜に妻を抱いた後、
「絶対に浮気はしないでね。もしも浮気したら離婚します。いいえ、あなたと相手を殺しに行きます。私は何があってもあなたを裏切る事は無いから。あなたも我慢してね。」


そう言っていたのは妻でした。
その様な訳で、その時は母の話しを一笑に伏し、あまり気にもしませんでした。







私達夫婦には、家のローンを1年でも早く返し終わろうという目標がありました。
土地は、親から貰ったので、私の退職金まで充てにしなくても良いと思っていましたが、結局凝った作りにしてしまった為に予定以上にお金がかかり、退職金の一部も充てにしなければならなくなってしまいました。
しかし、娘に老後を見てもらう事は考えず、退職金は、全て残そうという事になり、妻も勤めに出たのです。
その様な訳で海外赴任に伴う色々な手当ても使わずに、出来る限り節約に心掛けていたので日本に帰る事もしないで、電話も極力控えてEメールで我慢していました。
母からの電話から数週間経った頃、私の様に単身赴任して来ている関連会社の仲間達から、女を買いに行こうと誘われましたが断りました。
決して日本人の海外買春問題を考えるような大それた理由ではなくて、妻を裏切る事が嫌だったのです。


しかし、その様な理由で断るのは、男として情け無い様な風潮が有ったので、家のローンを理由にしたのですが、日本とは違って5千円も有れば充分楽しめると強く誘われて、その様な事から遠ざかっていた私は少し迷いながらも、結局断ったのでした。


1人で宿舎に戻って妻の事を考えていた時、忘れかかっていた母の電話を思い出しました。
結婚して何年かは妻から求める事など有りませんでしたが、娘が生まれてからは徐々に積極的になり出し、妻から求めて来る事も珍しくなくなり、海外赴任が決まった頃には、普段の大人しい感じの妻からは、誰も想像も出来ないほどセックスを楽しむ様になっていました。


以前使おうとした時には嫌がって、そんな物を使ったら離婚するとまで言われ、決して使わせてもらえなかった玩具なども、その頃には、一応最初は嫌がる素振りを見せるものの口だけで、いざ使い出せば、それだけで何度も気を遣るほど感じていました。


そんな妻を思い出していると、私が我慢している様に、妻も我慢しているはずだと思いながらも、少し不安になり出し、妻に限って浮気など無いと自分に言い聞かせながらも、海外に電話などした事の無かった母が、苦労して電話をかけてきた事が気になりました。




それでも赴任から1年が過ぎた頃には、考えたところでこれだけ離れていてはどうにもならないので、妻を信じる事にしようと思ったのですが、そんな時に母からまた電話がかかり。


「まだ帰して貰えそうもないのか?社長に頼んで1日でも早く帰らせてもらってくれよ。」
「どうした?また智子の様子が可笑しいとでも言いたいのか?」


母の話では、あれから妻の服装が徐々に派手になり始め、次第に化粧も濃くなり、髪も明るい栗色にして、見た目5歳は若くなったと言うのです。
その上、残業だと言って帰りが遅い日も増え、土日も休日出勤だとか、娘の役員会だとか言って、子供を預けて外出する事が増え出し、最近では泊まりの慰安旅行が有ったり、友達の相談に乗っていて帰れないから子供を頼むと電話して来て、朝帰りした事も何度か有るそうです。


それからの私は、流石に妻の浮気を疑い、会えないだけに身を切られる様な思いをしていました。
電話で問いただしたい気持ちも有りましたが、浮気ではなかった時の妻の気持ちや、母が告げ口をしたと知った時の、妻と母との関係を考えると出来ません。
間違いだった時は、妻の気持ちを逆に裏切った形になってしまいます。


そうかと言って、このままの気持ちでは笑って妻に逢えないと思い、この様な帰国になってしまったのです。
乗り継ぎの時以外は、ほとんど眠っていて、日本に着いたのは朝だったので大した時差ぼけも無く、空港を出るとレンタカーを借り、赴任する時に携帯を解約していたので新しい携帯を買いました。




会社の方は今日を入れて四日間、来週の月曜までは出社しなくても良かったのですが、万が一自宅に電話でもされて帰国した事が妻にばれない様に、会社に帰国の挨拶に行って、連絡は全て携帯にしてもらうように頼んで来ました。



***


その日の4時前には、妻の勤めている銀行の近くに行き、車を止めて見張っていると、5時を少し過ぎた頃に銀行から出てきた妻は、すぐ近くのバス停で立っています。


確かに一瞬、妻に似ているが妻だろうかと戸惑ったほど、若い時からずっと肩位までだった髪を肩甲骨よりも長く伸ばし、色も栗色に染め、眉も細くし、アイシャドーも濃く、唇には濡れたようなピンクのリップを塗っていて、1年半前よりも逆にかなり若返った様に見えますが、ただ服装は決して派手な事は無く、バスを待っている様子もおかしな素振りは有りません。


妻の心が離れてしまったかも知れないと少し疑っていた私は、今すぐ妻の前に飛び出して行き、今夜にでも妻の愛を確かめたくなってしまいましたが、そんな気持ちをぐっと我慢して、私の実家に先回りしました。




私の実家は我が家から200メートル程しか離れていません。
実家は兄夫婦が跡を継ぐ予定だったのですが、兄が遠くに転勤になってしまった為に、今は両親が二人だけで暮らしていて、近くにあった土地を貰って家を建てた私達が、面倒を看ています。
面倒を看ていると言っても妻が勤めに出だしてからは、娘の幼稚園バスまでの送り迎えや、学校に上がってからは学校が終ると、娘は実家に帰るという生活だったので、昼間の娘の世話はほとんど母や父がしてくれていて、こちらが面倒を見てもらっている状態でした。
娘もその様な生活に慣れてしまい、最近では1人で実家に泊まる事も珍しい事では無いそうです。



実家の見える所に車を止めていると暫らくして妻が入って行き、すぐに娘の手を引いて出て来ました。
「理香。」
思わず娘の名前を呼んでしまいましたが、離れていて2人には聞こえるはずは有りません。


今出て行けば娘を抱き締める事も出来るし、今夜は親子3人で楽しくすごせると思いましたが、今やめてしまっては、一生心の中で妻を疑って暮らさなければなりません。
私の気が済むまで調べて、何も無ければその方が良いのです。


妻の浮気を確かめたいのでは無くて、本当は妻の潔白を証明したいのだと自分に言い聞かせ、心を鬼にして我慢しました。







次の日も妻に疑わしい行動は無く、その夜ホテルに帰ると、


〔休みは後2日。時差ぼけはほとんど無いと言っても、疲れは有るのに明日も明後日も、俺はこんな事をするのか?
妻が2日間の内に何か行動を起こすという保証も無いし、仮に不可解な行動をとったとしても、素人の俺に上手く調べる事が出切るのだろうか?
何より、お袋とそれを聞いた俺の誤解かも知れない。〕


そう考えていると急に馬鹿馬鹿しくなってしまい、明日の朝は家に帰り、残り2日間ゆっくり過ごしてから、この事は追々問いただそうと決めて眠りにつきました。
朝になって我が家から近い駅に有るレンタカー屋に車を返し、2日も前に帰っていながら連絡もしないで、この様な事をしていた後ろめたさから、電話をして迎えを頼む事もせずに、後で車で取りに来ようと駅のロッカーにスーツケースを預けると、この事がばれた時の言い訳を考えながら、我が家に向かって歩いていました。


すると、その途中、向こうから妻が歩いて来るでは有りませんか。
妻は赤いシャツに白のミニスカートという、今まで見た事も無い様な格好だったので気付くのが遅れ、危うくニアミスになりそうだったのですが、慌てて私がコンビニに飛び込んだ事など、私が日本にいるとは夢にも思っていない妻は全く気付きませんでした。


私には、今にもパンティーが見えそうなぐらい短いスカートが気になって仕方が有りません。
何故なら、妻は若い頃から普通のミニスカートでさえ、穿いていた事が一度も無かったからです。
私は雑誌で顔を隠しながら、妻が通り過ぎるのを待って後をつけると、妻は駅に行き、切符を買って改札を通って行きます。
ホームに通じる階段を上って行く時には、前を歩く男達の視線は全員、妻のお尻に向けられていました。
妻はバッグを後ろ手に持って隠しているつもりでしょうが、歩く度にバッグが左右に揺れるので、私よりも近くを歩いている男達にはパンティーが時々見えているのかも知れません。
おまけに、そのミニスカートはタイト気味な為に、お尻の形や恐らく白で有ろうパンティーの形まで、はっきりと分かってしまうのです。
こんな気持ちで尾行している私でさえ、相手が妻にも関わらず男のスケベ心が出てしまい、視線はお尻や白くムッチリとした太腿に行ってしまいます。




私が乗った時はドアが閉まる直前だったので妻と同じ車両になってしまい、少し離れているとは言っても平日とは違い、比較的空いていたので見つからないか心配しましたが、妻は私に気付くどころか車両の隅の方に行って、ずっと顔を隠す様に俯いていました。






妻が降りたのは、銀行に一番近い駅だったので、やはり休日出勤かとも思いましたが、私の家からでは、バスの方が遥かに便利が良く、バスなら定期券も持っている筈で、わざわざお金を払って電車に乗る事は考えられませんでした。


妻が駅のトイレに入って行ったので、私は少し離れた柱の陰で待ったのですが、今まで、妻を見失わない様に、妻に見つからない様に必死だった私の気持ちに余裕が生まれると、この1年半の間に妻に何が起こったのか、どの様な心境の変化でこの様な姿で人前に出られる様になったのか、不安で押し潰されそうです。


妻は、人一倍他人の目を気にする方で、私は色気も有って丁度良い太さだと思っているムッチリとした太腿や、私が自慢の豊満な胸でさえも、妻にしてみればコンプレックスのほか何者でも無く、出来る限りその事を気付かれない様な服を選んで着ていました。
娘を連れて海水浴に行った時も水着になる事を嫌がり、1人日傘を差して浜辺に座って見ていました。




その妻が、ワンサイズ小さいのを買ってしまったのかと思える様な、今にも胸のボタンが弾け飛びそうなシャツを着ていて、しかもそのシャツは人目を引く赤なのです。
若い人達でも余り穿いていないような、今にもパンティーが見えそうなほど短いスカートを、子供のいる38歳の妻が穿き、コンプレックスだった太腿を人目にさらしているのです。


当然この様な姿を近所の人達にも見られているのでしょうが、以前の妻なら、死ぬほど恥ずかしい事だったに違い有りません。
暫らくして、トイレから出て来た妻はサングラスをしていました。


妻が私の方に向かって歩いてきたので、私は柱に隠れてやり過ごしたのですが、歩く度に片方ずつお尻がスカートに張り付いた様な状態になり、穿いているパンティーが、男子の水泳選手が穿く水着の様な、超ビキニの物だと分かりました。


妻がトイレで穿き替えて来たのかとも思いましたが、階段を上がって行く時に、はっきりと下着の形が分かったと言うのは私の思い違いで、私の距離からでは下のラインしか分からず、私が知る限りではこの様な下着は持っていなかった為に、勝手に上のラインを想像して、頭の中で作ってしまったのかも知れません。


どちらにしても、これでは前の黒い翳りは隠し切れずに、パンティーから、はみ出てしまっている事でしょう。
この様なパンティーを穿いている事からも、妻に何か有ると確信した私は絶望感を覚えましたが、何とか尾行を続行すると、やはり妻は銀行には向かわずに、駅を挟んで銀行とは逆方向に歩き出し、私は隠れながら後をつけたのですが、他人から見れば、ストーカーと間違えられないか心配でした。




暫らく後を付けて行くと、妻は4階建ての部屋数が16ほどの小さなアパートに入って行ったので、私も入って行こうとしたのですが、入り口がオートロックになっていて入る事が出来ません。
ここまで不審な行動が重なると、否が応でも事実を受け止めなければならなくなった私は、貧血をおこしそうになり、その場に座り込んでしまいました。


すると、サングラスをかけてヘッドフォンをした坊主頭の若者が、頭でリズムをとりながら出て来て。
「おっさん、大丈夫か?救急車いるか?」


言葉使いは無茶苦茶ですが、それでもしゃがんで私と同じ目線で話してくれ、親切な若者だと感じたので。


「ありがとう。それよりも今入って行った女の事を知らないか?
今日初めて会ったとか、よく見掛けるとか、どこの部屋に行ったとか。」


「おっさんは刑事か?
そんな訳ないよな。張り込みで蒼い顔をして座り込んでしまう刑事なんて聞いた事がない。
それとも探偵?その顔だとそれも無いな。
どっちにしても俺は他人のごたごたに巻き込まれるのは嫌だから。じゃあな。」




私に背を向けて、手を何度か振って去って行こうとする若者に、1万円札を出して。
「これで何とか頼む。」


振り向いた若者は。
「ウワー。そんな必殺技を出されたら断れないな。ここでは話し辛いから向かいの喫茶店にでも行くか?」


喫茶店に入って話を聞くと、妻とは以前からよく階段ですれ違うと教えてくれました。
「どこの部屋に入って行くか分からないか?」


「俺の丁度真下に住んでいる、1人暮らしの親父の所さ。ここから見えるだろ?2階の一番右端の部屋さ。俺が301だから201。」


「いくつ位の男だ?」




「親父の歳は分かり難いからな。おっさんの少し上ぐらいじゃ無いのか?普段やあの女が来る時は、きちんと7、3分けにしているが、あの女が来ない休みの時は髪もぼさぼさで、昼間でもパジャマのまま新聞を取りに来る、冴えない親父さ。」


若者が指差した郵便受けをみると、201号室の所に稲垣と貼って有りました。
建物から見ても、おそらく独身の1人暮らしか単身赴任者が借りるアパートの様で、部屋番号の所に名前が貼ってあるのは稲垣だけです。
「あの親父は見栄っ張りなのか、高い車に乗ってやがる。俺ならそんな金が有ったら、もっと広いアパートに引っ越すよ。どちらにしてもあの女と親父は普通の関係では無いな。女はいつもサングラスをしていて、俺とすれ違う時は必ず俯いているし、2人で出掛ける時は決まって親父が先に出て、あたりをキョロキョロ見渡してから女が出てくる。女もそうだが、あの親父も女と一緒の時は夜でも必ずサングラスをしていて、車に乗り込むまでは外さない。まあ、よく有る不倫の関係というやつかな。」


私の顔が見る見る蒼ざめて行くのが自分でも分かりました。
私の動揺を察した若者は1万円札をテーブルに置くと、
「本当は、おっさんがあの女の旦那だろ?そんな血の気の引いた顔をされたら、可哀想でこれは貰えない。」


「ありがとう。でもこれは取っておいてくれ。また何か聞きに来るかも知れないから、その時は頼む。本当にありがとう。」



***




まだ若者と話していた時は、よかったのですが、彼が出て行った後1人になると足が震え出し、意識すればするほど、震えは大きくなってしまい止まりません。
怒り、悔しさ、絶望感。


水を飲んで落ち着こうと思うのですが、グラスを持つ手までが震えて水を溢しそうです。


私は、2階のあの部屋をずっと見詰めていましたが、中で行われている事を想像すると重機を借りてきてでも、今すぐこのアパート自体を壊して無くしてしまいたい衝動に駆られます。
頭の中では、透けた小さなパンティーだけを身に着けた妻が、男の物を美味しそうに嘗め回してから口に含んで、頭を前後に動かしている姿が浮かびます。
男が我慢出来なくなり、妻を押し倒して豊満な乳房にむしゃぶり付いている姿が浮かびます若者に頼んで、ドアの中に入れてもらえばよかったと悔やんでも、もうどこに行ったのか分かりません。
私は悔しさで、妻がいる部屋をずっと睨んでいましたが、前の道を携帯電話で話しながら歩いている人を見た時、妻の携帯に電話すれば良いのだと気付き、慌てて携帯を出しました。


しかし、そこには何も登録されておらず、スーツケースに手帳を入れてきてしまい、携帯番号が分かりません。
日本に着いてから暇な時間は沢山有ったので、妻の携帯番号ぐらいは入れておくべきでした。


今にして思えば、実家の電話番号は覚えているので、妻の携帯番号を聞くという手段も有りましたし、部屋番号は分かっていたので、オートロックのドアの横に付いているインターフォンで呼び出すという手段も有ったのですが、そんな事すら気付かないほど気が動転していたのです。




若者が出て行ってから1時間もすると我慢の限界が来て、2人のいる部屋をじっと見ているだけの自分が惨めに思え、家に帰って妻が帰ってきてから殴ってでも説明させようと思ったのですが、ここから離れる勇気が有りません。
スーツケースを預けたロッカーの有る駅まで戻り、妻に電話をしようと思っても、妻が男と愛を確かめ合っているので有ろう部屋が見える、この場所から離れる勇気が有りません。


その時、見詰めていた部屋からサングラスをかけた妻が出てきて、それに続いて出てきた男はドアに鍵を掛けています。
私は慌てて喫茶店を出ようとしましたが、こんな時に限って前のおばさんが財布の中の小銭を探していて、レジを済ませる事が出来ません。
「釣りはいらない。」
おばさんを押し退けるように喫茶店を出ると、2人は車に乗り込むところです。


エンジンが掛かったばかりの車の前に立ちはだかると、じっと助手席の妻を睨みました。
妻は最初、状況が飲み込めずにキョトンとしていましたが、私だと分かった瞬間、驚きで顔が引き攣り、声も出せずに私を見ています。
私は怒りから両手を思い切りボンネットに打ち据えると、ボンネットは少しへこみましたが、興奮からか手に痛みは感じません。
状況の分からない男はサングラスを外し、怒った顔で左の運転席から降りて来て。
「何をする。警察を呼ぶぞ。」


私は何も言わずに思い切り男を殴ると、男はよろけてボンネットに手を付き、私を精神異常者とでも思ったのか、殴られた左頬を手で押えたまま、脅えた目をして固まってしまっています。


妻への怒りが大き過ぎて自分の中で処理し切れずに、妻を引き摺り出して殴りたい気持ちを通り越し、逆に冷静になっていく自分が不思議でした。
今私が何か言ったり行動を起こしたりするより、この後どう出るか任せた方が返って2人は困るのではないかと思い、その場を黙って立ち去ると大通りに出て、タクシーを捕まえて乗り込みました。
いつもの習慣で私のキーホルダーに付けたまま、赴任先まで持って行ってしまった家のスペアキーが、駅のロッカーに預けたスーツケースに入っているのを思い出し、途中駅に寄ってもらってから我が家に帰り、私が最初にした事は妻の服や下着を調べる事でした。







私がすぐには帰って来られない様な遠い所にいて、他にここを開ける者がいないので安心し切っていたのか、クローゼットの中には私が見た事も無い、これをあの妻が着るのかと唖然とする様な、豹柄などの派手な服が普通に掛けて有り、ミニスカートも数着有りました。


それらは、色や柄が派手な物だけではなく、身体の線がはっきり出てしまう様なニットで出来たミニのワンピースなど、色は地味でもデザインが派手な物も有ります。
次に下着を探すと、普通の下着が入っているすぐ下の引き出しに、私がいた時には持っていなかった、色取り取りなセクシーで高価そうな下着が有りました。


しかし、もう1段下の引き出しの中を見た時、私は絶句しました。


そこには普通の下着売り場には、絶対に売っていない様な、セクシーと言うよりは卑猥な下着ばかりが入っていたのです。
いいえ、それらは下着としての機能を果たさない、下着とは呼べない様な物がほとんどなのです。
これをあの妻が身に着け、あの男に見せていたのかと思うと悔しくて涙が出そうです。




私は、それらの下着を手に取り、ぼんやりと見詰めながら落ち込んでいましたが、今は弱気に成っている場合では有りません。


下着を元に戻してから2個のバケツにお風呂で水を汲み、それを玄関の上がり口に置いて居間で待っていると、それから3、40分経った頃に家の前で車が止まりました。
気付かれない様に半身になって窓から見ていると、運転席からあの男が降りて来たのですが、妻は降りて来ようとはしません。


すると男が助手席のドアを開けて妻に何か話し、ようやく降りてきた妻はハンカチで涙を拭いながら、近所の人に見られるのが嫌なのか、小走りで玄関に向かいました。
帰って来るのに時間が掛かったのは、きっと口裏合わせでもしていたのでしょう。


私は玄関に先回りをして、水の入ったバケツを構えているとチャイムが鳴りましたが、返事もせずに無視しました。
すると次の瞬間ドアが開いて妻が入って来たので、持っていたバケツの水を頭から勢いよくかけて次のバケツを持ち、続いて入って来た男には、頭を狙ってバケツごと投げ付けましたが、男は咄嗟に手で防いだのでバケツは当たりませんでした。
それでも頭から水を被ったので2人共びしょ濡れです。


「智子だったのか。まさかおまえが、この家に帰って来られるとは思わなかったので、泥棒でも来たのかと思ったよ。
いくら嘘つきで人を裏切る事が平気な女でも、2度とこの家には帰って来られないと思っていたが、夫や娘、世話になった親を平然と裏切る事の出来る女は、流石に図々しさが違うな。身の回りの物でも取りに来たのか?」




「あなた、ごめんなさい。違うのです。誤解なのです。」


妻が水浸しの土間に泣き崩れると、男も慌ててその場に土下座して。


「ご主人には要らぬ誤解を招く行動をとってしまい、本当に悪かったと反省しています。
今日は休日出勤だったのですが、私が昨夜から熱っぽかったので起きられずに、携帯が鳴っているのにも気付かずに寝ていたので、部下が心配して出勤前の奥様に、様子を見て来て欲しいと電話をしたらしいのです。
昨夜から食欲が無くて何も食べていなかったので、ファミレスに付き合ってもらってから出勤しようと車に乗った所にご主人が・・・・・・・・。」


この男はべらべらと言い訳を並べていましたが、妻は、泣きじゃくっていて、何も話す事が出来ずにただ土下座していました。
私は、その場に胡坐を掻き、返事もしないでただ煙草を吸っていましたが、この男のいい訳に腹が立ち、私がいない間、何度も妻が行っていた事を知っていると言おうかとも思いましたが、相手に嘘を言わせておいた方が、その嘘を指摘する事で他の事も聞き出し易くなると考えて、あえて何も言わずに黙ってキッチンに行くと包丁を持って来ました。


「申し遅れましたが、私は支店長の稲垣と申します。奥様には大変お世話に・・・・・。」
その時少し顔を上げた稲垣は、私が包丁を持っている事に気が付き、
「ご主人、本当です。誤解を招いた事は謝ります。これは誤解なんです。本当です。そんな物は置いて下さい。」




その言葉で顔を上げた妻も包丁に気付き、
「やめて?。許して?。ごめんなさい。ごめんなさい。」


私の足に縋ろうとした妻を思い切り蹴飛ばしたのを見て、支店長は謝りながら飛び出して行きました。
支店長の言い訳に腹がたち、少し黙らせる為の脅しに持って来た包丁ですが、逃げなければ刺していたかも知れません。



***


どうしてあんなに誠実だった妻が、この様な事に成ってしまったのか皆目見当も付きません。
単身赴任の間に妻が不倫。
世間ではよく有る話かも知れませんが、私の妻に限って、その様な事が有る筈は無いと思っていました。
遊び好きな妻ならまだしも、あの真面目な妻に限って、その様な事とは無縁の筈でした。
しかしこれは、浮気された夫は皆思う事なのか?


そうだとすれば妻の不倫も、世間でよく有る普通の不倫で特別なものでは無い。
私は未だに信じられずに、どこかで、何かの間違いだという微かな期待も持ってしまいますが、不倫が事実だとしても、世間でよく聞く不倫では無くて、妻には何かもっと重大な訳が有ったに違いないと思ってしまいます。
何か特別な理由が有る筈だと思いたくて、全て知らなければ今後の事を決められません。




これも皆思う事で、私の妻だけに特別な理由は無いのかもしれませんが。
泣きじゃくる妻を残して実家に行くと、母は驚き、嬉しそうな顔をしましたが、
娘を暫らく預かって欲しいと頼むと、只ならぬ私の態度に妻の事だと察した母は、目に涙を溜めて頷きました。



1人で海外にいて愛に飢えているのに、妻を抱き締められなくなった私は、せめて娘だけでも抱き締めたいと思う感情を殺して、父と出掛けているという娘には、まだ私が帰って来た事は言わないで欲しいと頼みました。


娘に今の妻の見せなくても良い分、父と母が近くにいてくれた事を、これ程感謝した事は有りません。
家に戻っても妻は濡れた土間で、びしょ濡れのまま泣いていました。
私にすれば泣いている事自体許せずに、何も話す気が起きません。
何故なら、泣きたいのは私なのです。


狂ってしまったのではないかと思うほど、ただ泣き続けていた妻も翌日には少し落ち着きを取り戻したのですが、私が何か言う度に涙を堪える事が出来ずに、まともに話が出来ません。


夕方になり、そんな妻が涙声で。
「あなた、いつ帰って来られたのですか?」
「そんな事を聞いてどうする?帰って来る日さえ分かっていたら上手く隠し通して、こんな事にはならなかったと言いたいのか?」




「違います、誤解なんです。あなたには嫌な思いをさせてしまいました。誤解されても仕方がないです。でも本当に誤解なんです。」


「誤解?派手な化粧。派手な服。ミニスカート。残業。休日出勤。泊まりで慰安旅行。友達の相談に乗っていたと言って、度重なる朝帰り。」
妻は、何か言ったのですが、泣いている上に小さな声なので聞き取れません。


「泣かずに本当の事を話せる様になったら呼びに来い。それまで何日でも実家に行っている。」
娘には、まだ不安を与えたく無かったので実家に行く気は有りませんでしたが、持ち帰ったスーツケースを持って出て行く振りをすると。


「少し待って。私もどの様に説明したら良いのか分からないです。」


「どの様に説明?正直に事実を全て話せばいいだけだろ?他にも知っているぞ。おまえが絶えずあいつのアパートに入り浸っていた事も。それなのに奴は、いかにもおまえが初めて来たみたいに、何が心配した部下が電話しただ。」




妻は、更に大きな声で泣き出したので、
「泣いて誤魔化すな。30分待って泣き止まなかったら実家へ行く。実家へ行ったら、おまえがここを出て行くまで、もう絶対に帰って来ない。」


暫らく待っていても泣き止まない妻に腹がたち、立ち上がってスーツケースを持つと、妻は泣きながら、
「ごめんなさい。あと5分待って下さい。お願いします。」


そう言い残して、洗面所へ走って行きました。









居間で待っていると顔を洗って入って来た妻は、黙って入り口に正座しています。
「何か話したらどうだ?」


「ごめんなさい。何からお話ししたら良いか分かりません。あなたから訊いてもらえませんか?」


「全て最初から順に話すと思っていたが、そうか。
俺が訊いてもいいのだな?
それなら訊くが、俺がいない間、毎日抱いて貰っていたのか?
あいつの物は大きかったか?
一度のセックスで何回ぐらい気を遣った?
あいつの物も毎回口に含んでやったのか?
尻の穴も舐めてやったか?
おまえの尻の穴も舐めてもらったか?
俺には許さなかった尻の穴にも入れてもらったのか?」


「そんな酷い事を言わないで。そんな事はしていません。身体の関係など有りません。本当です。本当です。」


「そんな酷い事をしていたのは誰だ?
身体の関係が無いなんて信用出来る訳が無いだろ。
俺は絶対に許さない。
おまえもあの男も必ず地獄に落としてやる。
どちらにしても俺達はもう駄目だ。
離婚するしかない。」




まだ考えてもいなかった離婚という言葉を言ってしまい、言ってしまった私自身、動揺してしまいました。


「離婚なんて言わないで。浮気なんてしていません。あなたを愛しています。」


「浮気ではない?浮気で無いなら本気という事か?」


「違います。あなたを愛しています。私が愛しているのは、あなただけです。」


「あいつに言われたのか?
何とかこの場は嘘をつき通して乗り切れと。
もう旦那など愛していなくても、愛していますと言ってやれば許してもらえると。
1年半も知らない土地にいて、どうせ愛に飢えているから、愛していますと言ってやれば泣いて喜ぶから、辛くても我慢して言ってやれと。
お気遣い頂きましてありがとうございました。」




また泣き出したのを見て玄関に向かうと、追い掛けて来た妻は私の足に縋り付き、
「そんな事は絶対に有りません。愛しているのはあなただけです。ごめんなさい。もう少し話だけでも聞いて下さい。」


また居間に戻ると、今度は近くに正座して、昔の事から順に話し出しました。


妻が短大を出て銀行に就職し、初めて配属になった支店に稲垣がいたそうです。
稲垣は、一流大学を出ていて、仕事も出来るのに偉ぶった素振りも無く、話し方もソフトだったので、女子行員に人気が有ったそうですが、歳も一回り上で既に結婚していた事も有り、妻にとっては恋愛対象ではなくて良き先輩でした。


銀行は、転勤が多く、転勤が仕事だと言う人もいるぐらいだそうですが、妻が私と結婚をして、娘が生まれるまで勤めていた別の支店で偶然また一緒になり、以前一緒の支店にいた事からお互い親近感を覚え、昼食が一緒になった時や飲み会の時などには、お互いの家庭の事などプライベートな事なども、何でも話せる間柄に成っていきました。


ここでは、2年弱しか重ならずに、稲垣が別の支店に転勤となったのですが、私が海外に赴任した翌月、妻がパートで働いていた支店に支店長として赴任して来て、三度一緒の職場で働く事になったそうです。







稲垣が歓迎会の席上で、今回が初めての単身赴任だと挨拶した事が気になったので、2次会でビールを注ぎに行った時に事情を聞くと、その時は、子供達の学校の関係だと説明されましたが、その後、妻がトイレにたった時に稲垣もついて来て、相談に乗ってもらいたい事が有るのでお開きの後、付き合って欲しいと小声で誘われたそうです。


他の者に誤解されない様に、一旦別れてから待ち合わせた喫茶店に行き、そこで妻は稲垣から、子供達の学校の事情だけでなく、奥さんの浮気が原因で離婚も考えていて、その為の別居の様なものだと打ち明けられました。


「それが可哀想で、身体を使って毎晩慰めてやっていたと言う事か。」


「違います。身体の関係は有りません。本当です。
色々愚痴を聞いてあげたり、相談に乗ってあげたりしていました。
でも、朝まで話しをしていただけなんて信じて貰えないですよね。
誤解されても仕方の無い軽率な行動でした。
あなたに嫌な思いをさせた事は、本当に申し訳無かったと反省しています。
私が愛しているのはあなただけです。
支店長に特別な感情は有りません。
どうか離婚だけは許して下さい。
あなたがいないのを良い事に、あなた以外の男性と2人だけで会っていた事の償いは、例え一生掛かってもさせて下さい。
お願いですから、離婚だけは許して下さい。」




私は拍手をしながら、
「大変良く出来ました。
どうせそれも、あの男にそう言えと言われたのだろ?
それともおまえが考えたのか?
そうだとしたら立派なものだ。
嘘のつけなかったおまえが、1年半でそこまで平然と嘘が言える様になったとしたら、余程毎日嘘ばかりついていて、嘘になれてしまい、嘘をつく事など平気な女になったと言う事だな。」



自分自身の保身も有るのでしょうが、妻の必死に話す姿を見ていると、余計に稲垣との只ならぬ繋がりを感じてしまいます。


完全に黒に近い行動をしておきながら、未だに関係を認めない事は自分への保身だけで無く、妻の稲垣を気遣う、稲垣に対しての普通では無い感情を感じてしまいます。
妻は、私と初めて関係を持った時に、痛がりはしましたが出血は有りませんでした。
スポーツなどで破れてしまい、初めての時に出血しない事も珍しくは無いと聞いた事が有りましたし、それ以外にも色々な理由で出血しない事は、よく有ると聞いていたので、私が初めての男だと言う妻の言葉を信じていましたが、実はそれも嘘で、初めての男は稲垣だったのではないかと勘ぐってしまいます。
処女と思わせる為にわざと痛がり、演技をしていたのではないかとさえ疑ってしまいます。
ただこれは、私と付き合う前の事なら許せますし、本来、許す許さないの問題では無いでしょう。
しかし、私が赴任中にずっと関係を持っていたとしたら、それは許す事など到底出来ません。


「残業だと嘘をついて、あいつと会っていたのだな?」
「はい。」


「休日出勤や役員会だと嘘をついて、あいつと会っていたのだな?」
「はい。」




「友達の相談に乗っていると言った友達とはあいつの事で、朝まであのアパートに2人だけでいたのだな」
「はい。」


「慰安旅行というのも嘘で、あいつと旅行に行ったのだな?」
「・・・・・・・・・。」


妻は、最初から小さな声で返事をしていましたが、この時は更に小さくなり、何を言っているのか聞き取れません。
「明日銀行に行って他の行員に聞けば、本当に慰安旅行が有ったかどうか分かるから、言いたくなければそれでいい。」


「それだけは許して下さい。銀行だけには行かないで下さい。支店長にも迷惑をかけてしまいます。どうか、それだけは許して下さい。」


この期に及んでもあの男を庇う事が許せず、銀行に行かれる事がそれ程嫌なら、逆に行ってやろうと思いました。





旅行について妻は、
「気晴らしに旅行にでも行きたいが、1人では余計に滅入ってしまうので付き合って欲しいと誘われ、2人で旅行に行きました。でも支店長に特別な感情は無いし、特別な関係では有りません。当然部屋も別々で身体の関係も有りません。今になって冷静に考えれば軽率な行動でした。疑われても仕方のない非常識な行動でした。ごめんなさい。許して下さい。」


「既婚者同士が隠れて旅行に行く関係が、特別な関係ではない?その上、何度もあのアパートに泊まっておきながら、旅行の時だけ部屋を別にしたのか?あいつがホモでも無い限り、そんな事を信用する奴なんていないだろ。なのにおまえは、それを俺に信じろと言うのか?おまえが逆の立場なら信じられるのか?」


男と女の間にも恋愛関係でなく、親身になって相談に乗ってやるような、友情だけの関係も存在するでしょう。
また、服の趣味も心境の変化で変わって行く事は考えられますが、妻の身形は変わり過ぎで、何か余程の事が無いとあれほどの変化は考え難いです。
何より、あれらの下着を持っている説明がつきません。



これだけの疑惑が有りながら、身体の関係は無いと言い張る妻の心理が分かりませんでした。
考えられるのは離婚の時の条件を少しでも良くすることか、離婚して稲垣と再婚した場合の生活を考えて、稲垣の銀行での地位を守っておきたいという事ぐらいです。
嘘をつき通したまま、私と結婚生活を維持して行く事は無理だと分かっていると思います。


残された道が有るとすれば、それは正直に全て話して謝罪し、何年掛かっても償っていく以外無いと思うのですが、妻はそれをせずに、稲垣と自分の保身に走っているとしか思えないのです。





もしかすると、この問題を何とか穏便に済ませ、暫らくしてから性格の不一致とか何とか他の理由を付けて、離婚を切り出すつもりかも知れないという思いまであり、1番肝心な身体の関係を未だに隠そうとする、妻の話しは何一つ信用する事が出来ませんでした。
私は、強気の態度に出ていますが、それとは裏腹に心の中は心配で仕方がないのです。
今まで幸せだった家庭が、壊れていくのが怖くて仕方がないのです。


妻はまた泣き出したので、
「もういい。俺は遠い所から帰って来て疲れている。勝手にいつまでも泣いて、この事から逃げていろ。俺は寝る。」
口では強がりを言っていましたが、この問題をどうしたら良いのか分からずに、眠る事など出来ません。



次の日、会社に行ったのですが、そんな事情を知らない上司は、私の疲れきった様子を見て、気候の違いや疲れから体調を崩しているものと思い込み、早く帰ってゆっくり休めと言ってくれたので銀行に急ぐと、着いた時は閉店間際でシャッターが閉まる直前でした。


銀行に飛び込んで、最初に目に入ったのは妻が書類を運んでいる姿です。
〔どうして智子がいる?まさか、あいつに逢いたいからなのか?それとも、携帯を取り上げたので、あいつと会って今後の事を相談をする為か?〕


私が出勤する時には出掛ける素振りも無く、何の用意もせずに時々思い出した様に、ただ泣いていたので当然仕事は休んでいて、こんな事になった以上、銀行を辞めるものだと思い込んでいた私は一瞬唖然としましたが、何とか気を取り直し、
「支店長にお会いしたいのですが。」




その言葉で妻が私に気付いて不安そうに立ち尽くしていると、一番奥のデスクにいた稲垣が、横目で妻を見ながら早足でこちらに歩いて来ました。



稲垣は、周囲の目を気にして口だけは平静を装っていましたが、表情は不安でいっぱいです。
「これは、これは、わざわざお越し頂きまして恐縮です。どうぞこちらに。」



本当は、その場で大きな声を出して罵倒したかったのですが、逆に私が名誉毀損で訴えられてもつまらないので、案内された応接室に入りました。
「こちらの銀行では社内不倫についてどの様なお考えをお持ちですか?」
「いや、それは、その・・・・・・・・・。」


「人妻の行員を朝までアパートに連れ込む。2人で旅行にまで行く。この様な行員がいたらどの様な処分をしてくれますか?」


すると稲垣はテーブルに両手をついて、
「ご主人には本当に申し訳ない事を致しました。
でも、本当に不倫なんかでは無いのです。
信じて頂けないでしょうが、身体の関係どころか手も握った事は有りません。本当です。
しかし奥様を付き合わせた責任は感じておりますので、大変失礼かと思いますが、誤解を与えた慰謝料という形で償わせて下さい。」




稲垣は、妻が上手く誤魔化してくれただろうと思っていたのか、アパートの事や旅行の話しをした時に、一瞬驚いた表情をしたのを見逃しませんでした。
この事で、今日は、まだ妻とは何も話し合っていないと感じた私は、鎌をかけてみる事にしました。


「誠実に対応すれば、穏便に済ませようと思って来たが、この期に及んでまだ嘘で塗り固めようとするのか?
分かった。おまえに誠意を期待していた俺が馬鹿だった。
こうなれば俺にも覚悟が有る。」


「すみません。しかし、そう言われましても本当に不倫などしてはいません。身体の関係なんて無いのです。」
私は両手でテーブルを叩いて立ち上がり、
「昨夜、女房が全て話したんだよ。アパートに行っては抱かれていたと。
旅行でも抱かれたと話したんだよ。もう名誉毀損も関係ない。
俺はどうなってもいい。
まずは手始めにここの行員達に、こんな支店長で良いのかと聞いてみる。」


私の言葉を聞き、稲垣は慌てて床に土下座して、
「すみませんでした。
正直に話したかったのですが、ご主人のお気持ちを考えると話せませんでした。
決して自分を守る為に話さなかったのでは有りません。
取り返しの付かない事をしてしまいました。
どうか許して下さい。」


「俺の気持ち?そんな事を考えられる人間なら最初からしないだろ?
ばれたからって、尤もらしい事を言うな。
自分を守る為に、何とか誤魔化そうと嘘ばかりついていて、いざばれたら俺の為に嘘をついていた?
何を食べれば、そんなに自分に都合の良い言い訳が、次から次へと言える様になれる?俺にも教えてくれ。」




私は、ずっと、この事実を知ろうともがいていましたが、いざ認められると私の全てが終ってしまった様なショックを受け、尻餅をつく様にソファーに座り込んでしまいました。



その時ドアがノックされたので、稲垣は慌ててソファーに座りました。
「支店長、ズボンの膝が汚れているぞ。」


床は、きれいに掃除されていたので汚れてはいなかったのですが、私が嫌がらせにそう言うと、慌てて膝を掃いながら、縋る様な目で私を見ています。
若い女子行員がお茶を置いて出て行くと、また床に土下座して、
「ご主人、どうかこの様な事は・・・・・・お願いします。」
「何を?」


何をお願いしたいのか分かっていても、私が素っ気無い返事をしたので、今度は額が床に擦りそうなほど頭を下げました。
「妻から全て聞いたが確認の為に、おまえにも同じ事を訊く。
妻と話が食い違わないように、よく思い出して答えろ。
ただ、気を付けて話した方がいいぞ。
俺にとって何よりも大事な家庭を壊された以上、もう何も怖い物は無い。」


「・・・・・・・・はい。」




「女房とはいつからの関係だ?」


「奥様にして頂いたのが、こちらに赴任して来て3ヶ月ほど経った頃で、結ばれたのはその一ケ月ほど後かと。」
して頂いたというのは何をして貰ったのか聞きたいのですが、妻が全て話したと言った手前聞けません。


「結ばれた?お互い既婚のくせに、独身の恋人同士の様な事を言うな。お前達のしていた事を美化するな。不法行為、不貞を犯していたのだろ。」


「すみません。言葉を間違えました。」


「まあいい、最初どちらから誘った?」




「私からです。」


妻が私を裏切った事に変わりは無いのに、この事は私の気持ちを少し楽にしました。
どちらが誘おうと、どちらの非が大きかろうと、妻が私を裏切って、私だけにしか開かない筈の身体を開き、私だけにしか見せない筈の顔を見せていたという事実は変わりません。


いいえ、私にも見せた事の無い顔を、この男には見せていたのかも知れません。
それでも、どちらが誘ったかという小さな事にも拘ってしまいます。
結局、私は、まだ妻に未練が有るのです。


「あいつはおまえのアパートに何回ぐらい泊まった?」
「月に1回ぐらいかと・・・・・・・。いえ、2回の月も有ったかも知れません。」


「旅行には何回行った。」




「すみません。2回行かせてもらいました。」


「それら全ての時に女房を抱いたのだな?」


「はい、申し訳無かったです。許して下さい。」


「謝るな。謝ったところで許す筈がないだろ?他の日も残業だと嘘を言って帰りが遅かった時は、女房を抱いていたのだな?」
「毎回では有りません。食事だけの時も有りましたし、私の帰りが予定よりも遅くなってしまい、ただ待たせてしまっただけで、電話して帰ってもらった事も有りましたから。」
「そんな細かな事を言うな。そんなのは数回だけだろ?毎回の様に抱いたのだろ?」
「はい、すみません。そのとおりです。」


自分で訊いておきながら吐き気を覚えてきますが、訊かずにはいられないのです。





本当は、どの様なセックスをしたのか気に成っていましたが、その事を訊くと、稲垣が腹の中で私を小さな男だと馬鹿にしないか気になり、それを訊く事はプライドが許しませんでした。
「女房を抱いたのは、旅行以外はおまえのアパートでだけか?」


「いいえ、私の車でラブホテルに行く事も有りました。」


やはり、どの様な行為をしていたのか気になり、その物ズバリは訊けなくても、それらしい事を訊いて、その事から想像出来ないかと迷っていた時。


「私からこの様なお願いが出切る立場では無いのですが、今夜お伺い致しますので、ここでこれ以上は許して下さい。」


ここに来る前は、稲垣を社会的に失墜させてやる事ばかり考えていましたが、色々聞き出している内に、私の知りたい欲求を満たす為には、それは今やらない方が得策だと思う様になり、
「分かった。家で待っているから6時に来い。ただ、今日はもう女房を連れて帰るぞ。文句は無いな?」




「勿論奥様の事は構いませんが、私の仕事が早くても7時迄は掛かりそうなので、6時にお伺いする事は無理かと・・・・・・。出来れば8時、せめて7時30分にして頂け無いでしょうか?」


「仕事?俺は仕事も手に付かない状態なのに仕事だ?俺の家庭を壊しておきながら、それよりも大事な仕事とはどの様な仕事だ?俺は頼んでいる訳でも、相談している訳でも無い。6時に来いと言ったのだ。俺に合わせる気が無いならもういい。やはり今から話そう。今のおまえの対応で、このまま2人だけでいると何かしてしまいそうだから、ここから出て皆のいる所で話そう。」


「すみませんでした。必ず6時にお伺い致します。」


「出来るのなら、最初からそう言え。今後は全て俺の都合に合わせろ。
俺は、おまえに合わせる気は無い。仕事中で有ろうが、夜中で有ろうが、俺が来いと言ったらすぐに来い。
嫌なら今後、話は全てここでしよう。
行員どうしの不倫だから、銀行事態にも何らかの責任は有る。
話し合いの場として、ここを貸してもらえる様に、俺が本店に行って直談判してもいい。」


「私が立場も考えずに、勝手な事を言いました。ご主人のご都合に合わせますから、どうか許して下さい。」
私は、妻と稲垣に打ち合わせをされるのが嫌で、妻を連れて一緒に銀行を出ました。




「久し振りに喫茶店にでも行くか?」
一瞬、妻は嬉しそうな顔をしましたが、すぐに俯いて黙って頷きました。
喫茶店では気まずい空気が流れ、何を話していいのか分からずに黙っていると妻が、
「あのー。支店長とは何をお話になったのですか?」


「おまえには関係ない。俺とあいつの話だ。」
「はい。ごめんなさい。」


妻には、稲垣と話した内容は勿論の事、今夜来る事さえ話しませんでした。
「そんな事より、どうして今日も銀行へ行った?あいつに逢いたいからか?あいつに今迄の様に逢えなくなると思うと不安になったか?俺の事が、愛する2人の仲を邪魔する悪魔に見えるだろ?」


「逢いたいだなんて、そんな事は絶対に有りません。あなたは仕事に行ったのに、あなたにこんな思いをさせてしまった私が、何もしないで家にいるのが悪い気がして。」


「俺に悪い?俺が今、あいつに会われる事が一番嫌だと分からないのか?
逆の立場になって考えた事は無いのか?
そうか、あいつに夢中のおまえに俺の気持ちなんて考える気も無いだろうし、考えたところで分かる訳が無いよな。
俺を思う気持ちが少しでも有れば、最初からこんな事はしないか。」




妻は、泣きそうになるのを堪えている様で、黙ったまま俯いてしまいました。
そんな妻を見ていると付き合いだした頃を思い出します。
妻と喫茶店に行って向かい合わせに座ると、恥ずかしいのか必ず今の様に俯いていました。
しかし、今俯いている理由は全然違います。
あの純情だった妻が、あの誠実な妻が、あの恥じらいを持った妻が、私以外の男に恥ずかしい姿を見せ、恥ずかしい声を聞かせ、気を遣った時の恥ずかしい顔を晒していたのです。このまま妻を見ていると私が泣いてしまいそうになり、急いでレシートを掴んで立ち上がると、妻も慌てて席を立ちました。





家に着くと妻を前に座らせて話しました。
「俺は、節約の為に電話一本我慢していたのに、あの派手な服はおまえが買った物か?」
「支店長がいつも付き合わせているお詫びだと言って、プレゼントしてくれました。」


「何着も有ったが、全てあいつからのプレゼントか?ミニスカートも。」
「・・・・・・はい。」
妻は、消え入りそうな声で返事をしました。


「俺が昔、たまにはミニスカートを穿いて欲しいと頼んだ時も、恥ずかしいと言って絶対に買わなかったし、一緒に買物に行った時、似合うと思って俺が選んだ少し派手な服も、こんな派手なのは嫌だと言って買わなかったおまえが、随分気に入って着ていたらしいな?」




「それは・・・・・・・。」
「化粧も派手にして髪の色もそんな明るい色にしたのは、稲垣がそうしろと言ったからなのか?
おまえは、あいつの着せ替え人形か?あいつの好みに合わせるのが、そんなに楽しかったのか?」


「いいえ、折角のプレゼントを着ないのも悪いと思って。」


「着ないと悪い?それならその化粧は、どんな言い訳をするつもりだ?
化粧品もプレゼントされて、使わないと悪いので派手な化粧をしましたか?
それに卑猥な下着も沢山有ったが、あれもプレゼントだろ?
おまえがあんな下着を買う訳が無いよな?」


「いいえ、あれは私が・・・・・・・・・。」


「そうか。あんな、大事な所に穴の開いた様な下着はどこへ行けば売っている?俺も興味が有るから今から見に行こう。さあ、案内してくれ。」




私は立ち上がって妻の腕を掴み、妻を立ち上がらせようとすると、
「ごめんなさい。あれもプレゼントされた物です。下着までプレゼントされていたと知られたら、益々あなたに誤解されると思って嘘を言ってしまいました。ごめんなさい。」


「そうか。やはりあれらもプレゼントしてもらった物か。
プレゼントされた物を着ていないと悪いと言う事は、今日はこれを穿いてきましたと言って見せていたという事だな?
見せないと折角のプレゼントを、おまえが穿いているのかどうか分からないよな?」


「いいえ、それは・・・気持ちの中だけで・・・・・。」


「そうか、分かったぞ。
だから、あんな小さな下着であいつの所に行ったのか。
プレゼントしてもらったパンティーを穿いてきました。
本当かどうか分からない?これならどう?
そう言ってスカートを捲ったのか?
それとも奴に下から覗かせたのか?
違うか、スカートを脱いだのか。」


自分で言いながらその様な光景を想像してしまい、どんどん辛くなってくるのですが、言わずには居られないのです。




「そんな事、有りません。許して。私が軽率でした。もう許して。」


「だいたい、人妻に下着をプレゼントするだけでも普通は有り得ない事なのに、身体の関係も無い奴があんな下着を贈るか?
それに、身体の関係も無いのに、あんな物をプレゼントされて、喜んで穿く奴などいるのか?」


「喜んでなんかいません。」


「それなら嫌だったという事か?贈られて迷惑だったのか?どうなんだ、返事をしろ。」


「・・・・・はい。」




「それなら立派なセクハラだ。嫌がる部下に、上司が穿いてくれと言ってあんな物をプレゼントしたら、完全なセクハラだ。」


「明日俺と一緒に、あれらを銀行に持って行って抗議しよう。あいつのデスクに全て並べて抗議しよう。そしてセクハラで訴えよう。いいな?」


「それは・・・・・・・。」


「もういいだろ?抱かれていたのだろ?ここまで来たら本当の事を話せ。頼むから話してくれ。」
これが、今から私がしようとしている事を止められる、妻への最後の問い掛けでした。


しかし、妻は、
「ごめんなさい。どう説明すればいいのか分かりません。でも本当に身体の関係は有りません。」




ここまで言ってもまだ認めない妻を、やはり虐めていなければ狂ってしまいそうなのです。
妻を虐めながら、どうすれば妻がもっと辛い思いをするか考えているのです。
その為に稲垣が白状した事も、今夜来る事も黙っていました。


「分かった。智子がそこまで言うのだから、今回は信じる様に努力するが、後で関係が有ったと分かった時は離婚だぞ。これは赴任する前に智子から言い出した事だ。それでいいな?」


「・・・・・はい。・・・・ありがとう・・・・・ございます。」
妻は、今にも泣きそうな声で返事をしましたが、泣けば私が実家に行ってしまうという思いからか、唇を噛んで我慢していました。





稲垣は6時に来るので、私はシャワーを浴び終え、続けて妻にもシャワーを浴びさせ、キッチンで妻の身体を触りながら服を脱がせようとした時、妻は嫌がって抵抗しました。
「俺にされるのが嫌になったのか?」




「違います。嬉しいです。でも、まだ時間が早いのでせめて夜になってからお願いします。」


「俺は1年半も我慢していたから、もう我慢出来ない。智子はそうでは無い様だな。やはり奴に抱いてもらって、欲求を解消していたのかな?」


「違います。それなら、ここでは落ち着かないから寝室でして下さい。ベッドでお願いします。」


「折角仲直りの切欠になると思っていたのに、それならもういい。」


「ごめんなさい。私が悪かったです。でも・・・・・・・。せめてカーテンを閉めて、明かりだけでも消して下さい。お願いですから、明かりだけでも・・・・・・・・。」
そう言って、妻は頑なに拒みました。


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