はまった男 3
王はしばらく泣いていた。僕は言葉をかけられなかった。
結婚まで考えた元恋人との想いが溢れているのだろう。
王は作り笑いをし
王 「お腹空いちゃった。何か食べに行こう。」
僕 「無理しないでいいよ。無理に笑わないで。」
王 「だって、わたし本当にお腹空いている。」
そういえば王は今日、元恋人に会うのに緊張してか、何も食べていない。
王 「そうだ、おばさんの家に行こう!わたし、何か作るよ!」
僕 「え?おばさんって、僕の知っているおばさん?」
王 「お正月にも会ってるし、わたしの誕生日、大連にいたおばさんだよ。」
僕 (やっぱり・・・・。)
あの、ものすごい勢いで、家を買え!と言ってきたおばさんだ。
僕は迷った。S君を連れて行ったら、間違いなく、家を買え!攻撃が始まるだろう。
いままでは、言葉が通じなかったので、おばさんは控えていたが、今回はS君がいる。僕はS君に
僕 「S君は、僕の味方だよね?」
S君 「は?」
僕 「僕の都合のいいように、通訳を頼むよ。」
S君 「それは、もちろんです。任せておいて下さい。」
王と超市で買い物をする。王は楽しそうに食材を選んでいる。
食材を袋に入れて、王のおばさんの家に向かった。
家にはいると、お母さんと、おばさんがいた。
今までは、言葉が通じないので、お母さんと、ほとんど話した
ことがなかったが今回は、S君がいる。何でも来いだ!
王が台所でご飯を作っている間、お母さん、おばさんと話をした。
S君がいるもんだから、おばさんと一緒にものすごい勢いで話しかけてきた。
まるでマシンガンだ。
S君も、2人同時に話しかけてくるものだから、通訳が大変そうだ。
僕の家族構成、学歴、収入、預金、土地の有無、仕事内容、日本の生活しつこいくらいに聞いてくる。
僕 「普通、こんな事、聞いてくるもんなの?」
S君 「生活力を重視しますので、当然聞いてきますよ。」
僕 「まだ、付き合っている段階なんだけどな・・・。」
S君 「お母さんは、そうは思ってないみたいですよ。結婚相手としてみています。Tさんは、実家に泊まったこともあるし。」
王は一人っ子だから、お母さん、心配なのかも知れない。
ご飯が出来上がり、5人で食べることになった。
僕は中華料理は好きなのだが、中国のお米は臭いがあり、好きになれない。
ところが、王のおばさんのお米は、臭いが無く美味しかった。
王の料理も、なかなかいける。実は王は家庭的だったりして。
S君も、美味しいと言っている。
S君 「王さんが以前、カラオケクラブで働いていたとは思えませんね。」
僕 「僕もそう思う。普通の女の子なんだけどな。」
(この発言には、突っ込まないで下さい。深い意味はありません)
王 「何話しているの?」
僕 「美味しい。王は料理できるんだね。なんか意外だ。」
王より先にお母さんが
母 「ウチの娘は、何でも1人で、できるんですよ。しっかりしています。」
王 「結婚したら、毎日作ってあげる。」
母 「Tさんは、どうなんですか?ウチの娘と結婚する気はあるんですか?」
僕 「そうですね、まずお互い言葉を話せるようになり、コミュニケーションがとれないといけません。今、王は日本語を覚えているので近いうちに、取れるようになるでしょう。以前は筆談ばかりでしたが今は、ずいぶん減りました。王は頑張ってくれています。」
母 「あなたは、中国語を覚える気はないんですか?」
僕 「僕は、仕事が忙しくて・・・・。」・・・・ただの言い訳だ(>_<)
母 「コミュニケーションが取れたら、その後はどうするんですか?」
僕 「お互いに、何も問題がなければ、結婚したいですね。王以上に好きになる人は、もう現れないと思います。僕も、もう少しで34歳になりますから、いいかげんな気持ちで付き合うつもりは、ありません。」
お母さんは少し満足したようだ。
S君が通訳を続ける。
母 「それなら、娘を幸せにして下さい。自慢の娘です。」
王の頭を撫でながら言う。王は笑っている。
香港で売春をしていた事を知ったら、倒れてしまうだろう。
おばさん 「結婚するには家が必要でしょう?」
僕は、やはりと思った。これからが大変だ。
僕 「そうですね、結婚した後は、中国にも僕と王の家がほしいですね。」
おばさん 「結婚する前でも、家は必要ですよ。家を買いなさい。」
僕 「でも、今は必要ではないんですよ。今買うのはちょっと・・・・・」
おばさん 「どうせ、中国で暮らすんだから、今買ってもいいでしょ?」
僕 「え?中国で暮らす??」
おばさん 「王と結婚したら、当然中国で暮らすんでしょ?王は日本には連れて行かせません。だから家を買いなさい。」
僕 「・・・・・・・・・」
僕はS君が間違えて通訳しているのかと思った。
僕 「S君、おばさんは、本当にそんなこと言っているの?間違えて通訳していない?」
S君「僕は、ちゃんと通訳していますが・・・・。」
僕 「お母さんは、どうなんですか?王を日本に連れて行くのは反対ですか?」
母 「王は、大事な一人娘ですから、遠くに連れて行かれたら困ります。」
僕 「遠くと言っても、今、王が住んでいる大連から実家の福建省と、東京から福建省まで、距離は同じくらいですよ。そんなに遠くありません。」
母 「国が違えば、来るのも大変でしょう。わたしは反対です。」
僕 「じゃあ、結婚したら、僕と王は離ればなれですよ?王が寂しがります。」
母 「だから、あなたが中国に住みなさい。」
僕 「でも、僕は中国に住む気はありません。日本に仕事もありますし・・・。」
おばさん 「あなたが中国に会社をつくれば?それなら中国に住めるでしょう?」
変な方向に話が進んでる。僕は中国に会社をつくる気は全くない。
S君 「珍しいですね。普通は日本に行きたがるものなんですが・・・・。」
僕もそう思った。王自身はどう思っているのだろう?
僕 「王はどう思っているの?日本に来たくない?」
王 「わたしは、どっちでもいいよ。中国でも日本でも。」
僕 「そう・・。それに関しては、これから決めよう。」
王 「うん。」
おばさん 「とにかく、家がないといけない。買いなさい。」
おばさんの、家を買え攻撃がまた始まった。S君も大変そうだ。
僕は答えを誤魔化しながら、食事を終えた。
S君 「ずいぶん家にこだわっていますね。知り合いでも買わされた人はたくさんいますよ。もし、買うとしたら結婚した後ですね。」
僕もそう思った。結婚する前に家を買うのは抵抗がある。
今日は、どこに泊まろうか?
僕はおばさんの家に泊まる気になれずS君にホテルを取ってもらった。
王は、どうするんだろう?
王も、僕のホテルに行きたいと言い出した。
僕はホッとした。
1人で寝るのは寂しすぎる。ただ、お母さんは、せっかく北京に来たのだからもう少し、おばさんと話していきなさい、と王を叱っている。
福建省でもそうだったが、王のお母さんは、結構厳しい。
王も素直に、言うことを聞く。
王 「話が終わったら、あなたに電話する。」
僕とS君だけで、ホテルに向かうことになった。
S君 「お母さん、厳しいですね。王さんにも、Tさんにも。」
僕 「僕、嫌われているのかな?大事な一人娘だもんなあ。」
S君 「それはないですよ。Tさんのことは、気に入っています。」
僕 「それならいいんだけど・・・・。」
僕とS君はタクシーに乗り込み、ホテルに向かった。
チェックインをして、部屋に入る。
僕 「S君から見て、王はどんな女の子かな?」
S君 「そうですね、おばさんの家を買え!攻撃には参りましたが、王さんは心の優しい人だと思います。Tさんにずいぶん気をつかっていました。」
僕 「あれで気をつかっているの?そうかなあ・・・・。」
S君 「王さんの食器を見ましたか?」
僕 「そういえば、王、あまり食べてなかったね。いつもは、たくさん食べるのに。」
S君 「王さんは、本当は、お腹が空いていなかったんですよ。本当にお腹が空いていたら、その辺のレストランで食べています。自分で作るのは、時間がかかるし、手間です。」
僕 「・・・・・・・・・・」
S君 「Tさんに、気を使わせたら悪いと思って、無理にお腹が空いたと言って行動に出たのです。僕は、すぐにわかりました。」
僕 「・・・・・・・・・・」
S君 「本当は、悲しかったと思います。でも、Tさん、お母さん、おばさんに気付かれないように、していたと思います。」
僕 「確かに、口数は少なかった・・・・・。」
長年、中国で生活して、毎日中国人と接している、S君が言うのなら間違いないだろう。
S君の通訳は、素晴らしい。李さんよりも、遙かに上手い。
それでも直接、王と話すのではなく、ワンクッションS君を通して会話をするのでどうしても伝わらない部分が出てきてしまう。行動も把握できない所がある。
いままで、気付かなかった王の優しさも沢山あったのだろう。
僕の携帯が鳴った。王かと思い出ると
社員 「社長、聞いて下さいよ、ひどいんですよ。」
バカ社員だった。
僕 「どうしたの?」
社員 「ガイドを頼んで、飲みに行ったんですけど、全然安くないんですよ。いい店を教えて下さいよ。どこの店がいいですかね?」
僕 「明日、気を付けて帰りな。無事着いたら電話をくれ。」
僕は、すぐ電話を切った。
王だと思ったのに・・・。まったく・・・。
この後、香港のR社、N社長から電話があり、丁度中国にいるので、王と二人で香港に行きました。
R社の社員は、広東語、北京語、英語、日本語、4カ国語を話せるのが、採用最低条件なので、日本語もペラペラです。ホントにスゴイ!!
社長のNさんは、元々香港人ですが、今は帰化して日本人です。
N社長はフランス語も少し話せます。
でも王は、北京語はN社長より、S君の方が上手いと言っていました。
本社は、東京にあり、香港は支店です。シンガポールにも支店があります。
N社長曰く、香港人は中国本土の人を少し下に見る傾向があるようです。
R社の社員の女の子達と食事をしたのですが、北京語が話せるのに、広東語か、日本語で話しています。王1人だけ話せなく可哀想・・・・。
僕が、「北京語で話して下さい。王はまだ日本語が、わからないんです。」と言うと社員の女の子は、「北京語だとT社長が、わからなないですよ。」 だってさ・・。(>_<)
それで奮起してか王は、絶対に日本語を覚えてやる!と言っていましたが・・。
大連ー成田までの航空券はパーになりましたが、香港ー成田の
航空券は安いですね!片道でも、往復でも値段は変わらないのですが、
とにかく安い!広東省に行かれる方、又はその近辺の省に行かれる方、
香港経由は安くてGOODですよ!
僕と王は、香港空港でお別れだ。早朝の便なので、王、眠そうだ。
10月、僕の誕生日に逢う約束をして、香港を発った。
飛行機の中で、王の余韻に浸っていた。
それにしても、R社の社員の女の子達は、王に冷たかったな、失礼だ。
少し言葉が話せるからって、あの社員達は、いい気になるな!王だって北京語、福建語、上海語、少し日本語、4カ国語???話せるんだ!
あの社員達は、可愛さじゃ王に勝てないから、ひがんで意地悪したに違いない。
可愛いコは、意地悪されやすい。可愛すぎる王も罪な女だ。
僕は勝手に想像し、勝手に納得した。(^o^)
夕方、会社に着いた。社員達は、大連は面白くないと文句を言ってきた。
可愛いコはいない、サービスは悪い、値段は高い、ガイドは怪しい
もう行きたくないといっている。僕には、どうでもいいことだ。
大連に、誘ったのは僕だが、店、ガイドは勝手に自分たちで選んだ。
以前だったら、くだらない話でも一緒に参加していたが
王と付き合うようになってからは、大人になった。(もう、34歳、オヤジです(^o^))
僕と王は、10月、別れることになった。
楽しいはずの、僕の誕生日が一転して最悪のものとなった。
出会ってから約9ヶ月、お互い愛し合っていると思っていたのだが、こんな些細なことで、別れることになるとは・・・。
僕が王のことを信じられなかったこと、王のウソ、二つの原因が、この別れを招いた。
9月下旬、僕の誕生日が近づいてきた。
王は「あなたの誕生日プレゼントを用意しておくね。」と言っている。僕は、お礼を言ったが、一番のプレゼントは、王に逢えることだ。
王は、簡単な会話なら、S君、李さんを使わないで話せるようになったので電話をかけてくる回数が増えた。
国際カードを使っているとはいえ、お互い電話代が大変だ。
僕の誕生日にかぶる日程で、N社長から、香港に来てくれないか?と連絡が入った。
マカオ、シンガポールからも来客があるそうだ。
N社長は、「Tくんにも紹介したい。」と言っている。
N社長に言われたら、断るわけにはいかない。
僕の会社は、R社からの仕事で、全体の3分の1の利益が出ている。
せっかく王とゆっくり逢えると思っていたのに・・・。
仕事なので、王を同席させるわけにはいかない。
僕はS君に事情を話して、仕事が終わりしだい大連に飛ぶと、伝えてもらうことにした。
大事な用件はS君を使ってしまう。
僕 「いつも通訳につかって、悪いね。」
S君 「気にしないで下さい。」と言ってくれる。
S君は、いい奴だ。
S君が王に電話をすると、王は怒り始めた。
王 「わたしだってTさんが来るときは、仕事を休んでいるのよ!Tさんも休んで!」
S君 「王さんの気持ちはわかりますが、Tさんは責任ある立場上、仕方ないと思います。仕事が終わり次第、大連に行くといっています。」
王 「何日大連にいるの?」
S君 「1泊か2泊と言っていましたが・・・・。」
王 「何?それ!2ヶ月に一度しか来ないのに2日間しか逢えないの?バカにしている!」
S君 「そんなことないですよ。Tさんは逢いたいはずです。王さんを愛しています。」
王 「じゃあ、わたしが香港に行く。そうすれば問題ないでしょう?」
S君 「王さん、Tさんは、遊びで香港に行くのではないんですよ?仕事ですよ?」
王 「ずっと、仕事をしている訳じゃないでしょ?仕事の邪魔はしないから・・・。」
S君 「じゃあ、Tさんに聞いて、また電話をします。ちょっと待っていて下さい。」
王 「わたし、早く逢いたいと伝えてほしい。」
S君から電話がきた。
S君「王さんは香港で逢いたいと言っていますよ。仕事の邪魔はしないと言っています。」
大連から、わざわざ香港に来るのか・・・。
僕 「そう・・じゃあ香港で逢おう、僕も王に早く逢いたいと、伝えてもらえる?」
S君「わかりました。王さん、喜びますよ。」
僕 「旅費は僕が出すから、飛行機で来てくれ、とも伝えてもらえる?」
王は、8月香港に行くとき、電車で行こう!と、とんでもないことを言い出した。
結局は飛行機にした。
軟臥で、飛行機の約半額だが、時間は何倍もかかる。
僕達は王と香港で逢うことを約束し、10月3日香港に飛んだ
香港空港に着き、N社長と再会し、タクシーでR社に向かう。
N社長、僕を含めて、会議に参加したのは8人。
N社長は日本語、英語、北京語、広東語を使い分けて、みんなに説明する。
スーパーマンみたいだ。今、英語を話していたかと思えば、北京語になる。
僕の発言は、ほとんど無かった。
僕がいなくても、問題ないんじゃないか?
1日目の仕事が終わり、僕は、ラマダホテルに急いだ。王が待っているはずだ。
N社長が、香港のラマダホテルを取ってくれたのだが、香港のラマダホテルは大連のラマダホテルより、ボロい、狭い、臭いで、良いところがない。
ホテル代はN社長持ちなので、文句は言えないのだが。
狭いロビーに、荷物を持った王がぽつんと座っている。僕は王に抱きついた。
僕 「まった?ごめんね。」
王 「たくさん待った。仕事は終わったの?」
僕 「王のために、抜け出してきた。みんなは、まだ会議している。」(ウソ)
王 「私のために?大丈夫?」
僕 「大丈夫。お腹空いてる?何か食べに行こうよ!」
王 「うん!行こう!」
王の荷物を、部屋に運び、僕達は夜の香港に出かけた。
王が、紙袋を持っている。あれは、何だろう?
王と逢えるのは夜だけで、それまで王はひとりぼっち。
せっかく王が、僕の誕生日に大連から逢いに来てくれたのに。
ご飯を食べながら、
僕 「ごめんね。仕事は明日までだから。」
王 「気にしないで。あなたは仕事を頑張って。」
王が、紙袋を僕に渡す。
王 「はい、これ誕生日プレゼント!」
本当は、明日なのだが、王は早く渡したいのだろう。
僕は紙袋の中を見た。
僕が、王の大連の家で見たアルバムだ。
懐かしいな。
大連で見たときは、可愛い、可愛いと、連発したっけ。
僕が楽しそうに見ていたので、このアルバムを誕生日プレゼントに選んだのだろう。
僕にとっては100万円のロレックスより価値がある。
もう一つ、小さい袋がある。
僕 「これは何?」
王 「開けてみて。」
刺繍されたハンカチだ。
男の子と女の子が刺繍されている。僕と王の意味だろう。
王 「これ、あなた。こっち、わたし。」
王は楽しそうに説明する。
僕 「ありがとう、嬉しい。来年、王の誕生日には僕のアルバムをあげるね。」
王 「えー?そんなのいらない。オメガが欲しい。」
何てこった!
僕 「ダメ。僕のアルバム。」
王 「じゃあ、オメガとあなたのアルバムを頂戴。」
またまた何てこった!
僕 「もういい。来年、王の誕生日は、プレゼント無しね。」
王 「今のは、冗談で言ったんだよ。」
僕 「いや、本気で言ってた。王はそんな女だったんだ。」
王 「違うよ!冗談だよ!」
王は、すぐムキになる。そんなところも可愛い。
僕 「僕も、今のは冗談。」
王 「あなた、意地悪だ。」
王が笑っている。
僕は王の笑顔をみられるのだったら、仕事なんかほっぽり出してしまってもいい、と何度思ったことか・・・・。
10月4日、思ったより早く仕事が終わった。
僕の出番はほとんど無く何をしに香港に来たのか、わからない。
N社長とは、池袋、新宿でよく飲むが、その延長上の、軽い誘いだったのだろうか?
N社長は、これから社員達と食事をして、それからカラオケに行こう、と言い出した。
さらに、明日はマカオに遊びに行こう、と言っている。
マカオは美女揃いで、一度T君を連れて行きたいんだ、とも言った。
王がいなければ、N社長と、カラオケでも、マカオでも行くのだが、今の僕にはカラオケやマカオで、ほかの女の子と知り合いたい、セックスしたい、と言う願望はない。
ただ、早く王に逢いたい。
僕はN社長に、王が香港に来ていることを告げ、今日は僕の誕生日だから王と2人で一緒にいたい、と言った。
N社長 「じゃあ、食事だけ一緒に食べよう。王さんも連れてきな。」
僕は、少し迷った。
8月、R社の女子社員達は、王に冷たかった。
今回も同じようなことだったら、困る。僕は断ろうと思ったが、N社長が、せっかく誘ってくれているのに、断るのも失礼だ。
食事だけなら2、3時間で済むだろう。
僕 「王を呼んできますので、ちょっと待っていて下さい。」
急いで、ラマダホテルに向かった。
チャイムを鳴らし、部屋にはいると、化粧品が沢山あった。
お母さん、おばさんへのおみやげらしい。中国本土より、香港のほうが安いみたいだ。
王 「仕事はもう終わったの?」
僕 「終わった。明日からは、王と一緒にいられる。」
王 「よかった。お腹空いたから、何か食べに行こう!わたしノーベビーだよ!」
僕 「僕もノーベビーだ。」
この、ノーベビーという言葉は、お腹が空いた、と言う意味で、僕と王にしかわからない言葉だ。
お腹がいっぱいの時はベビー3、普通の時はベビー2、お腹が空いているときはベビー1、お腹がぺこぺこの時はノーベビーと言っている。
ようは、お腹がいっぱいの時は、お腹が膨れて、赤ちゃんがいるみたたいなので、ベビー○と言っているのだ。
僕と王が、お互い言葉が通じないときに、使っていた言葉である。
他にも、僕と王しかわからない言葉が、沢山ある。
ほかの人が聞いたら、大笑いだろう。
今、王は日本語が話せるようになっても、僕と王にしか、わからない言葉を使う。
N社長は、以前、僕と王の会話を聞いて、大笑いしてたっけ。
僕 「食事はN社長と一緒じゃダメ?」
王 「・・・・・・・・」
僕 「今、N社長達は、レストランで先に待っている。N社長と一緒にいるのは今日で最後だから、一緒に食べようよ。」
王 「この間の、女子社員もいるの?」
僕 「たぶん・・・・いると思う。」
王 「わたし、行きたくない。あなた1人で行ってきて。」
僕 「せっかくN社長が、誘ってくたんだから、一緒に行こうよ。」
王 「わたし、どこかで食べてくるから、1人で行ってきていいよ。」
僕 「ワガママだなあ。ワガママな女は嫌いだよ。」
王 「ワガママじゃないよ!ワガママはあなたでしょ?!」
どっちもどっちだが、行きたくないのを、無理に連れて行くのも可哀想だ。
8月、王はつまらなそうにしてたし、僕が女連れで行くのも、どんなものか?
N社長は、王さんも連れて来な、と言ってくれたが、ほかの人は、仕事に女を連れて来るのは(仕事は終わったのだが・・・。)良い気分はしないだろう。
僕 「じゃあ、ちょっと待ってて。なるべく早く帰ってくるから。それから食事に行こう。」
僕は、部屋を出て行こうとすると、王が僕の腕を掴んだ。
王 「・・・・・わたしも行く。」
王は嫌々ながらもそう言った。
僕 「たくさん食べよう!N社長がご馳走してくれるんだから!」
僕は王の手を引っ張り、タクシーに乗り込んだ。
今思えば、無理に誘わなければ良かった。
この食事のせいで、僕と王は別れることになる。
僕と王がレストランに入る。
N社長達を探して、席に着いた。
僕の隣は女の子だ。王は、にこやかに挨拶をしているが、内心はどうなんだろう?
食事をしながら、みんなで話す。
やはり、メインは広東語か日本語だ。
僕に気を使ってくれるのは有り難いが、北京語で話して欲しい。
王も、知っている日本語で話そうとするが、みんなの話題についていけない。
N社長は、僕の日本での失敗話を話している。みんな大笑いだ。
N社長を始め、みんなは楽しそうだが、王はつまらなそうに食べている。
王が、可哀想だ。
無理に連れてこなければ良かった。僕は後悔した。
僕はつまらなそうにしている王に、
「明日、どこに行きたい?」と聞いた。
王 「どこでもいいよ。あなたは?」 そっけなく言う。
僕 「香港はつまらないから、明日は、ほかの所に行こう。」
王 「ホント?わたし、広州に行きたい!」 急に明るくなった。
僕 「わかった。明日は広州に行こう。美味しいものたくさん食べよう。広州料理は、日本でも有名だよ。」
僕と王は、指切りをし、親指どうしを押し当てた。
中国にも、約束の指切りは、有るみたいだ。
王は機嫌を直したかのように思えたが、しばらくすると、またつまらなそうな顔になった。
やはり、話し相手がいなければ、誰だってつまらないだろう。
唯一、話し相手の僕も、N社長達の話題に入って、王とあまり話さなかった。
間が持たないのか、王は携帯電話を取りだし、誰かに電話を仕始めた。
僕の隣の女子社員が話しかけてくる。
女 「彼女、福建語で話していますね。」
僕 「え?あなたは、福建語がわかるんですか?」
女 「私のお父さん、台湾人だから。台湾語と福建語は90%同じなんですよ。」
僕 「そうなんですか・・・・。」
初めて知った。
僕 「じゃあ、王が何を話しているのか、わかりますか?」
冗談で聞いてみた。
女子社員は、黙って聞いている。
彼女は王の福建語を通訳し始めた。
女 「彼女、たぶん、男の人と話していますね。」 声を小さくして話す。
僕 「・・・・・・・・・・」
女 「あなたの誕生日に一緒にいれば良かった。」
僕 「・・・・・・・・・・」
女 「誕生日プレゼントは買ったから、戻ったら渡すね。」
僕 「・・・・・・・・・・」
女 「香港はつまらない。早く帰りたい。」
僕 「・・・・・・・・・・」
女 「わたしは香港に来なければ良かった。」
僕 「・・・・・・・・・・」
女 「全部は聞き取れなかったけど・・・。彼女は、Tさんの恋人じゃないんですか?」
僕 「恋人ですよ。」
女 「でも、彼女は、男の人と話していたと思います。」
王が話し終わる。
僕は顔が引きつっているのが、自分でもわかった。
僕 「王、ちょっと携帯を見せて。」
王 「どうして?」
僕 「王の携帯に入っている写真を見たいんだ。」
王 「いいよ、はい。」
僕は、写真を見る振りをして、発信履歴を急いで見た。
そして、今、王が話していた番号を、頭の中にたたき込む。
すぐ、自分の携帯にメモリーした。
僕は、トイレに行く振りをして、緊張しながらメモリーした番号に電話をした。
「ウェイ?」 僕は、すぐに電話を切った。
男が出た・・・・・。誰なんだ??
王は、福建語で話していた。
そして、誕生日おめでとうと、言っていた。
あなたの誕生日に一緒にいれば良かった、とも言っていた。
僕に対してでは無く、電話の男に対してである。
どうゆうことだ?福建にも恋人がいるのか?上海の男で懲りていないのか?
僕は席に戻った。
王以外は、みんな話で盛り上がっている。
僕の顔が引きつっているのは、誰も気付かない。
隣の女子社員に「少し通訳をしてもらえますか?」 と頼んだ。
女子社員が通訳をする。
僕 「さっき、電話で誰と話していたの?」
王 「え?」
僕 「さっき話していたのは、北京語じゃないでしょ?誰と話していたの?」
2月、日本料理屋で言ったことがあるセリフだ。
あの時、王はウソをついた。
でも、僕と王は、2月の時とは違うんだ。お互い愛し合っている!
そう信じていたのだが、素っ気なく
王 「お母さんと話していた。」
僕 「・・・・・・何を話していたの?」
王 「わたしが香港に来て、お母さん心配しているから、大丈夫よって言ったの。」
またか・・・・。どうしてウソをつくんだ?
これじゃ、王のことを、いつまで経っても信じられないじゃないか!!
僕は、かすかな期待を込めて、聞いた。
声が少し震えてる。
僕 「お母さんの、携帯番号を教えて。」
王 「どうして?」
僕 「何かあったとき、知っておいたほうがいいと思う。教えたくない?」
王 「別にいいよ。133・・・・・・・・だよ。」
やはり、さっき僕が、かけた番号と違う。
ひょっとしたら、さっきの番号は、本当にお母さんの携帯番号で、たまたまお父さんが出たのではないかと、かすかな期待を込めたのだが、その期待は、裏切られた。
僕は悲しくなった。
僕 「お母さんに電話してもいい?今、王から電話があったか聞いていい?」
王は少し困った顔で
王 「どうして?何でそんなことを、お母さんに聞くの?」
僕 「王が、ウソを付いているからだよ!」
僕の声が大きくなった。N社長、社員達が僕のほうを見る。
僕 「どうしてウソを付くんだ?今話していたのは、お母さんじゃないだろ?」
王 「・・・・・・・・・・」
僕は女子社員を見て
僕 「彼女は、お父さんが台湾人で、福建語がわかるんだ!」
王は、真っ青な顔になった。
李さんに演技をしてもらった時と、同じ顔だ。
僕 「王が話していたことは、彼女は全てわかっている。僕も通訳してもらった。どうしてウソを付くんだ?これじゃ、いつまでも王を、信じられないじゃないか!」
王 「・・・・・・・・・・」
王は黙っている。
僕は疲れてきた。上海の元恋人の正体がわかるまで、約半年かかった。
この福建の男は、何者なんだ?また正体探しを、しなくてはならないのか?
王は涙を浮かべながら、北京語で話している。
僕に対してではなく、N社長、社員達にである。
僕は女子社員に
僕 「王は、N社長や社員達に、何を言っているんですか?」
女 「みんなに謝っていますね。悪口を言って、すみません、と言っています。」
僕 「悪口?王は、みんなの悪口も電話で、言っていたんですか?」
女 「私は、良く聞き取れなかったのですが、言っていたみたいですね・・・。みんなに謝っています。」
僕を裏切っただけではなく、N社長、社員の悪口まで、電話の男に話していたのか。
この女子社員は、王が、みんなの悪口を言っている会話は、聞き取れなかったが、王は、聞かれたと思ったのだろう。
だから、あわてて謝っているのだ。
王の姿が滑稽に見えた。N社長、社員は、悪口を言われていたことなど気づいていなかったのに、王は、自分から白状している。
恥ずかしいな・・・。
僕はため息をついた。
もう、どうでもいいや。
N社長は、気にしていないと言ってくれたが、僕は謝り、王を連れて先に失礼した。
あんな白けた場には、いたくない。タクシーに乗り、ラマダホテルに向かう。
お互い無言だ。
王が僕に寄りかかってきたが、僕は押し戻した。
ホテルに着き、エレベーターに乗る。
無言なのは息苦しい。
部屋に入ってからもしばらくは無言だった。僕は何を話せばいいのだろう?
僕は半ば自棄気味に聞いてみた。
もし正直に話してくれたなら・・・・・。
僕 「さっき電話で話していたのは、誰?」
王 「ごめんなさい、お母さんじゃない・・・・。」
僕 「じゃあ、誰?正直に言って。ウソはつかないで。」
王 「おとうと、おとうと。」
僕 「・・・・・・・・・」
ダメだ、この女は。あなたは、一人っ子だろう?
弟と話していた?
何でそんなウソがつけるんだ?
もし、正直に話してくれていたなら、僕は王を許した。
福建の男とは、別れてくれればいい。
それなのに、どうしてウソをつくんだ?
ここまでウソをつかれると、もう、怒る気もない。
福建の男が誰かなんてどうでもいい。
きっとこの女は、これからもウソを付いて、僕を困らせるだろう。
ほんの何時間か前までは、恋人同士だったのが、今では・・・・・・。
僕は、王と一緒の部屋に寝て、初めてセックスをしなかった。
王は、僕の手を握ってきたが、振り払った。
王が泣き始めた。声をあげて泣いている。
僕は、ベットから起き出し、椅子に座りタバコに火をつけた。今夜は眠れるだろうか?
朝、目が覚めた。
ほとんど眠れなかったので、頭がボーとしている。
王は、目が赤い。寝不足なのと、泣いていたせいだろう。
王が僕に話しかける。
王 「広州はどうするの?」
僕 「僕はいかない。」
王 「昨日、約束したのに・・・・・。」
僕 「王は、もう大連に帰りなよ。僕は本当は、仕事が残っているんだ。」
王 「・・・・・わたし、1人で広州に行く。」
僕 「・・・・・・・・」
王 「一緒に来て欲しい。」
僕 「・・・・・・・・」
王 「一緒に行きたい・・・・。」
僕 「僕は深センに用がある。深センまでなら・・・・」
本当は深センに用など無い。
王は少し明るくなった。
王は、荷物をまとめてホテルを出る。僕は財布とパスポートだけを持ってきた。
深センに行くまでに、僕の心が変わって欲しい、そう願っているのかも知れない。
電車に乗り、深センに向かう。
約30分(位だったと思う)の旅だ。
王が寄りかかってきた。僕はそのままにしておいた。
深センに着き、街に出て食事をした。
恐らく最後の食事となるだろう。
本当に最後になるのか?
食事が終わり、深セン駅に向かって歩き出した。
僕は王のことはまだ愛している。(と思う)
でも、これから付き合っていくのは疲れるだけだ。
せめて、誰からの電話か、正直に答えてくれたなら・・・・・。
王 「ねえ・・・・。」
僕 「なに?」
王 「わたし、1人で広州に行くの?あなたと一緒に行くの?」
僕 「・・・・・・・・・」
王 「ねえ・・・どっち・・・・?」
僕 「僕は、仕事があるから・・・・。」
一緒に行きたいくせに!
王に逢いに来たくせに!
なぜ意地を張るのか?
僕は別れの言葉を言った。王は涙を浮かべている。
王は、何度も振り返りながら、深セン駅の入り口に向かって歩いている。
引き留めるのだったら、今ならまだ間に合う。すぐそこに王がいる。
しかし、僕は立ちつくして、引き留めることが出来ない。
王に逢いに来たのに、どうしてこんな事になってしまったのか?
王は入り口の中に消えていった。
僕はしばらく立ちつくしていた。
ひょっとしたら、王が、戻ってくるかも知れない。
戻ってきて、僕に抱きついてくるかも知れない。
自分勝手な考えだ。広州に行かないといったのは僕だ。
僕が、追いかければ良かったんだ。
もう、僕と王は逢うことはないのだろうか・・・。
日本に戻り、いつも通りに仕事をする。
仕事をしていても、張りが出ない。
改めて中国女性の魅力を実感した。
僕から王に電話をすることは、無くなった。
王から電話がきたときは、「仕事が忙しい。」「時間がない。」と言ってすぐに切った。
王は、必死になって、何かを叫んでいるが、僕には言い訳にしか聞こえない。
本当は、電話がくると嬉しいくせに!
毎日、王からの電話を待っているくせに!
なぜ、王はウソをつくのだろう?
「お母さんと話していた。」
「弟と話していた。」
「お母さんと話していた。」は、まだいい。
王だって、電話で話している人のことをいちいち聞かれて、答えるのは、めんどくさいだろう。
しかし、僕はあれほど正直に言ってくれ、とお願いしたのに、
「弟と話していた。」
と言うのは、許せない!
弟などいないのに!!
王は一人っ子なのに!!
福建省に男がいるのも、許せない!
上海の元彼氏で、懲りていないのか?
10月10日の夜、通知不可能で電話が来た。
電話に出たら、S君からだった。
S君 「今、王さんから電話がありまして、「Tさんが怒っている、電話をしても、すぐ切られる。どうしていいのか、わからない。怒っている理由を教えて欲しい!」 と言っていましたけど、Tさんは、どうして王さんのことを怒っているのですか?」
僕 「怒っている理由を、王は自分でわからないのかな?ウソばかりついて・・・・。僕が怒っている理由は、王が自分で考えて、と伝えてもらえる?」
S君 「王さんは、N社長と社員達の悪口を、言ったのは、謝っていましたが・・・・・。」
僕 「そんなことが理由じゃないよ!あの食事は王は、つまらなかったと思う。行きたくないのを、無理に誘った、僕に責任がある。みんな王に冷たかったし話す人もいない。王は可哀想だった。悪口くらい、言いたくなるのはわかる。そんなことを、怒っているんじゃないんだよ!」
S君 「何があったんですか?僕で良ければ、話を聞かせてもらえませんか?」
福建省に男がいるなんてことは、恥ずかしくて言えない。
僕が惨めになるだけだ・・・・。
僕 「とにかく、あいつは、大嘘つきなんだ。もう、逢うのは止めようと思う。」
S君 「あんなに好きだったじゃないですか・・・・・。」
僕 「ウソばかりで、イヤになったよ。もうあいつのことは信じられない。」
S君 「王さんは、Tさんのことを、愛していると思いますが・・・・・・。」
僕 「そんな訳ないよ。愛しているんだったら、ウソばかり吐かない。」
S君 「それはそうですが・・・・。」
僕 「もう、王のことは愛していない、王は、もっといい男を捜してくれ、と伝えてもらえる?」
S君 「本当に、そんなこと伝えていいんですか?」
僕 「あと・・王のことは心から愛していた、こんな結果になって残念だ、とも伝えて欲しい。」
S君 「・・・・・わかりました。そう伝えます。」
これで、王とも終わりか・・・・。
本当に好きだったのにな・・・・。
しばらくして、S君から電話があった。
S君 「王さんは、泣いてました。「どうして、いきなりそんなことを言うのか、理由を教えて下さい、友達に頼んで、電話をください、直接話したいです。」と言っています。」
僕 「・・・・・・・・・」
S君 「「N社長には、香港に直接、謝りに行きます。だから許して下さい。悪口を言ってごめんなさい。」と言っていました。」
僕 「・・・・・・・・・」
S君 「「わたしは、毎日悲しくて、ご飯が食べられません、夜も眠れません、このままでは倒れてしまいます。」とも言っています。」
僕 「・・・・・・・・・」
S君 「「1人で広州に行って、寂しかったです。あなたは約束を破りました。でも、あなたに、おみやげを買ってきました。とても可愛いガラス細工です。逢って渡したいです。早く、わたしに逢いにきて下さい、いつ逢いにきてくれますか?」とも・・・。」
僕 「・・・・・・・・・」
S君 「「あなたの、お母さん、お父さんにも、刺繍のハンカチを作ります、お願いです。逢いに来て下さい、電話を下さい・・・・。」と言っていました。」
僕 「僕も、誕生日プレゼントに、そのハンカチはもらった・・・・・。」
S君 「Tさん、友達に頼んで、直接電話してもらえませんか?あれじゃ王さん可哀想ですよ。」
僕 「その必要は無いよ。あいつには、ほかに男がいるんだから・・・・・。その男に優しくしてもらえばいい、そう伝えて欲しい。」
S君 「え?上海の元彼氏じゃなくて、ほかにも男がいるんですか?」
僕 「そうだよ。だから、その男と愛し合っていればいい、僕のことは忘れてほしいんだ。」
S君 「・・・・・・わかりました、そう伝えます。」
10分後、S君からまた電話が来た。
S君には、申し訳ない。
S君 「王さんは、泣き叫んでいましたよ。「わたしは、あなたのことを愛しています!ほかに男をつくったりしません!わたしはそんな女じゃありません!」と言っています。」
僕 「・・・・・・・・・・」
S君 「「N社長の社員は、あなたにウソの通訳をしました!ひどい人です!お願いです、わたしを信じて下さい!あの女はウソつきです!」とも・・・・。」
僕 「・・・・・・・・・・」
S君 「僕は、王さんが可哀想で、これ以上通訳できません。申し訳ないのですがお友達にお願いして、直接電話をしてあげて下さい。お願いします。」
僕 「・・・・・・・・・・」
S君 「王さんは、泣いています。あのままでは可哀想です。電話をしてあげて下さい。」
僕は、どうしたらいいのだろう・・・・。
この日を境に、王の携帯電話が通じなくなる。
次の日、中国クラブのママに、通訳の電話を、お願いして電話をしたらかからなかった。
番号を変えたみたいだ。これで、王とはサヨナラだ。
本音から言うと、僕はまだ王が好きだった。
逢いたくて仕方なかった!
10月14日の夜、S君から電話がある。
S君 「王さんは、大連を、引っ越すみたいですよ。」
僕 「そうなんだ・・・。急にどうしたんだろう?」
S君 「今までは、お父さんの会社が、家賃の半額を払ってくれていたみたいですが8月からは、全額負担になったので、大変だと言っていました。」
僕 「そうか・・・。じゃあ、福建省に帰るのかな?」
S君 「10月いっぱい、北京にいるそうです。あの、家を買え!おばさんの家に・・・・。11月からは、福建省に帰るみたいです。」
僕 「日本語学校や、勝利広場の仕事は、どうするんだろう?」
S君 「両方辞めたみたいですよ。もう、日本語を覚える必要は、無いと言っていました。」
僕 「そう・・。中国の引っ越しって、大変なのかな?日本だと、大がかりで大変だけど。」
S君 「僕も聞いたんですが、荷物はほとんど無いみたいなので、大丈夫だと言っていました。」
僕は、大連の、王の家を思い出した。
あの時は、王に逢いたくて逢いたくて、王の誕生日まで待てずに、2月に大連に来た。
懐かしいな。
あの時は、こんな結果になるなんて、思わなかった。
僕 「でも、王はどうして引っ越すことを、僕に知らせたの?電話も通じなくなったのに・・。」
S君 「「もし、Tさんが、広州のおみやげの、ガラス細工を大連に取りに来て、わたしがいなかったら、可哀想だから、知らせることにした。」と言っていました。」
僕 「大連まで、わざわざガラス細工を、取りに行かないよ。」
S君 「僕もそう言ったのですが「Tさんは一度しか会っていないのに、わたしのことを好きになり大連まで逢いに来る人だからひょっとしたら、来るかも知れない。」と言っていました。」
僕 「そう・・・・わかった。」
僕は電話を切った。
もう、日本語を覚える必要は、無い・・・・か。
僕のために覚えてくれたんだよな。
王が、初めて話した日本語は、確か「ごめんなさい」だった。
僕を寒い外に追い出して李さんに、日本語と手紙を教えてもらっていたんだっけ・・・。
逢いたい、今すぐにでも逢いたい。
でも、今更・・・・。
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