前回のおはなし「ほうれん草のキッシュ」
ごめん、ちょっとここのところ忙しくて2ちゃんこられなかった。アワビにオイスターソース塗ってトリシア(シベリアンハスキー・メス)とレズプレイしていた妹を持つスイーツ(笑)です。
わたしが書きこんだのがメグ(仮名)にばれてずいぶん怒られたけど、「あんたをおかずに興奮した人がいるみたいだよ、やったじゃん」って言ったら、まんざらでもない顔してた。で、その晩さっそくオナニーしてたw
わたし自身の初体験の話をkwsk、ってあったからちょっとだけ書くね。
以前書き込んだのと重複になるけど、わたしは中学生の時にビッチっぽいのに憧れ、とっとと膜を失ってしまったあばずれです。より詳細にいうと、中二の夏に喪失。
「ちふれ」っていうやっすい化粧品とかちまちま買い集めて、休日なんかはああでもないこうでもないと化粧の練習ばっかりやってた。学校がある日は、生活指導にぐちぐちいわれない程度に、下地だけは作って通ってた。
そんな素行だから、わたしのつるむ友達はビッチとチャラ男予備軍ばっかりだった。
ちょっと、みんなも中学生のころのこと思い出してみて欲しいんだけど、なんかさ、人間関係が無限のチキンレースみたいだった気がしない?
中学生なんてしょせんガキだから、羽目をはずすにもどこか腰がひけてたし。自分がいるグループからこぼれたくないから、やけに顔色うかがいあうし。そのくせ、下に見られたくはないから、つまらないところで張り合ったりして。
結論からいうと、そういう人間関係の中に、友情なんてものは芽生えなかった。今度わたしは結婚するけど(これはこの前書いた)、祝いに来てくれる友達は、肩の力を抜いて付き合える連中ばっかりで、中学時代の人は誰もいない。
なんか背中がむずむずしてきたので、くさい話はもうやめよう。なんでわたしが膜をやぶってもらおうと思ったか、そこから話すぜ。
きっかけは、とってもありがちなきっかけだった。つるんでいた連中の中に、少しおとなしめなK美っていう子がいたんだけど、こいつが夏休み明け、教室で爆弾発言をかました。
わたし「夏祭り楽しかったねー」←鏡を見ながら、つまらなそうに
その他「あーそうだねー」←鏡を見ながら、つまらなそうに
その他「そういやK美来なかったじゃんなにしてたん」←鏡を見ながら、つまらなそうに
K美「うん、親戚が遊びにきてたんだ。いとこのお兄ちゃんが来てて、浴衣に着替えてたら、セックスされちゃった」
おとなしい反面、空気を読むのにも慣れてない子だったので、けっこうでかい声で言い放った。「浴衣に着替えてたら」と「セックスされちゃった」の間にあるあまりの落差のせいで、残暑きびしい九月の教室が凍った、あの時は。
K美の顔は、少し赤らんでいたが、誇らしげでもあった。一瞬の沈黙を置いて、わたしとその他たちはK美を質問責めにした。
でもみんなは、恥ずかしがっているのかびびっているのか、肝心な問いを一向に発しようとしない。そこでわたしは自ら、乙女にとっていちばん気になる質問を、投げかけてみたわけ。
わたし「ねえ、やっぱり、痛かった?」
聞きにくい質問をしたわたしは、ごくりとつばを飲んだ。まわりのみんなも飲んだと思う。K美は、もったいつけるように窓の外をちらりと見やり、耳にかかった髪をさりげなくかき上げると、
K美「うん、痛かった。でもね、お兄ちゃんのこと、昔から好きだったから、大丈夫だった」
と、穏やかな声で答えた。今にして思うと、なんのことはない、ちょっとおマタ緩めの中学生のたわ言ともとれるんだが、当時のわたしには天使のささやきのように思われた。
こういうときに、真面目なみなさんなら、
「やっぱりそうよね、愛の前には破瓜の痛みなんてあまりにもちっぽけだわ。あたし、いつか素敵なひとに純潔をささげる日まで、大事にとっておくわ」
という発想になると思う。だけど、リア厨ビッチの思考の柔軟さを侮ってはいけない。わたしはK美の天使の微笑を前に、こう考えた。
「そうか、好きな人とヤるんならば膜破ってもいたくないのか。よっしゃ、それならひとつ、好きな人ってのをみつけにゆくか」
こういう経緯で、わたしは処女を喪失しようと思い立った。笑わばわらえ。わたしだって一笑に付してしまいたい。
続き。
わたしは週末ともなればばっちり化粧をキメ、言いつけられていたトリシア(当時子犬)の世話も全部メグに押し付け、盛り場を徘徊してまわった。なんでそんなに膜を破るのが大切か、って?んなもん知るか。とっとと破いてしまいたかったんだ、わたしは。
わたしはエロいからだのメグ(妹)とは対照的に昔から少しやせ気味で、おっぱいがちょっと残念な感じだったけど、べつに顔自体はへんではなかったし、磨き上げた化粧の技術もあったから、わりとひょいひょい声をかけられた。ところが。
いざカラオケに誘われたり、ごはんに誘われたりすると、物怖じしてしまう。そもそも中学生とか言ったら引かれちゃうと思って年をごまかしてたから、ばれたらなんか変なことされるんじゃないか、って思ってた。変なことされるために歩き回ってたのに、ひどい矛盾だよね。
優しくて話しやすいひとほど、かえっておっかない気がしてしまう。かといって最初から顔や雰囲気が怖い人には付いていくにいけなかった。これじゃあ、いつまでたっても膜が破れるわけがない。
そうしているうちに秋がすっかり深くなった。それでもわたしはめげずに、繁華街めぐりをせっせとこなしていた。そんなある土曜日。
学校が終わった昼過ぎ、速攻で帰宅したあと、メイクも服もばっちりに自転車を駅へ走らせていたら、孔雀みたいなギターケースが道端に落ちているのが見えた。不審に思ってよく見てみると、孔雀みたいな頭をした人が、ギターケースしょってうずくまっていたのだった。
おっ、こんなところにバンドメンがひとつ落ちてるわ。どれ、ひとつ物色してみようかしら。そう思ったわたしは、自転車をとめて声をかけた。
「どうかされたんですか?」
その日のメイクはオネエ風。もちろん声もそれっぽく。
「ん?ああ、いやオレじゃねぐってさ、鳥が怪我してんだよ、ほれ」
確かに、トリ頭の足許には、怪我したツバメがもぞもぞしていた。が、そんなことはどうでもいい。ルックスのチェックだ…。顔、ふつう。体型、ふつう。服装…………黒のレザーだらけ。うーん、これはパスかな?
「あんた、この辺の人け?病院かなんか、知んねけ?」
おまけに、すっげえ訛ってるし、不自然に声が高いし。うん、これはパスだ。わたしはすぐにつれないモードに切り替え、
「獣医さんは知りませんね。あ、まっすぐ行くと中学校の保健室がありますけど。それじゃ、急いでますので」
と言い放ち、返事も聞かずに駅へまた走り出した。
二週間後の土曜日。わたしがいつものように実りのない畑へ収穫に出かけようと自転車をこいでいると、ひょろりとしたニワトリが鳥かごを持って歩いていた。よく見ると、ニワトリではなくて人間だ。赤モヒカンの白スーツに衣替えしたトリ頭だった。
わたしは無言で追い抜いていこうとしたが、目が合って声をかけられてしまい、やむなく停まった。
「おお、こないだのねえちゃんでねえの。あの鳥、元気になったよ。中学校の先生に消毒してもらって、そのあと獣医さんに連れてったんだ。ありがとない」
わたしは絶句した。いくら最寄の中学校への道を教えられたからといって、ほんとうに鳥を連れていく素直でお人よしな奴がいるなんて。トリ頭の人懐っこい笑顔と、鳥のチュンチュンいう鳴き声が、わたしの心をつかんでしまった。
「え、まさか飼ってるんですか、それ」
「おお。ほっといたら死んじゃうもん。
それに、うちにはインコとウサギがいっから、こいつもさみしくねんだよ。
つっても、飼える種類の鳥じゃねえから、怪我治ったら放すけんども」
ほんとうに唐突に、わたしは決心した。こいつに膜やぶってもらうべ、と。
「ウサギ飼ってるんですか?いいな、見たい」
わたしはすかさず釣り針を投げ込んだ。われながら、なかなかのしたたかさだ。
「お。ねえちゃんウサギ好きなの?うちのやつはね、ネザーランドドワーフっつうんだよ。そんならな、今度ぜひ見に来てくれな。招待すっから。
ほんではね、気ぃつけてね」
トリ頭はこってりした笑顔を崩さないまま、また鳥かごの鳥をちゅんちゅん言わせながら通り過ぎようとした。おいおいおいおいちょっと待て。今見せろよ。ていうかぶっちゃけウサギどうでもいいから持ち帰れよ、わたしを。
「え、あ…?」
わたしが口をぱくぱく、手をひらひらさせていたら、トリ頭は5歩くらい進んだあと、振り返った。
「あ、何、今から来るんけ?」
こくこく。
「でも、どっか出かけっとこだったんじゃねえの?」
ぶんぶん。
トリ頭は相好崩して、
「そんなにウサギ好きなんかい。そんならいらっしゃい」
と言い、また歩き始めた。白のスーツになぜかサンダル履きという出で立ち、右手に鳥かご、左手にコンビニの袋。わたしはちょっとだけ、こいつでいいんだろうか、と逡巡したけれども、いや、こいつでいいんだ、と強く思い込むことにした。いい加減、あせっていたのだ。一向に破ける気配のないわたしの膜に。
トリ頭は帰宅するなり、ウサギをケージから出してわたしに抱っこさせると、さっさとシャワーを浴びに行った。夜勤明けのあとすぐ獣医さんに行ったから、汗でべとべとなんだよ、とは言っていた。が、わたしはそんな与太話を信じるほどコドモではない。やつはシャワーを浴び終えたら、なんやかやと理由をつけてはわたしにもシャワーを勧め、そのあとわたしをおいしくいただくつもりなのだ。
わたしはゆっくりと心の準備をととのえるつもりだったが、トリ頭は3分もしないうちに上がってきてしまった。青無地のTシャツにアディダスのパチモンジャージを履いている。男の風呂やシャワーは想像以上に短いのだという事を、このとき知った。
わたしとしては、「○○○○○○だから(○には適当な理由がはいる)、ねえちゃんもシャワー浴びてきなよ」というトリ頭の申し出を待つばかりだった。
ところが、やつは冷蔵庫に向かい、麦茶をコップにふたつ注いで、わたしとウサギのところへ持ってきた。
「どうでや?かわいかんべ、ウサギ」
トリ頭は派手な髪の毛をタオルでわっしわっし拭きながら尋ねてきた。
「名前、何て言うんですか?」と、わたし。
「ん?名前?名前は、ウサギ」
どうやら名前もウサギというらしい。ちょっとかわいそうだなと思った。
トリ頭は、田舎の高校を出た後、ミュージシャンを目指して故郷を飛び出してきたのだという。でも家賃が高いところには住めないので、こんな郊外に住んでいるのだそうだ。まだ年は19だという。落ち着いた雰囲気からは意外だった。世間話が小一時間続いて、お互い動物好きだということがわかり、若干、盛り上がった。トリ頭が「飼うなら猫だよな」なんて言うので、わたしはたいへんエキサイトした。
世間話をしているうちに、はっと気がついた。こいつ、ひょっとして、わたしと寝る気ないんだろうか。まさかほんとうにウサギのウサギ(ややこしい)を見せるためだけに、みずみずしくしなやかな女体をお持ち帰りしてきたというのか。
わたしは悔しくなって頭の中でいろいろ毒づいた。チキン野郎、とか、インポ野郎、とか、アッー!野郎、とか。
ちょっと暑いかもー、なんて言って、胸元をはだけてみたりもこころみた。そしたら平然とエアコン付けやがった。わたしはふてくされて、インコに犬の鳴き声を教えようと、鳥かご抱えてワン!ワン!と吠えていた。
話がひと段落したところで、トリ頭が昼寝する、と言い出した。
「夜勤明けだから、ちょっと寝かしてくれっけ?ウサギとは遊んでてかまーねから」
そしてトリは、押入れから布団を取り出し、敷き始めた。
わたしは混乱した。まるでほんとに夜勤してきましたみたいな眠たげな顔だけど、あれはたぶんポーズだ。こいつ、このままわたしをやっちまう気だ。まさかこんなタイミングでえっちのお誘いが来るなんて。どうしよう、わたし結構汗かいてるのに。まさか人のいい顔して、臭いフェチだったなんて。
わたしは覚悟を決めた。トリ頭がそっぽを向いて、シーツの皺を神経質に伸ばしている背後で、わたしは一気にすっぽんぽんになった。くんくん。やっぱりちょっとだけ汗臭い気もするなあ。でもしょうがない。こいつに膜やぶってもらうことにしたんだから、多少は相手の性癖に合わせてあげてこそ、余裕のあるオンナというものだわ。
振り返ったトリ頭は、一瞬豆鉄砲をくらったようなぽかん顔をしたあと、顔を思いっきりしかめた。
―あれれ、怒ってる?あ、下着は自分で脱がせたい派だったのかな?
「なんのつもりだ、おめえ、からかってんのか」
おなかにずしん、と来るようなベース声で、トリ頭が怒鳴った。トリ頭がこっちに近づいてくる。近づくたびにどんどん表情が険しくなる。きゃあ、ごめんなさい、ごめんなさい。今からでもパンツ履くから許してください。
「自分の体をだいじにしろ。おれには見ず知らずの、まして中学生を抱く趣味はねえよ」
…あれ?ばれてる?
おかしいなあ、鏡で見たら、ちゃんとOLっぽくなってたのに。
あとで聞いたら、トリ頭の地元の方言では、赤ん坊でない限り、女性に対しての呼びかけには「ねえちゃん」というのが使えるそうな。こういう大雑把なところで育ったから、ウサギにウサギなんて名前を付けちゃうんだろう。
そのあとは、中学のこわもての先生が語るような内容の説教をすっぽんぽんのままこんこんと聞かされた。風呂上りの赤のモヒカンをゴムでたばねた姿は人造人間16号そっくりだった。お昼に、にゅうめんと白菜の漬け物をご馳走になった。ご飯食べたら眠くなりました、と言ったら、だぼだぼだったけど部屋着を貸してくれて、一緒のふとんで昼寝をした。
トリ頭はほんとうに夜勤をしていたらしい。背中合わせに横になると、たちまち寝息をたてだした。わたしは、なんだか眠くなくなってしまって、部屋のすみにたてかけられたギターをじーっと見てた。
ちょっと時間が経って、トリ頭が寝返りをうった。丸太みたいな腕が、わたしの首にぐるりとからまる。腕はごつごつしているのに、指先は細く、きゃしゃだ。ギターのせいなのだろうか、小さなタコや、タコがつぶれて硬くなった皮膚が見える。
すうすう、寝息が首筋に当たる。不思議とこのときは、えっちな気分にならなかった。わたしは腕の中、くるりと転がって、トリ頭と向き合って、胸板にほっぺたをくっつけた。そうすると、不思議とまた眠気がやってきた。なんとなく思いつきでこいつの家まで来ちゃったけど、こいつはいいやつだ。わたしのはじめては、ぜひこいつにしてもらおう。わたしはそう決意した。
うーん、なんか書いてて恥ずかしくなってきた。ぐっとこらえて、続き。
いきなり部屋に来てすっぽんぽんになったわたしのことを警戒していたのか、あるいはわたしの脳みそを心配していたのか。トリ頭はあの一件以来のあとは、しばらくわたしを家に上げようとはしなかった。
けど、わたしには女の武器がある。いい加減じれったくなったわたしは、それを存分に使った。
「ウサギと会いたい。インコ(インコの名前)とツバメ(怪我してたツバメの名前)にも会いたい。お願い、トリ頭さん」
不思議なもので、切々とうったえてみると、本心じゃないのに涙が出てきた。トリ頭はお人好しなので、泣いてみせたら、あとはちょろかった。それ以降、毎週土曜はトリ頭の家に遊びに行くのが週末のたのしみになった。
だが、家に上がってしまえばこっちもの、というわけにはいかなかった。トリ頭は、世間話や動物の話をするばかりで、ちっともわたしになびかない。たまに気合を入れてミニスカートを履いていったりすると、ふしだらだとかなまいきだとか風邪引くぞとか言われ、げんこつもされた。
わたしはこのようにしょっちゅうトリ頭に仕掛けていたのだけど、膜にはヒビすら入ることなく、そうして季節はあっという間に冬を通り越し、春になってしまった。
このころのわたしには、心境の変化があった。わたしは(当時)ビッチなので、性欲にはとっても正直だ、だから、
「カラダのつながりより、キモチがつながっていたい」
なんて処女くさい事は(処女だけど)微塵も考えなかった。だって、そんなのウソだもん、欺瞞だもん。だけれど、正直セックス以外への興味もいろいろ湧いてきた。トリ頭の誕生日とか好きな食べ物とか、会話のはしばしで出てきたこまごまとした情報は、英単語や数式を忘却のかなたへ押しのけて、わたしの頭の中にどんどん積もっていった。
トリ頭の表情にも変化があらわれた。わたしとはじめて会った頃の気のいい笑顔は、じつはよそ行きの笑顔なのだ。ウサギとインコ、それにツバメと五人(羽)で過ごすうちに、彼はいろいろな表情をするようになった。ほんとうに嬉しいときには、声をあげて歯を見せて笑う人なのだ。こういう表情を見られるのが嬉しかった。そろそろこの朴念仁もわたしと寝る気になったのか、などと早合点したりもした。
なんかゴメン。書きくちが小学生の課題図書みたいになってるね、内容はべつとして。文才なくてスマソ。続き。
陽気もぽかぽかしてきて、すっかり春めいたある土曜日。その日もやる気、いや、ヤる気まんまんのわたしを、トリ頭は青いトサカで出迎えてくれた。たまたま昨日、気分転換に染め直したのだという。整髪料がべったりついて、怒っているわけでもないのに毛先は天を衝いている。
あら、いやだわ、たまたま、だなんて。わたしのためにわざわざ髪の色まで変えてくるなんて、かわいいとこあるじゃない、トリ頭ったら。こういう気遣いにほほを染めてしまえるわたしはなんて乙女なのだろうと、わたしは悦に入った。
わたしは母親に頼んで野菜の切れ端をとっておいてもらい、それを持ってきてた。ふたりでウサギにそれを食べさせたり、インコとにらめっこしたりした。
ひとしきりウサギたちとじゃれたあと、わたしたちは連れ立って出かけた。今日はやらなければならないことがあったので。
ツバメが回復したので、放しに行かねばならないのだ。
怪我したツバメが落っこちていた田んぼへ、ツバメとの思い出を話しながら歩いていった。早く外へ出たくて、しょっちゅう暴れていたツバメは、トリ頭がカゴから出してやると、一目散に空へ向かってすっ飛んでってしまった。
帰り道は、あんまりしゃべらなかった。トリ頭は口をヘの字にまげていて、わたしは泣きそうになるのをこらえていた。
部屋に戻り、トリ頭が空っぽになったカゴをもとあった場所に置いた。それを見たらこらえられなくなって、わたしは声をあげて泣いてしまった。
トリ頭はおねえ座りで泣きじゃくるわたしの横にしゃがんで、頭をぽんぽん、叩くように撫でててくれた。ぽん、ぽんぽん、ぽっぽぽんぽん。何かのリズムをとっているみたいに、トリ頭はわたしの頭を、アップテンポで励まし続けた。
実はわたしはこういうしぐさに弱い。今でも男の人に優しく頭を撫でられたりすると、着替えが必要なくらいにぐっしょりになってしまう。ああ、いや、逆かも。トリ頭のせいで、こういう体質になっちゃったのかもしれない。
この頃には、恐怖心みたいなものも芽生えていた。また子ども扱いされて拒まれたらどうしよう。それくらいに、トリ頭にはじめてをしてもらいたかった。
わたしはトリ頭の首に抱きつき、自分のあごを、彼の胸元からうなじ、頬、そして耳元へと持ち上げていった。で、そのときの自分の気持ちを、あけっぴろげに伝えた。告白したのははじめてだったけど、つっかえずにすらすら言えた。実は結構練習してたしね。何て言ったかは…秘密だwみんな好きに想像してくれ。けっこう恥ずかしい内容だったよ、とだけ書いとくぜ。
もちろん、トリ頭は理性のやけに強いやつだったから、はじめは拒みやがったよ。でもわたしも引けない。今日は恥をしのんで買ってもらったおろしたてのひもパンを履いてきたのだ。ひもパンのためにも、ぜったい今日、するんだ。
そしてわたしは、また女の武器をちらつかす。今はもう、いい加減な動機で体を求めているわけではないこと。わたしは絶対に後悔しないから、トリ頭さえよければして欲しい、ということ。年なんか関係ない、責任を取るのはトリ頭だけじゃなくて、わたしたちふたりだということ。これは本心からでた言葉だったから、わたしの眼からは涙がどんどんあふれた。
しばらくトリ頭は身を強張らせていたけど、(変な表現だが)力強く脱力して、わたしを抱きとめ、キスしてくれた。心の中では、ついに陥としてやったぜ、ひもパン履いといてよかったぜ、とにやついていたけど、目からは涙が止まらなかった。たぶんうれしかったんだとおもう。
べつに怖かったわけじゃないんだけど、わたしの体はぶるぶるふるえていた。
「怖い?」
トリ頭は、緊張しているのか、イントネーションが共通語のそれになっていた。わたしは首を横に振った。
「ううん、怖くない。トリ頭さん、怖くない」
わたしは涙のせいで目が見えない。トリ頭の手が、わたしの小ぶりな胸に触れる。また、わたしはぶるっ、とふるえた。
「ワン!ワン!」
そこで突然、インコが犬の鳴きまねをした。インコによけいな事を教えてはいけない、思わぬ時に場をぶっこわすことがあるから。
わたしたちは興をそがれて、笑いながらくすぐり合い、唇を求め合い、転げまわった。いつも夕方には家に帰らないといけないわたしにとって、春になって陽がのびたことは無上のよろこびだ。トリ頭とたくさんいっしょにいられる。畳がぽかぽかあったかい。なんてうららかな季節だろう。
わたしの膜は結局この日も命を永らえた。けど、どうでもよくなった。いつでも破けるさ、そんなもん。
それからしばらくの間、わたしはトリ頭といてもぜんぜんむらむらしなかった。トリ頭のほうも同じだったらしい。土曜、学校が半日で終わると家に帰って着替え、化粧を済ませる。アパートへ行き、合鍵でドアを開ける。夜勤明けのトリ頭を起こさないように、ウサギとあそび、インコとあそぶ。飽きてきた頃に、ちょうどトリ頭が起きてきて、遅めのお昼ごはんをいっしょに作って、テレビを見ながら隣り合って食べる。そのあとはいっしょに日向で昼寝をして、日が落ちる前に起き、家の手前まで手をつなぎながら送ってもらう。どう見てもおしどり夫婦の休日です本当にありがとうございました。
前は、あんまり音楽のことや仕事(夜勤中心の介護職)のことを話してくれなかったのに、あの夜以来、楽しげに話してくれるようになった。トリ頭は話し声は高いのに、歌うときは低音がバスーンみたいにすごく綺麗で、わたしはぽんぽん頭を撫でられながら、子守唄を歌ってもらってた。
わたしは、ふたりでいるのがあんまり楽しかったので、中学出たら嫁に来よう、子供ができて男の子だったらモヒカンにしよう、で、親子三人で髪の毛の色をおそろいにして、月に一回変えることにしよう、などと、思春期の豊かな想像力でもって、思い描いていた。
わたしたちは完璧に所帯じみていた。それがたまらなくうれしかった。
だがそれも束の間、月曜日の教室で第二の事件が起こる。ふたりめの喪失者が出たのだ。おととい、わたしがトリ頭と一緒にバンバンジーに使う鶏ささみを湯がいていたころ、クラスメイトのM子は隣町の商店街で大学生にナンパされ、そのままカラオケ→居酒屋→大学生のアパートとめぐり、数人の男によって純血を散らされたのだという。
M子は見た目大人っぽい顔立ちだったが、中身はアホの子だったので、明らかにまわされてるだけという状況だったにもかかわらず、
「あたしーなんかもてちゃってー、ひとりでなんにんもてだまにとっちゃったっていうかー」
と、自慢げに話していた。だが、真実の愛に目覚めたわたしは動じない。興味津々で話に聞き入る周囲をよそに、わたし(と、わたし同様真実の愛に目覚めていたK美)は、頬杖つきつつ聞き流していた。
M子は、そんなわたしの態度が気に食わなかったらしい。もっとも、わたしは自慢じゃないが勉強がそこそこ出来たため、同じビッチグループの中でもアホの子であるM子からは前々から敵視されていた。
「ねえビッチ子(わたし)?、ビッチ子は彼氏とかいないの??」
「うん?いるけど?」
M子の顔が一瞬強張る。
「え…?じゃ…もう…」
「いや、まだ処女だよ」
わたしはウソをつくのがきらいです。ていうか、そもそも見栄を張る必要がないし。なんたって、真実の愛に生きているんですもの。
「あはは、な?んだ?、ビッチ子の彼氏ってまじめなの??
勉強ばっかしてる子の彼氏だとやっぱそうなんだ?
真面目ってゆうかあ、腰抜けってゆうかあ、
かわいいってゆうかあ、固いってゆうかあ?
へ?だいじにされてるんだ?」
M子は、さりげなく、いやちっともさりげなくなってなかったけど、トリ頭を腰抜け呼ばわりしやがった。地獄に落ちろ、クソ女。
わたしは真実の愛に目覚めてはいたけど、これはトサカにきた、じゃなくて、頭にきた。
翌土曜日。わたしは予め準備しておいた新しいひもパンを穿いてアパートへ向かった。ドアを開けるなり、わたしは寝ているトリ頭に飛び掛った。
「ん?どうしたの」
「トリ頭さん、起こしてごめんね。あのね、わたしいますごくえっちしたいの」
「へ?」
「いい、大丈夫。わたしにまかせて」
言いながら手を休めることなく、着ていたブラウスを脱ぎ捨てる。寝ぼけているトリ頭をよそに、わたしは母親のレディコミから盗んできた知識を総動員し、彼の体を轟然と責め始めた。
アポロチョコで練習した虎の子の乳首責めは効果抜群だった。舐めるだけでなく、甘噛みも織り交ぜてみると、トリ頭がやらしい吐息をつきだしたので、わたしはがぜん調子に乗った。左手をトランクスの中に突っ込み、トリ頭の「それ」をもぞもぞと触る。もうかちかちだったので、わたしは手を唾液でしめらせ、指で作った輪っかで、それをにゅるにゅるしごきはじめた。トリ頭の呼吸がさらに激しくなる。しめしめ、いい調子だ。
トリ頭の乳首から口を離し、わたしは満を持して、頭を下半身のほうへ持っていった。まじまじ見てみるとすごくグロい。血管が浮き出てて、ぴくぴく動いてて。わたしはちょっと怖かったので目をつぶって、それを口に含んだ。
ちょっとしょっぱくて、でもあたたかい。くちびるをすぼめて、いきなり激しく動かしてみたら、そろそろ意識が覚醒してきたらしいトリ頭が、情けない裏声であえいだ。
「わぁ!待って、待って。出ちゃう出ちゃう」
「ほふぇ?はひへ?(へ?まじで?)」
わたしは有頂天になり、中二病に感染した(実際このとき中二だった)。初フェラで男をいかせてしまうなんて、わたしは天才なんじゃないだろうか。想像力ゆたかな14歳の乙女の脳みそは、AVデビューから業界トップへ駆け上がり、引退後はバラエティ番組で活躍する自分の姿を一瞬にして思い描いた。トリ頭よ、俗世にただよう哀れな吟遊詩人よ、わたしのエンジェル・タン(訳:天使の舌)とディヴァイン・リップ(訳:神のくちびる)で、貴様を天国へ招待してやろう…。
さて、どう責めてやろうか…。実はバナナやホームランバーで鍛えていた高速フェラを続けながら、わたしはあれこれ考えた。ちんこくわえながら頭をぶんぶん振ってても、案外考え事ってできるもんだね。
あ、そうだ。さっき乳首をちょっと強めに噛んであげたら喜んでたな…。レディコミから得た知識だけじゃなく、たまには応用も取り入れないとね。よかろう、わがホーリー・ティース(訳:聖なる歯・複数)で、昇天させて進ぜよう…………!
―かりっ。←ホーリー・ティースがさくれつした音
「ぎゃああああああああああああ」←トリ頭の鳴き(泣き)声
かくして、わたしの膜は、聖剣エクスカリバー破損の影響で、この日も破られなかった。おなかがへったので、トリ頭が内股になって作ってくれた野菜炒めを、二人で半泣きになりながら食べた。ちょっとしょっぱかった。
結局M子に意趣返しをするのは失敗だったけど、そのあとM子は妊娠騒ぎを起こし(なんと、全員に生でやらせてたらしい)、すっかりおとなしくなったので、よしとしよう。あ、ただの生理不順だったみたいです、結局。
なんか焦らしてごめんね。思い出しながら書いてたら面白くなっちゃって。反面、実際喪失した場面はけっこうあっさりしてるの。ほんとごめんね。
では続きです。
幸いエクスカリバーは軽症だったので、すぐに傷が癒えた。同じ甘噛みでも、力の加減は場所によって使い分けなきゃいけないんだね。こういうひとつひとつを失敗から学んで、わたしは大きくなりました。
で、翌週。お昼ごはんのめんたいパスタを片付けているとき。
「なあ、なんであんなことしたんでや?」、とトリ頭。さすがにちょっと怒ってる。
けんかしたくないな、と思ったわたしは、とりあえず泣くことにした。
「………(涙をためるための間)。
ごめんなさい。気持ちよくなってほしくて、でも、わたし処女だから、本で見たことしかわからなくて…。
乳首を噛んだら気持ち良さそうだったから、つい思いつきで、あそこも噛んでみちゃって…。
ごめんなさい(ぽろぽろ)」
やっぱりトリ頭は、わたしが泣くと脆い。
「ああ…、わかったよ。わかったから」
わたしの頭をぽんぽん撫でる。よし、今だ。
「ほんと?許してくれる?」
わざと強めにこすって赤くした目で、とびきりの上目遣いをお見舞いする。うふふ、ちょろすぎだわ、この人。
「ああ許すからさ、泣かねでくろよ」
そう言って自分が泣きそうになるトリ頭。わたしは打算をここまででやめることにして、トリ頭に飛びついた。
そしたら、トリ頭が意外なことを口にした。
「なあ、ビッちゃん(わたし)って、はじめてなんだべ?」
「うん」
「にしては、いろいろ巧かったべや」
「だからそれは、本で勉強したの。
あ、あと、アポロチョコでしょ、バナナにホームランバーで練習した。あ、ラムネのあきびんも使ったよ」
「そうか」
わたしとしては、ラムネのあきびんで笑いをとろうとしたんだけど、トリ頭はだまって腕組みをし、難しい顔で考え始めた。
そうして、一分くらい黙ってた。わたしはてっきりアホな練習するな、とか怒られるんだと思ってた。そしたら、トリ頭はわたしの肩をつかんで、
「ビッちゃん、俺に責任とらせてくれんだよな?」
「ううん。ふたりで責任とるんだよ。わたし子供じゃないよ」
「そうじゃねえ。違うんだよ、もっと先のことだよ。
俺、こんなんだから、いつまともに食える仕事に就けっか、わかんね。
わかんねけどさ、待っててくれっかや?」
わたしはびっくりした。この人普段は三枚目なのに、台詞もすごく訛ってるのに、どうしよう、今はめちゃくちゃかっこいい。わたしの涙腺はまた壊れてしまった。堰を切ったように変な水がこぼれて、止まらない。
「待つ、待つ」
しゃくりあげて、まともに話せない。こういうときだからこそまともに話したいのに、ほんとうにわたしは役立たずだ。
「やさしくすっからな、俺にまかせてくろな」
うん、うん。わたしはうなずく。
「わたし…ひっく…もらってね…ひっく」
うまくしゃべれないなりに、掛けことばを使ってみた。わたしのはじめてと、ゆくゆくはわたし本体とを、どっちももらって欲しいと思ったので。
トリ頭のテクは………。現在に至るまでセックスした男と比べると、最低ランクにへたくそだった。もっともトリ頭がはじめての男だから、その時はこんなもんなのかなと思ってたけど。舌はぎこちなかったし、乾いてるのにクリこするからちょっと痛かったし。
でも、とろけるように気持ちよくなれた。歌っているときのようなしっとりした声で、わたしのからだを褒めてくれるのだ。小ぶりな胸も、貧弱なおしりも、少し浮き上がったあばらもみんな、きれいだよ、かわいいよといって、撫でたり、キスしたりしてくれた。
たまらずわたしはおねだりした。はしたない言葉遣いもしたけど、その時ははしたないことだとは微塵も思わなかった。
「トリ頭さん、お願い、おちんちんいれて…」
彼も経験がそれほど豊富ではなかったんだろう。彼のペニスはもうすでに激しく欲情していた。ゴムをまとって、ぬらぬらと光っている。
ああ、あんなおっきいのが入るんだ。でも怖くない。好きなひととなら平気だって、K美が言ってたもの。
「ゆっくるするかんな、痛かったらやめっから、がまんすんなよ」
トリ頭も男なのだから、さっさとそれをわたしの中に納めて、激しく腰を振ってしまいたかっただろう。でも彼は深呼吸しながら自分の劣情をなだめ、わたしを気遣ってくれた。
あてがわれる。しめった音がする。
少しずつ進んでくる。体がきしむような気がする。
こじ開けられる。裂かれるような痛みが襲う。
「……!んん!」
わたしは歯をがっちり噛んで、力をこめる。痛がってる声を出したくなくて、喉の奥で食い止める。だって、痛がってる声を出してしまったら、トリ頭への気持ちが否定されてしまうと思ったから。
「ビッちゃん!」
トリ頭が、あわてて腰を引こうとする。わたしはそれを手で制した。普段なら出ないような、すごい力が出た。
「だいじょうぶだから…!おねがい、
あたま、ぽんぽんして…!がんばるからやめないで…!」
ともかくすっげえ痛かったから、ほんとにこう喋れたかは怪しい。けど、トリ頭はわかってくれた。わたしの頭をかき抱くようにして、手のひらで、ぽん、ぽぽん。
少しずつわたしとトリ頭の間にある隙間が埋まっていき、ついに全部が納まった。ものすごく時間はかかったけど、わたしのからだはなんとかトリ頭を射精にみちびくことができた。思ったより血は出てなかったけど、股間にある違和感はものすごいものだった。トリ頭が抜いたあとも、ずっと何かがはさまってる感じがして、数日の間とれなかった。
でもそれ以上に、わたしは達成感を感じた。ただちんこ突っ込まれて痛い思いしただけじゃなく、他のいろんなところを満たしてもらえた。前回の書き込みで“達成感”というものを意識して強調したのは、この経験があったからなんです。
トリ頭の強烈な訛りでは、甘いピロートークどころではなく、わたしたちは行為中にお互いが発したヘンな反応を指摘しあっては、笑い転げた。トリ頭はいく瞬間「なっ…ふんっ」って言ってたし、わたしの足のつま先は、頭をたたかれるリズムにあわせてぴくぴくしていたらしい。
今思うと、つたないコドモのセックスだったと思う。でも、いちばんしあわせなセックスだったことは、間違いない。
おしまい。
後日談?うふふ、よく聞いてくれました。
結局、トリ頭とは、わたしの高校進学の時に別れてしまったよ。
彼は結局音楽の道を断念して、田舎に帰ることになった。もともと福祉系の高校出身で、上にも書いたとおり当時も介護職を夜勤メインでやってた。資格も実務経験もあるということで、それなりにいい待遇の仕事が見つかったんだ。
で、当然わたしはそのまま中卒で女房になって、彼に付いて行くもんだと思ってたわけ。そしたらあのトリ頭、
「ビッちゃんは勉強が得意なんだから、高校も、できれば大学も行って、好きな勉強をしっかりしてきてほしい」
なんて言い出しやがった。この辺が、当時20歳と15歳の、温度差だったんだろうね。
パートに出てお金は稼ぐ、家事もちゃんとするから連れてって、って言って、泣いて暴れた。けど、さすがにこのときばかりは泣いても叫んでも、言うこと聞いてくれなかったなあ。
結局彼は最後までわたしを案じつつ地元へ戻っていき、わたしはふてくされて彼のことを忘れようとした。前の書き込みでは、オナニーの見せっこをした二番目の彼氏、と書きましたけど、これは彼氏といってよかったのかどうか。セフレみたいな感じだったようにも思います。ちっとも優しくなかったし。巨乳のデブに寝取られたし。
さて、ここから、ネタみたいな本当の話。
前回書いたように、今度わたしは結婚して家を出ることになっています。その彼と出会ったのは、大学4年の夏のことでした。
わたし理科の教職とってたので、課程の実習の一環として、介護等体験と教育実習に行って来たのね。あ、介護等体験はふつう3年のとき行くだろっていう突っ込みはごもっともです。事前に提出する検便をうっかり忘れてて、3年のときは参加できなかったんです。
知らない人のために。介護等体験ていうのは、老人ホームとかで5日間、養護学校で2日間、仕事の体験をさせてもらうっていう趣旨のものです。
で、最初に向かったのは、住んでる県の奥地にある特養老人ホーム。住んでいる場所によっては、受け入れ先となる施設が近所にあんまりなかったりするため、かなり遠い施設をあてがわれることがある。わたしはそのパターンで、受け入れ先まで通うのがすっげえ大変だった。
で、初日のガイダンスに出席して驚いた。そこの副所長さんがえらく若い人で、トリ頭そっくりだったから。
わたしはまさか!と思って、二日目の休憩中、副所長さんのところへ、思い切って話をしに行った。
そしたら案の定、副所長さんはトリ頭その人だった。彼も、わたしのことは名簿で見て気付いていたらしい。離れて7年も経ってるのに、顔も訛りも、ぜんぜん変わっていなかった。変わっていたのは、トリ頭がスキンヘッドになっていたのと、苗字が変わっていたこと、このふたつだけだった。正直、ちょっと、いやかなりショックだった。よそ行きの笑い顔を投げかけられなかったことだけが救いだった。
でもね、連絡は取り合ってたんだ。なつかしい友人として、だけど。本当はすごく一緒に遊びに行ったりしたかったが、当時わたしは他大学に彼氏がいたし、何より奥さんに悪いと思って。
で、わたしが大学を卒業する段になって、そのときの彼氏が留学することになった。正直、けっこう冷めていたので、いい機会だから別れよっか、と言われ、わたしもそれを受け入れた。
でも、ビッチ時代から欠かさず彼氏がいたわたしとしては、独り身がすごくさみしい。迷惑だとは思いつつも、トリ頭あらためスキンヘッドに「ひとりで夏を過ごすなんてありえない、つまんなーい」なんていう、われながらきもいメールを送ってしまった。
そしたら、返信があったじゃありませんか。「じゃあ、おれと海に行こう」
わたしは、正直腰がひけた。当時欲求不満だったし、ましてそんなときに初恋の相手と一緒に海なんか行って、セックスしないで帰ってくる自信がない。セックスしちゃったら、それは不倫だ。
スキンヘッドのほうは、30手前の大人の余裕なのか、「行き先はおれにまかせてくれるか?」とか「聞きにくい質問だが、ツインか?ダブルか?」なんてメールをしてくる。こんなふしだらな奴になってしまったのか、と思ったけど、旅行に行きたい気持ちが勝ってしまった。残念ながらわたしは、不倫ができてしまう安い女だったらしい。部屋は、ダブルをリクエストしてしまった。
連れてってもらった先は、意外にも日本海だった。わたしはあれこれ悩んで水着を買っていったのに、
「あははは、ビッちゃんたら、泳ぐ気だったんけ、若いっちゃいいねえ」
なんていって笑われた。砂丘で追いかけっこをしたりした。いい年して何やってんだろ、とちょっと悲しくなったけど、砂丘で追いかけっこは高校生からの夢だったから、ちょっと嬉しくもあった。
海辺の宿に入り、二人で分かれて大浴場のお風呂に入ったあと、さあえっちするかな、と思って身構えていたら、なかなか彼が部屋に帰ってこない。昔はカラスもびっくりの早風呂だったのに。
で、ようやく戻ってきたと思ったら、
「その前にちょっと上、行くべ?」
と、最上階のラウンジに連れて行かれた。ちょうど日没だった。こんな演出をする余裕が、彼にはできてたらしい。悔しくなって、腹立ち紛れに問い質した。
「奥さんには、なんて言って出てきたの?」
「はぁ?奥さん?」
「とぼけないで、ちゃんと答えないなら、今夜は何もしないからね」
努めて冷静な声で。彼はぽかんとしている。わたしがいきなりすっぽんぽんになったときの、あの顔と一緒だった。
それから、顔をしかめた。これも、あの時と一緒だ。懐かしさがこみ上げてくる。
「何を言ってるのかわかんないな。俺が結婚してるって?」
「だから、とぼけないで、ってば。結婚してないならなんで苗字がかわるの?」
彼は頬杖をつき、苦笑いしながら首を横に振った。これは、わたしの知らないしぐさだ。この7年の間に身につけたんだろう。
「あのなあ、俺はちゃんとビッちゃんに勉強してきてほしいと思ってたんだっきどよ、あんまり昔に比べて賢くなってねえなあ、ビッちゃんは」
確かにそのとおりかもしれなかった。胸が痛いし、耳も痛い。飲めないお酒のせいで頭まで痛い。
「どういうこと?」
「養子縁組、って知ってるか」
「…………。…………!
知ってる!」
彼は語ったのはこうだ。
彼はもともと身寄りがなく、親戚の家に世話になりながら福祉系の学校に通っていた。でも、自分のやりたいことに諦めがつくまで挑戦したかったし、親戚といっても遠縁だから、負担をかけたくなかった。だから、隣県のわたしの街に単身出てきて、音楽活動をしながら、自分でどうにか生計をたてていたのだった。
ここまでは、わたしも知ってる話。
でも結局音楽のほうでは、音域の低さがネックとなってチャンスが得られず、諦めることになった。そのときにビッちゃんを嫁にもらう約束をした。嫁にもらうからには幸せにしたい、そのためには、生活の基盤が要る。
そこで、かつて世話になっていた親戚のところへ戻り、頭を下げた。その親戚の一家はほぼ全員が福祉関係の職に就いていて、変な話、いろいろなコネがあった。どこか雇い口を紹介してほしい、決して顔に泥を塗るような真似はしない、と頼むと、オヤジさんがさっそくいくつも紹介してくれた。それどころか、身寄りがないままでは心細いだろうといって、自分を本当に息子にしてくれた。
一生懸命働いた。ビッちゃんはもうべつの男に惚れてしまったかもしれないけど、大見得をきった以上、それだけのことはしないといけない、と思った。で、今の職場で管理職までやらせてもらえるようになったんだ、と。
「というわけでよ、俺、まだ独身。オーケイ?」
そう言って彼は、おどけた顔をして見せた。部屋に戻って、愛のあるセックスをした。彼はわたしとしか寝ていないから、技術はちっとも進歩してなかったけど、わたしのからだを褒めてくれたので、とても気持ちよかった。
で、話が戻るんだけど。
今度わたしが結婚する相手と言うのが、この元トリ頭のスキンヘッドです。夏から、いよいよ施設の責任者を任されるようになったそうなので、その異動にあわせて、わたしも嫁に行くことになりました。
現職場にはもう話してあって、引継ぎも順調。それに嫁ぐといっても、一般的な意味での舅姑がいないから、いびられる恐れもないし。
ただちょっと、いまは結構たいへんかも。長いことスイーツ(笑)生活していたのがどうにもね…。魚を焼いたら赤身も白身も青魚も一律に黒くなるし、洗濯機の使い方わかんないし。
でもしょうがないよね★スイーツ(笑)だもん。愛の力があればきっとダイジョウブ☆いまは、鬼の形相のメグにお尻ひっぱたかれながらのウェディング・エクササイズ(意訳:花嫁修業)で女子力アップ!?めざしてます♪
うーん、なんかやっぱり途中からところどころ三文小説くさくなってる…。
なるべくスイーツ(笑)っぽくまとめたかったんだけどなあ。
日本語って難しいね。文才が欲しいぜ。
では、今度こそおしまい。
みんな、最後まで付き合ってくれてありがとう!
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