07月22

証券マンの結婚式

バブル最盛期での某証券マンの結婚式は二人同時に同じホテルで行われた。
新郎二人が社内で将来の重役候補のため、
出席者はもちろんほとんどが会社からの招待客で、
某社の社長とか重役とか議員さんとか、忙しい立場の人々、
その兼ね合いもあって「二日間も縛れないから一日で済まそうよ」と強制的に会社に決められた。

新婦は二人とも会社のお偉いさんの娘さんで、
もちろん二人とも蝶よ花よとぜいたくに育てられたプライドの高いお嬢様。
その二人の豪華競演が凄かった。

新婦父親同士がいわゆる違う派閥で、とにかく「相手よりも豪華に!」と息巻いており、
新婦Aはグラスを重ねて飲み物をかけるあれでピンドン、
新婦Bは客の年齢に合わせたビンテージワイン。
これで新婦Bの方が勝った、とヒソヒソ。
怒った新婦A側が急きょデパートの外商に電話してドンペリをかき集める。
地方のデパート支店にも連絡がいき、
超特急でかき集められたドンペリ、約600万円。

何と言っても式自体が5時間の長丁場。
電話したのは本会場とは別室に待機してた俺ら下っ端招待客www
移動しなければいけないのに、とにかくうかつに席を外すわけにいかない為、
移動したらさりげなくその席に座る役目だった。
まあどの会社関係招待客もそれぞれ10名ほどは待機させられてたけどな。

そんで待機組はそれぞれの式を詳細にチェックし、
「○○社の○○部長は何分何十秒のこういう内容のスピーチでした」
そしてそれを録音し、廊下でワープロで文章におこす下っ端達多数。
それを元にスピーチを変えざるを得ない人はテーブルの下で笑顔ではあっても
必死になって内容を変える。
そしてこそこそと会場を行ききする招待客たち。

「今○○社の○○常務がこっちに来ました」
「これから○○社の社長がそちらに向かいます」
「そろそろA式を離れて何分になります、移動の準備を」
ってトランシーバーでw
普段ライバルの招待客の密偵同士で情報交換し合い、
とにかく波風を立てず、気分を害さず、気を張り詰めて、必死になって場をやり過ごす。
ここで出し抜こうとすると、後で強烈なしっぺ返しが来るため、
皆正直に、腹を割って事前に打ち合わせ済み。

客はピリピリしているが、新婦たちとその親はもう必死としか言いようがない。
父親たちは娘そっちのけで「○○社の○○氏はいつまでそっちに居るんだ!」とか
「スピーチが短かったな、あっちと比べて20秒も!!」とか…
派閥の取り巻きたちが「なんて失礼な!」と同意し、メモする。
それをうかがいながら青くなったり赤くなったりする客。

5時間半の式も、「向こうより長く!!」と結局7時間に及んだ。
もちろん客はもうグダグダ、だけどそんな顔見せられない…
延長時間中にも延々と出される料理の山、でも残すわけにはいかない。
食っては指を突っ込んで吐き、また食っては吐きを繰り返す。

何とか終わったら、今度は二次会。
これもまた超豪華。
さすがに疲れきった年配たちは解放されるも、今度は若いのが駆り出されて雑用。
しかも会社の意向だか何だかで同時開催の2次会。
これでやっと行き来する苦労が無くなると思いきや、
今度は新婦様達を徹底的に、しかも平等に、と言うか
「アタシの方が褒められてるわ!」と思わせながらのお世辞大会。
なんたって2次会なのに二人ともダイアナ妃バリのティアラ装着だし。
二人で睨みあって、本当に頭の先からつま先までじっくり睨む感じ。
お色直しまでしたんだぜ?しかも2次会なのに3回もw
A母は元女優、B母は元宝塚、二人とも美人なんで張り合う事この上ない。

そしてA父派閥社員対B父派閥社員の小競り合いも勃発。
新郎たちはあくまでも笑顔だったが、軽く揺れてたな、二人とも。
疲れきって目がうつろ、まっすぐ立ってもいられないようだった。

わが社は何とかこの危機を乗り越え、バブル崩壊後も何とか細々とやってきたが
そのY証券様が倒れられてしまいましたな。

ちなみにその後、違う重役のお嬢様Cの式があったが、
こちらは奥さまは政財界の大物の娘、お嬢様は「お嬢様」で
ご夫婦も歳が行ってから出来た末娘さんの門出を泣いて祝いながらの
とても和気あいあいとした、いいお式でした。

つか、まあ普通の式か。
新婦父が泣いて「娘をよろしく」とか言ったりとかそんなん。
普通とは言え、戦々恐々と何度も会議を繰り返しながら参加した為、
とっても素晴らしい式だと感動してしまった。
別室に控える我々下々の者までに料理やお酒を振舞ってくた上に、ちゃんと引き出物まで。
後で新郎新婦からお礼の手紙と「皆様で」ってお菓子まで頂いた。
前述の式は人数分のご祝儀を渡したが、
部屋を提供してくれただけで、ホテル側の好意で水くれただけだったし。
友人も「新婦ちゃん綺麗だったねー!ドレス似合ってた!!」とか言ってたしな。
2次会も友達と楽しくやったらしい。
みんなニコニコと感じが良かった。
友達を見れば人が分かるってのを実感したよ。
あとY証券つぶれた後、こっちの会社も大変だったが
「AB新婦父pgr」
「C新婦さんのお父さんは退職後で良かったよなぁ?」と言う感じだった。

A夫婦は倒産後開業したが、
「やーやーどーも、久しぶりだね○○さん(ウチの社長60代、Aは40代)、
Y証券のAだけども」てな感じで
Y証券様の殿様時代そのままの偉そうな態度で
「仕事貰ってやるから」みたいに接してきたため
「いつまでバブリーなんだよ」と完全に干された。
更に元Y証券様のお客様で大損した人たちにも普通に接触、
思いっきり切られて逆切れ、倒産、後はシラネ。
B夫はどこぞの会社にB妻父の勧めで再就職したが、
ガックリと下がった給料にもかかわらずB妻が暮らしを変えない所に困ってB父に相談、
B父に罵られて離婚、ってな話だったな。
結局B夫は海外の会社に就職し、数年後
「おお、Y証券の(何故かこいつら「元」を付けない)B新婦父だがな。
B元夫の会社を知りたいんだが。
まったくあいつときたらなぁ、Bがまた会いたいと言っておるのに
連絡先も知らせずに勝手に海外に行きおって!」と偉そうに電話してきた。
知らんと言うと「ふざけるな!そこを調べるのがお前らの仕事だろうが!!」とwwww
そんな仕事ねぇよwwww
それはお前らの手下のY証券様勤務の奴隷の仕事だろうがww
もうY証券はねぇんだよ、勘違いすんな!w
切れた常務が「元Y証券だろうがなんだろうが、無くなった会社の威光なんぞない!!」
と言ったらしい。
そうしたら本気で驚いて、言葉を無くした後無言で電話を切ったらしい。
そっからは連絡なし。
人づてに聞いた所によると、60代後半のB新婦父、
見た目はすでに80代の老人の様になっていたとか。
ちなみにCさん所は先日3人目の孫が出来たらしい。
律儀に一人目、二人目同様に見事な毛筆で葉書を下さり、
こちらもお祝いを送らせていただいた。
そんな感じ。

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