高校の頃、なぜか学校中でくすぐり勝負が流行った時期があった。
お互いに相手をくすぐりあって、先に降参させた方が勝ちという単純な遊びだ。
男子とは、休み時間に何度となく勝負をした。
そんな中で、一回だけ女子と勝負をしたことがある。
勝負した女子はAさんと言って、所属していた書道部の後輩だ。
眼鏡をかけ、控えめで地味目な印象の子。
そんな彼女が部活中、唐突に耳打ちしてきた。
「後で誰もいなくなったら、私とくすぐり勝負をしてくれませんか?」
まさかの発言に驚きつつも、周辺を見渡す。
聞き耳を立ててそうな人は誰もいない。
時間帯に気をつければ、誰かに見られることはないだろう。
そう思い、勝負を受けることにした。
そして部活が終わってから十分後、放課後の部室でくすぐり勝負は始まった。
しゃにむに手を伸ばし、くすぐろうとしてくるAさん。
しかしこっちは、いきなりくすぐろうとは考えていなかった。
背後を取って押さえつければ勝てると、経験で知っていたからだ。
だから最初はとにかく動き回り、Aさんの後ろに回り込もうと試みた。
Aさんはこっちの動きについていけず、ただ翻弄されるばかり。
そんなこんなで十秒後には、あっさりとAさんのバックを取ることに成功。
すかさず左手でAさんの両手を後ろ手に抑え込んだ時点で、勝負はついた。
腋の下は胸を触ってしまう可能性があったので、脇腹を狙うことにした。
Aさんの細いウエストに、指をこちょこちょこちょと這わせる。
「あ、くすぐったいです!」
Aさんは脇腹責めにあえなく撃沈し、体を震わせて笑い始めた。
そして。
「降参です! 降参!」
五秒も経たないうちに、Aさんは笑いながらギブアップを宣言した。
しかし相手がギブアップしたからといって、くすぐりをやめることは許されない。
なぜなら学校のくすぐり勝負は始めたが最後、最低一分間の継続が義務だったからだ。
当時は疑問に思わなかったが、今考えるとなかなか鬼畜なルールだ。
ともかくルールを踏まえて残り三十秒、Aさんの脇腹をくすぐり続けることにした。
「もうやめてください!」
Aさんはくすぐったがりながら、身を捩じらせて懇願した。
必死に暴れて逃れようとするが、所詮は女の子の力。
どんなにもがいても、抑え込むのはたやすかった。
触る位置や指の速さを微妙に変えながら、Aさんの脇腹をくすぐり続ける。
最後の十秒ぐらいの時に、指を脇腹に埋め込んでもみもみ攻撃を仕掛けてみた。
「それやめて! それだめそれ弱い!」
Aさんの敬語が崩れた。
どうやらAさんは、脇腹を揉まれるのが弱かったらしい。
前かがみになって突き出されたお尻を振り、脚をきゅっと内股にして苦しむAさん。
しかし、挑まれた勝負に手心を加えるのは失礼だろう。
そう考え、最後まで全力でもみもみ攻撃を続けた。
「死んじゃうう!」
指を蠢かせるたびに、Aさんの絶叫するような笑い声が部室中に響いた。
それからすぐ時間切れになったので、即座にくすぐるのをやめてAさんから離れた。
へたり込んだAさんは息も絶え絶えで、呆然とした表情を浮かべていた。
そんなAさんに、今度もう一回勝負しようかと持ちかけてみたが。
「いいえ、大丈夫です」
表情を恐怖の色に塗り替え、再戦を断るAさん。
最後に勝負の感想を聞いてみると、Aさんはうつむいてぽつりとつぶやいた。
「恥ずかしかったです……」
……今になって思うが、どうして異性のAさんにくすぐり勝負を挑まれたのだろうか?
謎だ……。
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