嫁「そちらどいていただいてもよろしいですか?」
俺「・・・・はい。」
真昼間公園のベンチでぼーっとビール飲んでたらにっこり微笑まれて排除されました。
よもやその慇懃無礼な女の子と結婚するとは夢にも思わなんだ。
大して面白い話ではありません。
プライベートでちょっとしたトラブルに巻き込まれ自暴自棄になっていた時のことです。
自宅にいても陰々滅々とするだけだし、
黄色い花がわさわさ咲いている樹が向こうに見える公園の噴水前のベンチで、
空を見ながらだらだらと自棄酒をあおっていました。
そこに後に嫁になる女性が来まして、
「そちらどいていただいてもよろしいですか?」
最初は面食らいましたが、
平日の公園で飲んだくれてたらクレームもつくよなと公園の隅の遊具に移動。
河岸を変えれば良かったのですが、
その時間だとまだファミレスしか開いていなかったものですから。
そんなに広い公園でもないし、離れていても先程の女性は自然と目に入ります。
最初は自分と同じようにぼーっとしてるだけだったのですが、
そのうちにざっしゅざっしゅと地面を蹴り始めました。
何もそんな勢いよく穴ほじくらなくてもと思っていたら、
あれ?泣いてる?
遠目に見ていてもわかるくらいの勢いで泣いていました。
見ちゃいかんと思いつつもやはり目がいってしまいます。
そのうちにあちらも気がつきまして、
バツが悪そうな顔でこちらに走ってきました。
「あの、見ないでいただけますか?」
無理矢理作ったような笑顔で言うわけです。
もうこちらも焦ってしまって、
「見てません。」
咄嗟に嘘までつく始末。
「さっき私のこと見てましたよね?」
いいから早くどこかに行ってくれと思いながら、つい
「泣いてるところなんて全然見てません。」
と見事に墓穴を掘ってしまいました。
「しっかり見てるじゃないですか・・・・・」
そりゃ怒りますよね。
嫁から見たら不審者に醜態見られていたら。
でもこちらにすれば理不尽この上ないですから、
「・・・すみません・・・」
と一言だけ謝って、
半ば不貞腐れたように遊具の上で180度回転し生垣を見ながら飲み続けました。
不味い酒が余計不味くなるわ。
スプリングで微妙に揺れるパンダの上で新しい缶を開けた時おもむろに、
「それ・・・美味しいんですか・・・?」
美味しいも何もただのエビスなので、
「普通の味ですよ。」
としか答えようが無いです。
「普通の味って・・・不味いんですか?美味しいんですか?」
もう放っておいて一人で飲ませて下さいよと思いつつも、
「美味しいですよ。」
仕方がないので憮然と答えました。
不味いなんて言おう日にはとっととこの場から立ち去れと言わんばかりの勢いっだったんです。
そうしたら何だかポーチをごそごそし始めまして財布を取り出したかと思うと
「譲ってください。」
「へ?」
狐につままれたとでも言うんでしょうか。
まさか見ず知らずの人に公園でビール売ってくれと言われるとは思いませんでした。
「よかったらどうぞ。」
たかだか数百円のものですし、
こんな変な女性からお金貰ったりしたらとんでもないことになりそうな気がして進呈しました。
ビール持って可及的速やかに去れの願いも空しく、
その場でごっごっと飲み出したかと思うとげべーっと嘔吐。
「苦い・・・まずい・・・」
苦いよ。
そりゃビールだもん。
呆気にとられる俺の前で今度はいきなり座り込んで泣き出してしまいました。
面倒だとは思ってもまさかそのまま放っておくわけにもいきません。
「ちょっと待ってて。」
そう言えば公園の入り口のところに自動販売機があったなと、
ダッシュでジュースを買いに走りました。
嫁との初めての会話はこんな感じでした。
その後どうしたのかや嫁が泣いていた理由などは要望があれば書きます。
駄文、長文失礼しました。
こんなに皆さんに読んでいただけるとは思いませんでした。
遅くなってすみません。
拙い文章ですが続きを書きます。
好みの味など皆目わからないので、
取りあえず自動販売機で3、4本適当にジュースを買って戻ると、
さっきまで俺がいたパンダの上に彼女が座って待っていました。
待っててと言ったので待っていたわけではなく、
慌てて走っていった俺が置きっ放しにしていった荷物を見てくれていたようです。
「ビール、好きじゃないみたいだから。」
差し出したジュースを見て、
「炭酸ばっかですね。」
とちょっと笑ってまたポーチを探り始めたので、
「お金はいい。いらないです。おごりで。」
久しぶりに猛ダッシュしたのと、
既に何本か干していたビールのせいでちょっとえづきながら言いました。
今度は美味しそうに飲んでいるし、
間が持ちそうもなかったのでそのまま荷物を持ってその場から立ち去ろうとした時、
「飲み終わるまで一緒にいてもらってもいいですか?」
帰れなくなってしまいました。
仕方が無いので彼女が選ばなかったジュースの中から一本開けて、
「これ入り口の自販機で買ってきたんですか?」
「うん、そう。」
「あそこ当たり付きって書いてあるのに全然当たらないですよね。」
「そうなの?」
などと当たり障りの無い会話をしたような気がします。
でもジュース1本分飲み干すだけの時間なので10分も持たず、
気まずいと言いますか、なんだか微妙な空気が漂いました。
帰りたい・・・この場から逃げたい・・・
抱えていたトラブルが女性絡み(非恋愛)だったせいもあって正直しばらく女性と話もしたくありませんでした。
女性=面倒臭くて理解し難い生物でしたから。
でも伏目がちに
「ごめんなさい・・・もうちょっと・・・」
って言われて、はいさよならと踵を返す程冷たくもなれず、
「ごめん。立ってるのしんどいし、向こうのベンチに座ってもう1本飲んでもいい?」
帰れない状況に自分を追い込む愚かさを笑って下さい。
一緒にベンチに移動して、
でも間に荷物を置いてちょっと距離をとって話をしました。
飲んでいるジュースの他のフレーバーの名前。
噴水の向こうに見える花の名前。
女性の名前。
他愛も無い話だけれど、
だからこそ疲れていた心には酒よりも効きました。
いきなり
「なんで泣いてたか聞かないんですね。」
と目を見て言われた時には冷たい汗がどっと吹き出ましたけど。
「泣きたい理由は色々あるし。人それぞれだから。」
なんとかそれだけ言うのが精一杯。
でも女性がそういう物言いをする時は言いたくて仕方が無いんですよね。
「言って楽になるなら聞くけど・・・聞くしかできないけど。」
若い女性がこんなとこで泣いてるなんてどうせ失恋かなんかだろうと思いました。
けれどとつとつと彼女が話し始めたのは恋愛とは関係がないものでした。
小学生の頃からの親友が遠方に引っ越してしまったこと。
引っ越してから2年近く絵手紙を交換していたこと。
最近は彼女が出してもあまり返事が来なくなったこと。
もう手紙は送らないでいいと一昨日電話があったこと。
そして彼女が昨日色鉛筆と友達からの手紙を全部捨ててしまったこと。
馬鹿ですよねって笑いながら、
でもほとほと泣きながら話すのでどうしようもなくなってしまって、
精神的に参っていたのでもろにボディブローをもらった感じでした。
「そんなの、手紙なんてまた書けばいいじゃん。
やり直しなんていくらでも効くんだよ。
断られたっていいじゃん。友達なんだろう。」
思わずもらい泣き、涙流しまくり、鼻水垂れまくりです。
そんな俺を見て逆に彼女のほうがおろおろしちゃって、
くれたティッシュで鼻かんでも中々止まらなくて、
終いには彼女まで大声で泣き出してしまいました。
もう少し続きますが、帰宅してからか明日また社で書きます。
長くて申し訳ありません。
お待たせしました。
補足になりますが当時の年齢です。
俺26歳 嫁17歳です。
でも嫁の年齢ははしばらくして職務質問にあってから知ったものです。
嫁は嗚咽するというより号泣しながら、
「もう友達になんて書いていいかわかんない。」
俺も咽び泣きながら、
「なんでもいいだろ。何か楽しいこと書けば。」
お正月にやってる赤ちゃん泣き相撲のように、
最早勢いよく泣いた方が勝ちの様相を呈してきました。
「もう手紙なんて書かないの。書きたくない。どうせまたいらないって言われる。」
頑なに手紙を書くことを拒む彼女。
意地でも彼女に手紙を書かせようとする俺。
だってこの年になると友達なんてそうそう出来ないし、
腹割って話せる友達もみんな大学というより小中の頃遊び回ったやつらばかりだから。
だから彼女にはその友達を大切にして欲しかった。
「喧嘩なんてよくあることじゃないか。
ちょっとした切欠でまたすぐ仲直り出来るよ。だから頑張れ。」
鼻水すすりながら、
いつの間にか女にしっちゃかめっちゃかにされて自分の許を去っていった友人を重ね合わせていました。
「なんて会っていいかわかんないよ。どうせ捨てられちゃう。
私だって捨てちゃったもん。」
自分が自棄になって一切合財書部してしまったのがかなり堪えているようでした。
全否定されてしまった上で、彼女も友人を切り捨てたことを激しく悔やんでいたのだと思います。
「メールしてみなよ。メールだったら絶対読むって!」
我ながら明暗だと思ったものの帰ってきたのは、
「携帯・・・持ってないんです・・・」
絵手紙書いてるくらいだから気が付くべきでした。
まさか携帯も持っていないとは・・・
「じゃあ練習しな!他の友達に書いてみたりして。
親友に書きたいこといっぱい書いてみなって。
そんで出せるかなと思ったら出してみたらいいよ。」
ぶどうソーダ片手に無駄に力説しました。
自分じゃ頑張ってもどうにもならないことがあるってもう分かっちゃってました。
でも目の前で泣いてる子には諦めて欲しくない。
もう完全に駄目だと思うまで頑張って欲しい。
「私・・・友達少なくて・・・絵手紙読んでくれる子なんてほかにいないもん。」
それを聞いて咄嗟に出た言葉が、
「俺に書きなよ!俺だったら絶対返事書くよ!
絵は描けないけど字だったら一杯書く自信ありますから!」
でした。
客観的に見れば限りなくナンパに近いですが、
前提が文通ですし、そのときは更々そんな気さえありませんでした。
ただもう泣き止んで欲しくて、笑って欲しくて、
そればかりで奇異を付いて出た言葉でした。
初めて泣かないで笑ってくれました。
「私あなたのこと何にも知らないんですけどいいんですか?」
「バッチ来ーい!」
酔っ払ってましたしね。
気分も高揚していたので安請け合いと言われようが構いやしません。
どうせ毎日職場と自宅を無味乾燥に往復するだけですから。
生憎住所も名前も書くものを持ち合わせていなかったため、
そのまま公園からでてコンビニでメモ用紙とペン買って住所交換しました。
ついでに色鉛筆捨てちゃったというので、
近所の画材屋で固辞されながらもファーバーカステルを買い、
いつの間にか3時も過ぎていたので食事をしました。
そこで料理が来るまで鳥や花の絵を一生懸命描いてくれて、
ああ、この人は余程が好きなんだなぁ。
可愛いなぁとほぼ一目惚れ状態。
だってにこにこ笑いながら楽しそうに描くんですよ。
それでその日は最寄り駅まで彼女を送ってお終い。
3週間くらい音沙汰がなかったので、
ま、こんなもんだろうと思ったら乾いた笑いしか出ません。
でも間違っていたのは俺の方でした。
彼女に渡したのが以前住んでいた部屋の住所で、
ある日突然どどどっとDMや請求明細に混じって彼女からの絵手紙が転送されてきました。
返事書くって言ったのになんて様だよといい歳してもんどりうちました。
いくら謝っても謝りきれないのはわかっていたので、
彼女がくれた絵手紙の3倍文章だけの手紙を書きました。
元来筆まめではない性格なので、
この時一生分の手紙を書いたと思います。
その後は一緒に植物園に行ってスケッチを教えてもらったり、
海に行ってトンビに弁当強奪されてひっくり返って笑ったり、
そんな感じで交際というより遊びに行くことが多かったです。
非常に間抜けですが、着替えている時間がなかったらしく、
制服のまま走ってやってきた代々木上原駅で職務質問されて彼女の年齢を知りました。
あとはそのまま彼女が高校を卒業するのを待って、
彼女の父親にぐるぐるパンチされた後に結婚し今に至ります。
嫁は今看護専門学校で頑張ってます。
毎日目まぐるしいほど忙しい日々を送っているようです。
未だに月に3、4回手渡しせずにわざわざ投函して絵手紙をくれるのが今の俺の幸せです。
長々とくだらないことを書き連ねてしまい失礼しました。
下書きなしで書いているものでやたら誤字が多くてすみません。
お恥ずかしい限りです。
ぐるぐるパンチについてですが、
嫁が高校の卒業式を終えた後我が家に居ついてしまい、
自宅に帰らなくなってしまいました。
というのも推薦が決まっていた4年制大学を蹴って専門学校に進学を決めてしまい、
両親の逆鱗に触れたからでした。
入学金などの諸経費を捻出したり、
保護者の名前を偽造したので俺も犯罪に加担したことになります。
加担というより親の目から見れば未成年者略取ですね。
6月の終わり頃、夕飯を食べ終えて二人で彼女のが教科書を読んでいたら、
ものすごい勢いでチャイムを鳴らされ、更にノックされました。
家賃は滞りなく払っているし何事だ?と思いドアを開けると中年の男女が立っていました。
「どちら様ですか?」
「どちら様でもいい!**がいるだろう!」
彼女の両親でした。
文句を言えた義理ではありませんが、止める間もなく上がりこまれました。
見たことのない顔をして驚く彼女。
怒鳴り散らす父親。
ただ泣く母親。
ここにいるのが場違いのように無視される俺。
休学の扱いにしてあるから大学に通え。
いや、通わない。
家に帰って来い。
いやだ、帰らない。
延々と押し問答です。
何も出さないわけにもいかず粗茶とハッピーターンを出す俺に、
「取りあえず別れてもらって。
娘は家に帰してもらって。
何もなかったことにしてくれ。」
親御さんの気持ちも理解できるので何も言い返せませんでした。
やはり一度順序を踏まえてからでないと上手くいくものもいかなくなる。
そう思って土下座して許しを乞うてから、
彼女の進路希望や将来設計などを説明し理解してもらおうと思った矢先、
「帰らない。お腹に赤ちゃんいるから。」
はいーーーーーっ!?
赤ちゃんて、君昨日から生理で滅茶苦茶不機嫌だったじゃないですか!?
有り得ない。
その場にいた彼女以外の人間の顔が鳩が豆鉄砲を食らった様なものに。
しばし呆然とした後、ただ父親の顔だけが温度計のように首からおでこにかけて真っ赤になった後、
鬼の形相に変化しました。
「きー、さー、まーっ!」
胸倉を捕まえられて2、3回腕をぶんぶん振り回したかと思うと、
俺の顔向けて強烈なパンチが炸裂しました。
スマッシュヒット。
吹き出る鼻血。
響き渡る彼女の悲鳴。
そして母親の
「ちょっとあなた、鼻!鼻!」
鼻骨が陥没してました。
見た目鼻が無くなってしまった顔がかなり壮絶だったらしく、
彼女の父親の怒りも氷解しました。
「大丈夫です、大丈夫」
と全然大丈夫じゃない痛みにたえている間に救急車を呼ばれて病院に搬送されました。
一応原因は酔って半開きのドアの角に激突したことにし、
陥没骨折した部分を引っ張り出され板を当てられて終了。
翌日ちょっとした手術もしました。
その5日後に出来損ないのピノキオのような顔をして彼女の家に挨拶に伺いました。
ものすごく気まずかったですが、
妊娠は彼女が咄嗟についた嘘だったことや、
俺が比較的堅い職についていたこと、
結婚に向けてしっかり貯金をしていたことを分かっていただき、
なんとか無事に結婚の許しを得ることが出来ました。
結果的に鼻折って良かったです。
それから彼女の夏季休業に合わせて挙式、入籍しました。
絵手紙の友人には何度か手紙を出したそうですが梨のつぶてだったようです。
披露宴の招待状も出しましたが欠席でした。
この話題はタブーになっているので家で出ることはありません。
初めての会話というより結婚顛末記のようになってしまい反省しています。
長々とお付き合いありがとうございました。
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